このページの批評は終了しました。
──虎は死して皮を留め、人は死して名を残す。
死の後に物理的な何かではなく、名声が継がれるという人の特色を表す諺。
しかし、中には世を去ってから急速に忘れ去られる者がいる。
最早、存在そのものが嘘偽りのようになってしまった人物。
かの文豪、アナトール・フランスはこう記した。
──Without lies humanity would perish of despair and boredom.
──嘘というものがなければ、人間は絶望と退屈で死んでしまうであろう。
では、僭越ながらロバート・ルイス・スティーブンソンの言葉を借りてこう返そう。
──The cruelest lies are often told in silence.
──いちばん残酷な嘘は、しばしば沈黙という形をとる。
語られることもなくなった死は、残酷な嘘なのではないだろうか。
そしてそれは故人にとって最も絶望的で、退屈極まりないものではないか。
これはある一人の男の死にまつわる話だ。
──男のことを語ろうとする者はもういない。
その葬式は実に慎ましく、静かでこじんまりとしたものであった。
男には子供はおらず、伴侶もおらず、親も兄弟も、とうの昔に鬼籍に入っていた。
喪主は彼の友人が務めた。
そうは言っても友人の中では比較的面倒見が良かっただけであり、言ってしまえば消去法だ。
実際に、葬式に参列したのは10人程であり、中には故人の名前すら怪しい人物もいた。
それは単なる記憶の問題ではない。故人が意識せず有していた異常性のためだ。
しかし、それを参列者は知ることは無い。ここには正常ならざる存在に立ち向かう者達はいない。
ただ、一人の男が死んだとして淡々と処理されていくだけだ。
──外の雪が吹雪へと変わった。
しめやかに、厳粛に、つつがなく行われる葬儀に参列者たちはその進行に従うだけだ。
故人に対する参列者の印象は、実に淡泊なものである。
『そういえば、この人名前何だったっけ』
薄情なようであるが、異常性とは得てして人々の目にはそう映るのだ。
喪主の挨拶、弔辞、故人の遺影。それらが無ければ彼らが故人の名と顔を思い出すことは無かった。
それは述べた本人──喪主を務めた男ですら例外ではない。
読経する者ですら、自身が何故経を読んでいるかを一瞬忘れそうになる。
葬儀場の職員は弔う故人の存在を、自らの職務を終えて程なく忘れた。
喪主となった男も三度目の日没を迎えるころには、くたくたになった喪服に疑問を浮かべていた。
しかし皆全て、まあいいやという言葉でそのつっかえを一蹴した。
──猛吹雪の中、刻まれた複数の足跡。
──それが男の残した、最期の痕跡。
──そして、暴風雪は全てを消し去っていった。白く、平らに、何もなかったように。
ページコンソール
批評ステータス
カテゴリ
SCP-JP本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
翻訳作品の下書きが該当します。
他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。
言語
EnglishРусский한국어中文FrançaisPolskiEspañolภาษาไทยDeutschItalianoУкраїнськаPortuguêsČesky繁體中文Việtその他日→外国語翻訳日本支部の記事を他言語版サイトに翻訳投稿する場合の下書きが該当します。
コンテンツマーカー
ジョーク本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。
本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。
本投稿済みの下書きが該当します。
イベント参加予定の下書きが該当します。
フィーチャー
短編構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。
短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。
構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。
特定の事前知識を求めない下書きが該当します。
SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。
シリーズ-JP所属
JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。
JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。
JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C-
- _
注意: 批評して欲しいポイントやスポイラー、改稿内容についてはコメントではなく下書き本文に直接書き入れて下さい。初めての下書きであっても投稿報告は不要です。批評内容に対する返答以外で自身の下書きにコメントしないようお願いします。
- portal:6360224 (22 Apr 2020 03:01)
つつがなくに修正いたしました。嘘要素の指摘については検討させていただきます。