親子とは 死中

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「おまえは、一体?」

母が鋭い視線を向けた先に、彼はいつのまにか立っていた。

「僕はこういうことに介入したくないのですが・・今回は別です。愛娘の意見も聞かず、自分の主張だけを分からせる、それも強引に。兄としてあなたを止めますよ」

油断なく身構え、母を見据える私のお兄ちゃん。
その手に持っているのは立派な日本刀だ。

「お兄ちゃん!」

情けないことに、涙声で、私は彼を呼ぶ。
お兄ちゃんは「よっ」と気楽に手を挙げ、てくてくと近づいてくる。

「深雪さんの周りに少し不穏な気配がしたもので、様子を見に来た訳ですが、まるでSCPそのものですね。まさか黄泉がえるとは」

「何しにきた。忌々しい“悪童“よ」

母が私の手を離し、冷え冷えとした声を兄に放った。
不恰好ながらも母から距離をとるため這い出した。
そんな私を無視して、母は錫杖に体重をかけた。

「おまえのせいで、深雪は財団の役目を放棄した。しかし、それはおまえが深雪の耳に心地よい虚言を語り、誑かした」

「僕は“悪童“ではありませんよ。あなたこそ黄泉がえりという禁忌を犯した“悪神“のようですよ」

鞘からよく研かれた刀身を取り出し、臨戦体勢に入った。

「どのような存在でも、黄泉がえりはやってはいけないんですよ。それがこの世の理であり、摂理なんですよ。限られた命の内に、全力で生きていく。あなたが説教垂れをしてはいけないんですよ」

お兄ちゃんと母の間に、すさまじい剣幕が渦巻く。
殺意や闘気と呼ぶ、意思の相克。
私は怯え、声も出せずにその状況を見守るだけだった。
何か嫌だ・・・。
うまく言葉にできないけど、嫌だ。

「死者がこの世に関わっていけないんです。財団もそう判断するはずだ。あなたを新たなSCPとして認識し、確保します」

お兄ちゃんが裂帛した呼気を放って、母の懐へと近づく。

「深雪さんは私や誰かに、誑かされた訳じゃありません。深雪さん自信が選んだです!あなたが死んだ前の深雪さんとは違うです!」

そのまま一直線に、お兄ちゃんは跳躍し、刀身を突きだす。

「・・・なめられたものだ、わしも」

瞬間だった。
金属音が響いた。

「私は部隊の部隊長として、異常存在の駆逐を多く請け負ってきた。時に、このような摂理に逆らう者の排除もおかしくない」

お兄ちゃんが持った刀は、母の錫杖によって弾かれた。
あの細さの杖で、刃を完全に止めたのだ。

「少しはっ・・・」

お兄ちゃんは目を見開き、驚きながらも、つづけさまに刀を振るった。

「話を聞いてくださいっ!」

けどその度に、母は最低限の動きで刃を防ぎ、逆に捌く。
傷ひとつ負わない。
母は、あまり体力が無いはずだ。
お兄ちゃんが縦横無尽に刀を振ったとしても、母はまるでその軌道を見きっているかのように、攻撃を避けていく。
さすがのお兄ちゃんも、この事に驚きを隠せずにはいられなくなった。

「んな・・・!」
「やはり研究職に就く者は、武道を覚えずか」

母が手を突きだす。
見事にその指先がお兄ちゃんの額辺りに直撃し、バランスを崩した。

「やはりおまえは甘い。だから深雪は役目を失ったのかもしれぬ。もうあの時まで時計の針を戻すことはできぬ」

それが“財団の1人“としての、母にとっての当たり前の価値観だ。
もうこれ以上、戦ったらいけない。
そんな気がする。

「・・・分かったよ!」

ようやく私は動いた。
何も考えず、母を抱きよせ、懇願する。

「もうやめて!」

そうだよ、最初からそう言えばよかったんだ。
馬鹿だなぁ。

「行くから!」

もう私にできることはこれしかない。
母がどう反応したのか分からない。
お兄ちゃんが何か叫んでいるけど、聞こえない。

「・・・そうか」

無意識に閉じていた両目を、開いたら。
私はどこか見覚えのある、暗くて、狭い部屋の中にいた。
自分の身体を見下ろすと、巫女服に変わっていた。
さっきまではスーツを着ていたはずだけど。
呆然とする私の正面で、母が微笑んだ。

「さぁ、始めようか。深雪よ」

私の意識はそこで、途切れた。


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