淡島

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静まりかえった教会の片隅で、小さく動くものがあった。
荒廃した教会には無残にも崩れた瓦礫の山しか残っていない。
おぞましい死臭と、瓦礫と、月光のみがあった。
がらんとして、すべてが死に絶えたかのような。
静まりかえった暗闇に、「ひょっこ」と小さなものが立ち上がった。
まるで乱暴に食い荒らされた獣が、食べ残したかのように。
今まで己の気配を消し、闇に溶けこみ潜んでいたかのように。
人間の指──人差し指であった。
人差し指、という不気味な、現実にはひとりでに動くはずがないものがないものが起き上がる。
そして、人間ように身震いをする。

「ふぅ──」

その指がどこからか声を発した。
好青年がもつ耳障りがよい声音。
同時に指は己の肉体に手足を生やした。
第三者から見れば、『指人形』としかない見た目であった。
味気のない造形、指に小さな手足を生やしたものは──冷たくなった教会の床の跡を、ぴょこぴょこと歩く。
どこか憂鬱そうに。

「まったく、おっかないものだ──あれに比べたら主なんか可愛いものだ。とりあえず目眩ましは成功したかな、まぁ気づいたとしても興味なくてスルーされるだけか」

どこから言葉を出しているのか不明な指人形は、己の今の肉体を「さわ、さわ」と触る。
そして月光が降り注ぐ夜天を、ぼんやりと見上げる。

「ついに始まるのか──できればもう少し、主には普通の人生を歩んで欲しかった。否、遅すぎたぐらいか。こんな平穏な日常が続いたことが奇跡としか言えない、感謝しなければならない」

達観したように言うと首(?)を揺すった。

「無駄口を叩いている暇はないな、どうも悪い癖だ。まぁ今さら███が戻ってくるとも考えにくいけど──せっかく危険を冒してまでこそこそと状況を窺っていたんだ。忍者らしく、主に伝えねば」

肩をすくめる仕草をして。

「我が仲間たちに、危機を伝えるために」

少し真面目に、人形は呟いた。

「『お嬢さま1』たちに──」

そして、気の抜けるような足音をたてながら、歩く。
指先ほどの大きさなので、その進みは酷く遅い。

「しかし、ずいぶんとご無沙汰しているから──命からがら戻ってみても、主は『あなた誰だっけ?』と言うのが予想できる。やれやれ、忍者とは報われない立場だ」

少し練習していくか、と月明かりに照らされた薄暗い廃墟で。
人差し指は、舞台を彩る主演のように。

「私の名は淡島2、しがない忍者です」

誰にともなく告げると、小さな身体を優雅に折り曲げ、お辞儀をした。

淡島──

日本神話にその名が刻まれているも、不具の子であったため、蛭子神と同じく創造神によって忘れさられた忌み神。
その名の通り、彼は生まれた瞬間に要らないもの、出来損ない、失敗作として実の親に捨てられ、主に出会うまでは過酷な人生を孤独に歩んでいた。
しかし、今は違う。
彼は主のために──大切な仲間を守る保護者の一人として、しっかりと敵の内情を探っていたのだ。
それを淡島の主が知るのは、数年後になるが。
不意に、人差し指──淡島の姿が消える。
終末を告げるための使者が、大切な仲間の下へ向かった。



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