手繰り人形の傷痕(仮題)

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死んだはずの先輩が、額に風穴をあけて還ってきた。

最期の刻まで彼の中に唯ひとつ残されていたはずの「何か」は、人が感情と呼ぶそれは、全部あの穴から零れてしまったようだった。彼は生前あんなに厭がっていたことを、なんてこと無くこなした。いや、ある意味では彼は生前と何も変わっていなかった。不機嫌そうにパソコンに向かい、人の顔を見れば悪態を吐き、彼は彼らの言う通りに、今までと変わらない生活を再現した。

彼は無闇に爆発物を投げつけなくなった。
彼の心は冷たくなっていた。
ギアーズが彼のそばに居る頻度が増えた。
あの人は分かっていないのだろうか? 僕は何をみせられている?
あの日の続き、これは幻覚か?

「彼は、確かに僕が殺したはずだった。」

自分が死ぬというその瞬間まで、口の減らない先輩は相変わらず「ざまあみろ」と(どこか興奮気味に)棘のある言葉を投げた。

「自分」が喪われる前に心ごと壊してしまいたい、けれど自分ではもうその引き金を引くことはできない、でもギアにだけは頼みたくない、だから仕方なくお前に、とーーそんな我儘ばかりの願いを、僕は聞き届けることにした。

何故なら僕も同意見だったから。
感情のままに生きられないなんて、それはその人の人生と言えるのか? 外からの刺激に何も反応しない人間を、誰が「彼だ」と理解してくれるのか?

……本当は僕等二人は、ギアーズも救いたかった。
けれどその願いが叶うことはなかった。
いや、ギアーズだけじゃない。

そして彼は此処に還ってきた。
僕は彼に「おかえり」と言うことは出来なかった。代わりに「あなたの顔なんて二度と見たくはなかった」と吐いた僕を、ギアーズは無表情のまま見つめていた。

どうすれば良かったのか? 彼らは死んで尚も「貢献せよ」と耳元で囁き続けてくるらしい。

……ならば。ならば僕は何度でも引き金を引こう。何度でもこの手で。彼に安らぎが訪れるまで。

そう心に誓い、ピストルを握った僕の後頭部に、何かひやりとしたものが触れた。
僕の手の中のものに酷く似ているような。
血の気が引く。僕はその影を知っていた。僕は背後に立つその人のことをよく知っていた。その影はあまりにも無機質で、

なにかの機械のようだった。

***
正午過ぎ、アルト・クレフは廊下を歩いていた。正面からやって来たギアーズと2人の助手に軽く会釈する。
ひとりは自分の研究についてを、慕う上司に聞き入れてもらおうと早口にまくし立て、もうひとりは仏頂面の禿げた博士を笑わせようとなんどもジョークに挑んでいた。

そうだ、それはかつての話だ。

クレフは沈黙を携え去っていくひとりの男とその部下達の後ろ姿を見やった。今や彼らの中にあるのは、冷たい操り糸の繋がりだけのように見えた。

彼は10回目の助手解雇を見送ることにした。乳房だけが取り柄の女でも、友人の姿をしたマリオネットに比べればよっぽど可愛く思えたからだ。


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