ミギノ ~Shark Punch Combatant~ 第1殴

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第1殴『旅立ち』

オレの名前は右野みぎの けん!21歳のサメ殴りエージェント、左利きだ!

"レジェンド"と呼ばれていた父さんの背中を追ってこのセンターに来て一年、今日がオレのはじめてのプロジェクトだ。しかも単独ミッション、バッチリ気を引き締めなきゃな。

「おっ、ここにいたかケン!コンディションはどうだ?」

パンチングルーム1でバッチリ温まったところのオレに話しかけてきたのはこの支部を取り仕切るサイト8152ジム長の御羅々おらら どらさんだった。52歳にして身長187cmの日本人とは思えない巨漢で、筋骨隆々の肉体はサメ殴りの前線から退いた今も日々鍛え続けているのだとか。一拳入魂型のオレとは正反対に、猛烈なラッシュで軟骨野郎をズタボロにしてきたその姿から付いた異名は人間機関車。オレがこの支部で最も尊敬している人だ。

「あっ、ドラさん!はいバッチリです!必ずや軟骨野郎を暴き出してハンバーグにしてきますよ!」

今回のプロジェクトはただサメを殴ればいいだけじゃない、年に一度あるかないかの探索プロジェクトだ。探索するのはこのサイトがある愛知県最大の港、熱田港に突如出現した客船だ。発見されたのはちょうど一年と半年前、その頃から要マーク対象だったが今朝未明にベンチリー計測器2が急に反応してHms値86を叩き出したことで内部調査が決定した。

「いい返事だ、だがくれぐれも慎重にな?考えなしに突っ込んでいくのがお前の悪い癖だからな。全く、ほんとお前の父親そっくりだよ」

「あはは…」

ドラさんの言う通り、オレは些か無鉄砲だ。自覚はあるんだがどうにも抑えられない。軟骨野郎を前にすると、ぶん殴るってこと以外何も考えられなくなるんだ。

「さて、それじゃ現地に向かおうか」


[11:55]

「装備品の最終チェック完了!右野拳、行ってきます!」

「よし、しっかりぶん殴ってこい!」

ドラさんに檄を飛ばされながら、オレはその船の扉を開いた。





[11:58]

「…ちっ、早速通信が…..なっ!?」

二枚の扉を開いた先には、スーツ姿の人間が何人も待ち構えていた。おかしい、外はセンターの皆が見張ってたんだ、こんなに沢山人が入ってこれるはずがない!

「まあ待て、そう構えるな。我々は敵じゃない。落ち着いてくれ給え」

咄嗟にファイティングポーズを取ったオレに対し、オレより10ほど年上そうな男がやけに鼻につく言い回しで語り掛けてくる。

「何者なんだ?お前ら…!」

「私の名前は鳴瀬 久、SCP財団で博士をやっている者だ。ようこそ基底宇宙へ、君の名前も聞かせてもらえるかね?」


[12:22]

「なるほど、つまり君の話を要約すると君の世界の財団はわき目もふらずサメを殴り続ける事だけに特化した団体で、職員たちは日夜拳を鍛えている…と」

「ああ、そうだ」

鳴瀬と名乗ったこの男は、オレの15分にわたる説明をたった一言でまとめた上に、苦虫を噛み潰したような顔をオレに向けた。他の男たちは既に別の部屋に移ってしまっており、船に入ってすぐの広間にはオレとこの男しかいない。

「あー、なんだ、その。私は他人を嘲るような発言は断じて好まないタチなのだが…流石にあり得んだろう、軽くAKクラスじゃないか君達の世界は!」

「AK…?」

「ああ分からんだろうよ、君達の世界にそんな概念があるとは微塵と期待しちゃいない!あぁ馬鹿らしい……」

額を抑えながら如何にも哀れそうにオレ達のことを散々なじったこの男を真っ先にハンバーグにしてやりたい衝動をぐっと堪え、オレは言葉を探す。

…ダメだ、こいつを納得させる語彙力がオレには無い。ああクソ、サメを殴るくらい当然だと思ってたからどう説明すりゃいいかなんてわかんねえよ…っ!

「…あー、すまない。私としたことがつい感情的になってしまった。非礼を詫びよう」

勝手に罵ってきた男が勝手に謝ってきた。こいつの手のひらは軟骨でできてんのかってんだ。

「いや、いい。形ばっか謝られたってイライラするぜ」

「そうか…まあなんだ、一先ず皆と合流しようじゃないか。君については馬鹿にされないよう私からオブラートに包みつつ当たり障りがないように説mごふぉっ!?」

「あっ」

苛立ちが頂点に達した結果、無意識のうちに左の拳が鳴瀬の腹を撃ち抜いていた。幸い、オレの無意識は手加減はバッチリだったようで10分ほどその場に蹲るだけで済んだようだ。


こうして不本意ながらも始まってしまった船旅は余りにも苦痛だった。

サメなんて影も形も見えず、スーツの奴らの話にはまるでついていけないし、オレの発言権は早々に奪われてしまった。「壁でも殴ってろ」とヤジを飛ばされた時にはそいつを壁にしてやろうかとさえ思ったが、オレはサメ殴りセンターの一員だ、私情で人を殴るなんてあってはならない。…初日?何のことか分からないな。

この不条理な探索も5日目を終えようとしていた。与えられた自室で不満を紛らわすように自重トレーニングをこなし、それに虚無感に近いものを覚えて床に座り込みながら天井を見上げる。

「…信じていいんだよな?」

86という値を示したままのベンチリー計測器を左手に握りしめ、ひとり呟いた。


6日目。朝食を取ったのち、今日も今日とて無意味に会議室の席に座らされる。奴らとのコミュニケーションなど等に諦めたオレは黙々と船窓と睨めっこしていた。内容は全く聞いていなかったため知らないが、何かしらが原因で軽い口論になったのだろう、1人が何の脈略もなく突っ掛かってきた。

「それに大体、サメのお前!会議の場でなんだその態度は!」

禿とデブのダブルコンボで印象は最悪な男だった。清潔感がまるでない汚いツラを見て反論する気も失せていると、その男を窘めたのは意外にも初日にひと悶着あった鳴瀬とかいう男だった。

「まあまあ、我々が彼を会話から外したんだ。そう言ってやるな。それに彼は何も関係なかっただろう、落ち着き給えよ」

「何だとぉ?俺は最初から――」

その時だった。オレの背後側から炸裂音が聞こえたと思った次の瞬間、船を横断するように斬撃が走り、いきり立っていた禿男と他1名を巻き込んで船は真っ二つになった。

まさかと思い計測器に視線を落とすと、Hms値は上限の100に到達していた。

「…お出ましだな…っ!」

騒然とする船の中、オレは漸くありつけた獲物に心臓を高鳴らせていた。


まずは軟骨野郎を存分にぶん殴れる足場が必要だ。この船はすぐにでも沈むはず、急がなければ。それにさっきの一撃はどう考えても軟骨野郎の仕業じゃない、襲撃犯がいるとみて妥当だろう。そんなことを考えつつ傾きだした船内を研修時代の記憶を頼りに走り抜ける。

「ビンゴだ…!」

辿り着いたのは避難用ボートの排出口、この世界でも船の構造は一緒で助かった。そこには既に一人の男が先に到着しており、せっせとボートを出す準備をしていた。

「お、運が良かったな。サメの兄ちゃん」

「右野と名前で呼んでくれ、そういうアンタは…ええと」

「黒山だ、今はそんな事良いだろう?さっさと乗っておさらばしよ――」

背後から迫真の怒号が飛んできたかと思えば全力疾走してくる男がそこにいた。鳴瀬だ。待たざるを得なくなったオレ達の元まで着くと、両膝に手を突きながら呼吸を整える。

「ぜぇっ…ぜぇっ…..ぬ、抜け駆けは許さんぞ黒..山….っ!」

「ちゃんと乗せてあげますから喋るより前に呼吸を整えて下さい。そして早く乗ってください、沈みますよ」

そんなこんなで3人は避難用ボートに乗り込み、客船を後にする。ようやく落ち着いてきた鳴瀬が口を開いた。

「ちゃんと他の連中も救助するんだぞ、いいな?」

それに対し、黒山が言葉を返す。

「そんなのは我々の身の安全の二の次だ、それにアレを見てみろ、襲撃船がまだ向こう…に…」

黒山が船の残骸の向こう側を指さしたまま硬直する。指示した先には2隻の小型船、こちら側からじゃ全体像は見えないが、その甲板に立っている数人の人物が海へ"何か"を投げ放ったのだけは見えた。
その"何か"が何であるかを確認するより先に、海上から悲鳴が上がる。

「お…おい、なんなんだアレはっ!?」

声を荒らげたのは黒山、悲鳴を生んだ犯人が海上へ飛び跳ねた。

「…サメだっ!!!」

オレの高揚がピークに達する。目測でざっと4m級、相手にとって不足はない。

「サメだぁ!?馬鹿言うなバケモンじゃないか!」

「大声を出すなよ黒山っ!ああクソ、こっちに来やがった…!っておい、何する気だ右野?!」

ボートの船首に立った俺を見て困惑した声を投げてくる。それにオレは顔は向けず、左肩をぐるりと回して答えた。

「待ってろ、バッチリ決めてやる!」

足は肩幅より広く、右足を半歩前に出して確りと腰を下ろす。右掌を標的に向け、左拳はぐっと脇へ引く。サメ殴りの基本形にして、オレの最大の武器だ。

軟骨野郎は前方3m地点で跳び上がり、落下の勢いを付けながらオレ目掛けて真っ直ぐと飛来してきた。オレはその瞬間ときを見極める。

――今だっ!

「三拳流…正中砕鮫突き!」

全身の重心移動を伴って繰り出された左拳が、軟骨野郎の鼻っ柱を捉えそのまま鮫肌にめり込む。一瞬の静寂の後、全身に到達した衝撃波が一斉に軟骨野郎を内側から粉砕しながら盛大に吹き飛ばした。反動でボートが激しく揺れるもじきに収まった。軟骨野郎は辛うじて一つの肉塊の形状を保ったまま水柱を立てて12m前方に着水した。

「…そ、そうはならんだろ…..」

唖然としたまま現実から目を背ける鳴瀬に、鬱憤も晴らせてスッキリとした後のオレは「なってるだろう?」と爽やかに返した。

「なあおい右野、鳴瀬、見ろよ、船が…!」

そんなやり取りのさなか、何の前触れもなく客船の残骸が消失する。それ自体はオレにとってはどうでもいいことだったが、それにより視界が晴れたことで既に逃走中の襲撃船の全体像が見えた。

既に遠方のそれを視力にものを言わせて目を凝らし、何か襲撃犯の手掛かりがないか探る。

…あった。

「…..おい、なんで奴らがこの世界に…?」



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