海の果てに

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私が最後に島で撮った写真

海の向こうには理想郷がある。
いろんな神話で語り、謳われているのと同じ、琉球の…そんなよくある伝説は、たぶん、こんな景色を見た人達が言いはじめたことだと思う。

──朝日がのぼる、海だ。ほんの短い時間しか見られない、幻想。目覚めたばかりの世界が、欠伸をして、大きな口のなかを見せたように。世界に色が塗り始め、海は青、自然は色濃い緑色、大地の土色も。それは自然への崇敬、もっとも原始的な信仰。私は本能的に見とれ、思わず手をあわせたくなる、ちいさな世界で生きていては味わえない感動。


私は修学旅行でこの島を訪れた。最初はクラスの皆と修学旅行を満喫した。島を探検したり、海で泳いだり、露天風呂に入ったりして、皆と思い出を築いていた。けどその思い出はあの『縁日』で全てが瓦解した。私以外の人達はあの日、人ではなくなった。肉は削げ落ち、皮膚は爛れ、腸や胃袋を零し、顔面の半分が消し飛んで眼球と脳が飛びだして、その後黒い液体と化した。私がみたのは死屍累々である。助けを求める仲間だった異形な存在の声に私は吐き気がした。直後、大きな地鳴りが聞こえた。そして大地が隆起し、私は立っていられず、転んだ。その姿はまるで、人々が暮らす物理的世界観も、「神霊」が漂う神話的世界観も同時に歪め、破壊する自然災害、「龍」そのものだった。巨大な咆哮と鼓動。けど、何故か突然大爆発が発生し、海が割れた。私の体は枯れ葉のように吹っ飛んで、真っ二つにされた「龍」の割れ目に落下し、そのまま海中へ…。
海の底に引きずりこまれ、水流のなか。あぶくが散った、色濃い海のただ中で。目を見開いた私は、意外な女性が近くを流されているのに気づいた。それは、まるで魂を抜かれたように、あるいは破壊されたように──目を閉じ、ぐったりと動かない誰か。どこから出てきたのだろう?まるで、引き裂かれた「龍」の内側から、吐き出されたみたいだけど…。気になったけど、その時ははそれどころじゃなかったなかった。失神している彼女に、私は何も考えられず、自分だってどうなるか分からなかったけど──必死に手を伸ばした。そして今に至る。


「あのぅ…」

私はどこかの砂浜で座っている女の人を見つけた。10日ぶりに人を見かけた。その人は疲れきっているように座りこんでいた。

「すみません…隣、座っても良いですか?」

そんな呑気なことを言える程、私は今体調が良いわけではなかった。むしろ、今まで無理を重ねたせいで、身体中がだるい。このまま死ぬんではないかと思うほどだけど、まぁ、自業自得である。くしゅん、と寂しくくしゃみをしていると。

「お前は、何故平然としてられるんだ?」

何だか疲れた様子で、その人は私に向かってつぶやいた。かつては威光を示していたであろう髪は、しとどに濡れて、まだ渇いていない。着ている巫女服は紋章は霞み、赤黒い血で汚れ、貼りついて妖艶の肢体が艶かしい。乱れ髪が垂れ流されていて、幽霊みたいだ。その人はもう何もかもが面倒だというように、私の横に並ぶ。ふてくされた仕草は、何だかとても女の子のようだった。

「少しは警戒したらどうだ。私は多分お前の仲間を“九頭龍“復活のために殺し、生贄として捧げた、言わば殺人者だぞ?肉食獣と2人きりでいることにまだ分からないのか?」

「どうですかね….私には分かりません」

この人は何者なのか。推測はしているし、何だか正解のような気がするけど….変だけど、あまり怖くはなかった。

「私、あなたのこと、まだ知らないのですから」

もしかしたら、この人は今回の出来事を引き起こし、多くの人達を犠牲にした、主犯=黒幕ではないかと言える人物かもしれない。だとしても、私は恐れない。いや、私は信じたい。
最初この人は、私の学校の皆を“九頭龍“復活の生け贄に、あの縁日に参加させ、生命力を吸いあげるためだったのかもしれない。だけど、彼女は結局、皆の命を枯死するほど奪ったりはしなかった。この時は、まだそう楽観していただけだけど──後に真っ二つされた島の残骸──あの神社から無傷の生徒達が救出される。殺すこともできたはず。むしろ、そのほうが確実だったのに──多分彼女は、彼らの命を奪わなかった。そのせいかどうか「龍」=島は不完全な形だった気がする、そして“誰か“に抑えこまれ、滅ぼされた。多分この人は仲間に好かれていたのだろう。邪悪な存在を演じただけで、尊く、愛すべき一面もあると──それは嘘じゃないと、私は信じる。

「私は、怖くなったのよ…….」

彼女は俯き、酷く落ち込んだ様子で、つぶやいた。

「このまま順調にいって、日本を創り変えて、この世界の現実を変えたら…….もう二度と、名前を呼ばれて、仲間と笑いあったり、仕事したり、手を繋いだりして、一緒に過ごすこともできない。独りになってしまう。そんな当たり前で──むしろ望んでいたはずだったのに、怖くなった…」

「うん、分かります、独りは寂しいし、怖いですよね」

「お前に、私の何が分かるというのだ?」

嘲笑うような声だった。

「私には何もない、強くなって私達の悲願を叶える以外に、何もない。私のことを、分かるはずがない!お前なんかに……お前と私は対極の存在で、決して相容れない。共感なんてできるはずがない、お前と私は正反対であり、敵なのだ」

「うん、だから離れているから、分かりませんよ。そばにきて、もっと話をしましょう」

肩を触れさせ、密着させ──彼女の小さな手のひらを握った。浮かんでくるイメージがあった。私の家は代々、霊能力とかに長けており、巫女は「人々が望む世界」を長年維持してきた。その頃は私も、修行に明け暮れ、将来を嘱望され、周囲の期待を一身に背負っていた。努力して、努力して、努力して…。何も意味がなかった。彼女は、昔の私だ。私には仲間がいて、見知らぬ世界につれだしてくれたけど…。彼女は独りで、きっと、昔の私が暗闇にいる。助けてあげたい。同時に、膝を抱え、震えている彼女を哀れんだ。そんなふうに、すべてを拒絶しなくても。私のような、駄目な人間でも、幸せだった。私はあなたにそう伝えたいよ。潮風が吹くなかで。

「ねぇ」

彼女は、言葉を繰りかえした。

「私は、あなたと──相容れない、いつか殺すことになる」

距離を置こうとするような、不器用な言葉で。私は微笑んだ。

「じゃあ、その『いつか』までは、家族だね」

「やはり、お前は変だ」

「『お姉ちゃん』は、意地っぱりだなぁ」

その呼称に、勇気を振り絞ってだした言葉に、彼女は──お姉ちゃんは「はっ」と顔をあげて、泣きじゃくった顔を歪め、人間にはじめて心を交わした動物のように。ぎこちなく、私の手を握りかえし、ゆっくりと目を閉じた。

「何だか疲れた……。少し眠るとするか……」

私も何だか眠くなってきた。疲れがたまっていたのか、お姉ちゃんの体温のせいなのか。私は優しい熱を感じながら瞼を閉じた。どこか遠くでヘリの音がする。朝日が私達の姿を照らす。


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  1. portal:6546777 (02 Jul 2020 10:48)
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