「はじめまして」

█月21日。今日のサイト-81██はどこかピリついていた。
理由はいつも一緒だ。エージェント・██と神山博士。二人の関係にある。

「だからな、誰がなんと言おうとあんたは異常なんだ!絶対に何か隠してる」
「嫌ですねぇ██さん。私は一卵性の兄弟だと言ってるじゃないですか」
「はぐらかすな。この世のどこに██子なんてヤツがいるんだ!」

いつもと同じ光景。エージェント・██と神山博士の押し問答はもはや恒例行事と化していた。
同僚たちもいつも同じ結果なのでさして気にしていない。……気にしても意味はない。

「だいたい██さん。あなたもしつこいですよ。講義の時はなんともなかったのに、兄が死んで私が来たとたん目の色を変えて。"こういうもの"だと割りきってもらわないと、ここでは苦労しますよ」
「当たり前だ。死んだはずのヤツが兄弟を名乗って現れたら、誰だってそうなる。記憶を引き継いでるのも意味がわからない」
「それは兄から聞いたんですよ」

神山博士がコーヒーを口に含む。サイト-81██ではいつもアメリカンだ。と、いってもアメリカン以外の選択肢が無いだけだが。

「兄はよく言ってました。しつこくて真面目で……仕事ができて憎めない。そんな人が財団にいると。まさに██さんですね」
「……話をそらすな。そういう異常性ならオレも納得するが、わざわざ兄弟と誤魔化すのが納得できないんだ。あんたはやっぱり異常なんだよ」
「誤魔化すも何も、真実ですから。私も兄も嘘はついていませんよ。ここはそういう場所でしょう?」
「あー、くそ!本当にあんたは……

その時ちょうど、時計の針が一時を指した。休憩時間が終わりをむかえ、二人の押し問答もここで終わった。いつもと同じ光景だ。


「おい、休憩時間だ。今日こそあんたから秘密を聞き出してやる!」

█月21日。休憩時間。今日も話を始めたのはエージェント・██だった。

「ああ、エージェント・██さん。"はじめまして"。神山█蔵です。兄から話は聞いていますよ」
「あ?……またか。なあ、あんたも疲れないのか?こんな茶番劇」
「茶番劇?……兄から聞いた通りの人だ。しつこくて真面目で……
「それはもういい。それより……仮説をたてたんだ。その名も"神山博士ロボット説"!これなら記憶が引き継げるのも、同じ顔なのも説明がつく。それにさんざん働かされて文句を言わないのもな」
「それはまた突飛ですねぇ。私がロボットとは」

神山博士が珍しく笑った。エージェント・██は不満そうな顔だ。

「その感じだと違いそうだな。くそ、いいアイデアだと思ったんだが」
「愉快な人ですねぇ。ロボットとは。試しにレントゲンを撮ってみますか?」
「いや、いい……」

エージェント・██がため息混じりに言う。

「くそっ!神山博士は財団に作られた高性能ロボット、っていう筋書きだったんだが……さすがに違ったか」
「なるほど……。やっぱりあなたは面白い人だ。兄に聞いていた通りですね。いやー愉快。財団に来て良かったですね」

エージェント・██が「もうやめてくれ」と、言うと同時に、時計の針が一時を指した。

「ああ、もう。あんたと話してるとあっという間に休憩時間が終わる」
「それは私も同じですよ。██さん」

██人目の"神山博士"はそう言ってもう一度笑った。


「お隣良いですか?」
「……え?」

█月21日。珍しく自分から話しかけてきた神山にエージェント・██は驚きの声を上げた。

「珍しいこともあるな。あんたが自分から話しかけてくるなんて」
「ええ。兄からよく話を聞いていたので。何でも愉快なお方だとか」
「前のあんたはそう言っていたのか?」
「はい。話していて飽きないと言っていました」

「そうか」と、一言呟くと、エージェント・██はポケットからタバコを取り出した。

「吸ってもいいか?」
「かまいませんが……タバコ、吸うんですね。そういった話は聞いていませんでした」
「いや、吸うのは"新しい"あんたが来たときだけだよ」
「……タバコはいいですが、死体安置所の鍵を盗むのはいかがなものかと」
「……しってんのか」

「ええ」、そういうと神山は持っていたバスケットからサンドイッチを取り出した。

「食べますか?」
「いや、いい。今は食欲が無いんだ」
「どうしたんですか?」

カツサンドを頬張りながら神山が聞く。いかにも茶化すかのように██が言う。

「……知ってるヤツの死体が凄いスピードで腐るのを見たんだよ」
「……」
「名前がな……神山█蔵だ」

「……そうですか」、そう言う神山の口調はいつの間にか、いつもの"真面目で冷たい"ものになっていた。

「結局オレ含めて仲間は全員怒られた。でもな、これでまた一つあんたの秘密に近づいたってわけだよ。オレはまだ諦めてないからな」
「……諦めていただけると、私としては嬉しいのですが」

今日の時計が指す針は、1時2分。仕事に遅れぬよう二人は立ち上がった。

サイト-81██の冷たい廊下に、足音が響く──


█月21日。██が目を覚ましたのは、サイト-81██の病室だった。

ベッドの横には、花束を持ちスーツを着た神山が立っている。

「おはようございます。そしてはじめまして。神山█蔵です」
「今は……?」

エージェント・██はやっとの思いで言葉を絞り出す。

「今ですか?今は……█月21日。午後1時です」
「そうか……オレはいったい?」
「質問が多いですねぇ。あなたは任務中にオブジェクトに襲われ死にかけたんですよ。あ、あとこれ。花束と手作りのサンドイッチです」
「……じゃあ何でオレは生きてる。経験上"あの攻撃"は即死だったはずだ」

神山から受け取った花束を持ちながら██が聞く。

「██さんを庇った上で、応急処置をしてくれた人がいるんですよ」
「いったい誰が?そんな知識を持ってるなんて」
「……私の兄です。神山█蔵と言えばわかりますか?」

エージェント・██は何も言うことができなかった。二人の間にしばし沈黙のベールが降りる。

「兄は……気にしていないと思いますよ。きっと向こうでも、『こんな知識が役に立って良かった』、そう言ってると思います」
「……」
「……どうしました?」

神山の問いに対して██が口を開いたのは大きなため息をしてからだった。

「だからオレはあんたが嫌いなんだ。完全で完璧な口調。仕草。自分の感情をめったに出そうとしない。あんたがロボットでもクローンでもオレには関係ないかも知れないがな、オレが唯一確信できるのは、あんたが異常ってことなんだよ」

神山はつらつらと並べられる██の言葉を、ただ真顔で聞いていた。そして一言。

「わかりました」

██はそこから█ヶ月。神山の声を聞いていない。

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