時代

このページの批評は終了しました。

rating: 0+x
blank.png

「ミーム制圧エージェント?」

サイト81██の管理官室で██管理官と私が対面していた。

「はい。我々の機密情報を保護するべく用いられているミーム殺害エージェントの代替案、と言いましょうか。当初は我々にすらアクセス権限のない"提言"のみに留まっていましたが、現在ではそれ以外の情報でも見受けられるようになりました。いえ、厳密には見てはいないので聞き及んでいる、と訂正しておきます」

「続けてくれ」

「実際のところ、ミーム殺害エージェントによる死亡者はゼロにはなっていないのが現状です。その死者がただの酔狂な馬鹿ではなく何らかの明確な意図をもって機密情報にアクセスしているのは想像に難くないでしょう。にも拘らず彼らがなぜその情報にアクセスを試みたのか、その究明を行うことなくその場で殺して終わらせる真似が果たして最善なのか、と私は考えたのです」

あらかじめ決めておいた内容を出来る限り感情を込めないよう努めながら話す。一先ず管理官の印象は悪くなさそうだ。

「なるほど。それで殺害ではなく制圧、と」

「そうです。現に我々は敵対GoIの大半の情報を掴めておらず、襲撃事件の未然防止が殆ど出来ていない上に我々のGoI拠点制圧も鳴かず飛ばずの状況にあります。故に機密に触れようと試みる輩は気絶させて尋問した方が有益だと考えました。ネズミ捕りです。私はミーム殺害エージェントが実際にどのようなものなのか、音声か視覚情報かはたまたそれ以外か知り得ませんが、恐らく技術的な障壁はないと推測しています」

「ふむ…わかった、確かに理には適っている。上に通しておこう」

「ありがとうございます、では…」

思いのほかすんなりと話が通った事に安心しつつ、私は彼の気が変わる前にさっさと退出しようとした。

「待つんだ、鳴瀬博士。一つ条件がある」

踵を返しかけていた私の体がピタ、と止まる。ゆっくりと正面に向き直った。

「は、はあ…」


ガコン、と音を立てた缶コーヒーを拾い上げ、管理官に手渡す。終業時刻を過ぎた休憩室は閑散としていた。西日で酷く暑い。

「ありがとう、鳴瀬君。それから、もうフォーマルな場ではないから口調は崩してくれ。君のそのぎこちない敬語はこそばゆいんだ」

「……やれやれ、普段使ってないのがバレバレだったかね、管理官殿」

正直、私はこの管理官が苦手だ。どうも何を考えているのか分からない。現にこうして横並びになっている理由も分からない。

「ああ、もうちょっと頑張った方が良いだろう。博士たるもの粛然としていなくてはな」

「…それで、なんでわざわざコーヒーを奢れなんてせがんできたのかね?まさか金欠という筈もないだろうに」

「なに、本音が聞きたかっただけだ」

うげ。

「…声に出てるぞ、鳴瀬君」

つい心の声が漏れ出てしまった。しかしそうだろう、モロに核心を突かれた。やはり私はこの人間が苦手だ。

「…三割」

私はしばし悩み、口を開いた。

「三割?」

私の突拍子もない発言に、彼はオウム返しをした。

「50年前と比べた時の今の割合だ。何の数だと思う?」

「ふむ…これまでの流れからして、襲撃事件の件数とかか?」

「Dクラスの終了件数だ。国内だけではない、全世界の統計だぞ」

「ほう…?」

「下らない実験に彼らを浪費させていた過去の我々と異なり、今や模範的なDクラスには個室さえ与えるようになった。"替えは幾らでもある"なんて口走った日には人でなしを見る目を向けられるほどだ」

昔は職員の間で"月例解雇"等という下らない都市伝説1まで横行していた位には消耗品としての認識が浸透していたのが、今じゃ見る影もない。あの当時からしたら皆目見当もつかない事だっただろう。私は言葉を続ける。

「倫理委員会だってそうだ、黎明期の財団を実際に見てきた訳では無いが、少なくとも記録を見る限りでは当時の彼らに倫理委員会があったとしても付け入る隙など無かったはずだ。倫理という概念を受容できるように我々が変遷してきた結果なのだよ」

「つまり君は…いや、君の言葉で最後まで言わせてやるべきだな」

「つまり。我々は間違いなく変革の時にあるのだ、いや、常に変わり続けているというべきか。他に例を挙げるとすれば…そうだな、特別収容プロトコルの過剰な編集黒塗りも随分と消極的になったし、黎明期のずさんなプロトコルを改定すべきだという声も上がっているな。何れにせよ、その"変わる"という作用は中々均一には変化せずムラが出来る、部分的に後れを取るとも言えよう。そう言った歪みは得てして忘れられがちだ、だから気付いた人間が意識的に変える必要がある。それが移ろう時代に生まれた我々の使命だと思うのだよ」

どうせ隠しても勘繰られる、この際思い切ってすべてぶちまける事にした。別に倫理委員会ごっこをする気は更々ないが、それでも"変わる"という事に関しては誰よりも敏感でいたかった。

「……ううむ、なるほど…ありがとう。参考になった」

そう口にした管理官の顔は最初に比べてどこか渋くなっていた。何かが気に障ったのだろう。

「まだ、何かあるのかね?」

「…最後に一つ訊いてもいいか?」

「ああ、構わんよ」

「君はこの"変化"に納得しているのか?どうも、君の発言からは変化という概念そのものに拘る割に、変化の内容に対する意識が弱いように思える」

私は問いかけを最後まで聞き届けてから大げさに肩を竦めて見せる。是非もない、そんな意思表示をこめて。

「どんな形であれ、人がより多く生き長らえる事のどこに首を傾げる余地が有るというのだね?」

管理官は繊細な表情を見せ、小さく息を吐く。なごやかと掲げられた時代が、一年を巡った。

sb3infoのincludeに|tag=引数を設定すると、予定しているタグを表示できます。


ページ情報

執筆者: Ruka_Naruse
文字数: 2774
リビジョン数: 21
批評コメント: 3

最終更新: 29 Jun 2020 12:38
最終コメント: 24 Jun 2020 02:08 by Hasuma_S

    • _


    コメント投稿フォームへ

    Add a New Comment

    批評コメントTopへ

ERROR

The Ruka_Naruse's portal does not exist.


エラー: Ruka_Naruseのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:6323156 ( 21 May 2020 04:20 )
layoutsupporter.png
Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License