イタズラになりにけり

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 風薫るのどかな昼下がり。昼食を済ませたボクは、いつもの担当されている作業部屋に就いた。春が運ぶ心地よさにあくびをしそうにのるのを噛み殺し、思い出したように仕事を開始する。

「さてと、今日も今日とて作業をこなしますか。仕事だ仕事~」

 ボクの仕事は情報の整理と報告書の作成だ。主に報告書を受け持っている。ボクの上司 ー 柳田博士から入ってくる情報紙をもとに報告書を作成する。
 いつ見ても変わらない、使い込まれた作業机の隅には無造作に置かれたお気に入りの万年筆が見える。お母さんがボクの誕生日にくれたものだ。
 報告書の作成をするとき、ボクはいつもこの万年筆を使っている。この万年筆を使うといつもより字がきれいに書ける気がするのだ。報告書の作成には欠かせない一品である。

 昼特有の気ダルさ混じりに、亀が首を伸ばすごとくゆっくりと万年筆に手を伸ばす。その時だった。 
 気を抜きすぎたのか、万年筆のブラックのインクボトルが伸ばした腕に当たって情報紙と報告書に盛大にぶちまけてしまった。軽く見積もっても3分の2ほどはもはやインクによって暗黒に染まってしまって文字が見えない。

「ああーっ!!!」

 絶望的な状況にインクよりも真っ黒に染まったボク。それからしばらくの間、もはやなにがなんだかわからずにポカーンと突っ立っていた。
 しばらくして、不意にガチャっとボクの作業部屋のドアが勢いよく開かれた。
 
「おーい、どうした?何かあったのか?」

「!!?」
 
 開かれたドアと、開けた主の声によって我に返ったボクは、とっさに真っ黒に染め上げられた情報紙と報告書を腕を後ろにまわすよう背中に隠した。手にインクのシミがペチャッと生ぬるく移るのがわかる。
入って来たのは同僚の相生だ。

「なんだよ!ノックくらいしなよ!社会の基本も知らないの!?」

 現場を隠したい一心からか、思わず突っ掛かった口調で逆上してしまった。うぅ…。

「あぁ…。悪かった。ところでさ、今なにを隠したんだ?」

 しまった…。見られてたか。

「なんでもないよ…?」

 一番言ってはいけない嘘が爆裂。

「んなわけねぇだろ?見えたぞ?」

「に、にゃあ~。ボクの飼い猫だよ!名前はヤマダ!」

「お前の口の中で飼ってるのか?」

「やだなぁ。今隠したものだよ。」

「ならお前、職場にペット持ち込んだということで規則違反で解雇な。」

 負け猫に口なしだ…。あれ、犬だったっけ?
 ボクはしぶしぶ白状することにした。
 
 相生は現場を、もはや惨場と称してもおかしくないものを確認すると、すぐに理解したらしい。「なるほどな」と言わんばかりにコクコクと頷いていた。しかし、口にはニワトリの卵が1つ入りそうなくらいあんぐりと全開してるのでやはり驚いてはいるらしい。
 数秒の沈黙のあと、相生はボクにため息混じりに言う。

「お前の上司…柳田博士か?これ、何て言うつもりなんだ?あいつ怒ったら相当恐いぜ?インクをこぼしてしまったので新たに情報紙を頂けませんか?とでも言ってタダでくれると思うか?減給されるどころじゃない、もしかしたら実験の被験体にされるかもしれないぞ…?」

「怖いこと言わないでよ!!」

 さすがにそこまでするのはあり得ないということは平常心であったなら察せるだろうが、いかんせんパニックな状況ではそれもあり得るのでは?と信じ込んでしまいそうになる。ああ、やだ。
 ボクはとりあえず落ち着きたくて「スー…ハー…」と深呼吸をした。

「あと…。」

 思いついたように再び相生はボクに尋ねる。

「情報紙に書かれていたSCPオブジェクトは?クラスはなんだった?」

「スー……… っあああー!!!」

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
 ボクは泣きそうになった。

「おいっ!どうしたんだよ!?まさかKeterだったのか!?」

「それだけじゃない…。下手したら世界が終わる…。地球が、壊れる!!」

「はああーっ!?」

 溺れて死にそうな小動物よろしく絶望に染まった顔をしているであろうボクは、このかた生まれて初めて本気で「死にたい」と思った。
 そう…。情報紙に報告されていたのはよりにもよってK-クラスシナリオを引き起こしかねないSCPオブジェクトだったのだ。なんとタチが悪いものか、XKクラス-世界終焉シナリオだ。

「おいっ!それじゃあボサッとしてる暇もクソもないぞ!早く柳田博士に報告しないといけない!時間の問題だ!急げ!」

 そうだ。ボクのせいで世界が壊されてたまるものか。世界が終わってから悔やんでるんじゃ遅い!
 ボクは汚された情報紙だったものを乱暴に掴むやいなや、勢いよく放たれたバネのように部屋を飛び出し、柳田博士のもとへ駆け出した。
 時おりすれ違う職員にぶつかったりもしたが、相手が先輩だろうとそんなの今は気にしている余裕がない。
 
 学校の廊下ほどの広さの通路。その5メートルほど先に、柳田博士の姿が人々に混じって見えた。左手の部屋に柳田博士が入って行くのをボクは見逃さなかった。
 走るスピードをさらに早める。目的地に到着。閉められた扉をドガシャッと休む間もなく荒っぽく開く。

「なんだ!ノックくらいはせんかっ!社会の基本も知らんのか!?」

 鬼も泣き出すような形相でボクを睨むのは、そう、柳田博士だ。

「ごめんなさい!でも…伝え…ひっぐ…なければい…ことが…えっぐ……あるんですぅ…うああ…」

 恐ろしい形相とこれから白状する恐ろしいことが相まって、気をやられたボクは嗚咽混じりの声になる。ボクの泣き顔を見てさすがの柳田博士も罰が悪くなったのか、少しだけ怒りが治まっている気がした。

「おい!泣くな!で、どうしたんだ?簡潔に説明しろ」

「これです…」

 説明するよりも手っ取り早く伝えられるものを博士の眼前に差し出す。
 ボクはうつむいた。怒りで噴火するかもしれない博士の顔をチラとでも見る勇気がない。

「……………おおおまあああええええええ!!!!!」

「ひいいっ!!!!」

 拡声器は使ってないはずなのに、まるで空間そのものが震えるような怒声を発する。鬼が泣き出すのも頷ける。って、そんなこと考えてる暇はない。

「このSCPオブジェクトがどれほど重要なものか、お前は知るはずもないだろ!!!!!」

「こ、このSCPオブジェクトは大変危険で、K-クラスシナリオを引き起こしかねないのは存じておりま…」

「違う!!!」

 ………へっ?

「これは私の最愛のかわいいかわいい息子が遊びで作った"架空"のSCPオブジェクトだ!どうしてくれるんだ!?お前のせいで息子が悲しむのだぞ!」


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