突き詰めるべきもの候補
・自己紹介の機会を設けろ(ジャックは部分的)
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・跳躍から始める or 第一遭遇から始める
↓
・村のmob目線
マンションが鬱蒼鬱屈げに生い茂る日々の中でこれほどまでの純白を目にするのはいつぶりだろうか。街中に立つ不審者の服を見てシルヴェストリは最初にそう考えた。無論、彼は狂人に決まっている。自分たちの生活はきっとどこでだってテレスクリーンで監視されており、演説している彼はもちろん、彼に対して「非正統的な」関心を少しでも示した者は誰であれ財団によって連行され、いずれDクラス送りになるだろう。故に、シルヴェストリを含め周囲の人々は興味なさげに、というよりは眩しいものから目を逸らしているかのようにあからさまに純白スーツ男を視界に入れないよう努めていた。ただし彼を告発したという手柄を手にできるよう耳だけは鋭敏に、彼の発するあらゆる単語を反財団的な意志に結び付けるように。
「私はこれまで様々な世界を旅する中で様々な文化を目にしてきました。しかしここはどうでしょうか!?文化と言えるものがありましょうか!圧政、重税、侵害、被検!最早この世界の政府は、SCP財団という統治者は自らを正当化しようと試みてすらいません!脱却しましょう!逃れましょう!この世界から跳び立ちましょう!」
あぁどうやら難解奇怪な結び付けを行う必要もなく彼は真性の反体制派だ。よく見てみれば彼の隣には同じく真っ白な服を着た少女が立っている。キラキラとした衣服、宝石の首飾り、それに何も理解していないだろうにあんな政治的活動の矢面に立たされているとはまさしくお姫様だ!あんないたいけな少女を祀りたてて洗脳するとは反財団とはなんとおぞましい奴らだろう!、と頭の中で意味もなく財団に媚びを売った後で、さてシルヴェストリは彼の主張を咀嚼し始めた。
話を聞くに、彼は「[ エルマ]」という宗教(宗教という概念に触れたのも久しぶりだ)の伝道師らしい。彼の言うには人は別次元とやらに跳ぶことでこの次元での罪と苦痛から解放されるとのことだが、そんな胡散臭くてリスクの高い賭けには誰も応じようとしない。彼がペテンだという疑念は勿論、コンタクトを取って別次元に跳び立つまでに財団に拘束などされてしまえば行先は並行世界からあの世に変更となる。彼はすぐさま仕事に遅れる連絡を入れ、どうせ財団はとっくに把握してるだろうが忠誠を示すために財団へ告発しに駆けていった。
告発を終え、仕事をこなし、家に帰ってシルヴェストリはどこかに使い捨てカミソリの残りがないかと洗面所を漁っていた。結局彼はいたずらに部屋を散らかしただけでなんの成果も得られず、朝の告発の件で報酬物資が与えられること、しかもその中にカミソリが入っていることの二重に細い望みに託すしかなくなった。
タバコを吸おうとリビングへ箱を取りに行き、火災報知器がならないギリギリの境界でマッチに火を付けながらベランダに出る。隣で手すりにもたれかかっている男は何をするでもなくただ半月を眺めていたが、一日中働き続けた頭は喫煙の許可を取らせる配慮を彼から欠如させていた。そして、自室のベランダに他人がいることが異常だと気付かせる理性も。
「最近の調子はどうだい。」と男が語り掛ける。疲れ切った脳のフィルターは彼の顔を見ても「記憶にある顔」とまでしか出力せず、その先の「今朝見た顔」「よく知らない人」「街頭演説の犯罪者」といった詳細な情報を思い出させること能わなかった。
「どうもこうもないさ。もうすぐで俺の思考税を一生分払い終えそうだが、臨時収入と臨時支出の塩梅が微妙でね。なんにせよこの家の住み心地は悪くない。ハンプットにあった前の家ではテレスクリーンから伸びる配線がむき出しで通りまで繋がってるせいで、あの町じゃ月に2回は断線のために徴税官がやってきてた。そっちはどうだい。」数年ぶりに会ったクラスメイトに接するように無難に、相手に同じ質問を投げ返しながら話を繋げる。
男の陰に隠れていたお姫様少女が手すりに身を乗り出して代答する。「私は全く最悪だよ。折角クソをクソの鍋に詰め込んだような故郷を捨ててまで亡命してきたのにイカれた宗教に捕まり財団が腐りきった世界に跳ばされ今は姿現し術でこうして吐きそうになってるんだからな!」その口調も声色も口調も幼い少女のものとは思えないものであり、彼に言っているというよりは少女の同行者に向けて吐き出しているように聞こえた。男は「落ち着きなよ」と少女をなだめているが、シルヴェストリにとってそんなことはどうでもよかった。家で一人でも疲れていても眠っていても決して言うことのない聞き逃すことのない語を、反財団的な発言を察知した。実際のところ彼の脳内に財団への忠誠なんてものは一切ない。財団が人類を統治するには畏怖と義務と大義名分だけで十分だったし、そのおかげで疲れ切った彼の頭は予備のエネルギーを即時動員して覚醒へと至った。
そしてようやく疑問が浮かぶ; こいつら誰だ?
そしてもう一本; 俺の行動は不忠とみなされないか? 異常な人物、しかも今朝にほかならぬ彼自身が通報し犯罪者だと確認した人物に対し全く通報のそぶりを見せていない。今からでもこいつらを突き出さなければならない。
男が邪魔された返答を今度こそ返しているのを横目に、彼の意識、次いで足、そして手は固定電話へと向けられた。受話器を取りプッシュ、プッシュ、
バン! ドアが突き破られる音が聞こえた。人生終了のホイッスルだ。公開、絶望、諦念、恐怖、ただ疲れ果てていただけの男にはあまりでも酷であまりにも迅速すぎる対応。財団は警告を必要としない。今ここで銃殺されるか、さもなくば鎮圧されDクラス送りになるか。何も足搔かないことが男にできる唯一の足掻きだった。そして次の瞬間には銃声が鳴り、部屋には鮮血が飛び散った。
──財団職員の血が。続けて同じ音がまた2回響き、4人いた財団職員のうち3人は正確に急所を撃ち抜かれて死亡した。残る1人は左目の辺りにゴルフボールほどの風穴が空き、何が起きたかを理解する暇もなく崩れ落ちた。
「もうここを嗅ぎ付けたのか?」男はそういいながら手に持った古風な杖をしまう。
「財団は全てを視通す目を持っている。ましてここが専制的な社会なら、あらゆる人間のプライバシーを貪り覗くことに困難はないだろうな。」少女は残る弾をテレビ、換気扇、時計に1発ずつ撃ちこみ銃口に残る煙を振り払う。そして呆然としている家主の方に視線を向ける。
「迷惑をかけてすまないね、と言ってももう取り返しがつかなそうだな。少しばかり強引な勧誘になるんだが、私たちの道案内役になってくれないか?上手くいけば君はこの世界から解放され、もっといい世界を目指すことができる。その代わりに私たちはこの世界の情報を得るわけだ。どうだい?」
「俺はあんた達のせいでこの平穏無事な生活からたった今犯罪者になったんだ。….だが、そのせいで死んだ命を救ったのもあんた達だ。どうせ財団なんてクソ食らえだよ。あんたに協力するしかない。」
「それじゃあ同盟成立だ。」男が言う。「さて、ここで長話するのもなんだから少し場所を移りたいんだが、このあたりで邪魔が入らないところはあるかな?」
「ここから南西に20kmほど行ったところに誰にも関心を持たれてないようなスラム街がある。だがそこまで足を運ぶのを財団は許しちゃくれないだろうな。」
「問題ない。大事なものはあるか?それだけ荷物に詰めたらすぐに発つ。」
「何もない。カミソリ1つないこんな家だからな、使えるものは我が身一つさ。」
「じゃあ手を繋いで。距離と邦楽だけだから少し安定に欠けるが、そこまで跳ぶ。」
「は?何を言って…」少女が彼の腕を掴み、男と彼を間接的に接続させる。次の瞬間に視界は歪み、部屋は消え去り、エデンとコーヒーミルクの狭間に落ちた黒点のように世界は荒唐無稽なものとなった。それに混乱する暇もなく再び歪界と衝撃が彼らを襲い、気が付いた時には世界に秩序が戻って掘っ立て小屋だらけの通りの中心に立っていた。
「ファック、クソ、吐くところはないか?ないなら今すぐにでもここでブチ撒けたい気分なんだが。」
遷教師]エルドは淀んだ大気の中で息を吸い、それが呼吸に最低限適するものであることを確認した。汚れ一つない白のスーツはこの世界には場違いなものであり、あらゆる負の感情を想起させる曇天から降り注ぐ雨粒は表面ギリギリで弾け消え、ぬかるんだ泥も靴の純潔を散らすことは能わない。過度な清潔さはエルドの外見がこの世界に馴染むことを許さず、彼は替えの服か繊維全体を魔術的に染色する筆を持ってこなかったことを後悔した。そして彼はそれ以上の懸念である隣の幼女に目を遣った。同じ真白なスーツを着てはいるが、そのサイズと装飾のおかげで見た目の印象は大きく変わる。白く綺麗なドレスに首にかかるピカピカした宝石、その姿はまるでお姫様のよう!だとすればエルドはその強靭な屈体から護衛と判別できるだろう。そんな馬鹿馬鹿しいことを考えた後、エルドは幼女にハンドサインをして辺り八方足跡一つない湿った荒地を歩き始めた。
幼女が口を開く。その見かけからは考えられない口調と厭世的な声色で。「エルドさんよ、私はあんたらがカミさんを伝えに行く手伝いをするってのには同意した、だが肝心の生命体というのがこの世界には見受けられないようだが?」
エルドがその様子には取り立てて何か反応を見せるということはなく、ただ単に彼はあくまで陽気に返答する。「どうやら跳躍の際に次元嵐にカスってしまったようでね。降り立つ座標はズレてるようだが、女神の加護に感謝だな、目標の世界の地球には降り立てているようですから安心してくれ。それよりもサラ──」
「そいつは私の名前じゃない。」'サラ'が返答する。明らかな悲しみと後悔、そして自分自身へと向かう深い悲しみを込めて。
降りかからない雨を避けるかのように、彼は被っている鍔広帽子を一層深く被り直した。「…失礼。しかし精神にしろ肉体にしろ、君は人生2度目の跳躍のはずだ。体調不良と言わず何か違和感の1つでもあったら教えてほしい。次元差関連の薬はアトラルから山ほど持ってきている。」
「ああ、ジーザス、吐きそうで吐きそうでたまらないよ。だが治療なんていらないさ、祝福も割礼もされてない私の身にはこれくらいが妥当だとさっきから女神サマが囁いてくれているからな?」
「不幸な事故のことで君を恨むつもりは毛頭ないが、その身体はサラのものだ。下手に後遺症を遺されても困るんだよ。」まだエルドの声は「苛立ち」と言えるほどではないが、このままの調子ではいずれそれに至るだろうことを彼女も理解した。ファック、私は人を苛立たせることに関しては滅法上手なんだ。
女神もこの有様を見兼ねたようで、その時ちょうど彼らの向かう方向に忘れ去られたようなアスファルトの誘導が現れた。この先にまだ生きた文明はあるだろうか、といったことに関して彼らは二、三言ほど重ねたが、当然のことながら結局は近づいてみるしかないという結論に至った。そして近づくにつれ、人の手が
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