忘れられた者
rating: 0+x
blank.png

 財団から逃げ出せたのは、まったく幸運によるものだと言う他になかっただろう。どこへ移送される予定だったのかは知らないが、トラックに詰められ暗闇で待ち、強い衝撃が来たかと思えば次に気づいた時は火の中にいた。襲撃者の目的が何だったのかはついぞ分からない。私が知れたのは、私が幸運にもまだ燃えていない草むらの上に吹き飛ばされていて、周りに音を立てるものはもう炎以外には残っていなかったというだけだ。

 …しばらく歩いてみて、知らない町並みではあるものの、世界が元の通りになっていることに気づいた。完全なものとは言えない。空には不気味な水色が蠢いている。水に映る私ではない顔は網膜にたどり着くや否や歪んでいき、目をそらすともう思い出すことはできない。私の頭は英語で考えているはずなのに、時折理解はしているのに知った記憶のないインディアンのような言語が思考にちらつく。それでも、文明的な建物が建ち、船の沈没のニュースはタイタニックの宣伝以外には見当たらず、歩いている人々はここ10年の間に何も悪いことがなかったかのように歩いている。どうやってこれが為されたのか、我々が本当に存在したと言えるのか。今ではそれを知る者はだれもいないんだろう。であるならば、彼は知っていたんだろうか……唯一分かることは、私の肉体はあのボトルメールと共に死に、記憶だけが世界に思い出されて甦ったということだ。

 財団の収容房に入っていたころは徹夜明けか、でなければ認知症のように頭が霞みがかっていた。事故の衝撃が幸いに転じたんだろうか、今では大分ましに考えられる。一歩歩くごとに、思い出したいことまでのリールを巻いていくように、ゆっくりと自分が想起されていっている。そのうちに、私にはなんの行く当てもないことに気が付いた。それでも私の足は、今やってることを止めたくないからなのか、身体が行くべき場所を知っているのか歩むのを止めない。

 随分と近代的な街に来た。太陽はどういうわけだか東に傾いていて……私の記憶が正しいなら、南から西を通って北へ行っていたはずだ……時刻は分からないが、どこへともなくせわしなく向かっていく労働者の波が尽きない。スペクトルまではやり直せなかったのか景色はハイカラともモノクロともつかない色をしていたが、街は明るく、ともすれば私の知っていたどの場所よりもそうかもしれない。

 通行人の一人が、ペットボトルを取り落とす。彼の服は濡れ、悪態をついたが、その後は何もなかったかのように歩き去っていく。交差点にある店には、見たこともない形の地図が張り出されている。どこかでサイレンが鳴っているが、どちらから聞こえているのかを気にする気分にはなれなかった。それが何のサインであろうと、その先にあることが解決しようとしまいと、最後には何一つ後に残すことなく忘れられていく。今日か明日か数十年後か、また怪物は現れて、ここは跡形もなく消え去るんだろう。その後にはやがて草が生えて動物が住み着き、数百年後かに財団はここに焼き付いた思い出の破片から街を再構築する。そしてまた
 

ERROR

The MrDrYTisgod's portal does not exist.


エラー: MrDrYTisgodのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:6321361 ( 14 Apr 2020 06:12 )
layoutsupporter.png
Unless otherwise stated, the content of this page is licensed under Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License