上に昇る

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あー、もしもし?俺だよ俺、そう、聡。
ごめんな、せっかくの休みなのにこんな時間に電話かけて。ただ、ちょっと俺ん家に来てほしくてさ。そう、今すぐ。
来てくれる?マジでありがとう!でさ、来ながらで良いから何があったか聞いてくれない?今ちょっと心細くてさ。



今日は俺休日出勤でな、19時くらいまで仕事してたんだよ。この時期だからただでさえ寒いのに、うちの事務所、休日は暖房を使わないようにっていうお触れが出てるからさ、カイロを手もみしながら働いてたんだよ。マジ最悪だろ?

それでさ、やっとキリの良い所まで仕事終わったから、さっさと帰り支度と戸締まりしてエレベーターに乗ったんだよ。
帰りにコンビニ寄って肉まん買いたいなあとかそんなこと考えてたら、財布を机の上に忘れてきたのに思い出してさ。うちの事務所6階建てのビルの最上階にあるもんだから面倒くせえって思いつつも1階に着いてすぐに戻るために6階のボタン押したんだよ。

そしたら丁度お前から電話かかってきてさ。え、かけてきてない?でも、履歴にもちゃんと残ってるよ?
まあ良いや。それで6階に着く少し前に電話に出たんだけどさ、しばらくお前黙ってたんだけど、丁度6階に着くタイミングでお前の声で

「ドアが開きます。」

って聞こえてきてさ。すっごい無機質っていうか、感情が籠もってないような声でさ。そうそう、そんな感じ。やっぱりお前電話かけてきただろ。ほんとにかけてきてない?
で、エレベーターのドアが開いてすぐに電話が切れて、何だったんだと思って前見たらさ。
うちの事務所なんだよ。事務所なんだけど、明るいんだよ。電気が付いてるだけじゃなくて、真昼間の明るさなんだよ。エレベーターの中から事務所の窓も見えたんだけど、外の風景も明るくてさ。

それでしばらく唖然としてたんだけど、声が聞こえてくるのに気付いてさ。正面からというよりは、左斜め前に自販機があるんだけどそこら辺くらいから、2人分の声がさ。

なんか聞き覚えあるなあって思っってな、ちょっと時間かかったんだけど思い出したんだよ、それが良二と幸介の声だって。
え、誰って、前にお前に話さなかったっけ。俺の同僚でさ、半年前くらいに行方知らずになってたやつらだよ。うちの事務所結構ブラックだから、たまに夜逃げ同然にいなくなるやついるらしいんだけどさ、その2人は荷物も家に残ってるままだったから不思議だなあって話したろ?

でさ、その2人の声が聞こえてきたんだよ。最初はなんか談笑してる感じだったんだけど、エレベーターの中にいる俺に気付いたのか、

「おお聡、おはよう。」

「お前そんなとこに突っ立ってどうしたんだよ。寝ぼけてんのか?」

って話しかけてきてさ。でも俺からは、2人の姿が見えないんだよ。多分、向こうからしか見えてないのかもしれないけど、

「早くこっち来いよ。」

「仕事溜まってるからさっさと仕事始めないと。」

ってめっちゃ呼んでくるんだよ。

「早く。」

「来いよ。」

って。でさ、俺、行きたくなっちゃってさ。だってさ、何年か一緒に働いてきたやつらの声でさ、しかも明るいんだよ、そこが。真っ暗なら行きたいだなんて思わないけど、いつもの事務所で、明るくて、同僚の声で

「早く来いよ。」

って呼ばれたらさ、行きたくなっちゃうじゃん。

でも、行かなかったよ。一方通行だなって思って。行ったら帰れないなって思って。

「ごめん、行けない。」

って言って、1階のボタン押してドア閉めて。完全に閉まる瞬間まで事務所の明るさとあいつらの声がエレベーターの中に入り込んできて。だから、1階に着いたとき、非常灯しか付いてなくて暗かったけど、すごく安心して涙出てきてさ、ほんとに怖かったよ。




あ、マンション着いた?そうそう、406号室。そうだ、お前一応エレベーター使うなよ?一応な?


で、家帰ってきて、結局財布取ってこれなかったせいで肉まん買えなかったから、仕方ないからサトウのご飯をレンジにぶち込んで、昨日作り置きしておいた肉じゃが温めてさ。

それで、冷蔵庫からビール取り出して。あんな怖いこと酔って忘れようって思ってさ。せっかくだからお前と飲みたいなあって思いながらソファ座ってテレビ付けてしばらくしたら、いきなりチャンネルが替わったんだよ。さっきまで芸人が漫才で猿のモノマネをしてたのに、クイズ番組で俳優が答えて間違えてるシーンにさ。
このタイミングで故障かって思ってたらさ、またチャンネルが替わって、今度は猫を見て併任とか女優とか皆が可愛いって言ってんの。
なにかおかしいって思って、そのあとすぐ、俺の身体の異変にも気付いてさ。なんか、内臓が浮くっていうのかな。嫌なものというより、日常的に感じているような、今日も感じたような感覚でさ。
で、テレビのチャンネルがまた替わって、今度はコメンテーターが政治の難しい話を始めて。

まさかって思ってさ、テレビのリモコン見たんだよ。

最初に見てたお笑い番組は3番のテレビ局でさ、クイズ番組は4番、その次のペット番組は5番。そしてこのニュース番組は6番で。

早くここから出なきゃって思ったら、

チーン。

って、レンジがご飯を温め終わる音が聞こえて。今度は、

「ドアが、開きます。」

って、さっきまでコメンテーターと笑顔で話してたニュースキャスターが真顔でこっち見て、無機質な声で言ってきて。

そして、閉めたはずの玄関の鍵がゆっくり回って、一人でにドアが開いたんだよ。




あ、部屋の前着いた?チャイム鳴らしてる?ごめん、俺には聞こえないわ。
ドアは?ああ、鍵閉まってるんだ。ドアが閉まって開いてたりしてない?そうか、してないか。
テレビの音も聞こえない?ずっとキャスターがこっち見て「ドアが開きます。」「ドアが閉まります。」って繰り返してるんだけどな。チャンネルも変わらないし、テレビも切れないから、お前に電話かけるまでずっと耳栓しててさ。

ああそうだ、こっちから撮った写真送るね。
ほんともう、どうしようもなくてさ。



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なあ、どうすれば良い?




ashimineashimine氏主催の友達のコンテストに参加します。



依談 tale jp



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執筆者: CAT EYES
文字数: 3401
リビジョン数: 24
批評コメント: 2

最終更新: 17 Apr 2022 11:50
最終コメント: 17 Dec 2021 19:15 by CAT EYES

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