充分に発達したスポーツは、戦争と見分けが付かない。
評価: 0+x
blank.png

プロット:

③暴徒襲撃と鎮圧を偶々目撃
④拷問と契約
⑤スピリット残党の隠れ家を地域密着と反財団派から発見
⑥平和の握りの流用で知的交渉(スポーツ)、或いは空中戦
⑦何らかの危機
⑧箒と魔法による脱出
⑨スタジアムでの戦い(エクスペクトパトローナム)
⑩敵による何らかのマーキング、契約無期限延長 ただし、両者がある程度まともに生きられる理由付けをすること スピリットは弱くない

メモ: プロメテウス・ジャーナルではスニッチが仕様変更されているが、この頃はクィディッチ黎明期でルール模索中だからということにする。

13 September, 2004

9:47 UTC-4

アメリカ合衆国 ニューヨーク州

セントラルパーク・スタジアム


新設されたスタジアムは騒然を超えて狂乱と言ってもいい有様だった。3年前は祈祷と悲鳴で満ち溢れていたセントラルパーク跡地に突貫工事で建てられたこのスタジアムだが、この観客らはただの復興支援の慈善的な巡礼者と呼ぶにはあまりにも理性に欠けている ──スポーツファンと呼ぶにふさわしい欠け方で。

ニュートン・ウリックは身分証を提示して関係者特別席に入り、43番の座席を探す。左を見れば上等なスーツを身に纏ったニューヨーク州議会議員のポストホールド・マクルーガルが、右に目を寄せれば一つ一つが市場の最高額を飾れそうな撮影機材一式を用意し配置へ向かうタイムズの記者が。ウリックはそこでようやく自分が些か場違いな場所にいると気付き、競馬場に来たかのようなカーキ色の服と安っぽい鳥打帽を恥じ始めた。しかし周囲の人間は別に彼を怪訝な目で見るわけでもその他の関心を持つわけでもなく談笑や激励など各々の職務に取り組んでいるのを見て彼は恥じるのをやめ荷物を置き、手に持っていた自社の新聞を広げる。日本のいち新聞だったコイガレザキの名を世界中に轟かせたのもこの新聞なら、そこから今日の選手への独占取材に漕ぎつけられたのも記者である広末氏のおかげだ。ヴェール崩壊以前からパラスポーツに精通していたウリックにとっては選手への取材と特別席への招待という2つの夢見たことを同時に授かったというだけで空を飛び回れそうな気分なのに、それがあの宙舞うクィディッチともなればそれこそ魔法をかけられたような心地だった。

97年にローリングが人々の脳に夢を植え付け、1年後にショパンがありとあらゆる夢の可能性を現世に押し出して以降、クィディッチは世界で最初の異常パラスポーツとして再誕した。マンハッタンの魔法少女の件もあって急速に現実化と環境整備が為されたこのスポーツは、いくつかの国がプロチームを擁するほどとなっている。

ものを書くにあたってその題材に精通しているというのは大いに歓迎されることだが、それに心を囚われているというなら話は別だ。一般人がクィディッチに対してどれほど無知なのかウリックは予想さえできなかった。ならば草稿を組み立てる他ないだろう。

恋昏崎新聞社

スポーツ

####クィディッチ読者説明草稿####

現在時刻: 2004/9/13 9:52
クィディッチとは、選手全員が浮遊した状態で相手チームの妨害を避けつつ敵陣にあるゴールにボールを投げ入れる球技である。1チーム7人4ポジションで行われ、1人はゴールを守る「キーパー」、3人がボールを運ぶ「チェイサー」となる。

飛行しながら行う以外にもこのスポーツには数多の特異な点があるが、おそらく最大の特徴は3種のボールが存在することだ。チェイサーが狙う通常のボールは「クアッフル」と呼ばれ、これをゴールに入れると10点。

ゴールに入れても点にならず、そもそも誰にも制御できない自律暴走球の「ブラッジャー」が2つある。付近のプレイヤー目がけて無差別に突進してくるこの危険なボールを仲間から遠ざけ相手の側に追いやるのが、チームに2人いる「ビーター」である。

そして最後の1球は小さく素早く不規則に動く「(黄金の)スニッチ」、これのルールは単純だ。残る1人の選手、「シーカー」が担う役割はこのスニッチを掴むことだけ。そして、その瞬間に掴んだチームには150点が与えられ、ゲームの半分が打ち切られる。

ゲームは前後半に分かれ、スニッチが掴まれない限りにおいてはそれぞれの試合時間は40分だ。


こうして書いてみると、キーパー以外はほとんどが馴染みのない用語だな。そう思いながら時計を見遣り、9時55分、各チームのコート内ウォーミングアップ開始を待ち構える。ここセントラルパーク・スタジアムを本拠地とするマンハッタン・マジカルガールズが先に入場し、日本からの使者イッポンスギ・ヤタガラスを出迎える。この特別席から入場ゲートは立体的に遠く離れているが、最新鋭のパラテク義眼を凝らせば今日のインタビュー対象がはっきりと見えた。静かな黒をエメラルドグリーンに浸した美しく長い髪色、マンハッタン・マジカルガールズ所属、背番号17番、シーカー、リリー・サルベート。

彼女は「マンハッタンの魔法少女」ではない、つまり初期メンバーではない女性だが、半年前に加入してからチームの一員として活躍している。++ [色/分類による弱性提示]でありプロメテウス社製の奇跡論増幅器を搭載した箒を使用していたことは物議を醸しており、協会の公式見解が出た後も一部では非難が続いている。だがそういった批判は実際のところ神聖な戦いの上では関係なく、ウリックは身のこなしを見て彼女が磨かれつつあるエメラルドの原石であると確信していた。

ヤタガラスの陣形を組んだ入場パフォーマンスが終わり、両チームが縦に並ぶ。3年前のテロの犠牲者に黙祷が捧げられ、会場はその瞬間だけ秩序を垣間見せた。各々の箒や羽根を振りながら選手は己のポジションへと向かい羽根を持った悪魔実体の審判が中央へ向かう。そして、試合開始のホイッスルが



全観客はそれに釘付けになり、自らの役割を果たそうとしていた選手たちも遅れてそれに続いた。彼らの目には慣性を知らないかのように停止したサルベートとその右手に掲げられたスニッチが光っていた。審判がもしも拘束力のない悪魔契約の下で働いていたならば、きっと彼も前半終了の笛を吹くことを忘れていただろう。

10分の休憩の後に後半戦が始まっても、客と選手はまだ夢の中にいた。最も居た堪れないのは意気消沈の中ながら執念のブロックで後半の失点を20点に抑えたヤタガラスの久方ひさかたキーパーだろう。事実、この2週間後に日本のスポーツ誌が彼のプレーに注目するまでクディッチを扱う世界中のメディアはサルベート選手を称賛する語彙を競うだけのものとなっていた。


やがて流石に後半戦も終わり20分が経った頃にはウリックの興奮も些か程は鎮火されていた。やがて今日の英雄が凱旋する先に私の独占取材があるという事実をようやく思い出して、興奮は脳のクディッチファンの部位から報道者の部分へと延焼し再燃していった。取材開始は試合終了の2時間後から、現地のカフェがそのまま集合場所となる軽い密会だ。誰かが見ればそういったスキャンダルとも誤解されそうな絵面になるかもしれないが、彼も報道者の端くれとして下劣な週刊誌の輩等に隠しカメラのシャッターを押されるほど素人ではないとの自負がある。そんなわけで、白昼堂々の独占取材デートプランは完璧だった。

凱旋する勝者にスクラムを組む哀れな記者たちを見物しようと関係者席から廊下へ足を運ぶも、カメラを抱えた群衆ばかりで肝心の闘球ヒーローが目に入らない。ざわめきを解析してみれば、彼女、サルベートはメディアを避けてどこかへ行ってしまったようだ。他選手への(強硬)取材によれば度々起きる放浪癖のようで、彼女はスッと消えてはいつの間にかフラッと戻ってきている。単に今までは試合終了直後から彼女にここまでの取材が殺到することはなかったというだけの話だ。ヒーローインタビューはそもそも何か約束されたものでもない故、誰にも会わずフラっと消えてしまえば道徳と面子的にはともかく何か契約や法律に触れるわけではない。

探偵上がりの記者をナメてもらっちゃ困る。

心の中でそう呟きながらスタジアム裏の見取図を開け、人通りを読んで頭で線を引いていく。他人の目を避けられる場所を地図だけから予測するのは難しいが、私との取材という目前に迫る秘匿事情を踏まえればそのまま目立たない出口から退出し取材場所へ先回りしたというのが妥当だろう。ならば場所には予想がつく、スタジアム南部、関係者用駐車場。


別に電話をするか先に行って待ってるのでも良かったのだが、取材に先立つスクープの予感が彼を衝き動かす。辻󠄀峠という古参の記者が言っていた言葉が思い出される。「スクープSCooPってのは素晴らしいがな、そういうのには大抵三本矢印の釣り針が引っかけられてんだ。だからそれを感じたら慎重に行け、もしあのエス・シー・ピーに先回りされるか、或いはあいつらよりも早く着いたせいで後から来た職員に捕まっちまえば良くて違法薬物を打ち込まれて記憶喪失、運が悪けりゃ人生の残りを人権に反した囚人未満の独房で過ごすことになる。」それはなんとも悲しいことだ、ヴェール以前ならな。幸いなる哉、もしも財団がカメラを構えた誠実な記者に真っ正面から弾圧を行おうものならそんな事実は一瞬で明るみに出て白日の下に晒されるだろう。最初の何回かは現場職員の独断と言って尻尾を切れるだろうがそう長くは持たないことを奴らも知っている。だから代わりに得た公的権力を振り回して「合法的」に記者を入れないようにするか、精々即効性の効果が甘い記憶処理を施すくらいが関の山だろう、その程度なら深層セラピーで記憶を取り戻すことは不可能ではない。だからといって財団の内部がキレイになったわけでも上層部の倫理観が改善されたわけでもないが、財団と正義の平衡状態はまた一歩正しい方向に動いたわけだ。古きゾロアスターから説かれているように、世界は最終的に善の勝利で終わる。だから

13 September, 2004

11:27 UTC-4

セントラルパーク・スタジアム

関係者用駐車場


「ううむ、どうして駐車場には車がこんなにあるのに、僕の箒はスタジアムの外じゃまたがることすら禁止されているんだろうねぇ?」
閉鎖的な駐車場に今日の主役の独り言が響く。疲れているようには見えないがそれでも緩慢でやる気なく体を引きずる様は試合開始後10秒の輝かしい瞬速をそっくりそのまま裏返したようだった。とっととスタジアムから出たいがためにインタビューをフケた彼女だったが、閑静な場所に来てみれば考えも変わりしばらくの間駐車場の段差に腰を掛けることに決めた。

「待った、彼にだけは電話しないといけないな。コイガレザキの…ウリック。確か電話番号を事前にもらってたはずだ。」
椅子に腰掛けつつ携帯電話を取り出し、カバンからメモ帳を取り出して
気配。
殺気と悪意を隠そうともしない何かが駐車場に存在し始める。空気に滲み出る感情を押し殺すのが余程上手いのでなければ、文字通りたった今ここに「出現」したとしか思えないほど唐突だった。

サルベートは跳ね立って普段は魔法少女のファッションらしく見せつけている奇跡杖を取り出し正体不明の敵を警戒した。マンハッタンから敵対的な悪魔は去ったが害意と憎悪と偏見に満ちた人間たちは消えていない。過去回帰、反超常、その他6年前までヴェールに異常という紫外線を遮られていた人々の抱く反射的で反動的な思想の数々は彼女がここデビューしてから手にしたスニッチの数よりも多かった。

しかし思索の時間はタイムアップ、戦闘と仮定される何かが起きるまでもう幾許もない。まずはファーストコンタクトだ、もしかしたら異世界から転送されてきて周囲を警戒しているただの猛獣か野蛮人もしれない。「おーいそこの人、聞こえるかい?マイクテストゥ?会話できるなら返事をしてほしいんだがね。」

…返事はない。ちぇっ、まあ最初から分かっていたさ。もったいつけた足音が駐車場に硬く反響する。修正第2条で所持を認められた杖を構え、それに破壊的な意義を込めるためにアスリートの指の皮を1枚噛み千切って血を垂らす。奇跡とは頭の中より出でて現実にその息を吹きかけるものだ。彼女は柱の裏の男が.1秒後に足を据える場所に断裂を置き、自らへのバックラッシュに備える。

…しかし、そのどちらも起こらなかった。足は彼女が予測した場所に踏み出され、ズボンの布は撫でられもせずに依然として現れた男を飾る。如何にも暗殺者アサシン然としたその男は儀式用らしき装飾が為されたナイフを構え、無言で彼女へ近付いていく。

チッ。当然起こるべき奇跡が起きないという最悪の奇跡に舌を吐きつつも、彼女は冷静だった。彼女がコンマの世界を縦横無尽に舞う選手だからか?違う。いかなるプレッシャーにも動じることを許されないプロのアスリートだからか?違う。彼女は胸元からその答えを取り出し、あくまで落ち着いて握ったそれの引き金を男に引く。そして、非致死性とはいえ男の意識を奪うのに十分な質量を持った弾丸は仕込まれた薬品が筋肉を弛緩させるまでもなく脳への的確な衝撃で標的を無力化した。

ご丁寧にも三本矢印が徽章された非致死性拳銃を再び胸にしまい、敵が完全に眠っていることを確認してからいつものように発信をした。コール、コール。

『黒き月は吠えているか?』
「沈みゆく過去に向けて。」
『アクセスコード承認。お久しぶりです、リリー・ウッド様。本日のご活躍は見事でしたね。』
「世辞はいいさ、それより尋ねたいことがある。どういうわけかスポーツと政治を完全に切り離したこの美しいアスリートに暗殺者が襲いかかってきたんだが、そいつの持ってた武器にどうやら奇跡論を妨害する面白いブツがあるんだ。財団が欲しいなら警察を呼ぶのは控えるが、どうすべきかな?」
『フム、少々お待ちを…』

彼女は─ SCP財団諜報部門レベル4エージェントのリリー・ウッドは気絶した男の所持品を漁りながら返答を待つ。

『おっと、その物品の形状について聞いてませんでしたね。ナイフですか?図形の彫られた?』
その通りだ。
「僕の言葉を奪うんじゃない。その通りだ。で、どうなんだ?敵はノばしたがここも……いつ職員や新たな刺客が来るか分からない、コイツに尋問は必要かい?」
『ええ、財団の管理下に置きます。最近になって活動が活発になっているシカゴ・スピリット残党でしょう。小規模の救急隊に偽装した財団職員が向かいますから、対象はそこに放置したままで大丈夫です。本物の通報が来ても誤魔化しを効かせますしね。』
「そうか分かった。念のため彼らには記憶処理剤を持たせてくれよ。」
『了解しました。十分な休息を、リリー・サルベートさん。』11時32分、通話終了。

ウッドは悠長に電話を折ってポケットにしまい、代わりに先程不発に終わった杖を取り出した。そしてそこに立ち尽くしたままの状態で目も動かさず駐車場入口に向けてタクトを振った。


ロトタイプのソーマトキルで一瞬ピンチに どうにか倒したあと「司令部なにこれ(上層部はプロメテウス経由で概要くらいは知ってる)」の電話、そこを激写し想像してたルートに入ることで修正 

・駐車場での襲撃
・目撃と露見
・「取材」開始
・合作
・試合/潜入
・窮地
・圏域
・Happy End


第三法則 1998 tale jp



ページ情報

執筆者: MrDrYTisgod
文字数: 16290
リビジョン数: 156
批評コメント: 0

最終更新: 14 Aug 2023 10:16
最終コメント: 批評コメントはありません

ページコンソール

批評ステータス

カテゴリ

SCP-JP

本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

GoIF-JP

本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

Tale-JP

本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。

翻訳

翻訳作品の下書きが該当します。

その他

他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。

コンテンツマーカー

ジョーク

本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。

アダルト

本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。

既存記事改稿

本投稿済みの下書きが該当します。

イベント

イベント参加予定の下書きが該当します。

フィーチャー

短編

構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。

中編

短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。

長編

構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。

事前知識不要

特定の事前知識を求めない下書きが該当します。

フォーマットスクリュー

SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。


シリーズ-JP所属

JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。

シリーズ-Other所属

JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。

世界観用語-JP登場

JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

世界観用語-Other登場

JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。

ジャンル

アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史

任意

任意A任意B任意C

ERROR

The MrDrYTisgod's portal does not exist.


エラー: MrDrYTisgodのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:6321361 (14 Apr 2020 06:12)
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License