もまた
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彼女に初めて会った日に持った印象は、「可哀そう」だった。


2016/04/22


『死んだはずの母からLINEが送られてくる』
普通であれば精神異常者の妄言として片付けられそうな台詞ではあるが、それに疑問を抱き、結果として異常性を見出すというのは、そこに出向しているエージェントの能力のおかげか、財団の教育の賜物か、あるいはその両方か。ともかく財団に入って10年近く経った今でも感心する。

感心している場合ではない。私の今なすべきことは、目の前の彼女の話に耳を傾けることである。
目の前の、恐らく恐怖と幾ばくかの不安によって過呼吸ぎみとなっていた彼女の言葉によれば、

1週間前に交通事故で亡くなった母が、まるで生前通り監視しているかのようにメッセージを送ってきた

らしい。
しかも監視するのに使われていると考えられるのが、WoEという、既に使用不可能となっているはずのアプリときていて、さらに母親のものと考えられるGPSの位置情報が、母親のスマートフォンを処理しているにもかかわらず表示され続けている。まさしく異常だ。
「申し訳ありませんが、こちらのスマートフォンを捜査の為に押収させていただきます。そして貴方も、解決するまではこちらで生活していただくことになります。方針なのでご了承ください。」
20歳という、活動範囲がさらに広がり、スマホを肌身離さず持っていたいような時期にこのような処置をとるのは酷とも言われるかもしれないが、異常性の保持が疑われる彼女を放してはおけないだろう。
「ええ、構いません。…その、私の母は幽霊になって彷徨っているのでしょうか?こんな非現実なこと…私はどうすればいいのか分かりません。」
「大丈夫ですよ。貴方のお母様が幽霊であるかは今の所分かりませんが、我々はそれらを特定し、解決する手段を有しています。解決に向けて、一緒に頑張っていきましょうね。」
「はい、ありがとうございます!」
なんとか気丈に振る舞おうとしているようだ。オブジェクトの関連人物として収容状態に置かれるというのは、相当な精神的負担を強いるものである。できるだけ早く解放してあげられるように努力するというのが筋だろう。


なぜ、可哀そうだと思ったのだろう?
親族の死に見舞われたから? これはあるかもしれないが、確実に主ではない。
収容状態に置かれるから? いや、これ以上に惨い処置がとられている例はいくらでもある。
わからない。


2016/04/30


SCP-2299-JPを解明するための実験が行われることとなった。場所は、彼女からの要望があり、かつ収容以前にも訪れる機会があったというデパート██████である。彼女にはそこで、私が付き添った上である程度自由に店を回ってもらった。
「小林さん、これ持っててもらってもいいですか?」
「桜場さん…あくまでもこれは実験なんですよ…あまり買いすぎないでくださいね。」
ある程度は実験費用として請求することはできるが、ボーダーを超えると給料から引かれる、というのを入ったときのオリエンテーションで聞いた記憶がある。ましてや、暫定的なオブジェクトクラスがKeterではあるが、SCP-2299-JP-A ー彼女の母親ー が収容不可能なだけであって、危険性はほとんどないようなものなので、そのボーダーも低く設定されるはずだ。薄給では決してないが、天引きだけは避けたい、という気持ちがある。ちなみに本来なら彼女はSCP-2299-JPと呼ばれるべきではあるが、衆目が避けられない場所で「SCP」とつけて呼ぶのはリスクが大きすぎるということで、苗字で呼ぶことが許可されている。
「クレープ食べて休憩しませんか?」
「いえ、私は大丈夫です。」
ふーん、とでも言いたげな顔で彼女は近くのクレープ屋へ向かう。私にとっては某コーヒーチェーン店と同じく未知の領域だ。蒐集院からの引継ぎ人員が唱えてる祝詞にも劣らないような呪文が聞こえてくる。
戻ってきて、クレープを食べようとした瞬間

ピコン

一瞬だが、彼女の肩が跳ねる。恐る恐るクレープを持っていないほうの手でスマホを出すと、母親からのメッセージが映し出されていた。
「ど、どうすればいいですか…?」
「普段通り、親の生前と同じように返信していただければ。」
彼女は頷くと、かすかに手が震えているものの、手慣れたようにフリックで「わかった」と入力し、返信した。
すぐに既読がついた。
「大丈夫ですか?ここで実験を終了することもできますが。」
「大丈夫です。でも今日はもうやりたいことはやったので終わりで良いですか?」
「わかりました。」

サイトに戻り計測機器でスマホを解析したが、有益な情報は得られなかった。


2016/05/11


対照実験的な意味合いも兼ねて、私が彼女のスマホを持ってデパートを回ることとなった。

が、特に目に留まる物も無く一通り回ってしまった。
最初は妻へのプレゼントとしてネックレスでも買おうかと思ってショップに立ち寄ったが、
「夫婦仲が良いのは全然いいですが、そういうのは仕事の外でお願いします。」
と、彼女とともにコンタクトをとっている職員に釘を刺されてしまった。
その後は店々を外から見るだけで1周してしまった。
「行く場所が思いつかないのであれば、SCP-2299-JPの指示でデパート内を回るというのはどうでしょう?」
そう提案があったので、喜んでそれに乗ることにした。

合計5時間程デパートにいたが、SCP-2299-JP-Aからの着信や、計測機器の数値の変化がなかったので、実験は終了された。


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