このページの批評は終了しました。
あなたがこれを読んでいるということは、私はもうこの世にいないのでしょう。長いようで短く、短いようで長かったこの二十余年、私がどれほど世界に貢献できたかは、見当の──
とろけるような紫色のインクが、クリーム色の罫線に囲まれ掠れ始める。僕は左手をちょっと伸ばして、インク瓶の蓋を外すと、ガラスペンの先をそれにつけた。
見当のつけようもありません。
それでも私は、この組織の一員として、数多の重要な任務に関われたこと、素晴らしい仲間たちと共にそれらに当たれたこと、このような形で世界に繋がれたことを、心から──
手が止まる。このあとは、何と言葉を繋げるべきか。「幸せでした」?「嬉しかったです」?いや、それはいくらか座りが悪い。辞書を出そうか。あぁでも、それではペンが乾いてしまう。
僕は今、書ききらなくちゃならないんだ。
心から嬉しく思います。
僕は綴り続ける。ガラスペンを便箋の上に滑らせ続ける。一画一画、魂を込めて。さざめく心に向き合いながら。
その果てに、このような終わりを迎えたことすらも。
次の仕事は気乗りがしない。
ガンホルダーに締め付けられた大腿がひりひり痛む。シグネットリングが、左手が重い。心臓の音がやけに煩い。
これはきっと、予兆だ。
忘れないでくれとは言いません。何を記憶に留め置き、何を捨て去るかは、全てあなたが選ぶべきことです。現に私の手元には、身に覚えのない友の形見がいくつもある。
ガラスペンを握る手に、力が籠る。
ひとつだけ、願いがあるとするならば、これを見たあなたが笑ってくれること。
笑顔で私を送り出してくれることのほかに、私は何も望みません。
Agt.████
ガラスペンを水の入ったグラスに浸け、封蝋と、少なくとも僕のものではない名が刻まれたライターを、デスク左手の抽斗から取り出す。こんなときにしか使わないけれど、火の扱いにも随分慣れた。震えそうになる手を制しながら、ゆっくりと、蝋を垂らす。パーリーアイボリーの蝋に縁取られたシグネットリングを眺め、僕はほっと息を吐く。
──これを見つけてくれる人はいるのだろうか?
頭の中で、友人と呼べる人々の顔が、次々と浮かんでは消えていく。僕と同じ、今日死ぬかもしれない人々の顔が。
軽く首を振り、時計を見やる。集合時間の10分前だ。封蝋から剥がしたリングを嵌め直し、僕は自室を発った。
誰が読むかも分からない、僕の遺書。
ちっぽけなプライドの込められた、僕の遺作、生きた証。
鍵付きの抽斗の中身と合わせて、十三通目になる。
ページコンソール
批評ステータス
カテゴリ
SCP-JP本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
翻訳作品の下書きが該当します。
他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。
言語
EnglishРусский한국어中文FrançaisPolskiEspañolภาษาไทยDeutschItalianoУкраїнськаPortuguêsČesky繁體中文Việtその他日→外国語翻訳日本支部の記事を他言語版サイトに翻訳投稿する場合の下書きが該当します。
コンテンツマーカー
ジョーク本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。
本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。
本投稿済みの下書きが該当します。
イベント参加予定の下書きが該当します。
フィーチャー
短編構文を除き数千字以下の短編・掌編の下書きが該当します。
短編にも長編にも満たない中編の下書きが該当します。
構文を除き数万字以上の長編の下書きが該当します。
特定の事前知識を求めない下書きが該当します。
SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。
シリーズ-JP所属
JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。
JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。
JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:6222512 (14 Mar 2020 05:56)
拝見しました。
ガラスペンのインクが切れるときの構文による表現、シグネットリングやガンホルダーから伝わってくる感覚の描写、そしてシーリング道具各種などの繊細な描写がとても詩的で良い雰囲気を醸し出していると思います。
しかしながら、これは私個人としての意見ですが、繊細で美しいワンシーンではあるもののtaleとしての面白さを考えたときには、現在のwikiメンバーの評価傾向なども考え合わせるとこの作品が記事として残せるかどうかは疑問です。
また主人公はエージェントの一人であるわけですが、この時世にガラスペンを使いシグネットリングを嵌める数寄者とは分かるものの、それ以外の情報があまり伝わってきません。したがって感情移入もあまり出来ないまま読み終わってしまいました。全体的に書き手が書きたいと思っていることが、たくさんある中でそれを短編としてうまく出力できていない印象です。
こちらである程度意見をもらいつつ、いくらかこの現在のtaleにくっつけられそうなシーンをメモ書き程度に貯めていって、それを集めて一本のtaleに仕立ててみるなどの方法を試してみるのが良いかと思いますが、ひとまず他の方のご意見を集めたりする時間が必要かなと感じます。
ご意見ありがとうございます!大変参考になります。
私自身まだ自信を持って多くの記事を読めたとは言い辛く、ネタ被りやキャラ被りなどがあるやらないやら分からない状況で、どれほど踏み込んだものを書くべきか分からなかったところがあります。また、「アテにならない予感だとしても生きた証を残さずにおれない焦燥感」を演出するにあたり、このような表現ではむしろ冗長すぎるんじゃないか?とすら感じていたので、シーンを追加すべきというご指摘は盲点でした。
ご意見いただいた部分を念頭に置きつつ、もう少し批評を募集してみようと思います。