カメラ 避難場所

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財団が人類からオブジェクトの脅威を遠ざけるという尊い理念を捨ててからはや100年。
もし私に心があったら、私はこの世界を好きになっていたかもしれない。街ゆく人は常に財団を愛すべきパートナーと思い、敬愛すべきリーダーだと思う。そんな財団の為に作り笑顔で隣人と関係を取り繕い、何かあったら誇張して反逆者だ異常生物だとでっち上げる。そして、エージェントに殺されるか捕まるかを敬礼して見守る。

私に心があったなら、この光景を面白いと思うに違いない。いや、私でさえも洗脳され、哀れなヒトの仲間入りするかもしれない。

どっちにしろ、私に心は無いので関係ない話だ。


ほのかに光る街灯が照らす雪は美しい。郊外の住宅街なのも雪景色をさらに良く演出している。私がこの景色を美しいと感じることは無いが。

無精髭生やした汚いおっさんと、清潔感あって好印象なイケメンくん。それぞれ佐々木とAlexと言うらしいが -明らか純血の日本人にしか見えないのにAlexなのはひとまず置いておいて- 彼らが纏う外套にはお馴染みのあのマーク。Alexはともかく佐々木の言うことまで絶対服従なのは一般市民も可哀想だなぁ。という冗談はこれで終わるとして、彼らの持つタブレットには地図が一枚、ヒトの顔写真も一枚、そして「DEAD or ALIVE」。詰まりDEAD or DEADだ。でっち上げられてしまったのか。また善良な市民が死ぬみたいだ。哀れだなぁ。

佐々木はAlexにいきなり爆弾発言
「なんでお前と仕事しなきゃならねぇんだよ。気味が悪ぃ」
おいおい佐々木よ。これから一緒に仕事する人にそんな言い方あるかい?どうやら汚いのはフケだらけの髪の毛と常にフライドポテトの匂いがする口だけでは無かったらしい。そしてAlexはガン無視。潔いほどのガン無視。こんなに仲が悪くて大丈夫かい?財団は他と違って笑顔が絶えないアットホームな会社なはずだが、犬猿の仲で共に任務とは珍しい。


めっちゃ仲の悪い殺し屋達は目標の所に着いたみたいだ。何の変哲もないログハウス。今時木造の家はプレミアものだが、事故物件になってしまうなんて勿体ない。Alexがインターホンを押そうとすると佐々木が腕を掴んで止めて
「せっかくだし派手に行こうぜ?」
と提案。Alexはまたガン無視・・・する訳でもなく無言で従う意思表示をした。Alexくんはとても寡黙な奴たが、意外と派手好きだったりするのだろうか。

カーテンの隙間から漏れる光を避けながら佐々木とAlexは裏庭に回り込んだ。佐々木は黄色い歯を見せてニヤッとして
「Alex。この窓を突き破れ」
何故そんなことをしなきゃいけないのかは謎だが、確かに派手だ。Alexは三秒程目を閉じてから、
「分かりました。やりましょう」
とこの提案を受諾。Alexは嫌がる素振りもしなければ、楽しそうにすることもないのでその真意が分からない。

佐々木とAlexは銃を構えて臨戦態勢。でっち上げられた哀れな子羊に引導を渡すだけのうんざりな任務にもやはり気は引き締める様だ。Alexは半身で窓に突進する・・


ガッシャーンと窓が割れた。リビングの床に破片が飛び散る。Alexはそんなの気にもせず前回り受け身を取る。そのまま流れる様に片膝立てでしゃがんで銃を構えた。

中にいたのは男とちっちゃい子供。今回のターゲットは息子がいたようだ。Alexは静かに
「貴方達に財団に対する反逆の兆候があると密告を受けました。適切な処理をします」
銃を向けられた父はこんな状況でも冷静に
「何ですって?私達が? まさかまさか」
なんてへりくだっている。そこから佐々木がズカズカと家に押し入って、
「報告を受けたんだから実際どうかは関係ないんだよ。さぁ、どう苦しみたい?」
佐々木は自分が魔王にでもなったかの様に見下して言う。父は両手をあげて、
「記憶処理なら受けます。財団の忠誠も今ここで再び誓いましょう。命、命だけは勘弁してくれませんか?」
息子はぎゃんぎゃん泣き出したものの、父の真似をして両手をあげた。

嗚呼、なんて可哀想な親子。最近の財団は節約をモットーに過ごしているせいか、反逆者に記憶処理剤を使うのをケチってしまう。死体処理より記憶処理剤の方が高くつくもんだから仕方ないっちゃ仕方ないし、何と言っても


「もう分かってねえなぁ。お前は密告を受けた時点で俺のおもちゃになったんだよ。良い顔で鳴いてくれよ?」


佐々木がこんなんだったから。それに、


「・・・」


Alexが我関せずと態度を変えないのだから。


私でも同情してしまう。家の中にある家族の思い出が詰まったビデオカメラに「おい!何とかして助けろ!」と言いたくなってしまう。ビデオカメラくんもきっと何か行動を起こすだろう。とは言ったものの、私もビデオカメラくんも意思や感情がないので、やっぱりそんなことは起きない。と、佐々木が
「うるせぇクソガキァ」
と息子さんの顔を思いっきりぶん殴った。息子は鼻を抑え痛みに苦しんでうずくまった。一層泣き喚く。佐々木はそんな息子をみて恍惚とした表情を見せながら、息子さんの顔を今度は踏みつけた。正に外道。

そんな中、父は溜息を付いた。


家の外が吹雪き始めた。雪が私の目にカチコミを決めてくる。おいやめろ、透視システムが使いにくいじゃないか。

「ばれてしまったのなら仕方ない」
おや、父の様子が変だ。
「お前、銃を私の息子に向けるな、下ろせ」
あー、動転しすぎて無茶に走ってしまったのか、残念ながらこの佐々木さんにそんなこと言っても・・・

あれ。

佐々木が銃を下ろした。佐々木は少し上擦った声で
「あ、あれ?」
銃を下ろしたことは佐々木の意志とは少し違うようだ。そりゃそうだな。
Alexは銃を父に向けたまま、顔も振り替えずに
「佐々木、何をしている」
佐々木が何か応えようとするが制するように
「佐々木と言ったか。こっちへこい」
佐々木は見事に父の元へ歩いていく。どうしたのだろうか。さっきまでの威勢は何処へ行ったのか。佐々木。

Alexは右手だけで構えていた銃に左手を添えた。恐らく事の重大さを認識したのだ。

この父。ホンモノだ。本物の反逆者で、しかも人の心か行動かなんかを操るマジの異常能力者だ。これには密告を入れた近所のAさんもニッコリだろう。

父は佐々木から銃を奪い取り、そして佐々木を盾にする様にAlexの銃の矛先から隠れた。父は静かにAlex語りかける。
「君も銃を下ろすんだ。早く」

父の一転攻勢、佐々木とAlexの運命や如何に・・・

んー?

今度はAlexが銃を下ろさない。父の精神汚染が効いていない様だ。なんだなんだ。ここは異常能力のパーティか?

「住民7931-C-15-02をオブジェクト認定。汎用確保プロトコルに移行」
当の本人はこの様子。余計に火がついたようだ。

父は精神汚染が効かない人生初のイレギュラーにも冷静だ。素早く次の手を取る。奪い取った銃を佐々木の頭に突きつけ、
「銃を下ろせ、さもなくばこいつの命は無い!」
と怒鳴りつけた。精神汚染ではなく、直接Alexの心に任務の中止を訴えかける。佐々木は既に腑抜けになった様にぐったりしている。でも、Alexは銃を下ろさない。顔色一つ変えず銃を向け続けている。
「早く下ろせ!!本当に撃つぞ!!」
Alexは銃を下ろさない。仲間の命よりも任務の方が大事と思っているのかもしれない。それとも何か策があるのか。


父は明らかに焦り始めた。彼の口からでる言葉からは焦燥と怒気が感じられる。
「佐々木が死んでも良いのか?仲間だろ?!」
ぐっと銃を佐々木に押し付ける、今にも殺すと脅しをかけるように。そこにAlexが無情なことに、
「別に撃っても良いですよ」
父は酷く顔面を引き攣らせた。そりゃそうだ。これにはビデオカメラくんもドン引きだろう。ビデオカメラくん!親子を助けるんだ! 無理なのは知ってるし、して欲しいとも思ってないから。

「お前らはや」
「佐々木は任務遂行という大義名分があればすぐ拷問をしたがり、レイプをして、平気で人を殺そうとして、更に殺す前の相手の苦痛を楽しむ。外道というグループに分類されるヒトでしょう」
おー。言うねー。
「なっ」
「でも、彼にも無事に帰りを待つ妻がいて、彼の成功を祈る両親がいて、彼を世界を守るヒーローだと慕う息子がいます」
「そんなことを言っても、俺はこいつを殺せるぞ!!いいから銃を下ろせ!!」
「こいつを殺してしまったら、彼の妻は、両親は、息子はどれほど悲しむでしょうね。今あなたが感じているものより遥かに強い憎しみを覚えるでしょうね。彼らに罪は一つもないのに」
Alexは情緒不安定だなぁ。それとも、これも策略か?
「・・・・くそ」
このお父さん。さては優男だろ。
父の声から威勢が失われた。皮肉なものだ。精神を操る類の異常能力者が、非異常性のAlexの話術に心を操られかけているのだ。とは言ってもやはりこの男、今まで財団の目から隠れ続けてきたのだ。冷静に次の手に移る。


父は銃を佐々木に返した。そして佐々木の耳に囁く
「あいつを殺せ」
佐々木の腑抜けた状態はみるみるうちに回復し、地に足を踏みしめ、銃をAlexに向けた。
「Alex~ すまねぇ。何かお前を殺したくて仕方がないんだよぉ」
父は自分でお願いしておきながら動揺し、小さく呟いた。
「そんなに深く入り込んでいないのだが、イカれてやがる」
佐々木はそういう奴だ。もう何も言うまい。

Alexはやはり表情を崩さないが、内心どう思っているのだろうか。仲間に銃を向けているのだ。気が気で無いはずだ。Alexは佐々木を宥めようとする。
「佐々木、銃を下ろしなさい。任務を思い出しなさい」
「前からお前の事が気に食わなかったんだよなぁ」
佐々木への精神汚染に元の性格が相まってこの状況を打破するのは辛そうだ。


もし、私に心があったのなら、今、この光景をさぞかし楽しんだことだろう。市民の精神をちょっとのお薬と同調圧力で封じ込め、恐怖に陥れてきた財団の職員が今、異常能力者の力によって精神を操られている。と、思えば今度は精神汚染が効かない奴がいる。支配し、支配される。心のマウントの取り合い。そしてなんと今、支配者が内部から敵対し、仲間同士の精神を絡め取ろうとしている。この醜いことよ!

とは言ってもやはり私に心は無く、目の前のクソ面白いストーリーは只の情報にしか見えない。


佐々木とAlexが銃を向けあって5分が経過した。蚊帳の外となっている息子の喚き声は、三人のノイズとすらならなかった。緊張が迸る。

瞬き一つしないAlex

そのAlexの苦痛に歪む顔を望みたい佐々木

ただ、死にたくない父

そして、Alexの一言で静寂が破られる。

「ルート構築完了。実行する」
その一言と共に、

佐々木の顔面が抉られた。佐々木はとうとう何もできず、父の盾という役割を果たさなくなった。

佐々木は死んだ。

カランと薬莢の落ちる音。

「・・・は」
父は言葉を失った。当たり前だ。Alexが、意図も不明で、仲間を殺したのだ。家族云々を訴えかけたことを棚にあげて。父に彼の凶行を理解する余裕は無かった。

私にも理解できない。彼は佐々木と同じ快楽殺人鬼の素質があったのか?それとも佐々木を殺したい程憎んでいて、このタイミングを待っていたのか?

私にそれを考える思考という概念は存在しないが。


Alexがゆっくりと父に近づく。カツカツと足音が波紋の様に広がり父の耳に入る。

父ははっとした様に死んだ佐々木の銃を拾いあげた。もう佐々木の時の様に躊躇うことは無い。Alexを殺すだけだ。

ヒトの織り成すストーリーはいつも面白い。だが、今回はちょっと違かった様だ。私は今"気づいた"。財団データベースからAlexを照合した。父にとってそいつは部が悪すぎたね。

父はみっともなく叫び散らかしながら銃をAlexに向ける。だが彼の発砲プロセスは途中で打ち切られた。そう。また想定外の事が起こったのだ。


乾いた音と共に息子の身体が吹っ飛んだ。Alexは銃を父に向けていなかったのだ。さすがだよ。ヒトとは発想が違うんだろうな。すげぇや、ここまで"ネジがぶっ飛んでん"だぜ?いや、"ネジの種類が違う"が適切か?そんなことはどうだっていい。

父は絶句した。当たり前だ。何も脈絡もなくあっさりと息子を殺されたのだから。息子の身体から赤錆色の液体が流れ出ているのがとても痛々しいと思っているのだろう。


「あ  あ 何で」




理由はきっとコインを裏返すくらい、簡単だ。




「貴方が私を殺そうとするからですよ。精神汚染で佐々木は使えなくなってしまいましたし、私が死んだら誰が貴方を捕まえるのですか?」




「そ そんな」


「それだけのために ?」




そいつは殺るだろうな。




「まぁ佐々木と貴方の息子を殺さずとも貴方を捕まえることはできたでしょう。でも、この方法がリスクが少なく、成功率が高く、楽でしたからね。」




「おまえらに 人の心 」




愚問だ。天下の財団様だぞ。




「Alexにヒトの心は無い。財団がそう望み そう私を創ったのだから」


財団が発展と支配を望み、私欲を求めてはや100年。
私は心が無くとも、この世界が好きなのかもしれない。
かつてオブジェクトの恐怖に苛まれた人類はオブジェクトを"悪"とみなし、財団を結成した。財団は世界を恐怖で支配する悪となった。そして、財団が創りだしたAlexアンドロイド はくだらない理由でエージェントを殺し、痛いげな少年も殺し、父に恐怖を与えた。
悪が生み出すものは、悪しか無いのだ。

私に心が無くても、この光景を愉快と思うに違いない。いや、私もこの円環に巻き込まれ、人類に恐怖を与える存在となるのかもしれない。

どっちにしろ、私は電柱の上で首を振るしか無いのだから、関係ない話だ。

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