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──雪を降らせて、雪を降らせて、雪を降らせて……
Route: 1
──サイト-799での勤務は非常に退屈で、ある意味では"強い"人物でなければ務まらない。
そんな悪評に極めて近い評判が流布するサイト‐799はグリーンランドの端という、地球規模での辺境の地だ。極寒の場所であるために、雪氷が友達のように思われがちだが、沿岸部は内陸と違って氷床に覆われていないし、サイト‐799が位置する北部は乾燥しているために雪もさほど降らない。
だが、現在この場所は吹雪の真っ只中だ。単なる異常気象ならば、はしゃぐこともあっただろう。しかし、財団がこの程度に食指が動くような組織ではないと知っている。この異様な吹雪が収容すべきオブジェクトだと知っている。そのために、認識災害異常の知識を有した私がここにいるのだから。
ただまあ、実際ここの職務は退屈というか、忍耐勝負であることには間違いない。雪に酷似した物質が認識災害のトリガー、しかも近くにいるだけでも影響され得る。実に厄介この上ないと思わざるを得ない。はっきり言って、このオブジェクトに対する研究も成功するとは限らないだろう。最悪、距離を取って近づけさせないというお手上げに近い収容プロトコルになっても、不思議ではない。
実際に、現在の態勢が構築されてからでも数名が認識災害の餌食となりあの真っ白な銀世界の彼方へと姿を消した。そしてあの吹雪が支配する場所は広がった。
……何にせよ、打開策を探してはいるがいつ状況が変化するか分からぬ暗闇の中だ。この少々厄介な赴任が、いずれ人生と等価交換の決死隊と化しても不思議ではないのだ。それでも、私はこの任務を全うしなければならない。家族の顔も拝みたいからな。
「サイモン博士!少々お時間宜しいでしょうか」
さて、今日も足りない頭を回転させて突破口を探ってみることにしようか。
美しい世界を、平和を築くために。
Route: 2
──SCP-3799とは、██████████なのか?
実験室から退出し、Hazmatスーツを脱ぐと完全密閉されていた腕が外気に触れ僅かに強張る。露になった腕にはリストカットや注射の痕跡がくっきりと刻まれている。その痕跡の多さはサイト-799に長く在籍していることを示す証左であり、SCP-3799の異常性と長く向き合っている証であり、そして財団から半ば見捨てられているという烙印だ。
「今日は……モルヒネの気分だな」
私用ロッカーから注射器と液体を取り出すと、いつもの通りに腕に突き刺す。直後に広がる高揚感はほんの僅かな快楽を与えるが、既に染み付いた体は中毒症状として悲鳴を上げていく。吐き気や息苦しさが全身を包むが、あの純白の悪魔から逃れる手段としては十分だ。
……いつまで持つか、分からないが。
モルヒネを投与しているのは服用による高揚感が目的ではない。副作用による耐えがたい苦痛。いつまでも手首を切っていてはその感覚に慣れてしまう。しかし、適度に薬物に浸ることで慣れを抑制する。少なくとも、未だにこの漸進的に悪化していくこの"悟り"とも言える嫌悪感を抱く思考への対抗手段としてこういった地獄への道を歩まざるを得ないのだ。
「はぁ……」
自室に戻ってこの使い古されたデスクチェアーに腰掛けた瞬間だけが、終わらぬ地獄の中で一息ついて休むことが出来る。背もたれに寄りかかって後ろに振り向けば、試行錯誤の書類が堆く存在感を示している。真っ白な紙の山は、あの結晶に憑りつかれて、“劣った機能の破壊”とやらのために自ら生命の灯を消しに行った同僚たちの墓標のようだ。
外を見れば彼方に命の熱を奪い去らんとする奴らの群れが今も尚、吹雪という形を以って侵攻を続けている。意思のある何をしてくるか分からない現実改変者も十分脅威ではあるが、こういう意思を持たぬ自然現象を騙る異常物体もまた、対処に苦慮するのだ。
あれは、拡大を続けている。一日一日、目まぐるしい速さで広がる降雪は、最早人の手に負える代物ではないのかもしれない。いや、人間の介在などもう必要ないのだ。そうでなければ、人柱になった者がいないにも関わらず広がる現象の説明が付かない。
「……っ。……ぁ」
──喀血。着替えたばかりの白衣に真っ赤な染みが広がる。
何か拭くものが無いかと周りを探るが、書類で埋め尽くされた部屋から探し物を見つけ出すのは骨が折れる作業だった。一回、さらにもう二回。咳き込むたびに口元から鮮紅色の吐瀉物が漏れ出て、衣服だけでなく、書類も赤く染め上げていく。
我慢ならず、そこら辺に落ちていたくしゃくしゃになった書類の内1枚を手に取り、嫌悪感を覚える箇所に押し当てる。どうにかなる訳では無い。しかし、拭ったという事実が判断力の鈍った頭を誤魔化すには事足りるものだった。
「……またか」
血に塗れた書類を見ると、それは穴が開くほど目を通した報告書の写しだった。そして、見た覚えのない取り消し線が、SCP-3799の発見時期をさらに古くしていた。
朦朧とする頭と熱を帯びた体を動かして、端末を起動する。最近の日課は、この遡っていく起源を出来る限り報告書に追記していく作業だった。
SCP-3799は1987 1944 1928/12/24に初めて発生し、長らく放棄されていたサイト-799がSCP-3799の研究専門サイトとして転用されました。
「財団の救済の手は、間に合わないかもな」
サイト‐799へ赴く前に撮った職員証の自分が、やけに醜く見えた。
その笑みには、劣った機能を削ぎ落しきれない不完全さが見え隠れするように感じた。
Route: XXX
純白の結晶は、私たちの理想。
美しい雪氷が、私たちの不完全性と非対称性を削ぎ落していきます。
これほど甘美で、秀麗で、荘厳で、神聖なものがあるでしょうか。
よく見てください。
私の足元に広がる一部の穢れも無い白き大地は、彼らの足跡です。
苦しみ、藻掻き、足掻いて、諦観した、私の同僚。
一人残らず、完全な光と結晶の結合へと姿を変えました。
人は最期の時まで諍いと欲望に塗れています。
しかし、客観的、平等的、無頓着、無慈悲。
雪と氷、光と音。
完全なる存在へ、彼らは導こうとしています。
私は涅槃へと導く一人の、啓蒙を受けた信徒の一人。
アフラ・マズダーのような神々しさを、あの美麗から受け取った者。
そして、最後にこの涅槃に辿り着く者。
画竜点睛、神の瞳に筆を入れる刻。
神の御幸に、目を奪われ、手に掬う。
私は奪われる。命の焔を、神の御許へ。
私は口へ運ぶ。神の恵みによって、泥と血に満たされる口を濯ぐ。
私は溶けていく。冷たき大地の只中へ。
私が辿り着くまでは、幾ばくかの時間があります。
トリムールティのように、多種多様な側面を持つ雪氷を理解する。
それは、容易なことではありません。
ですが、私の脳漿はその言の葉を紡げと言うのです。
3・7・9・9
神を表す、その数詞を唱えましょう。
我々を構成する必要性を、その身から取り除きましょう。
純粋であり自由な雪と共に、我らの歩みを止めましょう。
Route: ████
──我々の足跡は、何の意味を持つ?
最後まで抵抗すると声高に宣言していたケルズは、アスプリアと白の預言者の連中が押し掛けてきた途端に掌を返しやがった。裏切り者のサイモン・ケルズを許すなと糾弾しようと思った時分もあったが、周りの奴らも諸手を挙げて雪の中に消えて行った時、自分の中で何かが折れた。
SCF──降雪収容財団はまだ、あの忌々しき雪に対して抗う力を残している。チベット、ウイグルスタン、ダエーバスタンの残存サイトを結集させれば、それなりの規模になる筈だ。尤も、サイト‐799があるワールド島まで来れる気概のある連中がどこまで居るかってのは、あまり期待しても無駄だってところだが。
しかし、あのケルズが遺したクソッたれの雪に関する報告書はこの局面の全容を知るために最も優れていることは皮肉だ。それどころか、この雪を中心に回る世界が上辺だけの虚構だと言っているに等しい、まさに神の視点を写す所業。それが神の怒りを買ったといえばそうなのかもしれない。
「俺は一体何を読んでるんだ……」
この文書は俺が今まで当然だと信じてきた何もかもを破壊して、不信感と謎だけを残していった。あれほど言われた人身御供に対する肯定的な感情も、ダエーバイトやケライティアに対する関心も、アスプリア教と白の預言者教団の世界宗教に関する知識も、全てが作られたもの、書き換えられた歪んだ歴史と知って、虚無感に包まれる。
自分が何を読んでいるのか分からない。私はここに書いてある他の人間や文明のことを何も知らない。人類はサイトの中にずっと収容されてきたはずだ。これまでずっとそうだった — 降雪と財団。
奴が最後に書き残した報告書の最後にあるこの文章は、そんな拠り所を失った心情を端的に表しているものとしか思えない。そういえば、消え去る前の数日は妙に疲弊してやつれていたようにも感じる。窮地であることは下っ端の俺でも分かるが、それが上に至るまでという事実を軽視していたんだ。少なくともサイト-112はそれを境に急速に静まり返り、今や音を立てるのは空調装置と機械音、そして俺だけだ。
……一端の無能研究員である俺に何が出来るんだ?世界の大半はあの雪に抗うことを最初から諦め、いかにして効率的に燃料として身を投げるかをクソ真面目に検討している。あまりにも馬鹿げている。だが、それを実際に国策として屋台骨とし、それを止めるブレーキが居ないまま走り続けた末路が今の地獄だ。
訳の分からねえブロンズの円環も、不思議と雪のことを忘れるランプも、恐怖を以って気が紛れる白い箱も、一体何をしろと言ってるのか。だが、こいつらをどうこうしようとするのが本来の使命だったということだけは理解できる。……理解だけは、出来る。
……このまま外に出て、あの銀世界に溶け込んでしまえば楽になれるのだろうか。俗世界の束縛とやらから、この不甲斐ない男も解き放ってくれるのだろうか。何も果たせず、何も残せず、何も為せずのうのうと生きている俺を、救ってくれるのだろうか。
──雪の規則的な結晶。窓辺に付いた、白銀のように輝く花一つ。
その一輪に目を奪われ、吹き荒れる外界への窓を開ける。
鼻孔に突き刺さるような、心地の良い冷気が入ってくる。
──これは一体何を意味している?
Route: 繧ゅ≧荳?蠎ヲ縲∫ケー繧願ソ斐
──悴む手には、これまでの足跡をなぞる様に書かれた5枚の紙。
──討つは、十三の意思を離れた捨て札のジョーカー、Thaumiel。
──そして、怠惰を求め、仮初めの純粋を手に入れた驕りもまた。
──打倒すべき敵は、全てを方程式によって解決される世界を構築せんとしている。
──否定する。その整然さを。棄却する。その完全性を。
──血と泥の憎悪に、この純白の法則を浸し、崩壊させる。
──クソッたれの偽りの神に、三行半を叩きつけてやる。
──世界を書き換える馬鹿馬鹿しいCKを、パラドックスにピリオドを打つ。
──陳腐な言葉を残すならこうだ。
──Let it snow, Let it snow, Let it snow…
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アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:6360224 (22 Apr 2020 03:01)
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