今田真北さんシーン

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【参道 屋台 射的】

飯沼は困惑している。射的の屋台。異常性のある屋台ではあるが、内容自体は穏やかなものだった。ぬいぐるみを狙い撃ち、落とす。それだけだ。

飯沼は目の前に並んだ安っぽい玩具のライフルの一丁を手に取る。射的でお馴染みのコルク銃と呼ばれるそれは、飯沼にとって生まれて初めて手にするものだった。深呼吸をする。射撃は特技の一つだが、風の中、こんな銃でどこまでの精度が出るかなど分かったものではない。彼の前職を踏まえた上でも相当に高難度の射撃だった。

その上、標的がまるで生きて動き回っているとあれば。鈴を首元に付けたぬいぐるみが、ステップを踏むように踊っている。時たまこちらを見て、まるで挑発するようにポーズをとる。早撃ちをしろとでもいうのだろうか。構えを取ると、直ぐにまた動き出す。三発撃ってみるが当たらない。冷や汗が出る。一度に店主から渡される弾は六発だ。ペナルティはあるのか。

考え込んでいると、音もなく背後に回っていた男が、ごく軽い調子で飯沼の肩に手を置いた。

「折角祭りの射的なんだから、もうちょっと楽しまないとだめですよ」
「射的屋か。よく分かったな、道明寺。」
「ナビゲートはお手の物ですからね!」
「よく言う、探してたのは今田博士だろ。でもまあ、助けにはなれそうだな。」
「あの人は修士ですけどね」

後から屋台に入ってきた男は柔らかな動作でライフルを奪う。

「さて、あれを撃つんだな。一つ言っておくとしたら、君の構えは殺気を込め過ぎだ。しかしまあ、こんな玩具を必死に撃つ日が来るとはな」
「ちょっと待ってください、それは────」

最後まで言い終えることさえできなかった。闖入者はピタリと狙いをつけるや否や発砲。気の抜けた音と共に発射されたコルクがぬいぐるみを襲う。先程とは違い、避ける動作に余裕がない。まるでそうするように作られた機械のように正確な、即座の弾込めと発砲。重心の移動さえ見抜いているような照準。そして、一発目と二発目はきっと本命の為の崩しだった。三発目、ぬいぐるみが最も不安定になった瞬間に頭部を直撃する。たまらず落ちたぬいぐるみはもう動かなかった。

店主が手渡してくれるそれから鈴を取り外して、男はようやく名乗りを挙げる。

「申し遅れた。機動部隊ろ-8”祝祭の裏方”、隊長の佐竹だ。ところで報酬にこれは頂いてもいいだろうか?」
「おっと、それと道明寺っす。みなさんを支援しますよ。」


甲高い笛のような音。まばゆい光が弾け散り、遅れて音が響く。

祭りの喧騒からやや離れた人気の少ない暗がりで、今田は芝生に腰を下ろしていた。どのようにして見付けてきたのか、真北が2m程離れたところに腰を下ろす。しばらく会話はなかった。真北がふと思いついたように問うてくる。

「そう言えば、今田さんのとこには誰が来たんですか」
「誰も来ませんでした。ほら、我々は見破るのが得意だから」

それは真実の半分だ。何かが確かに今田を訪っていた。しかし、それは茫洋とした輪郭の影に過ぎなかった。アレが例えマントを模そうとしていたのであったとしても、あの影は誰でもなかったのだ。

「ふーん。ひょっとして久しぶりに挨拶できるかなって思ってたんだけど、そんなもんですかね。」

気付いたのか気付かなかったのか、真北はその長い足を放り出して花火を見上げている。

「真北さん、ライブはいいんですか?もうすぐ始まります。」
「行きます。ただ、その前に話をしておきたくて。」

それはおそらく賢明な判断だ、と今田は思ったが口には出さなかった。

「大変なお祭りでしたね。真北さんも、お疲れ様でした。」
「皆がいたからこそですよ。結局、僕が帰って来れた理由もよく分かりませんし。」

真北の横顔が、赤や青に照らし出される。今田はこの相手と、もう少し話をしてみたいと思った。それが今ではないにせよ。

「さ、行って下さい。真北さんの場合、迷う時間も考慮しないと。」
「今回は大丈夫ですよ!ていうか、正論だけに反論しにくいので、そう言い方やめてください。それに、最後には辿り着くんだし。」

不満顔で立ち上がり、芝を払う彼に謝罪してから、今田は誘いの言葉を口にする。

「なら大丈夫ですね、今度セクター8105にお越し下さい。お茶か何か、お出ししますよ。」

真北が頷いて立ち去った後、今田はもう少しここに居ることに決めた。古来より、花火には鎮魂の意味もあるという。
もう一度、あの声を聴くことがあるのだろうか。今田は心の内で呟く。世の中はこんなにも闇に溢れていて、自分はまだその中に存在している。

だが、死人は何も思わず、語る事もない

ひと際大きく、長く続く輝きが今田を照らす。黒いマントに包まれた身体の作る影が、長く伸びていく。


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