企画書

概要

■有給潰されて誘拐されたアイランズの話
 友人と同じ顔をした男と一緒にいる一週間
・自分の正体は誘拐されてる時間の中で見抜けと言われる
・誘拐犯を「対話」の相手とし、一緒にいるアイランズ
→最終的に「友人」になる ここらへんに至る説得力は丁寧に持たせていきたい

二枚とも割れた鏡を前にする自分を肯定できるか
何者でもない自分を許せるのかという話
自分の[鏡]が割れた時、それでもそこに残ったもの、まだ大切にしていたいと思ったものを、きっと人は[信条]などと呼ぶ
(何もかもなくなった谷崎にとっての「星」のようなもの アイランズと谷崎は荒野の地平に立つ人間という共通点がある?)

解決はできない、未だ矛盾は飲み込めない、答えはきっともうしばらく見つからない
それでも、同じ感情を共有できる相手がいることは確かに救いになる
 
大事なこと:アイランズは別に椿に好意持ってない

え!?好意を持ってはないけどそれはそうとして友人とは呼ぶんですか!?
→それができる関係性 アイランズ自身が望んだ付き合い方

常に求められた姿で在り続ける人間と、それを何が何でも否定したい人間
・子供の頃の経験から、常に「求められた人間」であろうとするアイランズ
→いつでも誰かに必要とされていたいという思い
・誘拐犯は、「そうであれと求められたこと」「それであるため必要なこと」みたいなものを全部否定したがりながら生きている
→それでも、彼の存在意義は外的要因に委ねられている。本人はそれに嫌悪感がある
 

■アイランズから見た応神と谷崎、アイランズの想定外の応神と谷崎
 彼が思っているより二人はアイランズのことを大切にしている
・犯人の捕縛とかそこらへん全部カットして、アイランズの捜索と救出のみに焦点を当てた計画を立てている
・「一ヶ月は隠れられるだろう」「せいぜい一週間ですね」→五日で来た

応神は彼のことを友人だと思っているし、谷崎はその人のことを共犯者などと呼ぶ
・自分たちよりも誘拐犯を選ばれたことがショックな応神、想定通りではあるけどちょっとイラついてる谷崎
・谷崎はアイランズの本質にある虚無に気づいてるし、そんな彼がこれからどんな言葉を得て、どのような選択をし、どの道を歩くのか楽しみに眺めている節がある
・応神はアイランズから信頼されてないことに薄々気づいてるけど、それはまあ自分が信頼されるほど力をつければ済む話だと考えている
 

登場人物設定

ジョシュア・アイランズ: せっかく取った有給を変な誘拐犯に潰された。
人間に興味があり、人が好きだが、個々人に興味がない。人間観察による人間性対応テンプレで最適な付き合い方を導き出してる。自分に矢印は向いていないが、自分のことを否定しない。この話をきっかけに、自分と自分の思考に対する誠実さを考えるようになる。

椿(誉田 椿熙):誘拐した人。応神の親族。応神薙に瓜二つの顔をしてる。
自分が生きていく理由が他人由来のものしかないことに対し憤りをおぼえている。最初はアイランズの信条が聞きたくて拐ったが、やがてそれが作られたものであることを悟り、なんとか彼を否定したいと感じるようになった。
自分を含めた全てを疑って生きている。また、応神家を暴力性の象徴だと思ってる。根にあるのは善性。
 

概念の話

誉田椿熙にとっての応神家
神に応える家。それぞれが自分にとって従うべき「太陽」を持って生きてる。
「何物かに望まれないと生きていけない」人間たちのことを椿熙は軽蔑していた。でも、応神薙を知ったことにより、彼らはあくまで自分の意志で付き従っているし、太陽を何とするかの自由はあるし、自由がある上で頭を下げているのだと気づいた。ある意味でものすごく意思が強固だし自我が強いし、自分の決断に対して責任を取り続けて生きている。
財団によって牙を取られたのではなく、自分から牙を差し出した一族。

底のない海
アイランズにとっての自身の後ろめたさの象徴。
大学や財団でいろいろな人と出会い経験を積むことにより、灰色だった景色に色をつけていっても、精神の底ではまだ故郷から足を踏み出せずに生きている。
「人が望むような自分でいること」「人を信じることを諦めること」みたいな思考の辿り着く先。伝えることを諦めた言葉の墓場。
 

ストーリーライン

一日目:状況説明
なぜかアイランズの髪を切る椿。毒の話を印象付ける。
まずいインスタントコーヒーには砂糖四つ。

二日目:少しづつ相手を知り得ていく
人間が生きるために必要な物買う。
「白コート似合わないですよ」「お気に入りなんだ」(血で汚すのに罪悪感持たせる うれしい!)
その日の夜、なんで攫ったのか聞くアイランズ。

三日目:「対話をする相手」判定を下すアイランズ
場所を移動。映画見にいく。知り合い(元カノ)の話ちょっとする。

四日目:問題の提示 過去と不信と矛盾の話
喫茶店に行く。過去回想とか入れる。
弱いところを突かれる コンプレックスの塊であるがゆえ、暴かれたくないことを突かれた人間の挙動を知ってる椿
会話デッキの残り手札が一枚までになる

五日目:襲撃と選択
場所を移動。
椿の髪紐が切れたので買いに行く。鷺のかんざしにお金を出すアイランズ。代わりに酒を買えと言う。
酒屋でお酒買った時に応神谷崎が凸ってくる。
応神が撃った呪い入りの弾丸をまともに受けるアイランズ。それでも「まだ対話は終わってない」と椿を選ぶ。
「あれは応神の使う呪いだ。おれなら解ける」(椿が応神関連の人間である?ということへの答え)

幕間:応神谷崎
この五日間で何があったのかという話
アイランズが自分たちより誘拐犯を選んだことがショックな応神
谷崎とアイランズの過去回想(共犯者たる所以)
「彼は初めて本当の意味で自己を理解しようとしているんだよ」

六日目:対話RTA
いつ別れが来るかわからない 話をしましょうと持ちかけるアイランズ
居場所は完全にバレてるのでなりふり構わない限界逃避行
最後の一枚を切る 本心から出てきたのは「どうして誰も彼も私の話を聞いてくれないんですか」

七日目:解答
わからん 書きながら二人と一緒に答えを見つけます
 

—ここから目次に載せないやつ—

 
十日目:帰ってきたアイランズ
犯人との会話から犯人が使った術まで事細かに報告を求められる
応神「もう少し信用してくれてもよかったのに」
彼らとはもう元のような関係にはなれないことを悟っているアイランズ。それに少し楽しそうな顔をしている谷崎。
応神「次は確実に息の根止める」

一ヶ月後:「誉田椿熙」の話
喫茶店で一人で回想
人生で初めて友人ができてうれしい椿熙
 

ページ遷移

 
2019年4月。戦闘を終えボロボロの応神、その前には死体となった椿熙(死因:自殺)
椿熙の死体に寄るアイランズ。コートが汚れるのも構わず膝をつく。
死体の目を閉じさせ、少しの躊躇いのあと髪からかんざしを引き抜きハンカチで包んでポケットにしまう。いつの間にか横に立っている応神。アイランズが死体を持ち上げようとすると皮一枚繋がっていた首がツバキのように落ちて転がっていく。息を呑むが誰も声は出さない。
帰りましょう、応神薙。と呟いて立ち上がるアイランズ(五日目に応神が言った「帰ろう、アイランズさん」への返事)
歩き去る時に振り向くかどうかは書く時決める
 

 

創作メモ

・とりあえずアイランズの自我の話がしたい その過程においてアネクドートへの解に触れたい

・目次の「七日目」アイランズの「七日で来る」という言葉で、七日で凸られると読者に思わせておく
→幕間で「これもっと早く来るじゃん!」となってもらう
・四日目の最後「また明日」言わせておく(明日があると思ってんだ〜!ニコニコ)

・十日目と一ヶ月後 それぞれ、応神谷崎と椿熙の話
→報告書作成に追われるアイランズ PoI認定される椿熙
 応神からの「もっと信頼してくれてもよかった」
→一ヶ月後、ふたたび喫茶店に来る椿熙 店主「今日は一人なのね」
 アイランズとの邂逅の回想やら、犯人目線の七日間の話やら

・回想は基本的に「◯年前」
 
 


 

プロット

 

1日目

誘拐されるアイランズ
古くて狭くて物が無いアパートに連れ去られる
クソマズインスタントコーヒー

評価:
 

目が覚めた時、手首を縄で縛り付けられる経験は人生で三度目だった。

 
ふと目が覚めると見知らぬアパートにいたアイランズ。椅子に座らされており、手首は椅子の背に括られている。目が覚めた瞬間短刀が首筋に当たっている。驚きとか恐怖よりも先に、自分の髪の毛が切られる音が耳元で聞こえる。金属の冷たさに身震いするアイランズ。犯人と思しき男は髪の毛一房を袋に入れてコートのポケットに仕舞う。

黒く長い髪を緋色の紐で括り、持て余したような長身に白コートを纏っている。その顔が友人と瓜二つであることに息を呑むアイランズ。「見覚えがあるか?そうだろうな」ただし雰囲気や表情のつくりはまったく違う。

誘拐?犯人の心当たりは多すぎる、みたいな感じで冷静に分析(攫われ慣れてるので)。それでも、髪の毛を切るという奇妙な行為になんとなく呪術のたぐいの気配を感じるアイランズ。
せっかくの休日だったのに、とがっかりしつつ、まずは財団への連絡手段を検討。そしたら「隠匿の術式をかけてるので発見に一ヶ月はかかる」と言う男。「一週間ですね」と返す。応神谷崎の、既読のつかないメッセージに対する不審が警戒に変わるまで二日。大阪から東京に戻ってくるまで半日、その日のうちに作戦会議を始め、場所を突き止めるまで三日。次の日に出撃するから一週間。
「あらゆる申請だの報告だのを最小限に済ませた上で──普通なら八日はかかるかもしれませんが、まあ彼らなら七日で来るでしょうね」「大層な信頼だな」「ええ、それなりの付き合いですし」
怪訝さを噛み殺して冷静な態度を保つアイランズ。彼に対して取るべき最適な態度を思考している。
 

あまり手酷いことはしたくない、傷つけたくないという犯人。抵抗する意思はないことを伝えるアイランズ。縄が解かれる。椅子から立ち上がることは許されていない。男に気づかれないよう、部屋の隅に置かれた日本刀を一瞥する。いざとなったらこれが躊躇いなく抜ける人間であることを肌で感じているアイランズ。
もてなしたいがこれしかなかったと言って出されたインスタントコーヒー。男を一瞥してから躊躇いなく口をつける。
 

「随分あっさり飲むんだな」
「ええ、まあ」
「毒が仕込んであるのかなんて疑わないのか」
「ここで毒を入れる人間かどうか見分けられるくらいには場数踏んでるんですよ」

 
一口飲んでものすごく嫌な顔をする。賞味期限が一年切れたインスタント。内心の怒りを抑えてカップを置く。「まさか砂糖がないとは言わないですよね」「あったはずだ。何個入れる?」「四つで」「甘いのが好きなのか」「ええ、まあ」
 

アイランズの視線が刀の方に向かっていることに気づく男。「気になるか」「それはまあ」「安心しろ。まだ斬るつもりはない」まだ、という言葉はあまりにもなめらかな語調で滑り落ちてきていた。内心の色々をコーヒーと一緒に飲み込むアイランズ。

「ところで、どうして私を誘拐したのでしょう」「それは別に今言わなくても対して差し支えはない。お前の職場にも、あらゆる知人にも関係のないことだ」「そうですか」「一週間だな。ならば、お前を一週間おれの元に拘束する。再三言うが傷つけたくないんだ。あまり下手はしてくれるな、アイランズ」「なんで名前知ってるんですか」「お前は外部に名前を明かす仕事をしてるだろう?」

一週間の奇妙な同居が決まった二人。男に対し何と呼べばいいか聞くアイランズ。男は少し考える。「椿、とでも」
 

状況を把握し落ち着いてきたところで、部屋の中に寝具も食材もないことに気づいたアイランズ。「なるべく不便はさせたくない。必要なものがあるなら明日買う」という椿。
「なんで私をそんな大事にするんですか」「別におれは悪意で拐った訳じゃない。お前がおれの目的さえ果たしてくれれば、それ以外はお前に尽くすことを厭わん」「だからその目的を聞いてるんですか」「……夜のうちに答えを出しておく。今日はもう寝ろ」

ベッドどころかブランケットすらない。どこでも寝られるのが私の長所ですと言って、着てたコートを掛け布団代わりに床に転がるアイランズ。寒い、と呟くもののすぐ寝落ちる。少し考えて自分のコートをアイランズにかける椿。壁にもたれて目を閉じるが意識はまだ手元にある。
 


 

2日目

ショッピングモールで買い物
なんで拐ったのかという話

評価:
 

物音で目が覚めるアイランズ。時間を見ようとスマホを探すがどこにもない。「邪魔だから破壊させてもらった」ここが誘拐先であることを思い出す。朝食はコンビニのパン。
「結局貴方は何がしたいんですか?」「話がしたい」「話」「そのためにあの二人は邪魔だった」そう言われて、今は大阪にいるであろう応神谷崎のことを思い出す。「私に何を求めているんですか」「何も求められていない姿を」
おれの言葉の意味もそのうちわかるだろう、と言ってゴミを片付ける椿。なんとなくそこに育ちのよさみたいなものを感じるアイランズ。
 

移動は歩き。だいたい30分くらい「車は?」「ない。嫌いなんだ」
「私とどんな話がしたいんですか」「お前はどうして財団にいるのか」少し言葉を選ぶように答える椿。言ってから考え直すように付け加える。「お前はどうして──そういう生き方をしているのか」
一瞬の動揺を悟られないよう、ため息に見せかけ息を吐くアイランズ。「私は貴方のことを存じ上げないのですが。私のことをどこで知ったのですか?」「おれがどこでお前のことを知ろうが、お前には関係のない話だ」本当に興味がなさそうに答える椿。
 

「何がほしい?少しなら用意する」「私の財布は?」「おれが預かってる。脱出の資金にされても困るしな」そう言う割には、逃げられることをまるで警戒していないような態度の椿。それでも、今自分が後ろを振り返ってここから走り出しても、彼からは決して逃げられないだろうという実感がある。そして、それは彼に対する裏切りとみなされるということも。
誘拐というかなり荒っぽい手段を取られたとはいえ、向こうはまだこちらに敵意を向けてはいない。目的も、理解はしがたくとも物騒なものではない。自分はまだ裏切られてはおらず、暴力を向けられていない。ひとまず彼の誠意(らしきもの)を素直に受け取ろうと思うアイランズ。

とりあえず服屋へ。一週間ならせめて上下もうひと揃えずつほしいと言って服を物色する。
「貴方も何か買いなさい。その白コート似合ってないですよ」「おれは別にいいだろう。気に入ってるんだ」「選んでさしあげます。好きな色とかそういうものを教えてください」「……白」「はい」

次に向かったのはスーパー。ここに滞在するのは何日かと聞くと「夜には立つ」と帰ってきたので、今日分の食事を考えるアイランズ。ついでにちょっといいインスタントコーヒーも買う(わざわざコーヒーを選んだのは椿へのあてつけと、「仕事」が抜けないアイランズの無意識の選択)。
 

*

 
帰り道。歩きながらふと口を開く椿。
「おれが知りたいのはお前の話だ。お前はどうして、そのように生きられるのか。生きているのか。理性と、誠実と、信頼──お前を形作るもの。もしくは、そのように思わせているもの」
「思わせる、などということはありません。私はそれらを信条としています」
どこまでわかっているのだろう、と思考を巡らせるアイランズ。椿の言葉には本人が持つ確信が揺らいでいる、未だ彼自身も迷っているような響きがあるが、アイランズの傷口をふたたび広げるには十分すぎる。
「それは信じる。自分で確信を持っていなければ、お前はこんな仕事をし得ないだろう」
「ではなぜ、それを疑うのですか」
「理性と誠実と信頼、──だけで渡り合えるほど、この世界が甘くないことを知っているからだ」
 

夕飯には買ってきたものでアイランズが料理する。「慣れてるな」「最低限生活はできるよう教えられてきたので」「誰に?」「……伯母です」露骨に言及を避けるアイランズ。無言で目を眇める椿。結局この話はこれ以上語られることのないまま一日が終わる。
 

3日目

場所を移動。その先で映画見にいく。
知り合い(元カノ)の話ちょっとする。
なんか火力 ここで ほしい フック

評価:
 

回想:谷崎とアイランズ
   人間への興味と会話デッキの話
 

気づいたら見慣れない場所にいたアイランズ。相変わらず殺風景な部屋。「いつの間に移動したんですか」「存在に罪悪がある身でな。あまり一箇所に留まれない」ちゃんと買ったものは持ってきたと言う椿。
朝食は昨日買ったパンに冷凍ハンバーグ挟んだもの。コーヒーはあらかじめ椿が淹れている。谷崎のお茶とおやつが恋しくなるアイランズ。

バスに乗って映画館に行く。知り合いと昔見に行った映画と同じ監督の最新作だと言う椿。あんまり混んでない映画館。椿にチケット代とドリンク代を払わせるアイランズ。少し悩んで、パンフレットは買わないまま注文を完了する。映画なんて久々だと言う椿。映画館が久々なのはアイランズも同じ。スマホの電源を切ろうとポケットに手を入れたところで、電源を切る電子機器がどこにもないことに気づく。隣の椿は涼しい顔でドリンクに口をつけている。ため息を溶かすように映画館の照明が消える。
 

*

 
映画の終わり。現実世界と映画の世界の間のような、空想から引き離されたあとの少しのまどろみのような時間が結構好きなアイランズ(ここ何かしら文脈の含み持たせたい)。
そのまま映画館隣のカフェに行く。季節のフルーツケーキと紅茶のセット(税込1150円)を頼み、紅茶にシロップとミルクを付けるアイランズ。甘党だな、と言いながら自分はブラックのコーヒーとアップルパイを頼む椿。映画を見た後、好きなものを食べながら映画の感想を言い合うのが定例だったと言う。アップルパイはその人が好きなものだったと。

「よほどその人のことを大切になさってたのですね」紅茶を啜るアイランズの方を見る椿。「恋仲であった方……とかでしょうか」「……そうだ」目が泳ぐ椿。「別れた恋人との逢瀬の時間を取り戻したいがために私を連れ回しているのですか」「別れたとは言ってないだろう」「その方とお付き合いされていた時期は?」「……高校時代」気まずいのをごまかすようにパイを切る椿。「お前とて忘れられない人間の一人くらいいるだろう」「忘れたくても忘れられなさそうな人間は──二名ほど心当たりが」
「私の話を聞きたければ、まずは貴方の話をすべきです。対話とは対の話と書くんですよ。貴方が言葉を伝えてくれなければ対話にならない」「対話か」少し何か言いたげな顔をし、コーヒーを一口飲む椿。苦かったのか、少し眉を寄せてからカップを置く。「それもそうだな」

「映画はどうでした?」「……つまらなかった」それに対しアイランズも同意する。そもそもこれは二人が好きなたぐいの映画ではない。人が死なず、二人にとってはあくびの出るような「事件」が起き、主人公の身近な人たちが変わっていって、最後はみんなで笑えるようになるハッピーエンド。「それでもあれは、治安の悪い男が銃撃戦やる映画の合間にこういう平和な映画を観たがった」コーヒーに角砂糖を一つだけ入れた椿が呟く。「つまらないねと言いながら、それでもそのハッピーエンドを噛み締めるように笑う奴だった」
その口元にほんの少しやわらかな笑みが乗っていることに気づいているアイランズ。無機質な印象があったが、もしかして案外本当に話をする気はあるのかもしれない、と思う。彼の人間らしい面を見て、自分の手元にある対話のデッキを組み直していく。
 

よほど今の自分は疲れているらしい。いつもならば思い出さない、底のない海に目を向けてしまった。

 
ひさびさに故郷の夢を見るアイランズ。
夜中に目が覚め、ゆっくりと起き上がると椿が壁にもたれている。人の動く気配を察し無言で目を開ける椿。
「横にならないのですか」「必要ない」ここで、椿がコートを着ていないことに気づくアイランズ。ふと自分の手元を見るとそこにはもはや見慣れた白コートが布団のごとく自分にかけてある。無言で椿を見るアイランズ。目を逸らす椿。
 


 

4日目

問題の提示 過去と不信と矛盾の話
喫茶店に行く。過去回想とか入れる。
 
評価:1
 

椿が前言ったことあるらしい喫茶店に行く。シェアができるクソデカパンケーキが有名な店。
チョコのパンケーキ、ドリンクにそれぞれアールグレイとコーヒー頼む。
知り合いもとい元恋人がお気に入りだった店。もう何も思わないアイランズ。

雑談。アイランズの友人たちについて。
会話デッキのカードを引いていくアイランズ、とりとめもない会話をする椿。案外話が通じる人間だとは思ってたが、思ってたより話ができると様子を伺うアイランズ。
ふと椿がごく自然な動作で立ち上がる。立ち上がった、と認識した瞬間刀が自分の首にひたりと当たっている。表情を動かさず椿を見上げるアイランズ。何も気にしない他の客(隠蔽の術)

「お前、常に気を張って生きているだろう」「なぜ」「お前はずっと、己が豪胆であると見せかけているだけだ。ここに来てから、おれに会ってから、ずっと緊張を保ち続けている」眉をひそめるアイランズ。その動作も彼が自身を人間らしく見せるための欺瞞であると椿は見抜いている。「あるいは──それが、お前の生き方そのものか?」
パンケーキが運ばれてくる。ありがとうございます、と言ってトレイを受け取るアイランズ。それをテーブルに置いた後紅茶を注いで一口飲む。

「それをどうして貴方が知りたがるのですか」

言ってから悪手だ、と内心で舌打ちをするアイランズ。かすかに目を見開いた後、今までで一番人間らしい笑顔で笑う椿。「これがお前の欺瞞か」
何も言わずに紅茶を啜るアイランズ。機嫌良さげに椅子に座る椿。パンケーキが取り分けられ、皿の上にクリームが乗せられる。めちゃくちゃおいしいけど小麦がまともに喉を通らない。
刀をしまう椿。それを見つめるアイランズ。

「何をそんなに緊張してる。弁舌がお前の特技だろう。話せばいい、先程のように」
「会話の途中で刃物を持ち出すことが貴方の”対話”のやり方ですか?」
「ここまでしないとお前はぼろを見せないだろう。……おれの好むやり方ではないが」
そう言ってから苦い顔をしてコーヒーを啜る椿。アイランズはそこに椿との対話の糸口を見る。

「生命の危機に直面することすら想定内で、自分は相手を信じていると虚勢を張るか。その生き方は認められるべきだろうが、おれは好かない」
「少なくとも貴方は、私に対して敵意を向けませんでした。害意や、殺意も」
私はそれに応えるだけですと、ケーキを飲み込んで言うアイランズ。
「信頼には信頼。敵対には敵対。貴方はまだ私を裏切っていません」
椿の刃は常に心臓の横にあるが、その刀が動くことはまだない。美しい所作でパンケーキを切り取るアイランズ。

「真摯なんだな。他人に対して」
「こんな話をするために、さまざまなリスクを冒して私を攫ったのですか?」
「言っただろう。おれは話がしたい。──お前を形作るものを知りたいと」
「もう少しわかりやすく言えませんか」
「お前の虚飾を引き剥がしたい」

息を吐き出すように笑う椿。無表情のまま瞬きだけをするアイランズ。

「この三日と──先程の態度でわかった。お前は誠実であり、同時に決してその誠実さに溺れない人間だ」
「……」
「友人、同僚、先輩に後輩──関係性を示す言葉は多々あるが、お前は相手が貼ったそのラベルに忠実に従うことができる」
「他人が望む姿で生きることができる。それは確かにお前の美徳だろう」
それが嫌いだ、と、先程とまるで変わらない声で笑う椿。

「貴方は、私が貴方に対してどのようなラベルを貼っていると考えますか」
「”誘拐犯に大して動じない被害者”こんなところか?」
お前が、おれがお前に暴れられた末、口を封じることになる事態を望んでいないのを知っている。笑う椿。それに対して「半分不正解です」とコーヒーを飲むアイランズ。
「確かに、少し前まではそうでしたとも。ただし、私はそう──”望まれるように生きて”いるのです」

「貴方が対話を望むのなら、私もそのようにします」
椿をまっすぐに見つめ、整った顔で微笑むアイランズ。

「おかわりにコーヒーを頼みますが……貴方も飲みますか?椿」
「いや、おれはいい。……また砂糖四つか」
「砂糖五つ、ミルクひと差しです。──本来なら、砂糖は二つなんですよ。あの苦い液体は、コーヒーとは呼ばないんです」
本当の好みです、と笑う。それには何も返さず、近づいてきた店員を呼び止める椿。

「ならば、おれはその生き方を否定する。そうでなくても生きていけるとお前を納得させ、そしてお前の──何にも望まれていない本心を引き摺り出す」
「時間が許す限りお相手いたしますよ。平行線の議論の折り合いをつけるのは得意なんです」
  

*

 
「対話というのは対の話と書くのだろう。ならば、まずはおれの話をすべきだな」
おかわりのコーヒーを飲みながら、ぽつりと呟く椿。
「おれは話すのが上手くない。慣れてないからな。だから、疑問質問があれば都度聞いてくれ」
「ええ」
パンケーキの最後の一口を飲み込むアイランズ。

「おれはずっと、何者でもない自分が欲しかった。自分の中に自分の存在意義があり、誰に求められてなくても、望まれていなくても、──逆に、誰かを否定するために生きるようなこともせず、ただ、自分は自分であるという確証が欲しかった」
「……」
「おれはおれだけのものだ。誰に必要とされていなくても、それだけあれば生きていける。少なくともおれはそう思う」
それを立証するための力が欲しかった。コーヒーを飲みながら言う椿。アイランズはそれを黙ったまま聞いている。
「他人に人格と思考の主導権を委ねる人間を、おれは軽蔑する。嫌悪する。存在意義が自分の内にない人間がおれは嫌いだ」
「……」

「だから、おれはおれを嫌っている」
視線を落としたまま、妙にはっきりした口調で言う椿。
 

*

 
誉田椿熙の話
彼がどういう人間か
どういう風に生きてきたのか
 

*

 

  


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