舞浜発夢界経由東京行

2017年12月20日 午前6時44分 蘇我-千葉みなと間 京葉線内
 日本の鉄道事情は、ヴェール崩壊後もほとんど変わっていなかった。電車型アノマリーとの識別はプラットホーム側の役割になったし、路線上に現れるアノマリーは数ヶ月に一度軽い遅延の原因となるだけで対して気にも留められてなかったからだ。

 そして、現在線路上を走っている京葉線も、一見通常と変わらなかった。ガタンゴトンと音を立て、電車内にはアナウンスが響き、乗客には意気軒昂とした者と気怠げな者とが入り混じっている。だが、所々から違和感が滲み出ていた。電車が千葉みなと駅へと近づく。普段なら、ホームは東京へ行く労働者で溢れかえっているとまでは言わなくても、数えるのが嫌になるほどには人がいる。しかし、ホームには人っ子一人いない。それを知ってか知らでか、電車は駅に止まらず走り続ける。アナウンスはいつものような停車駅、優先席や鳥留まり1について話しておらず、乗客は武装を施した数人のみしかいない。そして先頭の行き先表示には四文字のみが赤く書かれている ─財団貸切と。

 武装者のうち最年長に見える男の持つ些か古臭いトランシーバーがガーガーと音を立て、一人の男の声を放つ。

『もしもし、こちら補助機動部隊ファイ-ラムダ("安眠スポット")キャプテン、ロンパイプ。形式上の確認だけど、一応そちらの所属を。』

「機動部隊オミクロン-3("電気羊")隊長、乙黒 冘民。他も全員ここにいる。現在経由地点へ移動中。遅くともあと半時間でそっちへ向かえるだろう。」

無線を持っていた初老の男が答える。

『了解キャップ、じゃあまた── 『待て。』

今度の声はアナウンスからだ。車掌室を中継駅にしてサイトから話しているせいか雑音が多い。

『おお、指令部殿。どうされました?』

『情報の共有だ。まず、東京についていくつか新情報が入っている。それと指令の伝達もだな。オミクロン-3はただでさえ週刊誌や恋昏崎に目をつけられているからな、この極秘任務の内容はレベル3を持ってる隊長以外には伏せている。ラムダメンバーも向こうからの又聞きだろう?お前の耳がここにあるうちに確認しておきたいと思ってな。』

『承知、パイプの穴かっぽじってよく聞いてますよ。』

『まず範囲だが、昨日のから平均km拡大してる。霞が関にいなかった官僚と財団連合の臨時政府は関東全域に避難勧告を出してる状況だ。だが、この20年で異常に麻痺したのか対岸の火事だと高を括ってるのか、場所によっては経済が回る程度には避難は進んでない。

 次に事象。超常物理学者はコイツを次元重ね合わせ状態と独自理論を展開し始め、宗教学者は髪の盲点が増えたと妄言を吐いてる。要するに誰も原因を分かっちゃいねえ。だが実際に起きてることなら判明してる。物理定数や法則の大幅な変化、現実性の波による断裂や転送、辛うじて深部を観測できたところによると元からあったのか蘇ったのか小規模な国家らしきものが生まれただなんて報告がある。危険地帯にぶちこんで被害なく情報の収集をするのが君たちだが、私は今回はロスト、最悪の場合全滅もあり得ると考えている。どうか頼むぞ。

 そしてお待ちかねの作戦概要だ。いつも通り夢界を通っていくが、今回はそこも長丁場になる。サイト-8181は中央区だ、そこまでを夢空間内で歩いてもらう必要がある。ロンパイプ、トレイラーは今動かせるか?』

『もちろんですよ司令。石炭の準備もバッチリです。』

ロンパイプの言葉に呼応するように、後ろで汽笛の音が鳴る。

『よし、8181までの経路が安全か再確認したあと即座にレールを引いてくれ。すこしでも悪夢兆候があるところは迂回しろ。』

『分かりました。今の聞いたな?出発進行!』

警戒でリズム感のある汽笛の音がトランシーバー越しに鳴り響く。聞こえなくなったところで、アナウンスからくぐもった咳払いが聞こえ、伝達は再開された。

『向こう側に接続したらいつも通り作戦開始だ。あくまで目的は内部の情報収集。前述の通り極めて危険な環境なことが予想される他、規模不明のコミュニティもあると思われる。何かあったらすぐに、現実から逃げろ。ラムダがボディ近くの夢界に写真夢像機を運ぶ手筈だ。こちらからの概要は以上。内部は電波が繋がらないから、指揮はFC司令部、もしくは現場の判断に任せられることになる。ロンパイプ、一昨日以降の夢界側の調査結果を教えろ。』

『はい、"夢枕に立つ男"たちによれば、時間軸の変化が特に深刻だということ。とはいってもその証言が取れたのは世田谷にいた女性一人からのみです。当時東京にいた人間のほとんどは、パニックにより他人との意識感接続が切断されています上、その他の夢界も危険な夢界実体が闊歩する空間となっており、本格的な武装なしでの調査はこれ以上不可能とのこと。現在、OW政府へ大規模軍事破壊兵器の緊急使用許可を取ろうとしています。空箱がトレイラーとの無線を繋いでますが、今のところ問題なく進行しています。報告以上。』

『把握した、お前らは受け渡し地点で待機していろ。』

『イエッサー。』

トランシーバーは間違いなく大袈裟なプツンという音を立てて停止し、もとから相手などいなかったかのようにザーザーとしか流さなくなった。

 列車が西船橋駅を通り過ぎる。

「おい、ここから東京までの間に夢界接続機器のあるサイトなんてあったか?起過ごしてないだろうな?」
茶色味がかった髪の隊員、オミクロン-3チャーリーが尋ねる。

「まもなく舞浜〜舞浜〜」
無駄にこぶしを聞かせた声で、ブラボーがアナウンスの声真似をし始める。

「ディズニーリゾートラインはお乗り換えです。」

「成る程な。下手に触るとここに簡易裁判所が立っちまいそうだ。」
話し終わったタイミングで、彼らの車両が丁度階段前に止まる。

「ディズニーは世界でも有数の夢接続のノウアスフィアを有してる。下手な訓練機械での夢界接続よりも楽だろう。」

「そういうことなら、アイツらを待たせるのも悪いしサッサと乗り換えるか。」

そう言いながら自動改札機のゲートを元気良く飛び越えると、左手に10人ほどの財団標準機動部隊装備を身に着けた職員が見えた。

「えーと、君たちは…」
ブラボーが声をかける。

「我々は機動部隊シグマ-17("SSCP")です。貴方達が睡眠に落ちたあと、安全を確保した上でサイトまで回収します。」

「分かった、ありがとう。リゾートライン内での睡み── 待て、あれは何だ?」
アルファは右を見ながらそう呟いた。彼の目線の先にはシンデレラ城が存在した。それも、雑な写真加工のように引き伸ばされた城が。

舞浜駅の柱の一部が概念と置換され、形而下に残ったものは自重を支えきれなくなっていく。駅の崩れる音で彼らは漸く理解した。これは、余震だ。


1998 ファウンデーション・コレクティブ オネイロイ tale jp



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執筆者: MrDrYTisgod
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最終更新: 14 May 2021 17:41
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