とどめき
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今日のニュースです。

昨日、19日の夜、███県███市の住宅に住む女性が殺害される事件が起こりました。殺害されたのは主婦の大田 芽雪(41)さんです。発見当時、大田さんの遺体は両方の眼球が損失している状態であったため、警察は殺人事件として遺体の検死が終わり次第、詳しく捜査を行う予定です。

では、次のニュースです。…




01

はい、この度は、妻のために来てくださってありがとうございます。こんなにも来てくださったことを妻も向こうで喜んでいると思います、はい。[嗚咽]すいません、まだ、受け止められなくて。どうして妻が狙われたのか、分からなくて。

妻は、えぇ、とても優しい人でした。誰とでも親しく、声をかけたりして、近所でも優しい立派な奥さんだと評判になる程でして。私もそんな妻をとても誇りに思ってました。[咳払い]ごめんなさい。だから近所付き合いとかも良かったと思います。私がゴミ出しをしている際も、近所の奥さんが「あんた良かったじゃない、あんな良いべっぴんさんを持ったわねぇ」と言ってくれたので、はい、だから、近所付き合いのトラブルはなかったと思います。

[深呼吸]私が妻の死を知ったのは、ちょうど会社から出て、帰路に着くところでした。スマホから電話がきたので、妻からかと思いました。えぇ、はい、聞こえてきたのは警察の人で妻が家で亡くなってたという内容でした。はい、一瞬、頭の中が真っ白になりました。それですぐ家に向かうと、家の周りには非常線が張られていて、その後のことは、ごめんなさい、あまり覚えていません。警察の方に事情を話したりしたのは覚えているんですが、はい。

[咳払い]妻を発見したのは、近所に住むお爺さんだったらしいです。そのお爺さんが、よく散歩をしていると庭から妻が挨拶をしているそうなので、今日も挨拶をしてくれるのかと、えぇ、でも、妻からの返事がなかったので留守かなと思いになったそうなのですが、庭を少し覗いてみたら、はい、いたそうです。欅の下で。[10秒間沈黙]はい。

あっ、いえ、これは関係ないのかと思いまして。えぇっと、妻は良く欅を気にしていたもんでして。はい、その欅は家を買う以前からあったもんでして、幹が丈夫だったので、そこに子供用のブランコを作ろうかなと、提案したんです。[咳払い]でも、妻は逆にあの欅を伐ろうと言ってきました。さすがに何の意味もなく伐ろうとする訳がないと思うので、理由を聞いてみたんです。妻は「ずっと欅の方から視線を感じるの」と。最初はお隣さんとかじゃないかなと思いました。けど、妻は「なんと言うか、いっぱい視線を感じるの、1人とかじゃなくてもっと、いる」と言ってきたので、その時は少し、怖いなって…。

ごめんなさい、関係のない話をしたりして。家事とか子供の世話とかでくるストレスのせいだと思います。けど、もしかしたらストーカーとまでは言いませんが、そういった不審者が見ていたんじゃないかと、はい。妻もその人に…。[嗚咽]本当にごめんなさい、ここでこういった話は良くないですよね、今日は来てくださってありがとうございます。お気をつけて帰路についてください。


02

不審者情報

昨夜、18日に、塾帰りの女子高校生が刃物を持った男に追いかけられる事件が発生しました。女子高校生は近くにあったコンビニに逃げ込み、店員に事情を説明、警察に通報しました。女子高校生に目立った怪我はありませんでした。

女子高校生が目撃した不審者の特徴は以下の通りです。

  • 身長170cm程の30~40代男性。
  • 黒い帽子に黒いシャツを着ている。
  • 灰色のマスクをしている。
  • 刃渡り10cm以上の包丁を所持している。

発見された方は、絶対に近づくことなく、警察に通報してください。


03

あぁ、すいませんね、どうもお待たせしました。あ、はいこれ、麦茶とお饅頭です、どうぞ。えぇ、話はお電話をくださった時に伺っておりますよ。何でもこの村に関して調べているとか。なしてこんなことを調べているのか、聞いてもよろしいですか。いやぁ、なに、こんな遠いところからわざわざ来るわけですから、何かしらの理由があると思いましてね。

へぇ、成る程、成る程。各地の怪談を専門とする学者さんでしたか、それは、それは。結構な根気が必要でしょうな。何せ日本の怪談は数多くありますからな、それにそういった学者さんはあまりいらっしゃらないと聞きますので、論文をまとめる時は大変でしょうな、えぇ。[咳払い]すいません、少し風邪気味でして。あ、大丈夫ですので、お気遣いなく。

[咳払い]あぁ、すいません。話がまだでしたね。では、まず昔のこの村の話をしましょう。えぇっと、昔の留目村はですね、えぇ、よく子供や女の人が烏に怪我を負わせられることが多かったそうで。理由はよく分かっていません。当時の資料だと他の村の呪いやら神様の祟りやらとオカルトめいたことしか書き残されていなくて、はい。
けど、色々と分かった今では、昔の烏は縄張り意識が強かったから、気性が今より荒かったからといった説が上がりまして。おそらく、えぇ、それら全てが正解に近いもんじゃないかと思います。

えぇ、村民全員が困っていた時にですね、偶然にも女のお坊さん、尼さんが通りかかったです。
尼さんというのは20歳以上で、沙弥尼の期間を経て出家した女性を指しましてね。藁にも縋る思いでその尼さんに助けを頼んだんです。
その尼さんは、一通り村を散策した後、こう言ったんです。「村の奥山に欅の木があるだろ、私がいる間は、そこで皆で祈りを捧げれば良い」と。

まぁ、村人はそれを信じて、村の北側に位置する欅の木に、毎夜、毎夜、尼さんが村にいる間、祈り続けたわけですよ。えぇ、今考えれば、胡散臭い話でしょ。でも、昔は、ほら、妖怪とか神様とかを信じていた訳ですから、不思議とは思いませんからね。それに今でも、祟りやら呪いとかは修験者やお坊さん、尼さんとかに頼ったりしているので、一定の信憑性はあるのですから。


04

『留目村民謡』より

からすがくるぞ からすがくるぞ

めんたま とどめんと からすがとるぞ

からすが鳴いた からすが鳴いた

めんたま きにとどめ からすがついばむ


05

Wikipedia『百々目鬼』より

石燕による解説文には「函関外史(かんかんがいし)云(いわく) ある女生れて手長くして つねに人の銭をぬすむ 忽(たちまち)腕に百鳥の目を生ず 是鳥目(ちょうもく)の精也 名づけて百々目鬼と云 外史は函関以外の事をしるせる奇書也 一説にどどめきは東都の地名ともいふ」とある。「ある女」から「百々目鬼と云」までは「盗癖のある女性の腕に、盗んだ鳥目(金銭)の精が鳥の目となって無数に現れたのでこれを百々目鬼と呼んだ」との意味だが、銅銭は中央の穴が鳥の目を髣髴とさせるところから鳥目(ちょうもく)という熟語があり、「百目鬼」「百目貫」「百目木」などと書いて「どどめき」「どうめき」と読む地名が日本各地にあることから、百々目鬼はこの銅銭の異名と地名の文字から石燕が連想をして描いた創作妖怪と解釈されている。また、金銭のことを「おあし」と俗称することから「足が付く」という洒落から描かれた妖怪ではないかとも考えられている。


06

[お茶を啜る音]んで、実はというと、この話には続きがありましてね。続きがあるんかいと思いになったでしょ、この話は村の中でも私を含めて5人しか知らん話なんです。他の人に教えると、罰があたるとかそんなもんじゃありません。なんと言いますかね、聞いたら知らない方が良かったと思うんです。俗に言う意味が分かると怖い、みたいなもんでして。えぇ、けど、先生は全てを知らんと気がすまないと思いましてね、あはは。先生の顔に全部書いてあるんです。[咳払い]すいませんね、では話しましょうか。

えぇっと、尼さんが烏を寄せ付けないようにしたと話しましたよね、実はそうじゃなかったらしいんです。この尼さんというのは、インチキな尼さん、今でいう詐欺師に近い者でして。皆が欅の側で祈っている間に、村民達の家屋に押し入っては、金目の者を奪っていたんです。そうですよね、普通じゃ考えられないでしょ。えぇっと、敢えて尼さんと呼びますが、その尼さんが盗みをやった動機ですか。それは分かりませんね。ただ、今とは違い、昔の村々というのは、飢饉だったり洪水だったりがあったりして、一層貧しかった訳ですから、想像はすぐつきますよね。

まぁ、その尼さんは1週間、儀式が行われていた間に、多くの財を奪っていたんですが、ある日、その盗みをしている所を村民に見つかってしまってね。まぁ、村民は怒り狂う訳ですわ、その尼さんを儀式が行われていた欅の木まで追い詰めて、磔にして、家から持ってきた竹槍やら包丁やらで、滅多打ちにしたそうなんです。えぇ、ちょっと想像すると嫌な気分になりますよね。その後、磔にされた尼さんのはというとですね、血の臭いに寄ってきた烏達によって、生きたままついばまられていったそうで、辺りは尼さんの悲痛な叫びと血の臭いでいっぱいだったとか。

あの留目村の民謡というのは、その尼さんが烏についばまられていく様子を表したもんなんです。「からすがきた からすがきた」というのは、そのままの意味で、血の臭いにつられてきた烏を指し、「めんたま きにとどめ からすがついばむ」というのは尼さんの眼球を引きちぎって、取った眼を欅の木にさして、食っている様子なんです。

でね、留目村の留目って言うのはさっき言った尼さんの眼球のことなんですよ。あはは、知って少し怖くなったでしょ。だから、あまり言ってはいけないということになっているんですよ。怖がらせちゃいけないからって。あぁ、この事はあまり他の人に伝えないようお願いしますね。何せ、この話が他の場所に知られたら、村長にこっぴどく怒られるもんなんで、あはは。

あっ、ちなみに話に出てきた欅の木ですが、今はなくなっているんですよ。何でも、昔起きた大災害で倒れたとか、大きな業者が来て、家の木材のために伐採したとかなんとか。まぁ、その辺は私には分かりませんがね。


07

今日のニュースです。

███県███市で起きた殺人事件において、警察は大田 芽雪さんの夫である大田 綱紀(35)容疑者を殺人及び詐欺の疑いで、今日の昼過ぎに書類送検することが番組の調査で判明しました。

大田 綱紀容疑者は先週の19日に、妻である太田 芽雪さんを殺害した容疑がかけられています。また、綱紀容疑者は生前の芽雪さんと共に高齢者を狙った詐欺行為をしていたことが警察の調査により判明しました。

警察は綱紀容疑者を送検した後、逮捕、殺人及び詐欺についての取り調べを行う予定です。

では、次のニュースです。…


08

はい、もしもし。あぁ、先生でしたか、お久しぶりです。こうして話すのも大学の講義以来ですかね、ははは。えぇ、はい、今日はどんな用件で電話したんですか。いやぁ、こんな僕に頼るなんて、何かあるのかなぁ、と思いましてね。あはは。

はい、はい、留目村でしたっけ。…ちょっと待っていてくださいね。[数秒後]すいません、待たせてしまって。えぇっとですね、先生が言った留目村というのをどこかで見たことがあるなぁって思ったんで、数年前のオカルト雑誌やら引っ張ってみたんですよ。そしたら、ある号で留目村のことが書いてあるんです。「発見、怪奇、不思議!?留目村の尼さん伝説」ってタイトルで。
中身はですが、留目村の成り立ちやら、タイトルでもあった尼さん伝説のこと等、なんと言うかタイトル詐欺ではないですけど、内容が少ないもんですかね。まったくいやぁ、今こう見ると、胡散臭いものばかりだなぁ、「あの尼さんは実は本物の尼であり、磔にしたのは村に居着く化物だった」とか、ねぇ。あぁ、でも、先生にとっては大事なキーワードかもしれませんよね。なら後で、そちらにコピーを送りますよ。

何か分かったら、是非、僕にも教えてくださいよね、あはは、約束ですよ。では、先生さようなら。


09

『発見、怪奇、不思議!?留目村の尼さん伝説』より

[前略]

留目村に伝わる「からす」は、一般的に書く「烏」とは違い、「刈」と書く。留目村の「刈」というのは「命や気、縁、運を刈らしにくる化物」と伝われている。また「刈」は「尼」を好むという。その理由として、「尼」は「海女」と書くことが由来しているという。ここで言う「海女」は漁をする女性だけを指すのではなく、そのままの通り、海、もとい水と密接な関係にある女性を意味する。水というのは死と密接にあるのは読者もご存知だろう。彼岸といった抽象的ものやインターネット等で書かれている降霊術に使われる水といった具体的なものなど。

[中略]

そもそも、「刈」という存在が何故、生まれたのか。具体的な発祥は不明だが、留目村の文書では「気が刈れる」というのが訛り、なったとしか書かれていない。留目村の「とどめ」と「刈」の関係性は、不明。


10

はい、はい、今行きます。おぉ、先生でしたか、お久しぶりですね。こんな辺鄙な村に2度来るなんて、今日はどういった用件で。あっ、ここでの立ち話もあれなんで、中で話しましょうか。

どうぞ、粗茶です。それで今回はどういった理由で来たんですか。…はい、はい、あぁ、成る程。そういうことですか。あの話の真相を教えてくれと。まぁ、そうですよね、先生のことですから知りたいもんですよねぇ。えぇ、分かりました。先生の頼みですもん、お話ししましょう。あっ、このことは絶対に内密にしてくださいね。

[咳払い]えぇっと、話の中で盗みを働いていた尼さんが欅の木に磔にされたところがあったじゃないですか。で、ここで疑問に思うのが誰が尼さんを磔にしたかというもんなんです。前に話したのを想像すると村民がやったんじゃないかって思うでしょ。でも実際は違うんですよ。[お茶を啜る音]私の父方の祖父は、この村の宮司をしていたもんでしてね。この村の民謡を管理したり、神事を執り行ったりと様々でして。私も子供の頃は、良く、祖父の話を聞いていてね。そんなかでもこの話を良く話してくれまして、はい。昔は良く分かりませんでしたけど、今考えてみると怖くなるんですよ。えぇ、怪談とかホラー映画から来る怖さではなくて、ただ禁忌を感じてしまう怖さに近いもんなんです。

[茶を啜る音]えぇっと、盗みを行った尼さんが村民に殺された後、その死体をどうするかと村で話し合いになったんですね。まぁ、こんな辺鄙な村でも殺した尼さんが名の知れた者でしたら、役人も動くでしょ。最悪、村の者全員が逮捕される可能性もある訳ですから。[咳払い]それでね、まぁ、話し合いは朝まで続いたんですが、結局、話はまとまらずしてね、死体はとりあえず村のどこかへ隠すことにしたんですが、村民が尼さんの死体がある所に着くと、えぇ、尼さんの死体は近くの欅の木に、まるで、えぇ、十字架のように磔にされていたんですわ。
まぁ、村民は驚ろくわけです。誰が磔にしたのかと騒いでいると、1人の村民が欅の木の近くに子供がいるのを見つけまして、村民はその子が何か知っていると思い、すぐさま保護し、話を聞こうとしたんです。[茶を啜る音]まぁ、その子供は最初こそ、何も話してくれなかったんですが、時間が経つにつれて、徐々に、ゆっくりと話していきました。

[茶を啜る音と噎せるかえる音]あぁ、ごめんなさいね。えぇっと、その子供というのはあの尼さんの子供だったんです。えぇ、あの尼さんは本当の尼さんだったらしいそうで。
ここに居た理由ですが、母親の帰りが遅いから迎えに来たというもんです。んで、その子供はやっとの思いで母親を見つけたんですが、その時は村民によって無茶苦茶にされた直後だった訳なんです。[茶を啜る音]んで、血塗れの母親に駆け寄ろうとした時にですね、身体全体が眼球で覆われている、黒い人の形をした何かが現れたそうなんです。
子供は怖くなってその場を動けずにいたんですけど、その黒い何かは子供を無視して、母親の死体を欅に磔にしたんですわ。…考えてみると異様な光景ですよね。それで、その黒い何かは、死体を磔終わったのか、くるりと曲がって、来た道をそのまま戻っていったんですわ。でも、そん時にね、子供の顔を覗いて、にこぉって笑ったそうなんですわ。

これがこの話の全てです。あはは、嘘はついてませんよ。えぇ、これが私が知る限りの全てです。はい、話の中で出てきた黒い何かの正体は、結局のところ、分かりませんわ。まぁ、でも、仮に人であったとしても、そうじゃなかったとしても不気味なもんに変わりはありませんからねぇ。
おっと、もう、こんな時間ですか。話をしていると時間の感覚を忘れますなぁ、あはは。

では、先生、またどこかでお会いしましょう。


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