上に昇る(依談)

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「ああ、疲れた!」

現在の時刻は18:05。俺と同僚の坂下は、休日を返上して2人で仕事していた。
12月ということもあり、窓の外は真っ暗で、その中を白い点が上から下に落ちている。そのためただでさえ寒いのに、休日は暖房を使わないようにというお触れが出ているせいで、カイロを手もみしながら働く羽目になった。

「そっちは終わった?」

「うん、なんとかね。」

「よし、じゃあ帰るか。ああ寒い!」

俺と坂下は会社の悪口と寒いを何回も言い合いながら出入り口を施錠し、エレベーターに乗り込んだ。

このビルは5階建てでうちの会社は4階にある。普段は健康のために階段を使っているが、寒さと疲れが極限まで達していたため、俺たちはエレベーターを使うことにした。
1階のボタンを押しドアが閉める。会社よりも空間が狭いせいか、いくらか暖かい気がする。気がするだけだが。
早くすぐ近くにあるコンビニに寄って肉まんを食べたい。そんなことを考えていたときだった。

ガゴンッ!

突然金属がこすれる音と同時に大きな揺れが起き、勢い余って転んでしまった。
「なっ、なんだ!?」
ドアの上の階数表示を見る。
数字の2と3が中途半端なところで見切れている。
どうやら2階と3階の間で止まってしまったらしい。

他の階までは把握していないが休日なので恐らくこのビルには誰もいないだろう。
坂下と顔を見合わせて面倒なことになったとぼやきつつ、非常呼び出しボタンを押しコールセンターへと連絡する。
直ぐに女性が応答してくれた。
事情を説明すると、およそ1、2時間くらいで作業員を派遣してくれるらしい。

坂下は小さな声で「最悪だ……」と言っていた。気持ちは分かる。というか、全く同じ気持ちだ。
毎日深夜まで残業した上の休日出勤で、こんなトラブルにまで巻き込まれるのは最悪だ。
2人してエレベーターの中で座り込み、助けを待つことにした。


「ん……」
あまりの寒さに目を開ける。疲れからかいつのまにか寝ていたらしい。
ポケットから携帯を取り出し時間を確認する。
22:01。会社を出たのが18時くらいだから4時間ほど経過していた。
救助が来ててもおかしくない。そう思いながら同僚は何してるか見ようと体を起こした。そして明らかな異変に気が付いた。

階数を示すボタンが異常なくらい
このビルは5階建てなので、1~5までの階数分のボタンしかないはずだ。
しかし、今は壁一面がボタンで埋め尽くされており、明らかに50個以上はある。
増えているボタンには階数は書いていない。

俺は急いで寝ている同僚を叩き起こした。
直ぐにボタンの異常に気づいたらしく口を大きく開けて固まった。
「これはドッキリか何かか?」
「残念ながら、たぶん違うだろうな……」
2人してその異常な光景に固まってしまっていた。
「そうだ……救助は?」
同僚にそう言われ、非常呼び出しボタンを押してみる。
数回の発信音の後に繋がった。
しかし、ノイズのような音が大きくオペレーターの声は全く聞こえない。
慌てて携帯電話を確認してみると異様に電波が不安定であり、ほとんど使い物にならない。
「そっちはどうだ?」
「こっちも駄目っぽいな……ほとんど圏外だ」
打つ手が無くなり途方に暮れそうになった時突然エレベーターが動き始めた。

やっと救助が来たのかと喜んだのも束の間、すぐにおかしなことに気が付いた。
昇っているのだ。
しかも、3階を過ぎ4階になってもまだ止まらない。
そしてついに5階になった。
5階より上はない止まるはず……だった。

エレベーターはそれでも昇っている。
表示の故障ではないと思う、エレベーターが昇るとき特有の押し付けられているような感覚がある。
階の表示は6、7、8、9と表示されついには何も映さなくなった。

明らかに異常な状況に同僚とかたまっていたが、このままではやばいと思ったのか同僚が1階のボタンを連打する。
しかし連打もむなしく反応はない。
他のボタンも同様のようだ。

かなり長い時間昇っている。
体に受ける重圧からの推測だが、登るスピードも徐々に増している気がする。
階数の表示は時々デタラメな数字をぱっと映して消える。
2人ともただ昇っていくのを感じながらも、動くことが出来ない。
もう戻ることは出来ないんじゃないかと嫌な想像が頭をよぎり始めた頃、エレベーターが止まった。

ドアが開く。
ぱっと見普通の会社のように見えるが、何か言い表せない違和感がある。
何もおかしいところはない、だが何かが決定的に違う。そんな気がする。
階数の表示は何も映していない。
ボタンも全て反応していないようだ。
「俺ここで降りてみるわ」
「やめた方が良いと思う……何かおかしい気がする」
「エレベーターの中だって十分おかしいだろ」
「それはそうだが……」
「非常階段があるから俺はそっちから降りる。無事降りれたら助けを呼んでくるからお前はそこに居ても良いよ」
「分かった……」
そう言って同僚はエレベーターから降りた。

同僚が下りるとドアが勝手に閉まった。
また勝手に動き出し、今度は下へ降りていく。
下へ降りるのは昇った時とは反対に直ぐに止まりドアが開いた。
作業服の男性が駆け寄ってきて見慣れた1階が目に入る。
「大丈夫でしたか?」
「あぁ……随分と遅かったですね」
「あれ、オペレーターに1時間程度はかかると言われてませんでしたか?」
「4時間以上はかかってるだろ?」
「そんなにはかかっていませんよ?」
そう言うと作業服の男は時計を見せてくる。
20:09。おかしい……そう思い自分の携帯を確認すると23:07。
しかし、検索で調べると確かに20:09だった。
いつの間にか圏外じゃなくなっていて、ふとエレベーターのボタンを見るといつも通りの数だった。

狐につままれたような顔で作業員からの質問に答えていると、外から事故のような大きな音が聞こえた。
作業員の人と顔を見合わせ外に行ってみる。
そこにはぐちゃぐちゃに潰れた人間だったものが飛び散っていた。
思わず目を背ける。
目を背けた先に鞄があり、それは先ほどエレベーターで降りた同僚の物だった。
そこで俺は気を失った。

起きた時には警察が居て事情聴取をされた。
どうやら作業員の人が呼んでくれたらしい。
警察にはエレベーターの中の出来事を話したが、信じている様子はなく薬物の使用を疑われた。
しかし、ビルの中に人が居なかった事から事件性は低いとされ恐らく自殺になるそうだ。
5階のビルから飛び降りたにしてはあまりにも遺体の状況があまりにも酷く、まるで高層マンションから飛び降りたようだと言っていた。


やっと住んでいるマンションに着いた。
俺が住んでいるのはこのマンションの3階だ。さすがに健康を気にする俺でも、こんなに疲れてたらエレベーターを使いたくなるが、今日はあんなことがあったせいでエレベーターを使う気にならなかった。仕方なく、仕事で疲れた身体に鞭を打ち、階段を上る。
自分の部屋の玄関を開ける。真っ暗な部屋を見て大きなため息をつきながら靴を脱ぎ捨て、後ろ手で玄関の鍵を閉める。
冷蔵庫の上に置いてある電子レンジに買ってきたコンビニ弁当を入れる。何分温めれば良いか確認し忘れたが、とりあえず3分に設定した。多分このくらいだろう。
ソファにどかっと座り、テレビのスイッチを入れながらネクタイを緩める。ビールを買い忘れたことに気付いたが、買い直しに行く気力も無い。
テレビの中では芸人が漫才で猿のモノマネをしている。くだらなかったが、疲れすぎているせいもあって思わず笑ってしまっていた。そしてすぐに、坂下があんなことになったのによく笑ってられると自分に呆れ、若干冷えてしまった肉まんを頬張った。味のしないそれを、無理矢理水で流し込む。

その時、いきなりテレビのチャンネルが替わり、クイズ番組で俳優が答えているシーンに切り替わった。
故障か?このタイミングで?ほんと勘弁してくれよ……
数秒後、再びチャンネルが替わり、今度は猫を見て皆が可愛いと言っている。
……なんだ。なにかおかしい。
そのあとすぐ、自分の身体の異変にも気付いた。臓物が浮く感覚。嫌なものというより、日常的に感じているような、今日も感じた覚えのある感覚。
テレビのチャンネルがまた替わった。コメンテーターが政治の難しい話を始めた。

──まさか。

最初に見てたお笑い番組は5番のテレビ局。ペット番組は6番。そしてこのニュース番組は7番。

やばい。早く、ここから

チーン。

その時、電子レンジがコンビニ弁当を温め終わる音が後ろから聞こえた。

「ドアが、開きます。」

大きなノイズが走り、テレビの中のニュースキャスターが今までと打って変わって、無機質な声でそう告げる。

ガチャ。

玄関の鍵がゆっくり回る音が、部屋の中に響き渡った。

ドアが、窓が、開く音がした。






これが、先週俺の身に起きた出来事だ。どれだけヤバいか伝えるために、できるだけ詳細に書いたつもりだ。
冷蔵庫の中の食材は尽きた。お米もあと少しだ。
窓も、ドアも、閉めに行く気が起きない。勝手に閉まっては開くことが永遠に続いてれば、誰だって近寄る気をなくすだろう。
外には、人の声も鳥の鳴き声も聞こえない、見た目だけが同じ風景が顔を覗かせている。

今俺は、不安定ながらもなんとかネットが繋がっているおかげで、こうやって発信できているが、この文章がちゃんと送信できているか分からない。
もう、これを見てくれている人だけが頼りなんだ。

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なあ、どうすれば良い?



最終更新日: 2019年12月13日(678 days ago)
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