寿司

​───── 人気のない夜の野球場

対峙する2人のスシブレーダー。
勝負は終盤へと差し掛かっていた。
「いけぇぇえ!"エンガ-Ⅰ"一!」
「五月蝿い。やれ、ハンバーグ」
両者の寿司が勢い良くぶつかろうとした寸前。

「フンッ!」

エンガ-Ⅰとハンバーグとの間に"何か"が割り込み、土煙が舞う。

「駄目だ。その程度なら寿司が泣く。
事実、私が手を挟んだだけで寿司の回転が止まった。」

そう言って土煙の中から現れたのは、エンガ-Ⅰとハンバーグの間に手を添えている1人の男だった。
その男の右手により2つの寿司は回転が止まり、勝負は予想していない形で終わる。

「「ッ!?」」
勝負の間に何者かが割り込んできた事、そして寿司を素手で止められた事に両者は驚く。

「誰だお前!」
エンガ-Ⅰの使い手、〇が男に向かって言う。
「ハンバーグを…素手で!?」
ハンバーグ使いの男、△が驚く。

男は200cmはありそうな巨体に丁髷頭、前が開かれ腹筋が顕になった白い板前服、両手をジーパンのポケットに突っ込み、腕吊り包帯でもう一本の腕を吊っていた。三本腕の男は言う。
「私は寿司職人兼スシブレーダー、そして闇寿司。私の事は握(ニギリ)と呼べ。」
「…闇寿司?お前の仲間か?」
「いや知らん。誰だこの寿司職人?ってかなんでこいつ変な格好してんの?」
動揺を隠しきれない2人。握は更に言葉を続ける。
「貴様等に勝負を申し込む。どちらからでもいい。」
「勝負って…なんでアンタなんかとやんなきゃいけねぇんだよ」
△が困惑しながら言う。
握は△を睨めつけがら挑発する
「なんだ?やらんのか?貴様が私より弱いからか?確かにそうだな、貴様は私より弱い。そして貴様は自分より弱いと思った相手としか戦わない。さっきの勝負を見て分かっていたとも。」
△が怒りながら言い返す
「弱い弱いってうるせぇよ。そんなに言うんならやってやるよ!死ね!」
「ほう、やる気になったか、ハンバーグ使い。さて、エンガワ使い、貴様との勝負はこいつの後だ。よく見て待ってろ。」
「は、はい…」
内心で逃げようとしていた〇は驚きながらも返事をしてしまう。
それを聞いた握は大きく頷き、△と対面する。
「ハンバーグ使い、名は?」
△は苛つきながら名乗る。
「△。」
「うむ。ここなら私も"相棒"も気兼ねなく戦える。貴様の本気を見せてみろ。△」
「言われなくてもやってやるよ!後悔すんじゃねぇぞ!」
「良いだろう。それでは行くぞ。」
握はそう言うとベルトポーチから小さな箱から取り出した。その箱から寿司を取り出す。
「なんだその寿司は…!?」
△はその寿司を見て驚く。その寿司は普通の寿司と比べると、2倍ほどの大きさだった。
握は言う。
「俺の相棒だ。闇寿司ではなく、本物の江戸前寿司だ。」
それを聞いて〇が口を挟む。
「え…?さっきアンタ闇寿司使いって…」
握はその言葉を無視して続ける。
「江戸前寿司は本来こう言う姿だった。シャリは大きく、大体40~50g、そして赤酢を使用していた。」
△が言う。
「何言ってんだアンタ?そのネタ、マグロじゃねぇかよ?江戸前寿司にマグロはないんだぜ?」
「確かにそうだな。だがこれを見て分からんか?」
そう言うと握は相棒を横向きにして見せた。寿司を横から見た△は驚く。
「な…!茶色い…!?」
「そうだ。これは普通のマグロではない。江戸前寿司中期頃に作られた、ヅケマグロだ。」
「…!?」
握は続けて言う。
「この寿司は素材や作り方にも拘っていてな。自分で釣り上げたクロマグロを船内で捌き、その場で湯引きをし、その後2時間漬け置きしたものだ。勿論漬地の素材や分量にも拘っている。シャリに於いては宮城県産ササニシキ、赤酢も厳選したものを使っている。」
「…それどっかで聞いた事あるような…?」
「確かに何となく既視感があるだろう。根田一寛を知っていればな。」
「あ…っ!アイツだ!」
△は豊洲死場での事を思い出す。彼はそこで、その戦いを見ていたのだ。
「私は根田さんではない。だが彼の戦いを見て感銘を受け、彼と本気で戦って見たいという一心で、この寿司を創ったのだ。」
「いやだったらなんで俺らと戦おうとしてんだよ…」
「そこら辺は今はいい。どうせ後で分かる。俺はこの寿司を彼へのリスペクトを兼ね、"アルティメット=P=マグロ"、通称、"P-MAGURO"と呼んでいる。」
「なんか色々危ない気がする…!」
〇が堪えきれずに口を挟む。
「他にこの寿司について聞きたい事は?ないならそろそろ勝負を始めたい。」
△は困惑しながらも言う。
「まだ色々とあるけど…これ以上言われたら調子狂わされそうだからいい。やってやる!」
「うむ。」
握は頷き、両者は構える。
だが、ここでまた△にとって予想外の事が起こる。握の構え方は両手に湯呑みを持ち、両腕を両サイドに大きく広げる。そして、腕吊りから出したもう一本の腕で箸をとり、P-MAGUROを掴むという、特殊な構えだった。

── 3

△は予想外の構えに困惑するも、握の剣幕に充てられ、無意識に姿勢よく構えてしまう。

──── 2

握は微動だにせず、ただ△を見る。

────── 1

両者が見合い、ただ掛け声が掛かるのを待つ。

──────── へいらっしゃい!

両者は掛け声と同時に箸に湯呑みを勢い良くぶつける。
△は後端に、握は"両端"に。
そして寿司は回りだす。
寿司が、"3つ"──。
「「なァッ!??」」
目の前に広がる光景に、△と〇は驚く。
回っていたのだ。ハンバーグとP-MAGURO、それに、"握"も。
△は呆気に取られながらも抗議する
「なんだそれは…そんなのアリかよ!ってかお前寿司じゃねぇだろ!」
握はフィギュアスケートのバッククラッチのような回転で回りながら言う。
「最初に言っただろう、私は寿司職人兼スシブレーダー、そして"闇寿司"と。」
〇は呆れながら呟く。
「アレってそのままの意味だったのか…」
「話はもういいか?行くぞ。」
そう言うと、握は回転を維持しつつも野球場を大きく旋回し、P-MAGUROはハンバーグに迫る。
ハンバーグとP-MAGUROがぶつかる。その一撃で、決着はほぼ着いたも同然だった。
江戸前寿司であるP-MAGURO特有の質量と握りの強さにより、ハンバーグは7割程が豪快に抉られ、回転も弱まっていた。
「はぁッ!?」
予想以上の攻撃力に、△は呆然とする。
「いやいやなんだよ…ハンバーグだぞ…?たった一撃でこんな…」
「黙れ。余計な戯言を吐くな。」
握が△の言葉を遮り、更にまくし立てるように続ける。
「どうした?その程度か?いや、こんなんで終わじゃないだろう。足掻いてみせろ。勝ちに来い。」
「あーもうクソッ!やってやるよ!言っておくがてめぇがやってきたんだからな!どうなってもホントに知らねぇからな!」
△はそう言うと、ポケットや鞄から大量のハンバーグを取り出し、それらを全て発射した。
「ハハハ!どうだ?合計で24個のハンバーグ達だ!こんだけあればお前の漬けマグロだってグチャグチャにしてやらァ!」
そう言い放つと△は全てのハンバーグを一斉にP-MAGUROではなく握に向かって進ませる。
「ーー狡い真似を。私が丸腰だと思ったか。」
握りはそう呟くと、回転の姿勢を低くした。
「防御姿勢、キャノンボールスピン。」
防御姿勢をとった握に24個のハンバーグが衝突する。だが、握りの圧倒的な質量と回転の安定性の前に、約半数のハンバーグが潰される。
残るハンバーグは15個。握とP-MAGUROの圧倒的な力の前に、△は屈する。
「クッ!重い…」
「だろうな。私もP-MAGUROも質量は普通の寿司とは段違い。数で押そうとしても無駄だ。」
△は考える。握はともかくP-MAGUROよりも質量の大きい寿司を。
───△は思い出す。鞄の中にある"モノ"を。
「───ッ!」
"アレ"の存在を思い出した△は激しく動揺する。"アレ"は△の手に負えるものではない。"アレ"は上級者しか扱えないものだからだ。
握りとP-MAGUROは△を待つように、その場から動くことなく回り続ける。
「俺には…まだ…」
△は苦悩した挙句、ある一つの案が思い浮かぶ。但し、その案に前例などない。成功するかも分からない。ただ、今はこの案を実行するしかない。
「やるしかない…!ハンバーグども!真ん中を囲むように回れ!そして同時に、軸に向かって進め!」
「ほう…?」
待っていた握は、△の奇怪な命令に意外そうな声で呟く。
1つのハンバーグを軸に、14個のハンバーグがそれを囲み、次第に囲む輪が狭まって行く。やがて、軸のハンバーグに周囲のハンバーグがぶつかり、纏まる。
「できた…!」
即席で作り上げた、作れる中で最も大きい質量を誇る寿司。それは、操っている15個の寿司を1つに合体させたものだった。
「なるほど。考えたな。幾つものハンバーグを集め、大俵ハンバーグにして質量を大きくしたのか。」
一連の流れを黙って見守っていた握は更に続ける。
「ただし、幾ら重くしようと無駄だ。質量など関係なく、スシブレードには重要なものがある。それが何か気付けない時点で、お前に勝ち目はない。」
そういうと握は今までに見せた事のないような速さで大俵ハンバーグに直進する。そして握と大俵ハンバーグが衝突し、崩壊した大俵ハンバーグが飛び散る。
「あぁ!?」
△が間抜けな声を出す。勝つ為にこの場で考えを巡らせ、即興で、しかし慎重に作り上げたものが、一瞬にして崩壊したショックは大きい。

戦闘を終えた握は回転を止め、数メートル先のP-MAGUROを呼び、ぱすっと子気味いい音を立てながら手に納める。
「その程度か。」
膝をつく△に向かい、握が追い討ちをかけるように言う。

△は数分間、うわ言の用に何かを呟いていた。その後狂ったように笑い始め、鞄からおもむろに丼を取り出した。
「ハハハハッ!死ね!」
そういうと△はポケットから蓮華を2つ取り出し、丼を構える。
「む。───」
「オラァ!行くぞ!」
そういうと△は丼を構え、握が構えるのを待たずに丼を発射した。

刹那、丼が物凄いスピードで握に向かう。
「なッ━━━!?」
予想していないスピードで向かってきた丼に、思わず握も声をあげる。丼が握の左頬を掠めた。握の頬に、丼から溢れた汁が付着し、頬を伝う。その汁を親指で拭き取り、舐める。
「この香り…そして味。なるほど。そういう事か。」
そう言うと、握はすぐさまP-MAGUROを構え、すぐさま打ち出し、P-MAGUROと握が回転する。
「このラーメン、"鯛ブレーカー"の出汁が入っているな?」
「うるせぇな!そうだよ!本物の鯛ブレーカーからとった出汁で作った鯛だし塩ラーメンだよ!こいつ運ぶ為に移動してたらそこの変な正義気取りの奴に邪魔されるわアンタに俺のハンバーグ全部潰されるわで…こちとら腸が煮えくり返ってんだよ!ここで使うつもり無かったけどやってやるよ!どうなっても知らねぇからな!?」
「ふむ…どうやって本物の鯛ブレーカーから出汁をとったのだ?」
握は至って冷静に質問する。
「あァ…?めんどくせぇなぁ…確か回転させた鍋と火にかけたらお湯を戦わせて出てきたのをそん中で出汁とったんだよ。まぁどうせお前死ぬし、聞いても意味ないと思うけどな…」
「ふむ、回転させることで鍋を寿司とし、お湯に火をかけることで対流を作り出して寿司としたのか。だがそれで鯛ブレーカーを呼び出せるとは大した腕前だ…。ぜひ手合わせしたいものだな。」
「知らねぇようっせぇなぁ…。お前はここで死ぬんだがら黙ってろ。」
△は苛立ちながら言う。
対し、握は悠々と応える。
「さて、それはどうか…。使っている物が幾ら強かろうと、使用者によっては上手く引き出す事が出来なくなる。お前にソイツが上手く扱えるのか?」

「」

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