機械人形

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見世物小屋の中は暗い場所であったが、熱狂があった。硬い機械がぶつかる音がする度に人々は湧いていた。


見世物小屋の中は観客の熱狂で沸き立っていたが、その中に何処か楽しんでいないような男がいた。男は興行を見に来たのではなく、自動人形オートマタの権利活動の一環で、自動人形の格闘の興行を視察に来たのである。

男が権利活動に打ち込む原因は彼が10歳になる頃の出来事だった。男の両親は人に親切なことで近所からは評判だったが、その一方で例え意思を持ち姿形が人にそっくりであっても、自動人形を人とは明確に区別し、物として扱うどころか、八つ当たりの相手としていた。男の世話役として暫く家に従事してきた自動人形が酔った母親の手で破壊されたのだ。一度破壊してからというもの、彼の両親の、自動人形に対する暴力は増えていった。砕けた自動人形を目にする度に、彼は動揺のような、どこか微かに苦しい様な感情を抱いた。

両親が仕事で忙しかった分、普段の世話や家での話し相手となったのは多くが自動人形だった。両親は彼に優しかったので彼が両親を嫌うことは無かったが、毎日自分に親しく接する自動人形の受ける扱いには

ただ、男の参加している権利活動はそもそも人が集まらず、自動人形の格闘は既に娯楽の一つとして浸透していた。


二人の自動人形は金網に囲まれた舞台リングの中で打ち合っている。

「打ち合いが続いていますが、有効打には至っていませんね。このまま耐久勝負になるのでしょうか?」
「どちらかと言えば駆張カルバ52号が防戦気味でしょうか。一度どちらかの体勢が崩れれば流れが大きく変わるかもしれません。」

アナウンスで防戦気味と評された自動人形の腕のは相手の攻撃を受けて今にもヒビが広がりそうになっていた。それにつれて相手の表情には余裕が戻っていく。

しかし、相手の余裕は長く続くことはなかった。自動人形———駆張52号の手首裏から収納されていた刃が繰り出され、相手の突き出された腕を貫通する。あっけにとられた相手の側頭部に拳が叩き込まれる。

「なんと手首の裏に刃を隠していたようです!これは形勢逆転か?!」
「モロに頭に入りましたね。あの分だと腕だけでなく処理系統も正常に作動しないかもしれません。」

体幹を崩して倒れ込んだ相手に立て直す暇も与えず、馬乗りになって殴り続ける。初めはバタついていたが、次第に痙攣に変わり、遂には動かなくなった。

彼女は立ち上がり、金網の外の歓声と嘆きを気にも留めず、様々なパーツが己によって外され砕けた、半刻前にはまったく整っていた自動人形を眺めていた。彼女はため息をつくが、それには安堵が混じっている。

そんな彼女を見守る観客は様々だった。自作の自動人形を試合に出す技術者、自社の製品の性能を確かめる社員、賭けに興じて湧き立つ者、憔悴する者、隠される様に行われる興行を見つけて好奇のままに訪れた者、同類の運命を見守り、結果に安堵する自動人形、絶望する自動人形、名誉を夢見る自動人形、己の身を案じる自動人形。
共通して、舞台に皆注目を集めていた。

「勝者は、駆張カルバ52号!6連勝です!」

アナウンスが繰り返される中、興行を見ていた三人組の一人が別の一人の腕を引っ張って人の少ない端へ移動する。残りの一人は自動人形だった。

「ねえ、どうするの?このまま留まってるんじゃ何も変わらないじゃない!」

そう小声で、お願い混じりの非難を口にした女性はフードを被って顔も隠していた。

「まあ落ち着けよ。そうやって焦るからこの前君は無茶な騒ぎを起こして追われたんだろ?」

一方の男は慣れた様に女性をなだめている。

「この興行は違法だが、とんでもない大手だって一枚噛んでるんだ。権力にだって根を張ってるだろうし、こんな少人数で興行を解散なんて無理だ。権力問題を解決する糸口と、何より人員が必要だ。」

「ずっとそう言って何も進展がないじゃない!あの壊されていく自動人形はどうするの?皆戦いたいわけじゃないのに!」

男はうんざりした様子で舞台の自動人形に目をやる。

「恵美の言う事はもっともだよ。でも何処かに限界があるんじゃないか?あの興行は大金も動く。ワケありの自動人形の流れ着く場所でもあるし、もう大分娯楽として浸透している。興行目的で開発をする奴もいるくらいじゃないか。」

「ちょっと、それって」

男に淡々とまくしたてられた女と自動人形の目には、驚きと失望が浮かんでいた。そして、しゃがみ込んで半刻程も思案した後、男を置いて、人の海へと駆けていった。

女を呼び止めようと自動人形が後を追う。男も女を追いかけようとしたが、人混みに入る前に追うのを止めた。

次第に、舞台の辺りが騒がしくなってきたようで、女の叫ぶ声が聞こえる。

「あなたも変わるのよ!ずっとこんな見世物の為に命なんか張って———」

しかし、それは途切れ途切れだった。仲間の自動人形は女を引き戻そうとしたが、共々に観客に掴まれ、蹴られ、数人のスタッフに運ばれて‘‘関係者以外立ち入り禁止‘‘の文字の向こうに消えていった。例の自動人形、駆張52号は冷ややかな目で二人を見つめ、見えなくなった後に舞台から出た。


男は思っていた。
心が軽くなった気がするのは何故だろう?もう二人がいなくなってから一月が経とうとしている。あの時以来、二人を見たことは一度もなかった。初めて彼女らと出会い、あの闘技場の存在を知ったとき、確かに自分の心には自動人形に対する憐れみと救いたいという気持ち、主催者と観客に対する憤慨があった。

しかし、その思いは既に褪せてしまった。何時からだろうか。闘技場に行った時からだろうか?
そもそもかつて感じたような正義感を自分は本当に抱いたのだろうか?
あの時以来だがもう一度、闘技場に足を運べば何かあるのかもしれない。男はそう考えていた。


最後に来た時から、何も変わらずに今日も興行は行なわれていた。男はそこで、今まで見た通りの興行を見た。

だが、今までとは見えたものが違った。自動人形の容貌の美しさ、装飾、外殻の砕ける音、露出する部品。それら全てが美を表現するように思えた。視覚を得る程に得も言われぬ快感が波の様に訪れ、その快感は男が子供だった頃、酔った親に砕かれた自動人形を思い出したが、口元に浮かぶのは微かな笑みだった。

忘れていた感情が再度潤ったのは、今まで背負ってきたものを捨てたからか、それとも初めて興行を見た時から魅了されていたのか、男にはそのどちらもに思えた。

「そんな、そんなこと———」
試合相手の一撃で舞台の金網に吹き飛ばされた自動人形はその先にいた男と目が合い、続きを言う間もなく相手に金網から引き剥がされた。

それはかつて、男と共に権利活動を行っていた自動人形だった。


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  1. portal:6392369 (02 May 2020 12:56)
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