桜がまだ咲かない頃に - 下書き

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タイトル、イントロダクション
 ある企業に勤めていたあなたは毎日の仕事を頑張ってこなしていたところ、上司からとある話を持ち掛けられた。

「君、ここから離れたところで働く気はあるかい?」
 
 示されたのは、「財団」という組織。仕事ぶりなどを評価されたらしいのだが、いまいち詳しい情報が見えてこない。上司は機密上詳しい話は出来ないと一点張りで、怪しい雰囲気が多分にするが、どうにも上司は断れない雰囲気を出してきている。

 この先の人生、どうなるのだろうか…… 一抹の不安を胸に抱きながら、あなたは「財団」に勤めることとなった。 


Safe/Euclid Ch1

 スライド式の扉を開ける。部屋の中には長机が幾つかと、それぞれ椅子が三脚ずつ。前側にはホワイトボードとプロジェクター。大学の講義室をそのまま小さくしたような見た目だ。オリエンテーションはあと十五分程で始まるようで既に数人が座っており、前には研修担当であろう職員の方が腕時計を確認している。

 軽く会釈をして空いていた前から二番目の席に座り、開始を待つ。「財団」に転向したものの、肝心のその組織については今一分からないこともある。検索にもうまく引っかからないし、当時の上司から一方的に出された辞令も有無を言わせないような雰囲気だった。「財団」の給与面などの待遇は前よりもいいものだが、何か大きな秘密がこの組織にはあるように感じられる。

 考え事をしていると、扉がレールに沿って動く音がする。同期となる人がまた入ってきたのであろう。どんな人だろうか──

 一番最初に目に入ったのはその黒い服。ロングコートのような見た目で、この部屋に来るまでにすれ違った人も着ていたものだ。この部屋にいる誰もそんなものは着ておらず、前に立っている職員の方と同じような立場の人なのであろうか、という思考。しかし続いて顔に目を向けた瞬間、それ以上考えることは出来なくなってしまった。
 
 頭が犬の形をしている

 彼(彼、なのか?)は先ほどの私と同じように軽く会釈をし、そして私の一列前の席に着く。彼が座った際に、腰あたりから犬の尻尾のようなものが生えているように見えた。
 周囲に目線をやると、私より先に来ていた彼らも驚いているようで、目を凝らしている様子。唯一平然としているのは前に立っている白衣の職員のみだった。

「ああ、全員揃いましたし、時間もちょうどいいのでオリエンテーションを始めましょう」

 こともなげに話が始まる。まさか彼は私たちの同期なのか?「財団」とは一体何なのだ? 疑問は尽きないが、すぐに解消することができない。職員は続いて、分厚い冊子を一部ずつ受け取るように、と言う。最前列に座っている者に数部が渡され、

 犬頭の彼が、分厚い紙の束を職員から受け取り、こちらに回してくる。

@@黙って受け取り、後ろに回す

 表紙には「内部資料」や「機密」といった文が踊っている。全員に文書がいきわたったことを確認した後、また白衣の男が喋り始める。

「では、冊子の三ページを開いてください。中には今までの仕事の中である程度知っている人もいるでしょうが、今一度説明させていただきます。財団とはどういった組織なのか、その理念とは、その使命とはなにか」

to Safe/Euclid Ch2-1

@@職員に彼について質問する

 彼の手、そして爪もやはり犬のものであった。体格は人間と変わらないが、細かい部分は犬のそれと同じであるようだ。もし手が振り下ろされたなら。

「す、すみません、いったいこの人は……?」

 周りの「よく言ってくれた」という多くの目線が、そして怯えたような一つの目線が、こちらに集まったのを感じる。

「ああ、ではその説明から始めましょうか? 彼の名前は福路弐条。もともとはあなた方と同じ普通の人間でしたが、とある事故の影響で今のような見た目になった、と聞いています。さて、そんな事故が起こりうるのか、また彼がなぜここにいるのかについては、財団とは何か、という説明を聞けば納得することでしょう」

 職員は話し始める。「財団」とは何か、その理念、また使命とは何なのか──


Safe/Euclid Ch2-1@@黙って受け取り、後ろに回す

 退勤時の職員カードによる処理の話を受けたところで、今日はこれで終わりだ、と職員が告げる。

 財団について、異常なオブジェクトについて、今までの日常を覆っていたヴェールについて…… そこまで詳しいことについて白衣の担当者の口から話されることはなかったが、それでも皆大小の差はあれ咀嚼するのに時間がかかっている様子だ。

 少し経ち、皆が身支度を整えてぽつりぽつりと扉の先に消えていく。自分もそろそろ帰ろうかと思って席から立ち上がったところで、犬頭の彼、福路弐条があらためて目に入ってきた。

 詳しいことは知らされていないが、彼は何らかの異常なオブジェクトの影響を受け、犬と融合したような見た目になってしまったらしい。あの見た目では一般社会では生きられないだろう。これから家に帰る他の皆とは違って、彼は財団の施設からは出られない。恐らくはこれから一生の間。

@@「また、明日」

 彼が、まさか話しかけるとは思っていなかったかのような雰囲気でこちらを向く。

「あ、ん、さようなら、なのだ」

 変な口癖、驚いたからかな。とにもかくにも、今日は家に帰ったらすぐに寝ることになりそうだ。全く未知の世界に来てしまった感覚が、いまだに体に残っている。明日からの財団での仕事もどうなるのだろうか。

to Safe/Euclid 3-1

@@(無言で立ち去る) 

 丁度同じタイミングで、前の席に座っていた……福路、だったかな、が立ち上がった。この大きなサイトの中に彼の部屋もあるのだろうと思いながらスライド式扉を開ける。もう一つの足音は後ろの方に消えていった。
 


Safe/Euclid 3-1

財団に雇用されてから十数日が経ち、昼を一緒に食べるような友人もできた。Kは同期の一人で、ちょうど同じ年でもある。写真が好きだそうで、一緒に歩いていてよく風景画を撮っているが、彼によると自身の部屋、といった雑多なものまでレンズに収めているらしい。

 財団に雇用されてから十と数日が経った。

 初日に目にしたのは、研究者として働いていた桜良心製薬での数年では全く見聞きしたことのないような機材や物質の数々。先輩方に教えてもらいながら実務をこなせるように新たなことを学ぶ毎日にも少しは慣れてきて、初日のようにひどく疲れるようなことは大分無くなってきた。

 そして、昼食を一緒に食べるような友人もできた。Kは同期の一人で、ちょうど同い年だ。読書が好きだそうで、出勤中に電車内で文庫本を読んでいるのを一度見かけたことがある。いつも文庫本を携帯しているのだ、と彼は言っていた。

彼も私も、研究者として製薬会社で数年間働いてきたのに全く見聞きしたことのない機材や物質について、先輩や主任に教えてもらいながら毎日を過ごす日々にも少しは慣れた。初日のようにひどく疲れることは無くなってきた。

 冬にしては中々の陽気の一日。残念ながら世間一般では休日の明日も仕事はあるのだが、今日は少し早めに帰ることができた。家のドアを開け、靴と鞄から解放される。夕飯を適当に作るか、とスマホでレシピアプリを開いたところで、Kからメッセージが来ていることに気が付いた。

「ごめん、ちょっと今通話いい?」だけの一文。

「急にどうしたの?」

 Kからメッセージを送られてきてから少し時間が経っていたが、ものの一、二秒で通話は繋がった。

「ありがとう、ごめん、こんな急に。ありがとう」
 彼は大分焦り、取り乱している様子。ずっと既読が付くのを待っていたのだろうか。

「落ち着いて、何があったの?」
「ああ、実は今日、仕事中は何もなかったんだけど、いやちょっと違うな、つまりその、今日の仕事中の記憶がないんだ」
「仕事中の記憶がない?」

「そう、急に気づいたんだけど、今日の朝起きてから、いままでの記憶がパッと抜けてて。ああえっと、いまサイトの休憩室にいるんだけど。記憶がない間になんかヤバいこと、もしやってたら、せっかく財団に勤めることになって働いてるのに、全部無くなっちゃうかもしれない」

 彼は、彼自身が口に出した言葉のせいで焦って、負のスパイラルに陥っているようにも聞こえる。しかし、部署は違えど、彼だってまだ研修を受けている時期だろうし、今日習得していたはずの知識が明日以降使えない、というのは問題だ。
 それは彼へのマイナス評価につながるし、新人の頃のマイナス印象を後から取り返すのは大変だろう。

「なにか、財団に転向したストレスとかが一気にはじけた、とかそういうのじゃないの? もしくは単にすごく疲れてるか」
「そんなことない。いや、ストレスとかがないとは言わないけど、まさかそんな」

 赴任してから、サイトで収容違反のような事件は起こっていない。もちろん私が退勤した後に何かしらがあり、その被害を被ったのが偶然Kだった、という可能性はあるかもしれない。

「とりあえず、上司とかに確認はとった? 今日何か、サイト内で事件が起きなかったか、とか。そっちは明日も仕事ある? こっちはあるから明日サイトに行くけど」
「ああ、うん、そうだね。とりあえず上司とかに連絡とってみる。明日は、うん。こっちの部署は明日元から休みだ。ありがとう」

@@特にいうことはない

 そこで通話が途切れた。

 彼は気が付いたら廊下にいた、と言っていた。もし突発的な事件の影響を彼が受けていたのでないならば、彼の記憶を消した原因というのはある程度彼の身近にあるものではないだろうか。もしくはやはり、彼自身も余り自覚していない大きなストレスかなにか…… いや、記憶に関する専門家ではないし、実際そういったことで記憶が消えるのかは分からない。

 彼が知ってはいけないことを知ってしまい、それで記憶が消された、なんて可能性は……考えすぎか。大体もしそうだとしたら、本人に違和感を覚えさせないだろう。

 彼の部署が明日休みである、というのは不幸中の幸いだ。もし何らかの方法で彼に記憶を取り戻させることができれば、いや、完全に取り戻しはしなくても記憶を失った原因や今日の彼の仕事の内容が分かれば、明後日からまた仕事に復帰できるだろう。

 夕飯を作ろうと思ったが、彼の相談に乗っていたら少し遅い時間になってしまった。しょうがない、コンビニかそこらの店に行こうか。

to Safe/Euclid 4-1

@@やはり、自分が記憶を失っているということを連絡した方がいいんじゃないか


Safe/Euclid 4-1

 あの後彼から来たチャットによると、どうやら記憶が無い時間帯に問題行動等は特に起こしてないらしい。普段と同じように仕事に取組んでいたとは彼の上司の言だそうだ。であるならば、やはり問題はその後にあったとみるのが自然だろう。

 昨日のあの会話の後彼から来たメッセージによると、どうやら彼の記憶がない間、特に事件などは発生していないらしい。彼自身も特に目立って変なことはしていない、という彼の上司の言も伝えてくれた。そうであるならば、やはりサイトを出る少し前に何があったのか、ということを探るべきだろう。

 こうして昼休みになるまでに会った人の中で、Kと同じような症状を訴えている人はいなかった。また、今日の午前中精神科の先生に診てもらった結果は、やはり彼にはストレスや突然のショックなどは無かったということだった。彼自身も気づいていなかった問題があるかもしれないからと私が勧めたものだったが、ということは、彼の身近に何かきっかけとなった異常物品があったのだろうか。

 肉野菜炒めのプレートを空いていたテーブルに置き、彼へとメッセージを送る。

「身の回りで、無くなったり逆に増えたりしたものとかない?」
「どういうこと?」
「ほら、もしかしたらなんか異常なものを気づかずに持ってたりしたんじゃないかって」
「なるほど、とりあえず家の中探してみる」

 メッセージを交わす。今は正直、余りにも手がかりがないせいで、どこから手を付けていいのかわからない。することといえば彼からの返答を待つばかりだ。

 食堂は割と混雑しており、空いている席も少ない。未だお皿に箸もつけず考えながら座っていたところに、声がかけられた。

「その、相席をしてもいいのだ?」

 反射的に「どうぞ」といったところで、声の主の姿が目に入った。小柄な体格に犬の顔。新人オリエンテーションで顔を見かけた彼が、昼食を載せたトレイを持っていた。

「ありがとうなのだ! 食堂、僕は初めて来たけど結構混むのだな」
「えー、福路さんですよね。食堂、来たことなかったんですか?」
「うむ、朝と夜は来ていたのだが、他に誰も人は来なかったのだ。昼は人が多いかなと避けてたのだが、ほとんど仕事も来ないし、もっと周知されなきゃいけないと思ったのだ」
 彼と食事をしながら話をする。確かに彼はサイト内に住んでいるはずだし、あの場でオリエンテーションを受けていた以上どこかの部門には就いているはずだが、今日まで彼の話を聞かなかったことに気づいた。

「あれ、そういえば、どちらの部署に所属されているのですか?」
「やっぱり知られてないのだ…… 捜索隊なのだ。落とし物とか小さいオブジェクトぐらいなら大体見つけられるのだが…… やっぱり知名度は大事なのだ」
「へえ、オブジェクトまで、見つけられるのですか。何か方法があるのです?」
「んー、これといったうまい説明はできないのだが…… 見つけたいものの特徴とか写真を見たりして、それをぎゅっと思い浮かべたら、急にすこーん! って思い浮かぶような感じなのだ」

 ……超自然的な能力なのだろうか。少なくとも、無くなった物を実際に探したり、場所を推理したり、という感じではなさそうだ。なるほど、そんな能力があれば単なる事件の被害者でなく財団職員として雇用されうるだろうが、確かに知名度の低さは考え物だ。
 やはり、彼が半人半犬の姿をしているというのは、大きなディスアドバンテージとなっているのだろう。

「それは、ずいぶん便利な能力ですね。私も、もし何か無くしたら頼らせていただこうかと思います」
「それはありがとうございますなのだ! ぜひ広めてほしいのだ!」
 そう言って、彼はお皿に残っていた最後の竜田揚げを口に入れた。 

to Safe/Euclid 5/共通

 自分の今日の仕事を終え、帰宅する前に談話スペースに立ち寄る。小さめの丸テーブルが幾つかとそれぞれに三脚ずつの椅子。壁際には観葉植物や自販機、といったものが置かれている。今は誰もいないようで、電気だけが点いていた。普段は昼休憩の時などに使われているのだから、それも当然だろう。

 いや、それならなぜ彼はここに来たのだろうか。ここは、仕事が終わった後にわざわざ来るような場所ではないように思える。ということは、当時の彼には何かしらここに来る理由があったのだろう。

 しかし、別段何の変哲もないスペースだ。飲み物でも自販機に買いに来たのか? いや、別に


Safe/Euclid 5/共通

 今日の仕事が終わった。後は今日中に彼の問題を解決すればいい。

 今さっき、彼からまた連絡が来ていた。相当探したが、部屋には物が消えたような後はないということ、そしてもし何かがあるとしたら、それはやはり昨日持っていった鞄の中に手がかりはあると思うが、なにぶん記憶が抜けているためか今一ピンとこないということ、という内容。

「第三者からは何か分かるかもしれないし、一応鞄の中身の内訳とか送ってもらえる?」というメッセージを送ると、程なくして写真が返ってきた。心配になったので、昨日から中身は触れていないという。

 その写真の中にあったのは、
ここに、テーブルの上にのせた鞄の内容物

品目;水筒、ペットボトル、文房具ケース、財布、手帳、折り畳み傘、ティッシュ、ハンカチ *本がない

 少し気になるのは……

@@水筒とペットボトル

「これ、なんで水筒があるのにペットボトルもあるの?」メッセージを送る。
「さあ、でも水筒は空だし、買ったんだろうな。でもどこでだろう。値段的に安いし多分サイト内だとは思うけど、でも何処かは分からないなあ。確か自販機は食堂と談話スペースにあったはずだけど」

 勿体無いことに、ペットボトルにはまだかなりの量のお茶が入っている。確かに昨日は暑い日だったし、ペットボトル飲料を買ってもおかしくない日だった。しかし、こうして中身がまだたくさん入っているということは、おそらく終業後かつ記憶を失う前に買ったのだろう。

 ならば、自販機で飲料を買った場所が分かれば、彼の行動ルートがわかる。何かしらの手がかりにはなる。

 しかし、自販機の場所を特定できるような手段は──いや、彼がもし食堂の自販機で飲み物を買っていれば、そこで夕食を食べていたであろう福路さんが見ているはず。あの時の「誰も来なかった」という発言には繋がらない。であるならば、彼は帰る途中喉が渇き、自販機があると知っていた談話スペースに向かった筈だ。

@@財布

「これは、財布? ちょっと変わった感じだけど」
「ああ、父親が海外旅行に行った時に買ってきて、それを貰ったんだよ。結構前だけど愛着が湧いてるから」
「中身が減ってたりとかはしない?」
「いや、一昨日古本だからと思ってたくさん買っちゃって、それで少し金欠気味で。それで小銭ばっかりだったから減ってたとしても分かんないなあ」

@@筆箱
「筆箱の中身、何か減ってたりしない?」
「いや、ボールペンとシャーペン、消しゴムだけだし、いつも入れてるものはあるよ。勿論、記憶がない朝の間に何か他のものを入れてたとしたら別だけど、正直文房具は結構あるし、本数とかも記録なんてしてないから無くなってても分からないと思う」

@@手帳
「手帳に、何かしら昨日の予定とか書いてたりしないの?」
「うーん、まだそんな重要な仕事はしてないし、新たに書き込まれた事もないみたいではある。明日もまだ研修だし」

@@折り畳み傘
「いつも持ち歩いてるの? 昨日はかなり晴れてたけど」
「一応。万が一のこともあるし。別に開いた感じもない。当然だけど濡れてもいないよ」

@@ティッシュとハンカチ
「どっちも少し使われてるね」
「まあ、でも一日過ごして普通に使うぐらいの量だ。特に鼻が詰まってるみたいなことはないし」

@@何かないような……?
「あれ、そういえば毎日本持っていってるんじゃなかった」
「そう言われてみれば確かに、鞄の中に入っていなかったな。でもいつも朝読む本を決めて、その本を持っていくっていう習慣だから、具体的にどの本が無くなっているのか分からないな、どうしよう」

「最近の本棚の写真ってない? @@財布を先に読んでたら最近本をたくさん買ったって言ってたけど、そのときに写真とか撮らなかった?
「ちょっと待って、えっと、確かにその日に本棚に並べて写真を撮ってる。今日の本棚の写真も送るよ、比較対象として」

 これなら、比較して無くなっている本があれば、その本が怪しい。これで一歩、真相解決に近づいた。
kokkara tuginosi-nn page10

 とりあえず談話スペースへと移動した。
 床にはカーペットが敷かれ、その上には丸テーブルが幾つかとそれぞれに椅子が三脚ずつ。部屋の隅には観葉植物に本棚、そして彼が利用したであろう自販機が二台並んでいる。

「しかし、ここに訪れたであろうことは分かったけど、そこからどうしようかって話なんだよなぁ」
 誰もいない談話スペースに響いた独り言に答えるように、後ろから声がかけられた。

「あれ、まだ仕事があるのだ?」

 声色は昼に聞いたのと同じ、福路さんのものだった。どうやらカーペットが足音を消していたらしい。

「あ、いえ、ちょっと個人的なものなんですけど」
「何か無くしたのだ? それなら頼って欲しいのだ。こういう時のために自分がいるのだ」
 そうは言っても、しかし私が探しているものはなるたけ秘密にしなければいけないものでもある。彼の手を借りれるのはありがたいが……

「いえ、ちょっと恥ずかしいものなので……」
「秘密ぐらいは、小生も守れるのだ。それに、今のうちに見つけておいた方が、後でもっと恥ずかしい思いをしなくて済むかもなのだ?」

@@彼にに秘密を打ち明け、「彼の記憶をなくした原因」を探ってもらう

「なら、秘密にしておいて欲しいのですが……」
「分かったのだ。漏らさないから安心するのだ」

「私の同期の森江が、昨日一日の記憶を無くしてしまって。特にその間はサイトで問題も起こってないですし、おそらく原因は森江が知らずに持っていた異常なアイテムなんじゃないかと。それで、どうやら彼は記憶を無くす少し前に、ここに寄っていたみたいなのです」

「んー、ちょっと待つのだ。んーと」
 そう言って彼は目をつぶり、「ぎゅっと」考え出した。数秒して、再び双眸が開く。

@@今まで彼に対して優しく接した回数がMAX

「それ、この部屋の中の……多分、あの本棚なのだ。あの中にあると思うのだ」
 彼がその爪を向けたのは、隅に置いてあった、雑誌等が並べられた本棚だった。

「この中に?」
「うむ。そう思うのだ。その彼は、雑誌とかは読むのだ?」
「いえ、どちらかというと文庫本とかそう言った類の方が多いらしいです」
 聞きながらも、福路さんは本をかき分けていく。二段目の端にその手が伸びたところで、動きが止まった。

「この本じゃないのだ?」
 掲げられたのは一冊の文庫本。プルーストの失われた時を求めて、その第一巻だった。

 受け取ってぱらりとめくってみると、その冒頭文はよく知られたそれではなかった。

「彼は朝早く床から起き上がった」という冒頭から、彼が昨日一日で経験したことが事細かに書かれている。ページをめくっていくと、「暑い日だった。水筒の中身はもうなく、サイトを出る前に談話スペースの自販機に寄った彼だったが、財布を鞄から出す際に文庫本を落としてしまった。引かれたカーペットは落ちる音を和らげ、結局彼は本を落としたことに気づかなかった」という文が現れた。

「この本をどうしましょうか。とりあえず内容は写真でも撮って彼に送ろうと思っているのですが」
「むぅ、本を落としてしまったことで記憶を無くしてしまったのなら、これそのものをもう一度渡すことは危険なのだ。でも君が持っているのも、異常物品を常に携帯しているのは危ないし、サイトの出入りの際に見つかってしまったりしたら最悪まずいことになるかもなのだ。あたしが持っておくのだ。部屋に置いとくだけなら、悪さしないと思うのだ」

「しかし、異常性がそれだけだと確定しているわけでもありませんし、危険かもしれませんよ?」
「なら、別に燃やすのでもシュレッダーにかけるでもいいのだ。ゴミはきちんと処理されるって聞いたのだ」

「なら、だいぶ安心になりました。それにしても、素晴らしい捜索能力でした。福路、捜索部隊長」
「あっ、その呼び名、かっこいいのだ! これから拙のこと呼ぶときは、是非それでお願いするのだ!」


エピローグーーー

 あれから数日が過ぎた。森江は、記憶を直接取り戻すことこそできなかったものの、あの後送った写真からその日何があったのかを改めて覚えなおした。

 あの文庫本は古本屋巡りをしたときに安かったから買ったものらしく、何件もめぐっていたため正確に買った場所を思い出せないと嘆いていた彼の姿はありありと思い出すことができる。

 福路さん、いや、福路捜索部隊長が、原因の究明に大きな力を貸してくれたことを知らせると、森江はとても驚いた様子だった。第一印象から少し避けていたが、自分の問題を解決するにあたり大きな役割を担ってくれていたということを知り、今ではとても感謝しているらしい。

 そして、そんな彼の啓蒙活動も一助となったのか、福路捜索部隊長の生来の柔和な気質が時間とともに広まったのか、今では彼に失くしものの捜索を依頼するための、「捜索願箱」までできた。

 あの二日間は冬にしては暑いと思っていたが、もう「冬にしては」という枕を付ける必要もないような季節に足が掛かっていた。

 

「それ、多分この部屋にあるのだ。で、この部屋にあるもので


クロスリンクキャンペーン tale-jp 福路捜索部隊長



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執筆者: renerd
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批評コメント: 0

最終更新: 07 Jul 2020 14:06
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