Fireflyer×2,R-suika,aaasaan777,Enho_Osho
彼女の行動は私に対する愛着だと思った。
いつも私の周りに来るのだが、ストーキングにしてはあからさまだし意図が掴めない。話せばわかるかと思ったがどうにも聞く耳を持たない。好いてくれているならば邪険にされるよりは良いこととは思うが、こうも毎日近くにいられては鬱陶しさが勝る。
「私のことばっか追いかけて暇なのか?」
そう愚痴ろうが彼女はお構いなしで、いつも小さく微笑みながら私についてくる。
一度は私自身に幻滅すりゃいいと、オカルト狂いや気狂いらしく寺や神社やらを巡ってみたりもしたが意味はなし。どうせ付いてくるだろうと思って計画した大学の友人複数人での海外旅行中には、偶然を装い便を遅らせて搭乗したり、予定を強制変更してみたり、現地に置き去りにするもてんで効果はなし。海外の知らない土地にも関わらずいつの間にやら合流してくる。少しぐらい怒ってみろよと思わないではないが、全く気にしたような素振りもない。
危害も加えず、ひたすらそばに来るだけだから放置しているものの、誰かに相談するべきか。いやしかし面倒事は願い下げだ。私が過剰に嫌がっているだけか。そも何故私に執着するのか。確かに私が幼かった頃は、彼女が居なくなったら見つかるまで昼夜関係なく探したし、小学校も放課後もいつも一緒にいたから彼女に愛情を注いでいたと言えるかもしれない。だがそれも成長してからはなくなった。
分かっている。
十中八九子供の頃の行動が原因であろうことなど、とうの昔に。
それゆえに、付喪神的な愛着の具現だと思い込まなければやっていられない。
私を映す彼女のレジン製の目には、愛と形容できる感情はおろか、およそ意志らしきものは読み取れないけれど。
Syutaro Eji,hallwayman,Matcha tiramisu,Kajikimaguro,makigeneko
私は怪人ティーポット。悪の組織、「スパッズ」の総帥だ。玉座に座る私の目の前に立ちはだかるのは、四人のヒーロー達。
「ついに私の元まで辿り着いたなソニックブーマ―!」
「いや、待ってくれ。俺達まだ雑魚しか倒してないぞ。四天王はどうしたんだよ。カニ魔人は?」
レッドが問いかけてきた。正直有耶無耶にしたい所だったが仕方ない。
「カニ魔人は……そこのブルーが得意なバックフリップあるだろう。あれを真似したら失敗した。肩を痛めて入院してる。」
「……じゃあ、カンガルーマンは?」
「イエローが時々バックドロップするだろう。あれの練習してたら腰をやった。」
「……ヨコヅナンは? 胴がマグロの横綱がいたろ?」
「レッドを真似して手から火を出そうとしたんだが、胴の脂に燃え移ってな。痩せてしまって、一昨日が断髪式だった。」
「じゃあ、ミルズもか? 股間からコーヒーぶっ放してくる奴。」
「あいつは違う。濃厚接触で自宅待機だ。」
レッドは呆れたようにため息をついた。私だって悔しい。こいつらに初めて会った時には、「貴様ら如きでは四天王の元にすら辿り着けまい!」と啖呵を切ったが、まさかこんな形で実現するとは思わなかった。
「まあいい、お前さえ倒せば全て終わりだろ! 勝負だ!」
「ふっふっふ、見くびるなよ……」
私は玉座から立ち上がる。瞬間、腰に激痛が走った。カンガルーマンと一緒にバックドロップの練習をした時、腰をやったのだ。頭はコロナで朦朧とするし、火傷した腕はヒリヒリしている。懐に白旗を準備していたのだが、バックフリップ失敗で壊れた肩が上がらない。
「ねえ、待って……」
……イエローに背後を取られた所までは覚えている。
Cocolate×5,Enho_Osho
ぼくのすきなひとは天使みたいだ。
つややかな、しろい雲のいいところをつめて、星屑を砕いて千々ちらしたような肌。
本物のそらよりかれの目に映るそらのほうが遥かにきれい。
うつくしい顔の調律を乱す、すこし濃い隈は、ミロのヴィーナスを彷彿とさせる。
ひとの中身は皆あかいといわれるが、このひとのなかみはきっと碧落を押し退け飾り落ちる一等の星だとおもう。
かみさまのおもちゃ箱とか、そういったかんじなのだ。
かみさまのおもちゃのほうがあってたのかもしれない。
「1/11とか、2/22とかに死にたかったんだけどな しょうがないさ」
はねを伸ばしてとびたったぼくのすきなひとは童話のなかの天使みたいだった。
フェンス越しに散る、儚い浮き桜は天使の散った羽とよくにていた。
桜の下には死体が埋まっていると言う。
地面に急降下したかれの中身は星なんかじゃなく、宝石ともまたちがう、そこなんてない珊瑚礁みたいないろだった。
あれをびんに詰めて、陽に透かしたらどんなにすてきか、ずっと考えている。
「だからきみは、3/33にしんでくれよ」
ちがう。かれはぼくの神さまだった。
だからせめてぼくは天使になれますようにって祈ったんだ。
彼と同じ時間、彼と同じ場所、彼と同じ季節にきっちりと死ねるように。
天使みたいにみえるように。
3/33は待てなかったのだ、がんらいぼくはせっかちなにんげんだもの。
神さまみたいなかれのいる場所にあがらせてもらうのだから、靴を脱いで、そろえなければならない。
うたでもうたいたいような、地獄みたいなせかいがうそみたいに清々しいきぶんだった。
おじゃまします、と声をかける。
そういえば、ぼくはキリストのほうで、自殺は罪だったな
Cocolate,Fireflyer,Kajikimaguro,Popepape,Sodyum,leaflet,Tutu-sh×2
冷たくなってしまった、愛しき人、カサンドラ。あの日からもう一年経つんだ。君は最期まで、その眼を開いて僕を見てくれた。日を重ねるにつれて、君の声が弱く、小さくなっていくのを、僕はずっと聴いていたかった。キャンバスに向かう君の眼差しを、できれば正面から見つめてみたかった。その赤色と白色とで彩られた男と僕と、どっちが恰好よかったのかな。君は僕の持たない魅力をすべて彼に注ぎこんでいるみたいで、本音を言うと、気持ちが悪かった。君が病院で暮すようになってからも、彼は「彼女は渡さないよ」とでも言わんばかりに僕を睨みつけた。
あの日、君が動かなくなった日、僕は君のそばにいられなかった。電話の鳴る音を聴いたのかもわからないし、とにかく、気が付いた時には君の手を握っていた。僕の体温を受けてかろうじて生温かさを保っていた君の手を、僕は一晩中握っていたらしい。君が棺桶に入れられてしまってから、僕は君の写真を持って家の鍵を開けた。ひどい有様だった。
倒れたテーブル、投げつけられた椅子、バラバラになった皿。すべて、心当たりがあった。何もかもが散乱するその中に、彼の顔を見つけた。君のイーゼルを借りて、僕はその男をそっくりそのまま描きなおそうとした、だけれど失敗した。その男は、見れば見るほどに、鏡に映した僕そのものだったのだから。
今日は仕事で、絵を描け、と言われたから、僕は君の絵を描いた。君が、玄関に飾られた僕の隣にいられるように。ねえ、今、君が入った暗くて寂しい箱のそばにいるんだよ。だから、赦しておくれ、僕の最愛の"キャシー"。
Enho_Osho×2,Dr_rrrr_2919,Matcha tiramisu×2,Syutaro Eji
僕は中学1年生でした。
進学のタイミングで引っ越してきたので、知らない子ばかりでした。
僕は生まれた時から腕に大きな痣がありました。
隠すためにいつも長袖を着ていました。プールの授業も休んでいました。
でも我慢できなくなって、恥ずかしかったけれど勇気を出して半袖で学校に行ってみました。
みんな痣を気持ち悪がって、僕はケンヤ君達に持ち物を隠されたり叩かれたりお小遣いを取られたりするようになりました。
- 王様の耳はロバの耳
僕は高校3年生でした。
学生の本質は勉学だと思っていました。
みんなは放課後や土日も部活に夢中になっていたり、予習復習をしないで遊びまわったりしていたけれど、僕は塾へ行きひたすら勉強に勤しんでいました。
いい成績を残して、行きたい大学に受かって、先生や親には褒められました。
僕は無事卒業をしました。みんなが卒業アルバムに寄せ書きをしている中、僕は1人でお家へ帰りました。
- アリとキリギリス
僕は社会人3年目でした。
僕は中学1年生の担任を受け持っていました。やんちゃな生徒が多い学校でした。
同期のケンヤ先生はいけない事をした生徒には怒鳴ったり、時には叩いたりして怒っていました。
対して僕は、いけない事をした生徒には「誰かに迷惑をかけたりしたときは、反省してその人にしっかり謝るんだよ」と優しく語りかけていました。
3学期の始め、ケンヤ先生が「生徒からの年賀状を返すのが大変だった」と嬉しそうに話していました。僕は親戚以外に年賀状を出す相手がいませんでした。
- 北風と太陽
僕は勾留1日目です。
ケンヤ君を刺したナイフは池に捨てたと正直におまわりさんに言いました。
今度はいいことあるといいな。
- 金の斧
Matcha tiramisu,sakapon,Syutaro Eji,makigeneko,R-suika
いやぁ、ドンブラザーズ。いい最終回だった。
少年も見たかい?おじさん感動しちゃって涙がちょちょぎれたよ。
うん?
なんでジャングルジムに登っているのかだって?
はっはっはっ、少年。
おじさんは戦隊ヒーローに憧れていてねぇ。
バーンッて爆発と一緒に登場するんだ。カッコいいだろう?
うん?
戦隊ヒーローはパンツだけ履いて公園に来ない?
はっはっはっ、少年。
よく見たまえ。ベルトをしているだろう。
このベルトをつければ、おじさんもバトルフィーバーJに……
はっはっはっ、少年はバトルフィーバーJなんて知らないか、はっはっはっ、うんうん、世代だなぁ!
冗談は置いといて、おじさん普段は会社の偉い人なんだけど、やっぱり子供の頃からの夢を叶えたくてねぇ。
だから今日はこの公園に来て、高いところに登って、この街を見守っているんだ。
出たな怪人ッ!この街は私たちが守る!
変身ッ!!バァーンッ!!
ふっはっはぁ、なんてねっ!!
君も一緒にこの街を守らないか?少n……
少年?
少年、どうして後退りしているんだ?
少年、防犯ブザーは必要ない。なぜならおじさんは正義のヒー
少年!!
少年!!
少年!!
少年!!
少年!!
aaasaan777,Tobisiro,Kajikimaguro×3,R-suika,Sodyum
『ある男が妻の葬儀に娘と出席したとき、同席した妻の親戚に一目惚れした。その日の夜、男はその娘を殺したという。いったい何故?』
「なあ、お前はどう思う。」
「そりゃ『また会えるから』だろ。」
「えっ、お前それ……、」
そりゃあ、俺は生粋のサイコパスだし。こんな質問に「正しく」答えることなど造作もない、と、心に浮かべてみる。思い込んでみるのも案外重要なのかもって思うし。
「へえ、まあいいや。次行くわ。それじゃあ、」
『………………』
とまあ、渡されたいくつかの質問に、かつて学んだ通りに、全て「正答」していった。
「お前、もしかして知ってた?そうだったらちょっとごめん、あんま面白くないかも。」
お、これは想定外の質問だ。なんと答えるのが「正解」だろう、と考える。もしかしたら、こんなことを今考えていること自体も存外それっぽいかもな、なんて余計なことも暫く浮かべた後、
「は、何のことだ。んまあよく分からんけど、こういうことはなんか普段から考えてるかもな。」
とほんの少しだけ、強い口調で吐き捨てた。
「あー、……うんオーケー。じゃあ、俺用事思い出したからもう行くわ。」
これはどうだ。感触はなかなか良い気はするが、人がどう思ってんのかなんてやっぱ分かんないんだな。
……そういえば、ちょっと聞きたいことがあったな、と思って彼を呼び止めた。
「ちょっと待て。」
「……ひっ!」
表情はかなり引き攣っていた。しかし、
「そういえばお前、最初の質問初めて見た時さ、なんて思ったかだけ教えてくれよ。」
と聞くと、スンと顔のパーツを戻して、
「まあ、最初に思ったのは、恋愛関係のもつれかな、って。」
………………
俺は、あいつには勝てないな、と思った。
Tobisiro×5,Hoojiro_san,sakapon
ホテルの一室、シャワーを済ませた僕はベッドの上で横になることにした。僕の秘書兼恋人の彼が今はシャワーを浴びている。いつも表情を崩さないところが可愛い。あんま分かってもらえないけど。そんな彼の為にバスローブの紐をちょっとだけ緩めておく。こうすると彼はだらしない、気をつけろと言ってくれる。その呆れたような青い眼が大好き。人間なんてめんどくさいって思ってたけど、彼だけは違う。それにしてもまだだろうか。もういつもより五分は長くシャワーを浴びている。
「お腹すいたな」
虚空にぼそっと呟く。聞こえてないといいな。きっと彼は僕に気を使ってしまう。食べれるものはないか、とベッドから体を起こすと、近くのテーブルに薔薇の花が飾られているのが目に入った。観賞用だろうが運がいい。僕は花瓶から薔薇を一本引き抜いて、茎の方から人間がタバコを吸うように息を吸い、ふうと吐き出す。甘い香りが口の中に広がり、空腹感が一時的に収まる。でも彼に見られたらきっと嫌われちゃう。なんて考えていると、シャワーの音が止まり、やがて足音が聞こえてくる。僕は急いで枯れてしまった薔薇を花瓶に入れ、ベッドに戻ると、ベッドの前に現れた彼に話しかける。
「遅いよ、待ちくたびれちゃった」
申し訳ございませんって頭を下げる彼に、冗談だよと伝え、ベッドに来るように手招きする。僕の予想通りバスローブのことを指摘し、直そうと近づいてきた彼のバスローブの紐をいっきにほどいてやる。ため息をついた彼に僕は声をだして笑ってしまった。
あなたが去ろうとも僕は残る。それは世界が変わってくれないと覆せない事実だけど、この時間だけは、あんまり忘れたくないかな。
Tutu_sh,aaasaan777,sakapon,hallwayman,Matcha tiramisu,Enho_Osho
林間学校の出来事だった。日が落ちてとっぷりと暗くなる頃に、児童5、6人の班行動があった。門限を義務付けられる小学生にとって、夜中に山を歩くことは、いけないことを認められた高揚感がある。皆は体操服でウキウキしていたはずだ。
がさり、ぱきり。
懐中電灯を振りながら、落ち葉や枝を蹴って僕らは歩いた。1時間くらいだろうか。木立の中で仲間と共にする涼しい風や輝く夜空は、まるで異世界を訪れたような美しい情景だった。木の幹に手を当てて温かみを感じ、岩の上に腰掛けて湿り気を味わい、僕らは不思議な気持ちの中でゴールを目指していた。
ぼぐっ。
聞き慣れない音がした。女子の悲鳴が上がって振り向くと、懐中電灯の光の先で、岩が濡れているのが見て取れた。ぴちょん、という水音を上へ辿って見ると、先生の背丈よりも高かったろうか、赤黒く染まったジャージと脚が枝の上で揺れている。
ヌマと呼ばれていたそいつはたまに校庭で遊ぶ仲だった。首は曲がり、真後ろに捻じれた顔の表情は見えなかった。年端のいかない僕でもあいつが死んだのはすぐ分かった。あいつの首は、奇妙な枝から突き出した鳥の嘴に挟まれていた。
駆け付けた先生が大声で騒ぎ立てると、木だったものは形を変え、ヌマを咥えて立ち去った。枝をへし折って消えていく「鳥」の背中を睨みながら、先生は無線で何かを叫んでいた。記憶はおぼろげだ。ゴールしたか覚えていないが、きっと中止になっただろう。
──この話を思い出したのは、図書館でふと手に取った鳥の図鑑のせいだ。ぱらと捲ったページの一つに、歪な鳥の写真がある。頭が平らで、まだらな茶色い変な鳥。木の枝にも見えるそいつはヨタカという名前なのだという。
kihaku×2,Dr_rrrr_2919,Tutu-sh,Hoojiro_san,Kajikimaguro
あなたは瞼をあげる。思い返せばソファの上、そのまま眠り込んでしまっていたらしい。
目の前にはあなたとまったく同じ顔、まったく同じ服を着てまったく同じように笑う男が立っている。あなたが馬鹿に落ち着いて「君は私か?」と尋ねると、男はこう答える。「厳密には違うね。カリカチュアされた君のイメージの一顕現体に過ぎない」そしてまた笑う。舌触りがどうしようもなく厭だ。
あなたが疑問をいくらぶつけても、男は明確な答えを寄越さない。「いいか、具体性など捨て置いて、抽象で理解を粉々にしてしまえばいいんだ」「有るべきと思い込んだ外殻をなぞって追いかけていたら、いつのまにか外側だけになっていたくせに」「自己再形成も、何も解らず他者認識に頼り切ればこのザマか」言葉に殴られ不快が滲む。男の意識的であるかはわからないその振る舞いには意味がなければ意義もないとしか思えない。
不毛な会話が幾分か続く。あるいはそれは、幾十分であったり幾時間であるのかもしれない。言葉を投げ合ううちに感覚は溶け落ち、時計の針が意味を失っている。「結局、君は誰なんだ?」果てなき対話のその果てに、痺れを切らし始めたあなたが問うと「透過し硬化し同化した紛れもない君自身の写し身だよ」告げられる。どうしようもない真実。あなたは耐えがたく目を逸らす。男の嘲笑が虚空にただ響く。
くらくらするような数瞬が過ぎ去り、あなたは顔をあげる。男は消えている。
或いは願望だったのか。
恋人のための紅茶を淹れに席を立つ。
暗転。第二幕、終。
hallwayman,GW5×2,sakapon,Sodyum
「力をくれ」
そう願った。
しかし誰もくれない。
「力をくれ」
またそう願った。
しかし貰える事はなかった。
どうすれば力を手に入れられるか?
……ほう、他人のを真似するのが上達の近道か。
そういうのならば他人のを真似しよう。
……俺の作品がトレースだと?
黙れ。
金を使って黙らせた。
しかし困ったことにそいつがやめてしまったから真似する事ができなくなった。新しいやつを真似しよう。
……またか、黙れ。
………大人しく俺の糧になれよダボが。
・
・
・
クソが。
規制が厳しくなって真似をするのが難しくなった。
だったら俺だけの作品を書いてやるよ。あぁそうしてやろう……
どういう事だ?他人の真似をしたら上手くいく筈なんだろう。
何故俺は何も書けない?
俺は……何が作れるんだ?
Sodyum,Syutaro Eji×2,aaasaan777,kihaku×2
あの日、屋上にはあなたの残り香だけがあった。
文化部なのに、なぜだかいつも泥だらけのその靴。
珍しく丁寧に洗われたそれの下に丁寧に重ねられた紙束。
私が去年贈った、とても高級とは言えない万年筆。
その全てが、私をその場所から置き去りにしていた。
地面を見る気にはなれなかった。身体を見たくないからじゃなくて。あなたが時間をかけて丁寧に作ったにつくったであろう空間を壊したくなくて。それで。
遺書は、あなたのいつもの文を煮詰めたような、そういう文章で作られていて。それだけ全部脱ぎ捨てて先に行こうとしたあなたに腹が立ったことも覚えている。何回もそれを読んで、内容をかみ締めたり。
あなたの3年をなぞるように部誌を追いかけてみたり、自分も文芸部に入ってみたりした。自分のせいだと、本気でそう思っていたから。その事で結構からかわれたりしたっけ。まあ、少しは上手くいったと思う。
私があなたから受け取れた最大限を真似して、私もこれから飛び立ってみることにした。完全に模倣できたとは言い難いんだけど。
2年前にあなたも見たはずの赤い空がとても綺麗に思える。
先に死んじゃってごめんね。これは病室に届けておいてください。
Fireflyer×3,Kajikimaguro,sakapon,Syutaro Eji,hallwayman
心底、悔しかった。
自らが新しく生んだはずの一次創作は、どこか既出の作品に似ていて。個性だと思って書いていた文章は、誰かの文体のツギハギで。面白い冗談が書けたと思えば、有名芸人の猿真似で。あれほど創作に注いでいた情熱も冷めかけていた。
仲間のアマチュア作家からは私の精神状態を心配する声が上がる一方、自分の作品についての肯定的な評価は付かない。正直に言って、自分でも満足している作品がが書けているとは到底思えなかった。
私は現況を打破したい一心で、新たなコミュニティに入ることに決めた。新たな創作へのアプローチが必要だと考えたからだ。二次創作、Twitter小説、そして掲示板のSSまでありとあらゆるジャンルを探し回った。
ある日のことだった。とある創作コミュニティのTLに1件のくだらないSSを見かけた。それは内容のしょうもなさとは対照的に、かなりの反響を受けていた。たまたまその創作コミュニティに所属していた私は、制作者に頼んで少し筆を執ってみることにした。
こんなもの実力の証明になるわけがないと内心思いながらも、真面目に書き進める。過去書いたもので一番しょうもない作品だった。
ウケた。今まで私が投稿した作品の宣伝ツイートよりもいいねが付いた。私の誇大な自己顕示欲は何とも空しい在り方で大いに満たされてしまった。
やめられなくなった。終えるタイミングを失ってしまった。SSの登場人物は、その特徴的な語尾で
「お前はその馬鹿みたいな作品を書いてて満足ほたか?」
と尋ねているようだった。私はいつしか筆を止めてしまっていた。
makigeneko,aaasaan777×2,Dr_rrrr_2919×2,Popepope
3年ぶりの失恋相手は、人魚だった。
「そこのお嬢さん。ここ、遊泳禁止だよ」
『えぇ、知ってるわ。私の涙を奪った方の顔を拝みたくなっただけよ』
真珠筏に腰掛けニヤっと笑う乙女の鱗に覆われた足先が何よりの証拠で、人外の不法侵入者にどう対処するかは後回しにする事にした。沖筏で稚貝を世話する待ち時間には勿体ない海の吟遊詩人が多くの記憶を語る。曰く、真珠貝は人魚の涙の守護者であった。曰く、今では月は真ん丸でも涙を溢さなくなった。曰く、最初に紅玉ルビーの精霊から輝きが失われた。紡がれる昔話が人造の宝玉を生み出す私達の当て付けであっても、海の女王を追い払う気にはなれない。往年の女優を思わせる立ち振る舞いと洗練された語り草が、僕の心に埋め込まれた硝子片の如く幾重にも真珠層を形成している。
「もし自分が消えたら、とか思わないの?」
『私が消えたりするはずないもの。ただ、消え去る同胞を君にも知って欲しかっただけ…』
真珠貝の成長具合を観察する手を停めて、人魚姫には似つかない消えてしまいそうな声に目を向ける。彼女が存在したはずだった場所にある泡が、ぷつっと弾ける。
滴り落ちそうなお月様が昏い溟海に墜ちた頃、私の肉体は泡沫に焦がれて海に飛び込んだ。
hallwayman,Tutu-sh,Hoojiro_san,kihaku,sakapon×2
『模倣』とは一体何を意味するのであろう。何故必要なのか。
古来よりヒトは様々なモノを模倣してきた:動植物の動作、他人の手足の動き、自然環境の表象といった周囲の環境・モノのエンタングルメントから自分達の生活圏を拡大していった。
だがここで疑問が残る。下記の文章に関して、何を明白なことを書いているのだろうと思うだろうが見てほしい:
「『模倣』と『簒奪』(『剽窃』と言い換えても良いかも知れない)の差は、その境目は何処にあるか。」
ここで述べる『簒奪』とは、
・対象は自分では無い。少なくとも今の時点では独立した存在である。
・周囲の何かを無理矢理切り離す、自分のモノではないモノを自身のモノとする。
から成り立つ動きの連なりから成る複合体と考える。
『模倣』の対象は自分ではない何かを真似る動作であることは確かだ。だがそれには先駆者の振る舞いや自分が今も続けている動きも含まれている。
次に、これは最大の違いだが、周囲の環境から「無理矢理」切り離すことの有無である。『模倣』とは対象を感覚器官で認識し、類似の振る舞いを獲得する作業であって、他者を取り込む、いわゆる摂食のプロセスでは無いのである。
つまり唯の『簒奪』は「行為者」を超えるモノには成り得ないのである。
勿論この定義は実情に沿ってはないだろうし、『模倣』それ自体にも問題を孕んでいることは言うまでも無い。単なる『模倣』は『簒奪』の一過程に過ぎず、現れ出でる存在は少ない。
しかし『模倣』が一つだけではない繰り返されるモノ、複雑に解れ、絡み合った結果として現れればどうだろう。
それは次第に自分の手から離れていき、独立した行為・存在を形成していくのではないだろうか。
R-suika×3,Matcha tiramisu×2,hallwayman,Tobisiro
ああ、財団よ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
異常に生まれし君なれば、
正常性維持機関の権力は勝りしも、
管理者は記憶処理剤をにぎらせて
異常を隠せと敎へしや、
異常を隠して(闇の中で)死ねよとて
機動部隊・エージェント・研究員を育てしや。
異常社会のもりびとの
牢獄を誇るあるじにて、
「確保、収容、保護」の意思を繼ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ。
サイト-13はほろぶとも、
ほろびずとても、何事ぞ、
君はしらじな、財団の
職員の習ひに無きことを。
君死にたまふことなかれ。
O5評議会は、戰ひに
おほみづからは出でまさね、
互に人の血を流し、
闇の中に死ねよとは、
死ぬるを財団職員の譽れとは、
おほみこころの深ければ
もとより如何で思されん。
ああ、財団よ、戰ひに
君死にたまふことなかれ。
過ぎにしKクラスシナリオを全人類に
おくれたまへるSCP-2000は、
[データ編集済]、[データ削除済]、
我子を召され、正常性を守り、
安しと聞ける光の世界も、
夜闇の子らの力は増さりゆく。
湖のかげに伏して潜む
あえかに若き水中の死体を
君忘るるや、思へるや。
'75年の秋に別れたる
級友ごころを思ひみよ。
この世ひとりの君ならで
ああまた誰を頼むべき。
君忘れたまふことなかれ。
makigeneko×2,Sodyum,Fireflyer,aaasaan777,Hoojiro_san
「当アカウントは以下の禁止事項に該当すると判断されました。利用規約に基づき、当アカウントを永久停止処分したことをお知らせします。”第12条 禁止事項 – 他者の著作権を侵害する行為”」
ここでもか。通知の内容に呆れた私は、今回は早かったな、と思いながら次に使う名義を考えつつブックマークをまたひとつ削除した。
唐突にカツン、という音とともにPCの電源が落ちる。なんだ。予期せぬトラブルに私は何も映って、いや。顔を反射する黒い画面を見つめる。そこで私は確かに、自分が瞬きをする様子を見た。
私はしばらく瞬きを忘れて光の反射のはずのもう一人を見つめた。モニターを覗き込もうと身を乗り出した私の動きを、反射はいっさい模倣することなく見つめ返していた。
好奇心が恐怖に転じたことで、私は身動きの取れない彫像と化す。まもなく目の乾きが生理現象を再開させて、そのわずか一瞬だけ観測物が直視から外れた。
次に目を開いた瞬間、反射は自らの首に両手をかけていた。両手から上は頭部を支える頸骨が砕けたことにより、重みでそのままあらぬ方向へ崩れ落ちている。私がその状況を鏡写しに模倣しようとしていることに気づいたのは、首が締め付けられて悲鳴が出せないことを自覚してからだった。
「あらゆる下層物語層を愛せた上位存在に限り、我々はこの上なき敬意を以て感謝し、その生物学的死を心から哀悼します。これは全下層物語層の総意です。」
「赦されることはありません。」
GW5×3,Dr_rrrr_2919×3
空腹だ僕は。……何か食べたい。底抜けの空きっ腹へ何でも良いからガシガシ詰め込みたい。あいにく朝からまともに食ってないんで、ここらでもうちょい汁気たっぷりの肉々しいヤツが食べたい。
と思って今は絶賛物色中だ。周りには高層マンションやら、第X形態かも分からない改築中の家。ちょっと外れりゃ一帯まるごと砂地で、そこにはツボやプラゴミやらがうず高く積まれている。僕の家も昔そこにあったけど、誰かがゴミ捨て場にしたせいで今はもう使えない。懐かしい話だよ。なんて思ってたら、手前前方にウィンウィン揺らめくネオンサインがお出迎え。
でも、あぁ……ううん…………ええぃもう目線が散る! 点滅点滅点滅。そんなに僕に寄ってほしくないか。別に悪戯なんてしないよ。あと僕の顔は怖くないぞ。
いやあったわ。たしかにそうだ。
悪い悪いコレのせいだよな?
そりゃそうだ。うっかりしてたよ。申し訳ない。
ええっと、これで良いかな?
……うん良し!僕はこうでなくちゃ。親切ついでに軽く忠告しとくけど、君は僕より頭上のチビたちに気を配ったほうが良いね。ほらよっと!
さっと腕を振るってチビ共を追っ払う。世話が焼けるのはどっちなんだか。すばしっこい相手が苦手なのを含め、これはお互い様かな。んじゃこれにて失礼つかまつる。やることもできたからね。
僕の目的? そりゃこれだよ。さっきのチビ。捕まえたのさ。ここじゃ手狭だし安心できないから、大人しく引き返すとするよ。
さぁーーーて、今夜はご馳走だ!
そういえば自己紹介がまだだったね。
僕はミミックオクトパス(Thaumoctopus mimicus)
モノマネとエビが大好きなタコさ。インドネシアの海で会ったらよろしく!!
Matcha tiramisu,Popepope×2,aaasaan777,Hoojiro_san,Tutu-sh
人目のつかないような所でも、彼女は人一倍ダンスの練習をしてきたことを私は知っている。楽しそうに、かつ真剣で練習に励む、そんな姿はとても素敵だった。
彼女の躍りをみていたら気づかないうちに私も踊り始めていた。同じように踊っている時間は、私が私として生きていられる。そんな気がしていたの。
そして今日も私の前で踊りを始める。それにつられて私も踊り出す。
これまで、彼女の努力を誰よりも近くで見てきた私は知っている。ある舞台を目指して努力を続けてきたことも、途中で挫折しそうになったことも、そして、今日がその本番だってことも。
普段と比べより一層真剣な表情をし構えをとっている。それにつられて私も少し身構える。
そんな彼女にいつも思っていることがある。
『その真剣な顔はとても素敵だけど、やっぱり貴女には笑顔が一番似合っているわ』
本当は直接言いえればいいのだけれど、私と彼女の間にあるたった一枚の薄い鏡ガラスが、二人の世界を分断し阻んでいた。
彼女は、小休憩を終え再びわたしの前に立ち踊り始める。目を瞑りながら大きく深呼吸をし呼吸を整えていた。彼女が練習終わりの一曲を踊る前に毎回やっていた行動だ。
おそらく彼女は最後に全てを出尽くすつもりだろう。それに全力で答えるため、心の中で彼女に話しかける。
『Shall we danceさぁおどりましょう』
ファイルページ: 肉屋
ソース: https://publicdomainq.net/meat-butcher-shop-0043406/
ライセンス: パブリックドメイン/CC0
タイトル: [フリー写真] 精肉店で販売されている生肉
Hoojiro_sanにより加工を施しています
著作権者: 不明
公開年: 不明
補足: