彼は灰を見て
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彼は変わっていた。最初に会ったのは確か小学5年の頃だったと思う。彼は虫を焼くのが好きだと言っていた。奇天烈な奴が引っ越してきたなあという第一印象は今も鮮明に頭の中に残っている。彼の部屋には日本では見かけないような鮮やかな蝶や蜻蛉や黄金虫なんかがいて、彼はたまに家の庭で採った虫やストックしていた虫を焼いていた。
彼は火の前だと何時もより饒舌だった。曰く、彼は虫よりもそれが焼けて死んでいくのが好きなんだと言った。いかなる生き方をしてきた虫であろうと、焼けて、燃えて、熱を感じれもしないのに藻掻いて、灰になっていく姿が好きなんだと、翠の綺麗な蝶が火に焼ける姿を見ながらぼんやりとした目で零していた。あのときの彼の寂しさの中に強烈な美しさと魅力を含んだ横顔に、心惹かれてしまったんだろうと思う。私は彼と話すのが好きで、彼の言葉を零しながら火を見る姿が好きで、中学1年生になる頃には私は年柄にも無く虫取り少女になっていた。だが彼は母親に良く思われていないようだった。小学校6年生の半ばから、彼の脚に痣が見えるようになった。手にも。それでも彼はいつもと変わらず、家の庭で焼ける蟬をじっと見ていた。
「大抵の虫は黙って死ぬけどさ、オスの蝉は死ぬギリギリまで叫んでるんだよね。恋の為の声なんだろうに、その声で何を喋ってるんだろうね。やっぱり命乞いかな。神様へのさ」
「恋い焦がれたまま死ぬんだし、やっぱり最後まで求愛の声で叫んでるんじゃない。」
母親から彼への虐待はどんどん酷くなって行っていたようで、新鮮な痣に覆われた彼の足は少しずつ細くなっているように見えた。だから、よくお小遣いでパンを買ったりして一緒に食べた。彼の家庭環境を変えるのが怖かった。そうしたら彼がいなくなっちゃうんじゃないかと。彼が私に弱さを見せてくれなくなってしまうんじゃないかと。卑怯で、自分勝手な恋だと痛いほどわかっていた。虫以下の自分を、何度眼の前で揺らめいて手招きする炎に投げ落とそうと思ったか知れない。

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