『収容不可能であり、既存文明・形而上的共有物・時空間的連続事象群のいずれか、またはその複数ないし全てに致命的かつ不可逆的破壊を誘発するオブジェクト』
これが現在平行宇宙および消失宇宙1の観測の過程で得られた財団もしくはそれに類する組織が有した文章等より得られた"Apollyon"と呼称されるオブジェクトクラスに対する最終的な考察です。これが意味することは則ち、我々が現時点までに収容業務を行っているオブジェクトを遥かに上回る危険性や収容困難性を有したものが別宇宙において存在したこと、そしてそういったオブジェクトが我々の宇宙においても発見され得る可能性があるということです。
……さて、この荒唐無稽な考察に異議を唱える方が多いのも当然です。何しろ財団──混乱を避けるために我々の方をA財団と呼ぶことにしましょう。Apollyonという単語に関係するオブジェクトと言えばSCP-927、オミクロン防衛執行官に任命された多数の機動部隊長が厳重に管理していたオブジェクト、それに暫定的に付与されていたものです。これはいわば負の歴史、無闇矢鱈にその危険性や背後に存在する要素ばかりに目を向けた結果の産物と言えるでしょう。
我々──A財団が確認している他世界の財団──便宜上B財団とも言うべきそれらにおいて"Apollyon"はその多くがSCP-927のそれを踏襲ないしさらに肥大化させたものであるように考えられます。特にSCP-2317の存在は多くの平行宇宙及び消失宇宙において大きな影響力を持っています。現在も残存している平行宇宙ではほぼ100%に近い精度でCODE NIGHTMARE REGENT REDというOCに代替される特別指定を受けていることは非常に注視すべきことでしょう。
その一方で、多くの"Apollyon"は我々が知っているSCP-927と比較した場合、その対処に費やされるであろう財産や労力が目に見えて弱いという点もまた特徴であると言えます。
短絡的な言い方をすれば、SCP-927と比べてわざわざ"Apollyon"という名を冠する具体的根拠に欠けており"Lucam"や"Marcam"といった基本的なOCの範疇で十分であると思われるものが多いのです。数は少ないものの"Petrus"や"Sibyllina"といった特殊なクラスを必要とする場合もありますが、やはりごく一部と言って良いでしょう。
しかしながらそれが"Apollyon"を軽視しても良い理由になるわけではありません。我々はSCP-927によって得られた知見を無駄にしてはなりません。どれほど弱く、容易く、小さく思える存在であっても上下関係をひっくり返すには十分すぎるのです。我々はSCP-927から学んだはずです。そして倒れ逝くその日まで、それを無駄にするわけにはいかないのです。
さて、理念的な部分も程ほどに現実的な対策を講じることとしましょう。現在破局的事象調査局においては特殊機動部隊を組織、事象発生率が極めて高い平行宇宙の探索へと向かわせております。その仔細については走査中ではありますが、極めて有意義なデータの収集に成功していると申し上げておきます。
では次に副次的分類"Paradox"及び"Extreme"についての報告に──。
彼女はその実、今の状況を極めて憂慮していた。
報告において特殊機動部隊が集めてきたデータが有意義であったことは疑いようのない。"Apollyon"に対して状況を軽視せずに積極的な対処に打って出たことにも判断の誤りなどあろうはずがない。しかし、それでも尚届かない何かがあったのであろう。事実、直近のデータには我々の想定していなかった事象が立て続けに起きていた。謎は明かされる程、明瞭という言葉から遠のいていく底なし沼になっていた。
「おはよう主任。その様子だと業務は恙なくといったところか」
「おかげ様で。今まで退屈極まりなかった業務が休憩時間になるくらいには」
「それは上々。息抜きは適度にせねばな」
眼前にいる容姿も立ち居振る舞いも声色も中性的で抽象的な人ならざる者は、その全身に装着された拘束具の数々を歯牙にもかけない様子でくつろいでいる。一応オブジェクトとして見るべきそれを拘束しているとはいえ一室を与えて好きにさせているのは彼女の独断であり、この者の存在を知る者は彼女と側近の数名だ。そして、最も核心に迫り『詰んでいる』ことを知っているのは彼女一人だけである。
「"ゼロイチ"、後残っている時間はどのくらいだ」
「名前で呼べと贅沢は言わないがせめて識別番号は……と与太話も必要ないか。知らない。私に出来ることは"見て、観察し、また移る"──それだけと前も言ったが?」
「そんなことは分かっている。お前から見て長いのか、短いのかという話だ」
「……はっきり言って長くは無い。経験則的な話だが、文明が大方崩壊している世界ってのは案外その状態で長持ちするんだ。逆は──言う必要もないよな」
「……そう」
重苦しい沈黙という圧力。諦観にも似た負の感情が生み出す"それ"にしても人が作り上げるものには変わりない。築き上げていった栄華と顕示欲に凝り固められた高層建築物の倒壊でもなければ、綿々と受け継がれていく叡智と功罪の具現たる史料の消失でもない。だが、何もかも無に帰した時その空虚が代え難いものとは人の感情が生み出す形而上の何かでは無かろうか。
少なくとも、見続けた先に辿り着いた極致の一つが"それ"である。
「私の……、いえ彼らの遺していったものは誰かのためになると思う?」
「さあ。しかしまあ、財団の──人間の力ってのは求める限り遠くまで届くものじゃないか?大深度アーカイブだったか、そういう拾う神に見つかる事を祈れば良い」
「……ゼロイチ、やはり貴方は──」
「おっと、それ以上はダメ。それに、何を言いたいかは予想がつくし、多分半分しか当たってない」
主任が珍しく疑問を呈したような顔をするが、間もなくその表情は強張ったものへと変化する。騒々しい警告音が建物全体に鳴り響くと重苦しい足音が迫ってくる。音を聞くだけでも武装していることは容易に想像でき、彼女はこの状況を忌々しく感じていることが見て取れた。
「さては、ルール破ったな主任?」
「貴方のようなパンドラの箱、そう易々と接触許可が下りるとでも!?どちらにせよ世界が終わるって時に煩わしい手続主義に従う道理なんてありゃしないわ」
「そりゃ良い!追い詰められた人間の起こすこと程、傍観者にとって愉快なことはない」
飛び交う怒号。慣れてもいない銃器を携える者。傍観に徹する██。
──収拾がつかなくなった局面。得てして、終演のそれは似通っている。
「██、██。█████████」
また一つ、水泡に帰す。
Count:1
「きっと、いつか、次は……」──それは悉く、呪いと何ら遜色のない束縛の魔法である。自由を勝ち取り享受することが正しさであるのならば、己の意思と向き合い克服することを美徳とするのであるならば、有限という制約の中でその瞬間に意義を見出す営みが価値あるものと言うのならば──、言葉にも破壊者としての側面を付与すべきである。
そして、また切り離す。稚い亡骸を燃やす。
今、絶望という病に蝕まれていることは成功の美酒か。または失敗の苦汁か。
自らがこの悲劇の役者に組み込まれることのないという証明が、死という救済を受け入れることはおろか、ありもしない神に唾を吐いたことの意味を己の身に刻み込んでいる。
それでもなお、この身が滅ぶことのないという事実が全能性を有した神の不在証明となり得る。不完全な神のみが抽象性という衣を羽織り威張り散らしていることを、滑稽という二文字で一蹴することになる。いかに凄惨な所業を為し得ようとも、その一切を否定する。
断言しよう。「Apollyon破壊者」とは、所詮砂上の楼閣に過ぎないのだと。
そして、この自分だけの覚めない悪夢に終わりが来る時があるのならば、──それは私にとってのApollyon救いなのだと。
鼻腔に突き刺さる死臭が、拭えない嫌悪感を押し付け生理現象として現れる。
思考が停止する程の反復を経て、視界は白に包まれる。
初めての体験であっても、それが終焉の合図であることは直感的に理解した。
しかし、舞台の終焉が役者の幕引きでないことを理解するべきだったのだ。
始まりの微睡みは、また引きずり込んでいく。
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任意A任意B任意C- portal:6360224 (22 Apr 2020 03:01)
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