共著

(優美な死骸)黄色く、古い電車が目の前を過ぎる。男の目に映る真っ黒い雲が、電車の走る時の風と共に消えていく。やっと秋の晴れた空が広がった。

目を瞑っているのか開いているのか分からなくなる。裏返された札がめくられる時、それはそこにいる全員に無限の恐怖と無限の希望を配っている。どこかで聞いたこの例が、今の彼に走馬灯のように唐突に過る。友人がそこにいることを心の底から祈りつつも、この時になって願わくばこのまますべてが止まってくれればとも感じていた。

そこには果たして思い描いた通りの友人が、あの日、帰らぬ人となった日、大学の解剖場所を通されてあの静かな顔を見るまで数時間かかった夏の昼、あの時着ていた服を着たままで私の目の前に立っていた。いや、正確には少し違う。あの日の服は無地だと思っていたが胸に刺繍があったし、髪もなんだか少し短い気がする。だがそんなことは男に奇跡をより確信させるのみだった。人間、激情に包まれた記憶には得てして細かいところに齟齬が生まれるものだ。それに死者と出会う儀式を探す日々の中で知り合った人々は口々にこのような忠告を遺していた。「完璧な似姿ほど疑うべきものはない」と。祈祷者の記憶を糧に死者の形を真似るもの、即ち悪魔や怨霊。それに酒や薬を使った儀式の果てのトランスじみた幻覚などといったものは自らの記憶に、願望に忠実だ。だからこそ今感じている違和感はこの儀式の真性を確固たるものにしている。

「久しぶりだな。」
彼の知っているままの声で友人は男に言う。

「ああ、あぁぁぁ….」
初めて廃墟を探索した時、大学の張り出し板に番号があった時、山奥のトンネルまで来て帰ると言い出した仲間と喧嘩した時、そして友人が死んだ時。今までのどれとも違う涙があることを彼は知った。

男が感動していることを、そしてその感動が何が故にもたらされているかを友人も即座に悟ったが、再開の挨拶といったものは全て省いて男に話し始める。
「いいか、時間がないんだ、よく聞いてくれ。」

友人の目を見て男は無言の合意を感じた。なぜ友人が生き返ったか、つまりなぜ男が友人をよみがえらせたか、その全てがそこに集約されている。

「なぁ、教えてくれ。一体お前は何に──」
「そんなことはどうでもいい!」
提示されるべき完全なる問いは友人の叫びによってすぐさま遮断された。

「俺が何で死んだなんてことはどうでもいい。俺が何でここに立ってお前と話せるのかも、気になるがわりかしどうでもいい。今俺が話すべきは、お前に忠告しなくちゃならないのは」
[云々]


そこから300mとない場所にある粗末な納屋の中、その外見とは似ても似つかないハイテク機器を備えた密室で、一人の女が飲んでいたコーヒーの抵抗も虚しくいびきをかいてレム睡眠に落ちていた。監視カメラには踏切の前に立つ男の姿も写っている。オブジェクトの異常性発現を妨げないためカメラは2時から30秒ほどは一度機能を停止する。しかし、その間は監視者による遠方からの直接監視で補われていたため、無許可の侵入者は女自身が拘束する、或いはあえて活性化を看過する手筈となっていた。

『山目?おい?起きろ!』
小屋のスピーカーから最大音量で上司の怒号が飛んでくる。

「んう…ノー・リスタート・フォー・ユーで外からの引力を発動…」

『夢の中で遊んでる場合じゃない!起きろバカ野郎!』

「はぁ?え?ハイ!私はここに!」
ようやく目を覚ました女はその拍子にコーヒーがこぼれたことに気づくがそんなことを気にしている暇はない。居眠りしていたというだけでもまたとない大失敗だ、もしこれでもしも──

『お前なんぞの仕事はもうじきAIに取って代わられるだろうな。財団内の監視カメラ映像を巡回していたアレクサンドラが警告サインを送ってきた。お前の休眠中の網膜と違ってあいつは確かに現在進入中の未特定人物を捉えていた。分かるか?お前の失態のせいでオブジェクトが活性化されたんだ。活・性・化。これが都市伝説をあてにしたパンピーであれ情報の黄泉還りを目論んだPoIであれこの収拾にはひどい手間がかかるだろうよ。』

なんてことがあったらもうキャリアは終わったと言っていい。つまり彼女のキャリアは現に今デッド・エンドに達したということだ。

『分かったら今すぐ次善の策を立ててこい。やり方次第ではまだどうにかなるかもしれん、早く行け!』

「りょおぉぉーかい!!! です!」
寝起きの勢いで威勢よく飛び出したはいいものの、その心とは裏腹にどう対処すべきかがまだ一切浮かんでないことに気づいた。

どう事態を収拾させるか?ああ、もしも人の記憶を改竄したり消し去ったりできるような薬が存在していたらどんなにいいことか!いやたらればは… たられば?現実改変能力者を連れてきて全部なかったことにするか?いや、彼女の持つ地位もリソースも、そして口実もタイプグリーン一匹を駆り出すには遠く及ばない。ならいっそのこと侵入者を殺すか?「財団は冷酷だが残酷ではない」。彼女は詭弁をこねくり回すことは得意だと自負しているが、今の状況が自分の失態だと上司に認知されている状況から殺人を正当化するのは無理があるだろう。ならどうにも…

待て。一つ、まだ縋れる一束の藁が、とある噂話がある。ウォータース仮説はあまりにも突飛な話だったが、あれ以来財団はその仮説を意図的に実現 ──ウォータース・プロトコルの実行をしようと本気で注力している。特に「窃視者」、パラウォッチや霧の探究者のような連中に対しては既に小数点の位置を4つほどズラすことに成功したらしい。その話が事実ならば。

彼女は人事部門の知り合いに電話をかけた。数分 ──彼女の体感時間では数時間にも及んだかもしれない── の交渉の後、幾十のセキュリティとクリアランスの問題を突破させた上で正に自らの望む答えを返させることに成功した。まさしく完璧だった。ならばやるべきことはもうあと1つ。注射器を持ち、夜の踏切で対談中の不法侵入者の元へと駆け出した。
[知らない天井だ]

タグ: tale jp 忘れ難きもの

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