私達の1時間

私達がサインした誓約書の一部を思い出す。

強い責任感をもって専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。

私達はあの誓約書にどんな気持ちでサインしたのだったか。


「目標確認!!右舷3時の方向!!」

見張員の声が艦橋内に響いた。
あかしまの艦長は静かに、ゆっくりと告げる。

「総員、第1種戦闘準備」

これが、開戦の合図だった。


「これは訓練ではない、これは訓練ではない、これは訓練ではない」

艦内放送が機関室に、装着しているヘッドホンから響いた。手が震える。この時がきてしまった。緊急呼集からの緊急出港。上からは国籍不明艦艇が見回りの掃海艇に攻撃したため、俺たちが味方の救出と迎撃をするという話だったので、怖かった。ベテラン海曹は開示された作戦要項を見て、「……化け物退治かもしれないな。」深刻そうに囁いていた。まことしやかに囁かれていた噂が海曹のその一言のおかげで急に真実味を帯びてきたので余計に怖かった。

「制御室、機関室、機関室配置、よし、各部異常なし、戦闘、準備、よし。」

声が震える。機関室にいる他の海士長や後輩達の声が同じように震えているのが聞こえる。
一通り報告が終わり、痛いほどの沈黙が俺の頭と胸を締め付けてくる、そんな気がした。耐えられなくなって周りを見渡せばみんな表情はいつも通りだが顔色が青ざめていた。
その時、ヘッドホンから俺の上司である森2曹の声が聞こえてきた。
「不安がるな。それはお前達や他の仲間を殺すぞ。傳法寺海士長、情けない声を出すな。他もだ。」
声の震えは俺が一番酷かったようだ。名指しで注意されたこともあってか仲間の視線をいくつか感じた。
「お前達は、お前達の役割が果たせればいい。大丈夫だ。」

森2曹は不思議と他の上司達に注意されることはなかった。森2曹が続ける。

「俺たちは機関科だ。俺たちが焦ったら船は動かない。それだけはやっちゃならねぇ。ダメージ・コントロールも、戦闘訓練だって死ぬほどやった。後は全力で、死ぬ気でやるだけだ。」

「俺たちは死ぬ気でこの船を動かすという任務を果たすだけだ。それだけ考えてろ。小難しいことは俺ら以上の偉い奴がやる。いいな。」
だんだん揺れ始める船内。雨か、波が船体を叩く音がガスタービンの駆動音にかすかに混ざり始めた。
森2曹はなんてことないように明るく言った。
「やることは、何ひとつとして訓練と変わりはないんだからよ。」
俺(傳法寺海士長)やみんなの顔色に血の気が戻った気がした。


霧が深くなり、雷鳴は響き始めた。
船体が大きく揺れ始めるなか、艦橋は奇妙な静けさを保っていた。
「SCPSティフォンは作戦海域周辺の海面状況の悪化により到着時刻におよそ40分の遅れ。」
「全部署、第1種戦闘準備完了。」
「現在、SCPティフォン、及び本部との通信は妨害されつつあります。」
「目標、濃霧により目視不可。視界およそ3m。」
「目標、進路及び速度を変えず移動中。」
静かに、事実だけが飛び交う艦橋に、突如レーダーを確認していた電信員が叫ぶ声が届く。
「後方から目標の一部が5時の方向から本艦に接近中!!」
艦長の指示が飛ぶ。
「回避!!取舵一杯!!第1戦速!!」 
電信員が答える。
「間に合いません!!」
艦長が間髪入れずに指示する。
「通達!!対ショック態勢!!」
即座に電信員が各部に指示した。
「総員!!対ショック態勢!!!右舷後方から!!!」

      衝撃
「報告!!」
航海長が怒鳴ると電信員が各部署からの報告をし始める。
「機関科3名中傷!そのほか運用、航海科からそれぞれ5名負傷!!いずれも軽傷、現在治療中!」
「船体損傷無し!」
艦長が大声で指示する。
「 VLSを展開しろ!展開完了後、目標への攻撃を開始する!!!」
顔を顰めながら素早く立ち直る艦長と艦橋員達。同時に電信室からの報告が艦橋に届いた。
「電信室から報告!!現時点で外部への通信が完全に断絶しました!!!!」
「信号灯用意、SCPS ティフォンが到着したら灯火信号を使え!!」
航海長がそう指示する中、艦長が言う。
「これより!!!!作戦を開始する!!!!」
艦長は目標を見据える。波が高く霧が濃い。想定よりもだいぶ成長しているようだ。勝てはしないだろう。だが、わたし達は負けもしないだろう。そういう作戦を立ててきたのだから。そうでなければならない。
「VLS展開完了しました!!」

「これより、予定通り作戦を開始、対象への攻撃を開始する。」
「艦橋から各部、命令はただ1つ、『各自、役割を全うしろ』以上だ。」
わたしの運命の40分が始まった


定期の点検完了と異常なしを報告するためにヘッドホンのマイクにを口に近づけた。
「制御室、機械室。」
「ハイ、制御室。」
「機械室、各部異常なし。」
「了解。」
船は大きくメトロノームのように揺れている。冬の日本海より酷い揺れだった。何人かの後輩が耐えられず船底に吐いていた。今の機関室の室温は45℃近い。それに戦闘が始まれば50℃は超えるだろう、無理もない。見ている俺も気分が悪い。一度吐いてスッキリしようかと思ったときだった。
ヘッドホンから指示が聞こえた。
「総員!!対ショック態勢!!!右舷後方から!!!」
這いつくばった、瞬間、

        衝撃 

轟音が鳴り響いた。隔壁を叩く水音が酷くなった。俺はヘッドホンを押さえて自分と仲間の無事を確認する。懐中電灯の灯りと手信号が飛び交う。3名負傷、各部異常なし、了解。

「制御室、機関室、3名負傷!各部異常無し。」

制御室から通信。嫌になるほどいつも通りな森2曹の声が聞こえた。

「再配置付け。」

「制御室から各部、これより、対象への攻撃を開始する。」

俺の、しがない海士長の、運命の40分が始まった。


「攻撃開始!!」


「全弾、目標に着弾を確認!第2攻撃準備開始!!」

「報告!!目標の一部が館内に!!!!」
「どこだ!!!」「報告急げ!!!!」
「全ハッチ閉鎖確認!急げ!!!」
「第二次攻撃準備良し!!」「攻撃開始しろ!!!」
「報告!!第一甲板、第五ハッチ全壊!!第一区画閉鎖開始、目標を多目的格納庫に誘導開始!!!」「弾薬庫、VLS操作室は死守しろ!!!」
「艦長!!ヒビが!!!」

「撃て!!!」

バリン


『攻撃開始!』


「退避ーーーーーー!!!」
「第一区画の応急班、応答なし!」
「多目的格納庫に誘導開始!!」「パイプライン切替はやく!!」「やってるよ!!」
「区画閉鎖間に合いませ、あああああああああ!!」「艦橋沈黙!!!」「指揮権を機関長に委譲!!!」「応急操舵発動!!」「応急班!!」「いけいけいけ!!」「止まるな」「電信室!制御室!!艦の現在地を報告しろ!!」「ティフォンの位置は?!」「今なお通信不能!!!」
「赤があああああ!!!!」「ああああああ!!!!」「応急班!!!!」
「誘導完了!!!」「トリアージ!!!!」「点呼オ!!!」

sb3infoのincludeに|tag=引数を設定すると、予定しているタグを表示できます。


ページ情報

執筆者: kabesimi
文字数: 5346
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批評コメント: 0

最終更新: 15 Nov 2020 09:57
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