親子とは

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冷たい手のひら。
ぞっとするような感触に、夢を見ていた私は現実へと引き戻された。
暗い部屋だ。
かろうじて横になれる程度の面積しかない。
天井はさして高くはない。「部屋」とゆうより「箱」というのが正しい表現だ。
床は板張りで、壁は牢獄のように頑丈な石づくりだ。
微かな風で揺れている蝋燭の炎が私を写している。
薬品の匂い、鉄の匂い。
肌が覚えている、ここはー施設。私が所属する部隊がある。
施設サイト321だ。
この施設は一度壊滅したはずなのだか、残った建物を改築したのか。私もここを熟知しているわけではない。

「・・・あ・・い・・」

頭が酷く痛い。
ぼうっとする。
思考能力を奪われている。
酷く空虚だ。

「起きたか。抵抗されると困るのでな、おまえの意識を薬物で希薄にさせている。まぁ、話す程度の力は残してある。安心せい。」

ふと気がつくと、私の真っ正面に部隊長を座していた。手を伸ばし、私の顔や腹を触れている。
私が来ているのは巫女装束、部隊の服だ。

「身体をあらためているだけだ。ふむ、問題ないな。」

部隊長はひとしきり私を見て満足したのか、触れるのを止めた。
そして仮面のような顔をこちらに向けた。

「改めて質疑を行う」

一方的だった。

「これは我いや財団がおまえに対しての最後で最大限の譲歩だ。おまえは異常存在に臆し、身勝手な行いをとり、部隊を壊滅においやった。役目を放棄し、愚かにも出奔したのはおまえだ。本来ならおまえの命を引き換えにと思ったが、止めた」

冗談をも許さない、すれば命は無い、そんな風に感じた。
これが部隊長、これが私の母だ。
母が好きだった。
母みたくなろうとしてこの職についた。

「二度と異常存在に臆さず、人の世を守るため、“財団の1人“として命をとすことを誓うか?誓うなら私は、母はおまえの全てを赦そう。おまえを教え、導く」

私の頭ははっきりとしなかったが。
だから、人ではない今の私は口にする。

「嫌だ」

私が臆したことは事実だ。
人の世にいてはいけない存在に敗けた。
しかし、私は死にたくなかった。
いろいろな感情が込み上げてくる。
薬品で人格を失わさせ、人であることを奪った。
何の意義がある。「確保・収容・保護」を掲げる財団が母を死ぬ役目として果たし続けるなんて。
嫌だ。
臆していい。
当たり前の生活を送りたい。
皆と同じ幸せを味わいたい。

「嫌だ、私は・・・逃げる・・」

「無駄だ、娘よ」

「無駄じゃ・・・ないっ」

「役目を放棄するか」

「私は・・死にたく・・ない」

「そうか…」

母は微笑んだ。
お母さん、分かってくれたんだ。

まったく、残念だ


母が持つ小型のナイフが私の腹を突き刺した。
私の顔が凍った。
ナイフが内臓をちぎり、肉を引き裂く。
口の中が血で溢れ、吐いた。
吐き出した鮮血が母の顔を汚す。
朦朧としているなか、母は私に言った。

「おまえはよく働いた」

母はどこか虚ろな風に語った。

「これでおまえという人の生を終える。残念だ。私はおまえに期待を抱いていたが、それも私の妄想だったようだな」

最後に母はこう言った。

さよならだ、我が娘よ

その瞬間、私の体から力を抜けるのを感じた。
生きる意味を失った。死体のようになった….。


暗い部屋についた。
先ほどと変わり無い牢獄じみた部屋だ。
鉄格子の中には過剰とも言える手枷と足枷をつけられ、鎖で柱に繋がれているのは、殺した娘の兄だ。こやつにも呆れた。無能で甘い奴だったが部隊を壊滅においやった、挙げ句の果てに勝手な行動をし、娘を逃がそうとした。こやつも救えぬ…
兄はその場を動かない。
着ている服も拷問を受けられたのか無惨に破れている。

「娘は死んだ。おまえが大切にしていた者はもうこの世にはおらん」

兄は静かだ。

「もう母には人の感情というのは残っておらぬ。しかしだ、おまえが娘を逃がしたことを知った時は怒りがわきあがったわ。憎いぞ、よくもこの時まで生きているとは」

「ほんとに….」

兄は母の呪言を無視し、問いかけた。

「あなたは、妹を殺したのに何の感情を抱かないのですね。あなたに母親としての、親子としての、愛情は、贖罪はないのですか」

「もうわしは人の心を失った、だ」

「…妹はあなたのことが好きだったのですよ」

「分かっておる。じゃが、もう遅い」


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