氷我記tale覚書 ハービンジャー
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遥か遠くの何処かのソラを、孤独な機械が漂っていた。どこに着くかも、誰に出会うかも分からぬまま、それはいつ終わるとも知れない旅を続ける。
 
 
 
 
 
たったひとつの、小さな声を乗せて。



 
「…………そのため、この計画は極めて重要であり実行する価値のあるものだと考えます。」
 
張り詰めた空気の漂う会議室の中、私 ウィリアム・ブルームはその言葉でプレゼンを締めた。全てを上手く伝えられたかは分からない。連日の業務で荒れた唇を舐め、緊張で乾ききった喉に唾を流し込む。

「私からはこれで以上です。何か質問などはありますでしょうか?」

「……なるほど。君の熱意は良く分かった。」

言い終えると、右前に座る男 O5-5がゆっくりとその口を開いた。

「だが、果たしてその研究がどのように財団の役に立つのかね?異星の、しかももう崩れてしまった技術の研究にどれだけの金がかかると?」

O5-5、二つ名は''企業家 ジ・アントレプレナー''。財団の資金を創出する立場にある彼からの反論は予想出来ていた。

「我々の資金力だって、決して無限という訳では無いのだよ。その残骸以外にも優先すべき研究対象、収容対象は山ほどいる。それに、宇宙産のSCiPはそれだけではないだろう?既に無力化されている物に殊更金をかける程、馬鹿な事は無い筈だが?」

O5-5はまるで小さな子供に言い聞かせるようにそう言った。それに反論しようとした時、

「……お言葉ですが、異星の技術を研究するのは決して無意味な事だとは思いません。我々の理論では到底作れないような機構があるかもしれないのです。投資する価値はあるのでは?」

O5-2 ''庭師ザ・ガーデナー''と呼ばれる女性が答えた。収容よりも研究を重視している彼女からしてみれば、今回の自分の提案は魅力的なものなのだろう。

「''かもしれない''などという不確かな物に莫大な金をつぎ込めと?バカバカしい。そもそも、そこの博士はついこの間SCP-1281への過度の感情移入を理由に懲戒処分を受けたばっかりだ。そんな奴の提案に私情が全く挟まれていないとでも?」

はっ、と小さく鼻で笑いながら言う。センチメンタリズムに払う金は無い、そう言っているようにも聞こえた。

「それとこれとは関係がありません。今話し合うべきはこの研究の有用性です。それすら分からないとは、もうそろそろ引退した方が良いのでは無いですか?」

「……ほう。耄碌ババアが言うじゃないか。」

何故か辺りに剣呑な空気が漂う。周囲の気温が3度ほど低くなったように感じ  

「まあまあ、おふたりとも落ち着いてくださいよ。」

1人の男性が穏やかな口調で間に割って入った。

「今するべきは口喧嘩では無いでしょう?それに、こうして意見が割れた時のために投票があるんじゃないですか。」

民主的にやりましょう、とその男 O5-12は言った。

「それに、このまま話しててもいい案が浮かぶとは思えませんし。  そうですね、10日後辺りにもう一度集まりましょう。SCP-1281についてはそこで決める、よろしいでしょうか?」

彼はにっこりと、底の見えない笑みを浮かべてそう提案した。



「まったく、あの老いぼれ共は何も分かっちゃいない!」

「ちょ、ちょっとブルーム博士、そんな事言っちゃダメですよ!」

会議からの帰り道にブルームは送迎専用車の中でそう吐き捨てた。どこで聞かれてるか分からないんですから、と付き添いで来ていた研究助手が慌てて言葉を遮る。

「こんな状況なら言いたくもなるだろ。ったく……」

助手はまだ何か言いたげだったが、珍しく荒れている上司を見て怒りの矛先が自分に向くことを恐れたのかそれ以上は言い返さなかった。代わりに、先程連絡員らしき男に頼まれた伝言をブルームに伝える。

「そうだ、博士。さっき伝言を預かったんですけれども。」

「なんだ?」

まだ苛立っているのか、不機嫌そうに人差し指で膝をトントンと叩きながら応える。

「サイトに戻ったらすぐに管理官のところに行くように、と。」

「要件は?」

つっけんどんに応じる。助手はやれやれと言った風に首を振ってそれに答えた。

「いや、理由は何も言われてないです。多分僕のクリアランスじゃ足りない内容かと。」

「……ああ。分かった。」

ふう、と息を吐いて答え、窓の外へと目線をやる。空には雲一つなく、突き抜けるような快晴が広がっている。その筈なのに、外からの視線を完全に遮る特注のガラスのせいで青空は少し薄暗く見えていた。

***


見渡す限り何処までも広がる銀世界に、自身の歩いた足跡だけが点々と残っていく。ふと辺りを見回してみるがそこにあるのは白に彩られた静寂のみで、およそ生命と呼べる物の気配はどこにも見当たらない。

世界の全てが凍りついてから、数年は経っただろうか。この真っ白な世界に生き残りがどれだけいるのかも分からず、あとどれだけ進めば目的地に着くのかも分からない。

ここに至るまでに、多くの死体を見てきた。地球全体が巨大な冷凍庫のようになっていて、死体がなかなか腐敗せずにそのまま残っているのだ。瞼を閉じて横たわっている彼らはまるで安らかに眠っているかのように見え、何度もそれらに続いて休みたいと思った。職務も何もかもを捨て、ここで眠れたらどんなに幸せか。

  だが、それでも自分はやり遂げねば。最期の務めを果たさなければ。

「……あれか。」

弱気な考えを振り払って視線を前に戻すと、遠くの方にぽつんと佇むシルエットを見つけた。

「もうすぐ、もうすぐだ。」

はぁ、と1つ息を吐けば口元から白い霧が漏れ出た。住処にいる頃はあんなに怯えていたのに出てみれば案外どうという事は無かったな、と苦笑する。どうやら自分は、自分で思うよりもずっとしぶとかったらしい。

  こんな物がなんの役に経つって言うんだ?

どれだけやれば成果が得られるんだ?何も分からない、何も得られないのにこんな事をする必要はあるのか?

まるで突き抜けるように高く、真っ青に広がる空を見上げながら、いつか友人に言われた言葉を思い出す。徹夜の連続で睡眠すら満足に取れず、その眼は真っ赤に充血していた。

そんな事、言われなくとも分かっているさ。

だが、あの灯を消すなんて事は私には出来ない。

果たしてその答えは彼の問いに合っていたのだろうか。
 
 
 
  もうすぐ、答え合わせの時間だ。


『……紋認証 完了しました。声紋認証 完了しました。』

『ロックを解除します。ようこそ、職員様。』

黙々と歩き、そこに着いたのはそれから1週間後だった。機械音声に導かれ、滑るように開いた門から建物に入る。収容のための機能を持たない、研究の為だけに造られた施設。かつての職場であり、第2の家とも呼べる場所。

入ってすぐに感じたのは、思っていたよりも荒れていないという事だった。残っていた誰かが最期まで整頓をしてくれていたのだろうかと思い、かつてここに勤めていた一人一人を思い浮かべながら礼を言う。

僅かに積もっていた埃を見て、近くにあったロッカーから箒を取り出す。目的地はずっと奥にあるのだ。それなら、そこに行くまでに寄り道をしても別にいいだろう。

ゆっくりと、床を掃きながら歩を進める。

きっと、弔いもまだ済んでいないだろうから。

***


「待っていましたよ、ブルーム博士。」

サイトに到着して管理官がいる管制室へ向かったブルームを出迎えたその男は、にこやかな顔で握手を求めながらそう言った。

「……驚きました。O5の貴方がこんな所にいてもよろしいのですか?」

ブルームは顔を引き攣らせながら目の前の男   O5-12に差し出された手を握った。

「ええ、本当はダメですね。今回だけの特例です。ですので手短にいきましょう。ここの管理官にあまり長い間席を外してもらうのも申し訳ありませんし。」

先程と同じような底の見えない笑みを浮かべながら、彼は話を切り出した。

「あなたはSCP-1281  ハービンジャーの研究をしたいのでしょう?ええ、私も同じ意見です。ですが、現段階ではO5評議会のおよそ半分はそれに反対しています。」

「報告書を読みました。我々はあの灯を絶やしてはならない、そうでしょう?」

淡々と、しかしどこか熱の入った口調で言う。

「この際だから言いますが、あなたは本当に技術が目当てで1281の研究をしたいと思っているのではないでしょう?」

「……何を仰りたいのか分かりかねます。手短に話してくださるのでは無いのですか?」

図星を突かれて狼狽えながら、それを悟られないよう平静を装う。O5-12はその様子を見て少し笑い、おもむろに口を開いた。

「おっと、そうでしたね。では簡潔に言いましょう。」
 
 
 
 
 
  O5権限をもって命じます。ハービンジャーを、SCP-1281の技術を解き明かし、我らの“さきがけ”を次の声に届けなさい。」



「……どうしました?そんな顔をして。もしかして聞こえませんでしたか?」

「あー……いえ、聞こえました。聞こえましたよ。だから……え?いや、申し訳ありません、どういう事ですか?」

鳩が豆鉄砲を食らったような、とはまさにこの事を言うのだろう。ブルームはO5-12の口から飛び出たその妙に芝居掛かった言葉をすぐには呑み込めずにいた。

「」

食堂に着くと、机の上に何かが置かれていることに気が付いた。

ハービンジャーを送り出した人達の話
送る前にメッセージを撮ってて、それを閲覧する

ハービンジャーを研究してた部屋に『行ってこい!』『Good Luck!(頑張れ!)』『Bon voyage.(良い旅を)』『Доставка!(届け!)』『再见,我亲爱的孩子。(さようなら、愛しい我が子)』『In das ferne Universum!(遠い宇宙へ!)』『별 저편 누군가의 희망에.(星の彼方、誰かの希望へと)』『Spero di vederti qualche volta.(いつか会えますように)』
ってメッセージがデータの形で残っていた

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