洞窟

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「点呼!」
「はい!」
「天候部隊!」
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「行ってこい!」
「はい!」

天候部隊と呼ばれた彼らは、蟻塚のように折れ曲がった洞窟を迷うことなく進んでいく。彼らの後ろには、ひと目で奴隷と分かる下等な服を着た男が連れて行かれている。倉庫を抜け、武器屋の横を通り、だんだんと人気のない方向へ進んでいく。左側から、いつものようにブツブツと声が聞こえる。呪術師の声だ。祝詞だか祈りだかを捧げているのは知っているが、何を言っているのか、どこの神に祈っているのかは限られたものしか知らない。いや、もしかしたらこの女も含めて、最早誰も知らないのかもしれない。そろそろ地表に近くなってきたのを空気で感じる。そして、あと一つ曲がれば出口かというところで、4人は熟練の楽団のようにピッタリと足音を止める。

「天候確認!」
「はい!」

先程の点呼で4番目に返事した男は、出口へ繋がる角を曲がり、出口に日が射していないことを確認する。

「0、角を曲がって雲量を見てこい。」

0と呼ばれたのは先程の奴隷だった。彼はしぶしぶといった容貌で角を曲がり、洞窟を出て空を見る。雨こそないものの、雲が全天を覆い尽くしている。現代人の感覚で言えば、まさに“どんよりとした天気”といったところだ。だが、0が太陽は見えないと言ったのを聞いた天候部隊は、宝くじでも当たったかのように歓喜に打ち震えた。その喜びの表情のまま、2はずっと前から空けられていたのであろう彼らが待機していた場所のすぐ近くにあった細い穴に、磨かれた石を投げ込む。曇り、彼らにとって絶好なコンディションであるサインだ。

数分待つと、十数人の狩人が洞窟の奥から姿を見せた。天候部隊は彼ら、狩猟部隊とハイタッチを交わし、幸運と収穫を願うハンドサインを送る。




太陽から出ていないからといって、依然として外の世界は危険である。危険な敵に出くわした後、死体が残らなければまだいい方だ。巣に戻らされて意識の残ったままこの手で家族を皆殺しにさせられる羽目になる。だが、今のところは狩りは順調だった。幾つか兎を狩れたし、新しいマンモスの足跡も見つけた。これが上手く狩れれば、しばらく部族の生活は安定する。空がずっと曇り顔であることを祈りつつ、鬱蒼と自らを包み込んでくれる木々をかき分ける。…いた。非過食部位である脳が無駄に大きいのか、それとも今まで運が良かっただけなのかは知らないが、なかなかの大きさに育っている。槍を持ち、アイコンタクトで裏に回る。ここから動かぬ死体を巣まで連れて行こうものなら、1日はかかってしまう。だからと言って放置していれば、ここらを闊歩する悪魔どもに骨ごと持ち去られるだろう。だから、追い込む。陰から音をたてないよう、舞台と巣の対角線上にマンモスがあるように移動する。そして、自らが今までに見た魑魅魍魎を思い出しながら腹の底から大声を上げる。こんなところに住んでいる生物だ、危機意識は非常に高い。でかい図体を活かすこともせず、選択肢が一つしかないかのように逃走する。巣が目視できるほどまで追い込んだ所には、仲間が息の根を止める準備をしている。あそこの陰から飛び出して槍を…

刺さない。草むらからは、何が起きたかを精一杯示すように、血が流れ出ている。そこから無害そうに顔を出したのは、体長数十センチの小さなリスだった。いや、一つ訂正すると、無害そうというのは誤りだ。その歯から、今くっつけたばかりですと言わんばかりに血が垂れている。死んだ1人を除いて、狩猟部隊15人が等しく恐怖を感じている。何より、こいつがどうやって仲間を殺したのかが分からない。いくらリスとはいえ、むざむざ急所まで登らせて噛みつかせるなんてことはしないはずだ。やつを探る必要がある。立場の低い信心は、玄人の巧みな唆しによってリスに近づいていく。可愛がらないと殺戮の限りを尽くす凶暴なリス、だなんて嘘を真に受け、殺人リスを撫でるために歩み寄る。

「ああ..そうだ..大丈夫。ほ~らおいで、可愛いリスちゃん。撫でてあげるよ。だから、どうか、落ち着いて。」

震えながら彼は草を踏む。その音を察知したリスは、可動域を超えて首だけを彼に向ける。そして彼は冥途の土産に、音速の早さと頸が掻っ切れる感覚、世界の不条理さを知った。

ああ、クソ。彼らが殺された理由は簡単だった。ただ、あいつがアホみたいに速いだけだ。しかも、クルクル回るあいつの首は、律儀に俺たちを一人ずつを確認している。どうせ距離を離したままであっても、文字通りに瞬く間で殺されるだけだ。全員がそのことを理解し、捨て身の特攻を始めた。最早誰の眼中にも入っていなかったマンモスが、ゴング代わりに雄叫びを上げる。

しかし、当然その槍は刺さらない。当のリスはマンモスの方へ突っ込んでいき、その内部で止まった。内側から自らの身が食われていくのを感じ、マンモスはお凡そ擬声語では表せない断末魔を上げる。彼らは自らの生命線が幾何学を超越した腹に次々収まっていくのを、ただ見ていることしかできない。見当をつけてマンモスの体内を刺しても、どういうわけかマンモスごと数十センチ動き、槍は空振りに終わる。

何時だか分からなくなるまでその無益な行為を繰り返した後、いよいよ煩わしくなってきたのかリスはその歯を動かすのを止め、地表に出てきた。機械のように等速で回る首が、また一人の犠牲者候補を睨みつける。彼は死と文字通りに直面した心地になり、踵を返して巣に逃げる。遭遇した時から数秒前までずっと考慮されていた巣への二次的被害発生の阻止の概念は、足元の土と共に履き飛ばされた。リスはその距離を歯牙にも掛けず、彼の頸動脈に目を合わせて地面から跳び立つ。彼が振り向いた時にはそれは数センチもないほどにまで近づいており、そして──

リスは止まった。慣性の法則を完全に無視し、何もない空間で、完全に静止した。それは自由落下を経たのち、空を見上げた。その目には、焦燥と畏怖のみが映っている。──雲が、太陽から生命を守る覆いが、その職務を終えようとしていた。彼らもすぐその後、リスが既に影も形もなくなっていた時にそのことに気づいた。太陽だけはまずい。先刻までの疲れをすべて無視し、脳が肉体を動かす。実際、彼らが巣まで着くのにはそう掛からなかった。だが、一寸後ろから段々と陽が迫ってくる恐怖は、彼らの人生で最も大きいものになっただろう。この後のことが起きなければ。

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