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私はもうすぐ自殺します。
でも、悲しいとか未練はありません。
首を吊る縄の準備や、遺書を書きながら私は色々思案していました。
私は小さい頃から感情が希薄でした。
あまり周りに興味を示さず、泣いたり笑ったりする事が少なかったように思います。
その頃は素直に感情を表現できる周りの子供たちが不思議でもあり、羨ましくもありました。
私の考え方が変わったのは命の価値が良く分からなくなった時からだと思います。
小さい頃は虫や動物の命は尊いものだと思っていました。
尊く、価値があり、大切にしなければいけない物だと、そう思っていました。
でも、虫達の命を粗末に扱う同年代の子達を見て分からなくなりました。
別に弱肉強食が正しいとかそういう事じゃありません。
何故大切にしなければいけないのかが分かりませんでした。
今にして考えると、分からなくなったのではなく最初から分かっていなかったんだと思います。
私は最初から命に価値を見出していませんでした。
自殺を決めてから分かったことがあります。
自殺の方法を決める時に、他人に迷惑はかけたくないと思いました。
でも、今から自殺するんだから迷惑かけようが構わないんですよね、どうせ死ぬのですから。
その時に気付きました。
私は私の命に価値が無いのです。
でも、他人の命には価値がありました。
価値が無い私が他人の命や人生を邪魔してはいけないと思いました。
他人に迷惑をかけたくありませんでした。
たぶんこういう価値観の私は生まれながらにして陰キャになるのが決まっていたんでしょう。
それでも、私には母が居ました。
父は早くに病死していて私は覚えていません。
でも、それが気になったことはありませんでした。
母は私を愛してくれていました。
母は死んでしまった父の分まで働きながらも、私を育ててくれました。
感情をあまり表に出さない私でも、母には筒抜けでした。
私も心から母を愛していました。
私にはもったいないくらい良い人でした。
母が愛してくれているおかげで、私には価値があるんだと思えました。
母の為に生きている限り、私には価値が生まれる。
でも、だけど、母は死んでしまいました。
ひき逃げでした。
周りにいた人たちが直ぐに救急車を呼べば助かったかもしれないとか、犯人が捕まったとか、そんなことは凄くどうでもいいことでした。
母が死んでしまった、それだけが重要でした。
でも、泣くことは出来ませんでした。
悲しい気持ちもありましたが、それよりも喪失感の方が大きかったからかも知れません。
母が与えてくれていた私の価値は無くなってしまいました。
母が死んでから胸に穴が空いたような感覚が離れませんでした。
きっとこの胸の穴は母が埋めてくれていたんだと思います。
この胸に穴が空いたような感覚は一生無くならないのかもしれないと思っていました。
でも違いました。
母の事件がきっかけでクラスメイトに話しかけてもらえました。
気を使ってもらえました。
優しくしてもらえました。
その時、少し嬉しくなってしまうと同時に、一瞬ですが母の事や胸に穴が空いた感覚を忘れることが出来ました。
私はそれがとても嫌でした。
優しくされたのは嬉しかった。
一瞬でも気持ちが楽になった。
あんなに母を愛していて悲しんでいたのに、それを少しでも忘れた自分が嫌いでした。
母が死んでから私は笑ったことも泣いたこともありませんでした。
私にとって母は替えが効かない存在でいて欲しかったから。
でも、このまま生きていたら笑ったり、もしかしたら母と関係ないことで泣いたりするのはなぜだかとても嫌でした。
私は母の為に生きていたかった。
でも、母以外でも生きていけてしまうことに気付きました。
私に価値を与えてくれるのなら誰でもいいのかもしれません。
誰かに価値を与えてもらわないといけない欠陥製品なら、その相手は母が良かった。
母が死んだ今もこうして依存している。
将来がとにかく不安でした。
生きていく自信なんてなかった。
もしかしたら、母が死んだ時にもう私は死にたかったのかも知れません。
大きな切っ掛けはやっぱり、母の事件について調べた時でした。
色々調べてる内にそれは見つかりました。
母がひき逃げされた時の画像です。
内臓が飛び出て、無惨な姿になった母の画像でした。
サイトには母の画像を笑う人たちがたくさんいました。
私は怒りも、悲しみも感じませんでした。
笑ってもらえるのは価値があるからです。
私に価値はありません。
だから迷惑をかけちゃいけないのです。
何かの役に立たなくてはいけません。
でも、私には必要とする人も居なくなってしまい、何かの役に立てるようなことは何もありません。
生きているだけで誰かに迷惑をかけてしまいます。
なので私は、母の事を忘れないうちに死ぬことに決めたんです。
誰にも迷惑はかけたくないので首吊りを選びました。
他殺だと思われないように遺書も書きました。
こうして、人生の振り返りもして準備は全て終わりました。
椅子に登り、縄を首にかけます。
あまり苦しみたくは無いので早く楽になる事を願い、一呼吸置いてから椅子を蹴とばしました。
首に負荷がかかり、想像以上の苦しみが襲いました。
その時、立て鏡に写った私の首吊り姿が目に入りました。
「ふふっ」
首を吊っているので声は出ませんでした。
でも、首吊りをしている私の姿がとても面白いものに感じられて、苦しいのがどこかへ行き笑ったような気になりました。
あぁ……良かった。
私の生きた事に/死ぬことに意味はあったんだ。
だって、最後に私自身を見て笑うことが出来たのなら、私が私に価値を付けてあげられたのだから……
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任意A任意B任意C- portal:6153823 (26 Apr 2020 15:03)
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