要約 案

ある時、ガリレオ・ガリレイという1人のスシブレーダーが地球を握り、回した。
その結果地球は闇寿司に支配されたものの、闇寿司は他の団体と和平協定を結んだことにより概ね平和であった。
そして時は流れ、何者かにガリレオ・ガリレイが暗殺され、闇寿司の支配は無くなり第三次オカルト大戦が勃発した。
第三次オカルト大戦が佳境に入り、その被害が最も大きくなった頃突然それは起きた。
世界中で同時に大地震・噴火・異常気象などを初めとする災害が発生し、この時点で人類の5分の1が死傷した。これらは総称して「大災害」と呼ばれている。
大災害から数時間後、世界中の電波放送がジャックされ地球の意思を名乗る少年から以下の内容が告げられた。

「初めまして、私は地球。先ほど発生した災害は私が起こしたものだ。君たち人類は私の中で生態系の頂点であるにも関わらず、醜い殺し合いを止めようとしない。その結果、地球環境の悪化や美しい生態系を破壊してばかりだ。だから私は人類を滅ぼす事にした。
だが、人類を滅ぼすにはかなりの代償を私も支払うことになるだろう。だから人類が自ら1億人程度に減らすなら、滅ぼすのを止めてやっても良いと考えている。
1ヵ月時間をやる。その間に結論を出せ。もし抵抗するようなら即座に攻撃を開始する。」

すぐに全世界のトップや有力な組織の代表で話し合いが始まり、同時に研究も始まった。
話し合いの結果徹底抗戦することが決まり、研究の結果からは「地球の意思」の波長と「寿司の意思」の波長が酷似していることが判明した。
ガリレイ・ガリレイが地球を握っていた為、地球に寿司の意思が芽生えそれが地球の意思へと発展した。
地球からの攻撃が始まり、人類全体が諦めかけていた時突然酢飯の雨が降った。
地球酢飯漬け、闇と名乗る老人が自分がこれを行ったと名乗り出たのである。
地球酢飯漬けにより地球の意思の活動は大幅に弱まった。そこで、闇が提案した。

「地球の意思は地球環境を重視している為、このまま膠着状態に入るのは嫌なはずだ。しかし、私の地球酢飯漬けにより大した攻撃は行えない。それでも時間が経てば地球環境を考えずに大災害以上の災害を起こすだろう。その前に私が囮となり地球の意思を誘い出す。地球酢飯漬けにより地球の意思が私に攻撃するには実体化が必須となる。その実体化した地球の意思を君たちに倒して欲しい。実体化した地球の意思を倒すことが出来れば、地球は元の意思を持たない惑星に戻るはずだ。」

リスクは大きいが現時点で有効打を与えられていない以上、この作戦に人類の未来を賭けることにしたのである。
即座に決戦の準備が進められた。


「我々と共に地球を倒しませんか?」
開口一番そう言われ、反射的に人違いですと言いそうになった。こんなことを言ってくるのは特定のやばめな宗教と相場が決まっているものだが、残念ながら今の時代では本当に地球は倒すべき敵だ。
「それは私で合ってますか……?」
そういうのは科学者とか超常組織の出番ではないのか? 私はただのスシブレーダーだぞ。地球を倒すなんてとてもじゃないが身に余る。その方法すら想像がつかない。
「えぇ。貴方で合っています。星空 流星さんですよね。日本スシブレードチャンピオンの」
「まぁ……そうですけど……」
合ってるらしい。逃げ道を塞がれた気分だ。スシブレーダーを何らかの能力者かと勘違いしているのではなかろうか。スシを回せるだけだぞ。寿司の意思の発展形である地球の意思が人類を敵対視していることは、一般にも公表されているので私も知っている。その為、スシに対する兵器が多少は効果を与えているらしいが、結局は地球という大きさの違いの前には無力だと聞いている。
「ここではなんですから、取り合えず地球対策本部まで来ていただけますか?」
黒服の如何にもエリート風の人に囲まれ断ることが出来る人は居るだろうか? 私には出来なかった。次は頑張ろうと思う。

目隠しと耳栓をされ、車で一時間程移動して対策本部に着いた。
暇なので移動中は右折と左折の回数を数えていたが、順番を覚えていないことに途中で気づいて辞めた。

如何にも高級ですよという感じの椅子に座り待っていると、担当者らしき人が数人現れまさかのスライドショーで私と私の寿司の1つの技について解説し始めた。
「星空さんが使うこの"ホーキング・レイジエイション"という技は非常に高速であり、また威力も現代の兵器と遜色ないレベルです。その為、この技を地球の意思に命中させることが出来たら対象の消滅もしくは、かなりのダメージを与えられる試算が出た為この度協力を要請しました」
「でも、その技ほとんどコントロール出来ないですよ?」
この技は光速であるが故に左右上下移動が出来ず、ただ前に進んでいくのみである。我ながら使いづらい技である為ほとんど使ったことは無い。というか今ここで聞かされるまで忘れていた。なんで公式戦でも使ったことない技を知ってんだ……。
「その点に関しましてはご安心ください。今回のプロジェクトリーダーの方から説明させていただきます」
白衣を着た小さめの女の子にマイクが手渡される。見た目は中学生くらいで明らかに場違いなのだが、指摘するのもなんか変だし黙っていた。この子がプロジェクトリーダーなの……? 不安だ……。

見た目は幼い子だがちゃんとした科学者のようで、色々と理論やら何かの計算結果やらを見せてくれていたが私には何も分からなかった。スシブレードしかやってこなかった奴に分かる訳が無いだろ。
「要するに陽電子砲で地球を狙撃するんだよ」
何も分かっていないのが顔に出ていたのか、説明を途中で切って教えてくれた。なんか考えてることバレると恥ずかしいな……。
「星空さんがやることは単純に射出ボタンを押すのと、"ホーキング・レイジエイション"を発動させるだけ。射出する際の角度とかの調整は地球の磁場や重力等をリアルタイムで計算して、自動で照準を合わせるようにするから大丈夫」
そう言われるととても簡単そうな気がする。でもこの簡単そうな感じは昔聞いた詐欺の手口にとても似ている。簡単に儲かるでしょやってみない? というあれと同じ。後でなんか請求されない? 大丈夫? まぁ、人類が滅びそうなときに金稼いでも意味無いんだけど……。
「そういうことなら、やりますけど……。私が本当に役に立てるかは分かりませんよ?」
「ありがとう! 他にも地球の意思を倒す作戦は色々進行してるから、仮に失敗しても星空さんの責任で人類は滅ぶとかにはならないから安心して」
人類が滅んだら責任も何も関係無いからそこは気にして無かったが、私としても人類が滅ばない方が圧倒的に嬉しいので、なんか言いくるめられた感じはするけど承諾することにした。陽電子砲でスシを射出して原形を保っていられるかどうかは怪しいけど。


翌日、私は1つの大きな研究室に連れて行かれた。
「私は明院冥、このプロジェクトのリーダーを任されている者だよ。気軽に冥ちゃんって呼んでくれていいよ」
昨日プロジェクトリーダーとして色々説明していた少女がそう自己紹介する。この子何歳なの? 聞いて良いの? 
「よろしくお願いします。明院さん」
なんか聞いたらいけない気がする。
「おや、冥ちゃんでいいのに」
他の人も簡単に自己紹介を初め、全員が終わった。私も続いて自己紹介をする。
「まぁ、流星くん以外は皆偽名なんだけど、短い間だが仲良くやっていこうじゃないか」
「えっ、偽名なんですか?」
「そりゃ大災害が起きる前までは戦争してたんだからね、敵だった奴も居るだろうし、お互いの素性は知らない方が良いもんさ。とは言ってもめっちゃやばい奴とかは居ないから安心してくれていいよん。人類が滅んじゃ組織も何も関係無いからね」
そう言われたもののそんなに剣呑な雰囲気には見えないし、たぶん本部の方でそこらへんは管理して敵同士は一緒にならないようになるべく調整してるだろう。地球と戦う前に人類同士で潰し合ってたらそんな種族滅ぶに決まってる。いやでも基本人類同士って仲良くないよな……。滅びそう。
「流星くんはスシブレードやってる人なら誰でも知ってるだろうし。戦争でも人助けをしてて有名だったからね。うっかり暗殺とかされないように気を付けてね」
「リーダー脅かし過ぎですよ」
「はっはっは、若者を脅かすのは老人の嗜みだからね」
そんなの初めて聞いたが、一応注意するように教えてくれたのだろう。老人……? 本当に何歳なんだ? しかし、自称老人を老人扱いすると大抵の老人は怒る。そこそこ不安ではあるが、ここまで来たからにはもうやるしかないと腹を括った。もし襲われたとしてもスシブレードの腕には自信があるし、暗殺されても、人に殺されるか地球によって殺されるか程度の違いしかないだろう。

「それじゃあ早速君と、君の寿司のデータを収集していこう」
それからは体にいろんな機器を付けられ、相棒を回したり研究員の寿司と戦ってみたり、実際に "ホーキング・レイジエイション"を何発も発動したりとかなり疲れ、寿司の回転も衰えてきた。今すぐ倒れ込みたいぐらい疲れている。必殺技は1日に一度と相場が決まっているもんだ。
「"ホーキング・レイジエイション"思った以上に繊細な技だね……。ほんの少しの誤差で起動が大きく変わってしまうようだ。そこはコンピューターに計算してもらって……重力。空気抵抗、当日の風向き、磁場、他にも当日の調子とか色々ありそうだね。取り合えず現時点で収集したデータからリアルタイムで弾道計算システムの構築を頼むわ。水原ちゃんは陽電子砲の改造の指揮をお願い。海鳴りくんは電力源の交渉と調整を本部として来てくれる?変圧器とかそこらへんもお願いね」
明院さんは恐ろしいスピードで情報を処理しつつメンバーに仕事を振り分けていく。見た目がどうしても中学生くらいなので不安だったが、作戦のリーダーに選ばれるほど有能なのは間違いないようだ。実は不老不死かなんかなのか……?

一息ついていると明院さんが話しかけてきた。
「流星くんは取り合えず今日は帰って大丈夫だよ。最低限のデータは取れたし疲れてる今だと十分なデータは取れないからね。明日はもっと忙しくなるからゆっくり休んでね!」
正直かなり助かる。スシブレードはやはり精神力が重要なので、長時間回すのはそれなりにきついのだ。しかし、機械の事を全て任せてしまってもよいのだろうか……いや見てても何も分からないんだけど……。それでもやはり全て任せてしまうのは同じプロジェクトのメンバーとして、あんまり良くない気がする。
「何か手伝う事とかは大丈夫ですか……?」
「君は休むのも仕事だよ!お疲れ様、また明日!」
そう言って出口の方にぐいぐい押されてしまう。反抗するのも特に理由が無いし疲れているのもあって、その場にいた人にはお疲れ様です。と挨拶して帰ることにした。帰ると言っても対策本部のすぐ近くにあるホテルだけど。

帰り道に私は思案を巡らせていた。今まで私がしてきたのはスシブレードであって、狙撃やらなんやらは全く分からない。相棒と一緒ならそうそう負けないという自信はある。だが今回は全く未知の分野である為役に立てるかも分からなくて不安だったし、地球にダメージを与えられるかと言われると難しい気もする。というか地球を倒せる自信が有る奴がいるなら、そいつには近づかない方が良いだろう。
こうして他の人とスシブレードで何かするという事は今までに無かったし、考えた事も無かった。意外とスシブレードは孤独なスポーツだったのかもしれないな……。まぁ地球と敵対してる状況でスシブレードを楽しむ余裕は人類には無いし、あんまり気にすることでもないか。明日も早いみたいだし帰って寝るか……。こうして休めるのももう長くはないかもしれないし。

次の日、明日はもう地球との決戦になるらしく朝早くからデータ測定をこなした。
「取り合えず必要なデータは全部そろったかな。流星くんお疲れっ!」
明院さんが明るく告げる。明日人類が滅んでもおかしくないのに怖いぐらい明るいなこの人。
「ありがとうございます。次は何をすればいいですか?」
思ってたよりすることは少なく、昨日ほどの疲れはない。まだ余裕はあるし、明日が決戦とは言えまだ何か出来ることはあるだろう。
「次はえっとね、シュミレーションしてみよっか」
「シュミレーション?」
明院さんに連れられて別の部屋に行くと、VRのセットと車の運転席のような幾つかボタンやレバーが付いたとこに座らせられた。
「本番となるべく同じような環境を想定して色々設定されているから、これで機器の操作方法とか覚えておいてね。通常であれば機械が自動で照準を合わせてくれるし、なるべくこっちでもバックアップはするけど本番は何が起きるか分からないからね。流星くんの判断が必要になるかもだから」
「取り合えず、出来るだけやってみます」
何回かやってみて分かったが、自動で照準があった後に指定のボタンを押すだけでいい簡単なものだった。本番は何があるか分からないので手動で照準を合わせる訓練もしたが、全く当たらなかった。というか無理。望遠レンズを通さないと砂粒ぐらいの大きさなので、ほんの少しの誤差でもう当たらない。
「う~ん、やっぱり手動で照準を合わせるのは無理だね。それに発射してから "ホーキング・レイジエイション"を発動するまでの間に、何かにぶつかったり大きく影響を受けると軌道も大きくずれてしまうね」
射出してから寿司の回転が安定するまでに少し時間がかかる為、技の発動までに少し時間を空ける必要がある。
「自分の手で射出するならもう少しコントロール出来るんですけど、機械となると感覚が良く分からなくて……」
たぶんスシブレーダーにしか分からないと思うが、何千、何万とスシを射出してきた我々にとって自分の手で射出するというのは無意識に射出時の誤差を修正している。スシブレーダーなら当然だよね。しかし、本番は一発勝負であり失敗するにしても明後日の方向だと他の作戦に支障が出る可能性がある。
「もう少し練習していきます」
「そう?疲れは明日に残さないようにね」
私に負荷がかからないように皆してくれているが、明らかに寝ていないであろう人が多い。それでも今も忙しそうに作業しているのを見ると、自分だけ休憩という気分にもなれなかった。少しでも周りの人たちの期待に応えたいと思った。
私が地球の意思を倒せる自信があるかと言われると全くない。でも、皆の為に出来る事をしようと決意した。こういった形ではあるけど、スシをきっかけにして仲間が出来たのだからやれることはやっておきたい。


決戦の場所は周りが小さな丘に囲まれた盆地だ。しかし、周りの丘の内部は全て対地球用の兵器が準備されている。私は更に一つ丘を越えかなり遠くからの狙撃になる。闇は盆地の中央で待機し地球の意思を誘き寄せる。現在は認識阻害スシフィールドが展開されており、地球からは分からないようになっているらしい。


18:00、認識阻害スシフィールドが解除され全員が備える。私も深呼吸をし、いつ地球の意思が現れても対応できるように身構える。相棒であるスシは既に発射台にセットされており、戦いの前に相棒が近くに居ないのは初めてだが不思議と落ち着いていた。スシブレードは直接相手と対峙して行うもので、相手を狙撃するという安心感はある。反撃とかされなさそうだし。他の作戦や兵器も山ほどあるらしいから、スシを射出する事も無く決着がつく可能性すらある。むしろそっちの方が高いはずだ。間違いない。

18:13、ぐだぐだ軽い現実逃避をしていると警報が鳴りびっくりした。地球が出現するであろうと予測されていたポイントのうち1つに地球が出現したようだ。隠しカメラによって地球の意思の容姿がモニターに映し出される。人類に宣戦布告した時と同じ容姿であるが、モニターを見た瞬間全身から冷や汗が吹き出し、手の震えが止まらなくなった。怖いとか気味が悪いという訳ではなく、まるで神様のような存在が、圧倒的な何かに睨まれているような感じがする。こんなの人間が手を出していい存在じゃない……。

その時、地鳴りと共に大きな揺れが発生した。

揺れが収まりモニターを見てみると上空からの映像が映されており、周りを囲む丘の3分の1が巨大な地割れにより消失していた。私が居る地点は遠いので巻き込まれなかったが、地球酢飯漬けの影響下でもかなりの力を残しているようだ。少し前までは死ぬ可能性なんて考えていなかったのに、恐怖に支配される。逃げ出したい気持ちを必死に抑える。逃げたって助かる訳じゃない。戦ってるのは私だけじゃない、すぐ近くに明院さん達が何か急なトラブルに備えて控えている。皆の為に少なくてもやることはやらないと……もしこれが自分1人だったら間違いなく逃げていた。たった数日の付き合いだが意外にも私は情に厚いようだ。

それからは兵器の音が鳴りやまず続いた。ミサイルやレーザー等の見た事も無いような兵器が絶え間なく地球の意思目掛けて飛んでいく。振動や爆音がここまで届き正直かなり怖い。いきなり地球の攻撃の地割れで地下深くに落とされる可能性もあるし、体から嫌な汗がにじむ。早く自分の役目を終えたい気持ちでいっぱいだ。めっちゃ怖い。

兵器の幾つかは効果が見られるという情報が入ってくるが、それでも致命的なダメージは与えられていないようだ。地球の意思は多少のダメージは無視して闇の方へ歩いていく。こちらは闇が倒されれば負け。地球の意思は闇を倒せば勝ち。寿司の意思実体化装置は作動しているようで転移は出来ないようだが、あくまで闇から半径250m範囲内であり、地球の核へ逃げ込まれたら再び手が出せなくなる。実際のところ地球が逃げても人類の負けである。あれだけ世界中で戦争して迷惑かけてたんだから超常組織あたりが早く倒してくれないかな……。

私の方も作戦を実行段階まで来た。狙撃がバレないように他の作戦の間に発射する為、本部で調整が必要だったようだ。VRゴーグルのようなものを装着し、照準が合うのを待つ。手が震え心臓が高鳴る。私の手に世界の命運が掛かっているかも知れないのだ。地球の意思は時々大規模な地割れを発生させながら、徐々に兵器がある場所を潰し闇に近づいていく。あまりの重圧にくらくらしてくる。

大きく深呼吸して、始めて寿司を握り、スシブレーダーとなった時のことを思い出す。日本チャンピオンになるまで何十年とこの相棒と一緒に歩んできた。この作戦の仲間、明院さん達も2日間ほぼ寝ないで限界まで作業していた。皆の期待を、努力を裏切らないためにも必ず成功させたい。もう大丈夫。こいつと一緒ならこの身がどうなろうとやり遂げて見せる。もう一度、平和な世界でスシブレードをする為に。

照準が合う音が鳴り、発射ボタンを押す。轟音が鳴り響き、この為に作られた対地球決戦兵器陽電子砲SRMNから相棒が射出される。後は技を発動させるだけなのだが、急に機器からエラーが発生する。見ると磁場と重力が急激に変化し寿司の軌道予測が変化している。相手は地球。1枚も2枚も相手が上手でありこちらの攻撃は読まれていた。一瞬のにして脳内がパニックになる。とにかく時間がないどうするどうする……こうなれば予定より数秒早いが技を発動しスピードで振り切るしかない。

"ホーキング・レイジエイション!!"

スシが光を纏いスピードが上昇していく。しかし、加速する前に更に磁場や重力が変化し軌道予測が大幅にずれて闇の方へ向いてしまう。しまった! 地球の意思はこれが狙いか! とてつもない後悔とどうしようもない無力感に襲われる。闇の近くには自爆用の核兵器が置かれており、最悪はこの場の全員と地球の意思を道連れにする作戦であった。地球の意思はどうやってそれを知ったのか、はたまた偶然なのかは分からないが"ホーキング・レイジエイション"が発動してしまった以上私にも止められない。手から力が抜け後悔ばかりが頭を駆け巡る。せめて技さえ発動しなければ方向を曲げるくらいのことは出来たのに……。

「ふっ……若造が……まだまだ握りが甘いな」

闇へ光を纏ったスシが着弾する寸前に闇がそっとスシに手を添えた。するとスシは方向が切り替わり地球の方へ速度はそのままに進んでいき、地球の意思に着弾し周辺が光に包まれる。一瞬の閃光の後、下半身が吹き飛んだ地球の意思がモニターに映し出される。地球酢飯漬けも解除され空から降る酢飯も止んだ。私は何が何だか分からず、早くどうなったかを確認したかった。闇は、地球の意思はどうなったんだ。

闇が地球の意思に近づく。闇は右手が"ホーキング・レイジエイション"の軌道を変えた衝撃で消失しており、歳もあるのかよろけているがそれでも地球の意思の元にたどり着こうとしている。急いで付近の人間が駆け寄り闇へ手当てを開始するが、どうやら闇はそれを拒否しているらしい。私のせいだ……私も行かなきゃならない。

「私はもう助からない。だが私には地球がこうなってしまった責任がある。ガリレオ・ガリレイに負け闇寿司を明け渡したのは私だ。地球の意思の最後を聞く責任がある」

その時、モニターにノイズが流れ、地球の意思が写し出された。モニターはノイズが多く地球の意思は万全ではないようだ。今すぐ目の前の地球の意思に止めを刺すか迷ったが、今回闇が居なければ我々に勝利はなかった。私は闇の意思を尊重することにした。

地球の意思 「人間どもめ……お前らの勝ちだ……だが、私を倒すことが更なる絶望の始まりだと知れ……忌まわしい……」

そこでノイズが大きくなり、モニターは正常に戻った。地球の意思は徐々に薄くなり消えていくようだ。安心のあまりその場に座り込んでしまった。これでもう、大丈夫なんだよな……? まだ実感が湧かないし、地球の意思もかなり不穏な事を言ってて不安は残っているが、体に入っていた力が抜ける。

「ごめんな……地球よ……寿司は楽しく回す物だったんだよな……こんな簡単なことに気付くのに時間がかかっちまって……どうか安らかに眠ってくれ……」

闇はこれまでの厳格な雰囲気とは違い、ただのか弱い老人に見えその両目から止めどなく涙を流していた。その反応に私はびっくりしてしまった。そして、残った手で俺を手招きして近くに呼んだ。闇は手首からかなり出血しており、顔も青ざめている。早く治療を受けて欲しい……。私のせいでこれほどまでに技術を持ったスシブレーダーが死んでしまう。頼む……。

「さっきのスシは君の物だね……君にお願いがある……どうか……どうか寿司で笑顔になる世界を……スシブレードで楽しく笑える世界を……」

私は闇の手を取り目を見て、そう言った。
「任せて下さい。必ずスシブレードで楽しく笑える世界にします。」
闇は優しい目をした後、力なく笑い息絶えた。私はほとんどしゃべった事も無い老人なのに、悲しくてたまらなかった。私がもっとちゃんとしていれば闇は死ななかったかもしれない。もうどうしようもないことだけど、後悔が止まらない。地球の意思を倒したというのに喜びよりも悲しみが深かった。闇の最後の願いだけは、絶対に叶える。


私は立ち上がり、地球の意思を見た。既にほとんど消えており、何か言ってやろうと思ったが何か言う前に消えてなくなってしまった。
「これで全部終わったんだよな……」
不安や後悔は残るものの、ようやく一息付けそうだ。長い一日だった……。


最後に地球の意思が不穏な事を言い残し消滅した為、地球上で何か異変が無いか即座に調べられたが。特に異常な点は見受けられなかった。作戦に参加した半数以上が死傷し、更には早急に積もった酢飯を除去する必要があったが、みな勝利の喜びに酔いしれていた。

しかし、すぐに異変は現れた。急激に海面が上昇した。研究者は原因を探し、それはすぐに見つかった。月が地球に向けて落下して来ているのである。

詳しく無いので良く分からないが、どんな方法を使っても接近を止めることは出来ず、破壊できたとしても破片が地球に落下してしまうらしい。地球の意思が最後に言い残していたのはこれの事だったのだ。完全にどうしようもない状態らしく、一週間程度で文明を維持するのが困難な状態にまで陥るらしい。そして2週間も経たずに月が地球と接触し人類は間違いなく滅ぶ。

私がしたことは滅ぶのを早めただけかも知れない。闇という偉大なスシブレーダーを失い、地球の意思を倒した結果がこれだ。考えてもしょうがないのに考えてしまう。地球の意思を倒しても、倒さなくても人類に未来はなかったのだ。それでも、地球の意思の最後の言葉を聞かずに止めを刺しておけばもしかしたらとか、私が作戦に参加しないで他の方法で倒していたら……違った結果だったかもしれない。すぐに地球外への避難が始まったが、まだどうするか決められなかった。

何故月が落ちてくるのかについては1つの仮説が立てられた。
ジャイアント・インパクト説を知っているだろうか。月は地球ができたての頃に巨大な隕石と衝突して、地球の欠片から出来たという説だ。月が地球の欠片で出来ているのならば、地球の意思で動かせてもおかしくはない……という事らしい。

生き残った人類を少しでも逃がそうと、かねてより作られていた宇宙船に乗る人間を選ぶ段階まで来てしまった。搭乗人数はどんなに詰め込んでも今いる人類全員は不可能であり、その他の人間は財団が発見した未知の並行宇宙や世界に行くことになる。どの方法でも確実に生き残れる保証はなく、実質的に我々の文明は滅んでしまうだろう。それでも、最後は地球に残る者も多く居た。

私はどうしようか。
地球の意思を倒すのに貢献した者として、どんな選択肢を選ぶことも許可されている。

でも、私は……。

私は……まだ諦めたくなかった。

どうしてもこのままでは嫌だった。
闇にスシブレードで笑顔を人類に齎すことを約束したのだ。
しかし、スシブレードなんて言ってられる状況ではない。
闇は命を懸けて私に全てを託してくれたのだ。
知り合いには必ず後から非難すると伝え、先に避難してもらった。
その後に何かできないかいろいろ考えたが私は科学者では無いし、それどころかずっとスシブレード一筋だったのでスシブレード以外は何も分からない。

じゃあ、スシブレードで何かできないか。1つだけ思い浮かんだものがあった。私はまず明院さんに話してみた。専門じゃないし聞きかじった程度の知識なので多分無理なんだろうな……。
「面白いことを考えるね。やってみよっか、どうせ暇だしね。」
即決された。怖い。
「私から提案しといてなんですけど、避難とかしなくていいんですか?」
もうあと1週間程度で地球は粉々なんですよ?
「月が降ってくるなんて特大イベントは見逃せないね。それに、君の提案の方が避難するよりもCoolだろう?」
何を言ってるかちょっと分からないが、明院さんが味方に付いてくれると心強い。というか却下されたらその時点でもうどうしようもなかったので本当に感謝だ。明院さんは私より張り切ってしまい、すぐにそういった方面の研究者や技術者に話しを通しあっという間に何十人もの人が集まった。
不思議と作戦を共にした仲間達や、超常組織の研究者達は優先的に避難できるにもかかわらず地球に残る者が多かった。私が話したことが実現可能かどうかの議論が始まった。話が難しすぎてなんにも分からなかったが、どうやら可能性はあるらしい。

すぐに必要な機材が揃えられ開発が始まった。とは言っても先日の地球との決戦で使用した物が多いのでそのまま使う形だ。しかし、機材の改造やらなんやらは全く分からないので見ていることしか出来なく申し訳なかった。作業してくれた人や研究者達に、避難しなくていいのか聞いたが、ほとんどの者が既に家族は失っており地球に残る人も多い。家族が生きてるものが生き残るべきだと。意外だったのは地球の意思とあれだけ戦ったのに、地球自体は嫌いじゃないから死ぬときはここが良いという人も多かった。

そんな感じで作業妨害している間に、理論上は恐らく可能という物が出来上がった。完成品を見ても良く分からなかったが、彼らがそう言うなら信じることにする。まぁ理論聞いても全く分からないし……。仮にこれが成功しようと失敗しようと何の意味もないかもしれない。それでも付き合ってくれた仲間達の為に成功して欲しいと願った。闇との約束を守る唯一の手段だったから。

散々勿体ぶったが、私がしようとしているのはタイムワープである。
対地球兵器陽電子砲SRMN仕様で強化された"ホーキング・レイジエイション"を見て思ったのだが、更に強化すれば光の速度を超えられるのではないかと思ったのだ。
相対性理論とかはさっぱりだが、研究者達曰く実際に光速を超える事が出来るなら、スシを過去に送ることが出来る可能性があるらしい。
しかし、光の速度を超え更に過去に送る負荷が大きく、スシの形は保てず寿司の意思だけを送ることになる。
また、過去に送れるかは不明で過去に送れたとしてもどれくらい過去なのかも分からない。更には過去に送ることが成功して、その結果過去が変わったとしても今の我々が居る世界が変わるかどうかは分からないという事らしい。

要するに完全に無駄な可能性が高いのだ。
それでも皆手伝ってくれた。
どんな小さな可能性でもこんな最悪の状況が変わるならやる価値はあると言ってくれた。

そして、再びタイムワープ型陽電子砲SRMN仕様装置に相棒の寿司をセットする。
後は電力を集めボタンを押すだけでいいらしい。
これまでの戦いや関わってくれた人達が思い浮かぶ。
涙が出てきてしまった。ずっとこの寿司と一緒に育ち、戦い、笑ったのだ。
スシブレード以外何にも取り柄が無い私が日本チャンピオンになれたのは間違いなく相棒のおかげだ。
こんなに協力してくれる仲間に出会えたのもこの相棒が居たからだ。

電力が貯まり、仲間達が見守る。
名残惜しいが仲間達にもまだやることがある。
私はボタンを押した。

轟音と共に寿司が射出され電気を放出しながら加速していく。

「"ホーキング……レイジエイション!!!!!"」

相棒に光が集まり眩しくなっていく。

頼んだぞ相棒……寿司で……スシブレードで人類に笑顔を……

「行ってこい!サルモン!!!」

そう言うとサルモンは閃光を放ち、消えた。


???????????: へいらっしゃい。……おっと。[笑みを浮かべる]
??????: 何ですか?
???????????: へっ。寿司、回しに来たんだろ?

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