追憶の聖杯

ん……君、この器が何か気になるのかね?
ああ…図星かー!。では教えてあげよう。君、これはね……"聖杯"なんだよ。
まさか!という顔をしてるな。そう思うのも仕方ない。紫色で、丸み帯びた器が、かの"聖杯"なわけないと。
そう言いたいのだろう?
また図星か。この器はね、私にとって特別なものなんだ。どれ、時間もあるから話してあげよう。私の小さな「聖杯伝説」を。


あれは私が財団に入って14年目の冬だった。
私は昔から各地の骨董屋や雑貨屋を巡って変わったものを見つけるのが好きなんだ。
この器もそんなある店で見つけたものだ。

信じられないかもしれないが、私がこれを店で見つけた時。この器は鮮やかな銀色だった。
また、まさか!という顔をしてるな。まあいい、聞いてくれ。
私はこの器に惚れ込んでしまってね。店主になんとか譲ってほしいと頼んだんだ。
何でも、この器はかの"聖杯"を溶かして作ったものらしくて、持ち主に幸運を与えるらしい。
君も聞いたことはあるだろう。願いを叶える"聖杯"の伝説を。世界中の権力者はそれを追い求めた。
だが……所詮"聖杯"も"伝説"もただのお伽噺にすぎない。だから私も、店主が少しでも高く値をつけようとホラを吹いてるのだと思った。
でもな、君。それでも私はその妖しく美しい輝きに魅了されてしまったんだ。
それで…交渉を続けた結果、私はこの器を……まあ"それなり"の値段で手にいれた。毎日この美しい銀色を見れるなら安いもんだ……当時の私はそう思ったよ。

私は手にいれた"聖杯"を毎日のように眺めていた。
角度を変えたり、磨いてみたり、比喩ではなく本当に毎日眺めていたんだ。
そんなある日だ。"聖杯"が私に語りかけてきたんだ。おい、君。そんな顔をするな。
まあいい、それで…"聖杯"は私にこう語りかけてきた。
自分には願いを叶える力があると。お前が望めば大体のことはやってやるとな。
私は飛び上がって喜んだ。だってそうだろう?嬉しいじゃないか、願いを叶えてくれるなんて。
ちなみに…財団には報告しなかったぞ。私はやっと掴んだ"力"を手放したくなかったしね。

それからはまさに夢のようだった。
女の子や部下に簡単な手品を見せたり。コップに並々とワインを出したり。
私は何でもできる!そんな確信があったね。
一番大きなことをやったのは……そう!サイトの中庭に一面の花を咲かせたんだ。
今思えばあの頃から怪しまれてたんだろう。私の生活も長くは続かなかった。

ある日……私の部下だった"白川 渚"君と何人かのエージェントが部屋に押し入ってきた。
その瞬間私は確信したよ。私の"聖杯"を奪いにきたんだな…と。
もちろん私は逃げた。"聖杯"を持ち、ひたすらに逃げた。野を越え山を越え、ひたすらに、ひたすらに、ひたすらに逃げた。
私はどうしても……この"聖杯"を奪われたくなかったんだ。


気がつくと…私は海にたどり着いていた。
その頃には空は鮮やかな茜に染まり、追い付いてきたのも白川君だけになっていたよ。
白川君は私に銃を向けた。財団に入って最初に支給されるヤツだ。
私は純粋な疑問を彼にぶつけた。なぜ一人の男がやっと手にいれた"力"を奪うのか?と。
白川君は真面目だったからな。少し考えた後、こう答えた。「職員としての立場で答えるなら、その器は異常であり、きっといつか使用者に大きな被害をもたらします。被害を最小限にするためにも、器の収容を行わなくてはなりません。あなたの部下として答えるなら、私の上司である"玄岩 努"という人物がちんけな幻想に殺されるのを見たくない。」とね。
まったく彼は素晴らしい男だったよ。私の部下にはもったいないほどにね……。

さて、君はもうどうなったかわかるだろう?
そのあと"聖杯"は私の手から滑り落ち海水に浸かった。何かがもがき苦しむような音がしたあと、聖杯は鮮やかな銀から今の紫になったんだ。
検査では異常が見られず、力を失ったと見なされたため、今はこうして私の手元にある。
私もその一件で色々とあったが、それはまた今度の話さ。

え?、ところでその白川 渚という人物を恨んでるかって?
とんでもない。彼は私の命の恩人だよ。ノーリスクで願いを叶えるだなんてそんな上手い話があるわけない。今でも私は彼に感謝しているよ。

なぜ器を捨てないか?
それは…私はこの落ち着いた紫がいたく気に入ってね。今でも愛用してるんだ。
それに……この"聖杯"は、今は亡き彼との最後の思い出だからね。
物理的な価値は関係ない。大切な想いが宿るからこそ、これは確かな"聖杯"であり続けるのだよ…。

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