ある掃除屋の話

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 お前。特撮モノって見た事あるか?
 ある?だろ。世界を壊す悪い怪獣をヒーローが倒すアレだ。俺だって子供の頃夢中になって見た。

 なあ、お前ってさ、でっかい怪獣やヒーローが壊した街を、誰が片付けてるのか考えたことあるか。
 ええ何、ない?そうだよな。当たり前だ。怪獣が来て、ヒーローが来て、倒せば終わりだ。みんな笑って終わりだ。翌週はまた街は綺麗になってる。
 
 …何、質問に大した意味はない。
 ただ、俺が担ってるのは、ヒーローへの協力か、犯罪の片棒か、時々わからなくなることがあるってだけだ。
 


 

 俺の仕事は掃除屋だ。
 …あんまり邪推するな。文字通りの掃除だよ。雑巾とモップで物を片付けるアレだ。

 掃除の仕事にも色々あるだろ。公共施設で床磨いてる奴もいるし、家に行って掃除代行してる奴もいる。ちょっと違うやつだと、スカイツリーで窓磨くのとかあるらしいな。高所恐怖症には無理だろ、それ。
 俺の"掃除"はちょっと特殊なやつだった。…さっきの言葉は本当だよ、物騒なのじゃない。命の危険はあるけどな。
 

 「財団」って知ってるか?
 知ってる?まあ、風の噂で名前だけなら一度は聞いた事あるかもしれねえな。その財団だよ。
 よくチンケな陰謀論とかで名前見かけるだろ。政府と繋がって世界を想うまま動かしてる連中だと───従わねえ奴は綺麗に消しちまうんだそうだ。おっかねえなあ。

 で、その"従わない連中"を"消した"後に出てくるのが俺たちだ。

 お前、人殺したら死体が煙のように綺麗に消えるとでも思ったのか?
 殺人事件でもよくあるだろ、死体の置き場所に困るっていう描写。人間って案外でかいし、重いし、腐ると匂いがきついし、単に見た目が気持ち悪くなる。動かす意思が抜ければ、人間なんぞただの肉塊だ。
 

 何微妙な顔してるんだよ。
 ───何、お前財団について良く知ってるのか?…あ?奴らが相手取るバケモノも?
 そうか、なら話が早いな。俺も変に誤魔化して、あらぬ誤解を生まずに済む。
 
 ───俺がやってたのはな。そんな、どこぞのサスペンス漫画とかに出てきそうな仕事じゃねえ。
 もっと生々しくて汚い、人間の死骸の片付けだ。あと、人間じゃねえし理解もできねえバケモノ共との付き合い。
 

 俺の主な仕事はな、奴らが「Dクラス」とか「エージェント」とか呼ぶ人間の死体の処理だった。
 俺もあんまり詳しくは聞いてねえんだけどな、Dクラスは大方が元死刑囚とか、格下げされた職員とか、他の敵対組織の連中なんだと。

 「人類を守る」なんてお題目掲げてるが、実際は明確に命の線引きして、生きる価値がないとされた奴を、こうして体よく処理してる訳だ。
 笑っちまうな。殺しに大義名分なんかねえよ。他の命の価値勝手に決めて、自分の権限で奪った時点で、犯罪者とそう変わりはねえ。
 

 連中は、財団が相手にしてるバケモノを捕まえに行ったり、研究のための実験台になったり、同じバケモノと別のやり方で関わる敵対組織との戦争に使われてた。大体、二番目と三番目の奴の死体を片付けるのが、俺の主な役割だ。

 一応言っとくとな、そこらのスプラッタ映画より酷い光景だぞ。特にDクラス使った実験の死体は。
 関節がありえねえ方向に曲がってるとか、内臓ぶち撒けられてるとか、肌があらぬ色に変わってるとか、そういうのはまだいい…人の形してるのはまだ良いんだ。他の人間とパーツが無理やりくっついてたり、体の一部もしくは全部がありえない形になってたり───もう原型なんてねえ、ただのぐちゃぐちゃの肉の塊になってたりな。
 

 ───意外に平気そうな顔してんな。何?そういうヤツはわりかし見てきた?
 はは、まだ若いのによ。俺はお前の人生が心配だ。
 

 話を元に戻すぞ。
 そうだ───俺は、最初はもう最悪の気分だった。嫌だった。仕事場入って、そこで胃の中身全部戻しちまって、自分で仕事増やした事だって一度や二度じゃない。

 凄惨だった。地獄のような様相だ。

 ただ人間の防御力って案外強いんだな。精神を守るために「慣れ」という制御装置が働いた俺は、しばらくしたら───それでも数ヶ月はもう嫌悪でいっぱいだったが───慣れちまった。何も考えなくなった。

 酷いもんだ。アレはもう人間の所業じゃねえ。
 あんな事できる財団の連中がよっぽどバケモンだって俺はずっと思ってたし、今でも思ってるよ。狂ってる。
 でも心が麻痺してくるんだ。狂ってんの知りながら、その狂気に呑まれつつある自分がいる。目の前の現実に、何も考えなくなる自分がいる。
 

 選別されて消えるのがDクラス。ただな、志願して危険に突っ込む馬鹿もいるんだ。エージェントって奴だな。
 こっちのは、まあ大抵、財団外で出る死体を片付けるんだが───俺は、あまりこの仕事はやってなかった。ただ、基本的に人員はいねえ。駆り出されることもよくあったな。

 エージェントだってめちゃくちゃだぞ。訳の分からないバケモノを調べて、時には捕まえるために戦うんだ。こいつらは死体が上がらない。上がったって酷いもんだよ。顔も体もぐちゃぐちゃで、形があったって大抵はひどい死に様だ。誰が誰なんて特定する気にもならねえ。
 何も分からないバケモノと戦うんだ、最善を尽くしたって死ぬ時は死ぬ。
 行方不明扱いで、ろくに葬式も挙げられず野垂れ死だ。
 

 ───ああ、それはまだ良いかもしれねえな。バケモノと戦う財団の理念に通ってる。
 酷いのはな、財団と敵対する連中との戦争に駆り出された奴らだよ。

 人類を脅かすバケモノと戦うために来た、人間と戦うために来た訳じゃねえのにな。
 銃で撃ち合って、刃物で傷つけあって、爆弾で何もかも吹き飛ばして、最後は敵も味方も区別なんかつかねえ。同じように、血溜まりの中冷たくなってくんだ。自分たちの誇りのためにな。
 

 Dクラスの実験室と、敵組織との交戦、掃除内容は大体同じだが一つ大きな違いがある。
 何か?後者は、生存率が極端に下がるんだ。殉職ってやつだな。

 財団の敵組織の連中、自分からバケモノを作りやがる。
 支部の人間を消してもな、案外残ってんだよ。バケモノが。

 暗い廊下、血溜まりの地下室、薬品がぶち撒けられた実験室───虎視淡々とこちらを狙う奴も、もしくはただソコにいるだけの奴も、全部一緒くたに混じって、檻も鎖も壊されて、手綱を握る製作者なんていない状況で、みんな存在する。直接人間を襲うか、間接的にこちらに被害をもたらすかの違いだ。

 バケモノ見つけたら、すぐ財団に連絡してそこから逃げるんだけどよ。

 …ただなあ、やっぱ、バケモノはバケモノだ。
 俺たち一般的が考えられる知恵で、道具で、力で、とてもじゃねえけど太刀打ちできねえ。
 

 危険なのが嫌なら、Dクラスの掃除だけすれば良かった?
 言いたいことはわかるがな、職業選択は個人の自由だ。個人の責任とも言うな。

 あまり大きな声じゃ言えねえけどな、大抵の仕事って"枠"があるだろ。
 特にこんな、あまり大っぴらに言えない仕事は、枠も狭くなる。───財団の奴ら、周りから自分たちを隠すことは一流だからな。選別の末入れるんだって、上のやつがひとりごちてたよ。

 まあ、大抵、枠の人数はギリギリだ。一人につき仕事一つじゃ、到底回せない。
 もっと別のこともやらんかって、上から俺が誘われたという訳だ。
 

 はは、酷い仕事だろ。
 財団の中でだって、Dクラスと並んで嫌われてる。

 ドラマとか見てもよ、死体の描写に生温さを感じちまうようになるんだ。
 テレビの事件報道で、布に覆われた肉塊の中がどうなってるのか、鮮明に想像できるようになっちまった。

 嫌な光景に吐かなくなって、酷い悪臭を感じなくなって、残虐な行為に何も考えなくなった。
 多分自分が世間でいう「ロクでもない人間」になるのを感じながら、それでも俺はこうして太々しく生きて、ずっとこの仕事を続けてる。
 

 なんでそうなる前に辞めなかったか?おいお前、冷静に考えりゃすぐわかるだろ。金だよ金。
 この仕事始めたばかりの時の俺はな、とにかく金に困ってた。明日生きるにもこと欠く有様だったんだ。

 給料の高さと「週休制」に惹かれて何も考えず応募したが、やっぱ世の中そう甘い話ある訳ねえな。
 訳の分からねえ誓約書書かされて、親への連絡断たれて───いや?俺の親はもうずっと昔に仏さんだ。一人暮らしになってから、ろくに連絡もしてない親不孝だ。
 
 まあ、そこら辺も評価されたらしいんだがな。
 ほら…こんな仕事してると、周りへの言い訳とか色々面倒だろ。
 

 初めての給料日の衝撃は忘れられねえ。
 封筒の厚み、重みは今でも覚えてる。

 一週間。一週間だ。一週間生き残れば、俺たち庶民が考える最高のひと時が楽しめる。
 好きなだけ美味い飯を食って、好きなだけ美味い酒飲んで、好きなだけ綺麗な女と遊ぶんだ。金があればみんなちやほやしてくれるし、黙ってたって人が寄ってきて、言うこと聞いてくれるからな。
 
 最高の愉悦だ。俺は生き残った!っていう優越感と共にな、精一杯人生楽しむんだよ。
 あと一週間生きられるか。でも、あと一週間生き残ったら、次はもっとすごい事しよう───なんて考えながら。

 
 …それでも、俺だって一応人の心持ってるんでな。
 仕事帰りに気が向いたらこうして、寺で少し拝んでから帰るんだよ。

 それがな、俺がまるでモノみたいに片付けてる命の残骸への懺悔になるかな、なんて甘い期待を抱きながらな。
 


 

 ───はは。辛気臭い話だ。つまんねえだろ。
 何、面白かった?お前さん本気で物好きだな。こんなしみったれたオッサンの話、大真面目に聞いてよ。

 ───なんだよ。何怖い顔してんだ。
 俺が財団を知りすぎた?ははは、そんなことか。
 財団にとっては大切なこと?そうかよ。そう怒るな。

 だから、とりあえずそのペンらしきもの下ろせ。

 俺もまあ、何度か使ったことあるからわかるけどな。
 いつから気付いてたか?うーん、話の中盤あたりで、だな。
 お前から、同じ匂いがしたんだよ。命投げ出して世界を守ろうとした、若くて強くて馬鹿な奴らの死体と同じ匂いが。
 

 どこまで話していいのか、悩んだんだけどな。
 お前さんが財団知ってるなんて言うから、ついつい、深くまで喋りすぎちまった。
 

 俺な、財団に関わりすぎたんだとよ。
 今更そんな、チンケな道具一本で吹き飛ばせるような記憶の量じゃねえんだそうだ。この間の仕事が終わった時に言われた。

 …オイオイ、まさか、俺みたいな奴がずっとこんな仕事してると思ったのか?
 冗談じゃねえ。そんな事は嫌だし、そもそも財団の方だって願い下げだろう。…一人の人間をあんまり長く関わらせると、俺みたいな奴が出てきちまうからな。
 
 そうだ。
 次で終わりなんだよ、この仕事。
 
 思えば結構やったなあ。俺も。
 なんでずっといられたか?俺が一度豪遊の味覚えちまって、何度も食い下がったんだ。
 まあ、俺も結構掃除が上手くなったし、誰にも言わねえって約束も誠心誠意守ってきた。そこらへんの勤務態度が有用だってんで、財団も大目に見てくれてたんだろうな。
 

 ───ここまで言っといて何だけどな。
 お前が財団職員だって、記憶処理のソレ取り出すまで確証持てなかったんだぞ。
 
 ええ何、…ああ、お前から死と血の匂いがしたってのは、本当だ。
 まあそもそも、こんな寂れた寺の片隅の墓に、わざわざそんな綺麗な花持って来る奴なんて、大方訳ありだろうとは思うわな。

 ここいらの地域管轄の職員は、この墓にいる?ああ、知ってるぞ。俺が死体片付けてるからな。
 骨なんてねえ。この中は空っぽだ。
 だがな、お前さんとか俺みたいな奴には、こういうかたちあるものがあった方が、気持ち的には楽なんだよな。
 財団もそう思ってるんだろう。

 ───まあ俺は、どこまでやってるか知らねえが。
 もしかして、中身がないのをまとめてとはいえ、寺に弔ってやってるのも、ここの場所だけなのかもしれねえな。
 ま、それは俺が気にすることじゃねえ。
 俺はここらでしか働かねえし、財団の奴らの気持ちなんてわかりたくもねえからな。
 

 俺はもう線香あげたから、今日は帰らしてもらうぞ。
 おいおい、何泣きそうな顔してんだ。───何、たった今、友人が死んだってこと実感した?
 うーんまあ、気持ちはわからなくもねえが、俺の前で泣き出すこともねえだろ…。

 ああおい、服で目擦るな。俺はもう行くから、ここで好きなだけ泣いておけ。
 他人一人が泣くほど悲しんでもらえる、それだけ思い出があって、それだけ思ってもらってるってのは、そのご友人さんとやらにとって良いことだ。

 死んだ奴思って、思い出に浸って、悲しんで涙を流す。涙が枯れたら、また前へ進む。
 それがまあ、一番の弔いになる───はずだ。

 ぐちゃぐちゃに一緒くたに閉じ込められた墓地でも、中身なんてない墓でも、体がゴミみてえに捨てられてても。
 大事なのは、人間のオモイ。ってやつだからな。
 ───まあ、今だけでもそう思おうや。
 

 今度こそ、俺は行かせてもらうぞ。
 ───あまりにも知りすぎた俺の処遇?うーん、わかんねえなあ…。

 運がよけりゃそのまま解雇だが、まあそう甘っちょろいとこでもないことは知ってるからなあ。
 ただ、俺はただの一般人だ。───そして、財団てとこは、怖いくらいに、自分とこの人間と関係ない人間の区別をつけてる。まあ、悪いようにはなんねえだろう。

 その手に持ったヤツを、今すぐ自分に向けるか、それともそのまましまうかはお前さんの自由だ。
 俺も気持ちの整理がついた。これからは、命の危険なんてない場所で、慎ましく暮らしてくよ。

 ───豪遊なんて言ったがな。贅沢って案外、飽きるぞ。
 それこそ贅沢な悩みかもしれねえがな。感覚が麻痺してきて、自分の危険とこの額が釣り合ってるのかわかんなくなってきて、そのうち金で買うモノも時間も空虚に思えてくるんだ。
 でな、まあ、微妙に余った分は貯金に回した。
 国からの手当てもある。まあ、身内も居ねえ、余命いくばかの独り身だ。それだけで生きてけるだろ。
 

 今日はあんがとな、兄ちゃん。
 お前さんも、俺みたいな奴に片付けられるゴミにならねえよう、せいぜい自分の命を大事にするこったな。
 


 
 
 
 
 
 
「こんにちは、エージェントさん」
「…財団職員では…ないようですね」
 

 あの掃除屋と別れてから、二週間と少しの日が経った。

 財団からの任務を遂行し、全てが終わった現場。
 処理のやり残しはないかと訪れてみると、何人かの人間が、袋を片手にうろついていた。

「あなた方みたいなのは知っていますよ。───掃除屋、でしょう。」
「よくお分かりで。…まあ、この仕事、財団の中でもそれなりに知られているようですしね。」

 疲労の滲んだ顔をした、二十代ほどの男が、色のない笑みを浮かべた。

「私が掃除をするのは今回が初めてなのですが、…まあ、派手にやってくれましたね。」
「今回は色々と面倒だったのです。あなた方にはご迷惑をおかけしますが、仕事だと思って諦めてください。」
「ええ、もちろん。すぐに慣れると思いますよ。…慣れなきゃやってけない。」

 男が溶けるようなため息をつく。

「私がここに入れた理由、"ひと枠空いた"から、らしいのですが。前任者のこと、何かご存知ですか。」
「さあ…掃除屋のことは、そこまで詳しくは。」

 私の脳裏に、一人の影が蘇り、そして消えていく。

「先週、1人いなくなったらしくて。結構ベテランで、財団も重きを置いてたらしいのですが。残念ですねえ。まあ、そのお陰で私は今ここにいられる訳ですが。」
「…見当がつきませんね。なんせ掃除屋の詳細など我々に知らされていません。」
「そうですか。まあ、つい1週間かそこらに空いて、俺が雇用されたのも結構急だったらしいですし…うん、気にしないでおきましょう。───ありがとうございました、エージェントさん。もう二度と、こうして言葉を交わす事はないでしょうが。」

 軽く頭を下げた男が、再び自分の仕事に戻っていった。
 

 前任者の事なんて、本当に見当もつかない。
 ただこんな風に、特に何の思考もなく、自分の事をペラペラと話すこの男は、守秘が義務のこの仕事にそこまで向いてないのかもしれない、と思った。
 
 そして、きっとこの地域のどこかにいるであろう、あの掃除屋の事を思った。

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ページ情報

執筆者: Taga49
文字数: 7065
リビジョン数: 34
批評コメント: 2

最終更新: 08 Aug 2020 13:43
最終コメント: 14 Aug 2020 08:48 by Taga49

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