素手喧嘩コンテスト下書き「SCP-2921-JP - 大見得張り」

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Item #: 2921-JP Level 3/2921-JP
Object Class: Keter Classified

専用収容手順: SCP-2921-JPは顔面に口腔開放型のマスクと手足を拘束した状態で標準型人型オブジェクト収容室に収容してください。

説明: SCP-2921-JPは壊滅した準要注意団体「宴戯座」の元団長、角原 宴戯乃介すみはら えんぎのすけです。現報告書作成時で年齢は38歳であり、持病は特になく、また五体満足です。

SCP-2921-JPは自発的に見得1の所作をする時に異常性を発揮します。SCP-2921-JPの見得を視認した人物は自分がいま行っている動作を中断した後SCP-2921-JPに対して拍手や歓声、野次を送ります。またSCP-2921-JPが見得を切っている間、半径約30mの人間は強制的にSCP-2921-JPを視認することになります。これは認識災害用の対抗ミーム措置では無効化できず、また録音映像では異常性は発揮されません。

上述のSCP-2921-JPの異常性により、準要注意団体「宴戯座」構成員の捕獲は難航を極めていました。ですが1999/09/18にSCP-2921-JPが財団の機動部隊に確保されたことにより「宴戯座」はその後約3ヶ月で半ば空中分解するように壊滅しました。確保時にSCP-2921-JPは自身の異常性を使用せず、また抵抗する様子を見せなかったのは特筆すべき点です。その後かねてより予想されていたSCP-2921-JPの異常性が実験により確定し収容に至りました。

補遺:


インタビュー記録



日付: 1999/09/23
質問者: 雅灯研究員
対象: SCP-2921-JP


インタビュー開始

へえ、本日はよろしくお願いしやす。しやすなんですが、先生。先ずは謝らせて下せえ。この度はあたしの「宴戯座」が世間様に大変なご迷惑をおかけしたこと、本当にすいやせんでした。いいえ、財団の先生方のご尽力で一般社会への隠蔽は完璧だったことは分かりやす。ですが謝らねえとあたしの気が済まねえ。今日は洗いざらいぶちまけるつもりなんで。なんでもどうぞ。

あたしの体質についてですか。あたしは昔っから歌舞伎が大好きで、ガキの分際で茶の間のテレビを独り占めしてよくビデオやDVDを擦りっきれるまで見てやした。特に家族全員で東京に旅行に行ったときに本場の劇場で生の心太郎2を見たときに雷に打たれちまった。あたしはこの道に進むんだって。

あたしは18の時に故郷を出て東京で歌舞伎を学びました。一人じゃありやせん。同い年の由子もついてきやした。小中高一緒くたにされるくらいの田舎でしたから、あたしたち二人の仲は誰が見ても恋仲だった。実際、はっきりと告白したわけじゃありやせんけど、あたしは由子と一生いるんだって思ってた。ええ、そうです先生。どっちも思い込みなんでさあ。ひよっこのくせして歌舞伎をやるって思ったことも、由子のことも、真っ暗な未来をてめえのお気楽な考えだけで大した事ねえやいって思っちまった。

東京の劇場に弟子入りとして転がり込んだあたしは歌舞伎のイロハを学びやした。師匠たちからは「ちょっと筋が良いからって調子に乗んな」って茶化されやしたが、このご時世役者の子じゃねえ若いのなんて来るわけないから周りの大人たちが良くしてくれたのは言われなくてもわかっていました。

あたしが弟子入りして2年くらいだったかな、その劇場がサラ金に差し押さえられて潰れやした。

ええ、とんでもない借金があったらしくて。師匠たちは事情を知らない若いの、無鉄砲だけが取り柄で老獪さもないあたしが何故か保証人になっていて他の大人は夜逃げしちまってた。普通じゃどうしようもねえ真っ暗闇であたしが頼ったのは、同じく普通じゃねえ奴らだった。

「宴戯座」は先生方が言うところでの「異常なアノマリー」を使って舞台をする一座でさあ。歌舞伎だけじゃなくて落語とか能とか、現代演劇もやりやす。常識の通用しない、尋常じゃねえ世界で生き残った奴ら、「異常なアノマリー」を作ったり売り買いしている奴らは大抵強い権力や莫大な金を持ってるもんだ。「宴戯座」も最初が小さいし借金も多かったけど最後にゃバラバラになっちまう直前にゃそらすげえ金持ってたわけですよ。

そんな順風満帆で、なんで「宴戯座」を解体して手前は捕まっちまったか、ですかい。[沈黙]元々、由子は反対していやした。ただ見返したい、金を貰いたいだけで手前は得体のしれないものに手を出して、そんなんじゃ手前自身も得体のしれないもんになっちまうよって。由子との対立で決定的だったのは、あたしが大事にしてた心太郎のビデオを由子が棄てちまった事でした。唯一質に売ることもなかったそのビデオがもう手元にないと考えると、まるでガキの頃から見守ってくれた家族がいなくなっちまったように感じちまって。あたしは由子のことをこれ以上ない剣幕で責めやした。俺がここまで来れたのは、ガキの頃から「荒神」の心太郎が見守ってこれたからだ。お前それ分かって棄てたんだろうな。俺ぁこれからどの神様に見守ってもらえればいいんだって。由子がそれほどまでにあたしのことを心配していることなんざ知らねえで。由子の心がかなり参っちまっての行動だとも知らねえで。

由子の言うことは本当だった。ある日急に、あたしは手前の見得が今までとは少し違うことに気がつきやした。それは歌舞伎の途中でお約束だからなんて理由じゃなくて、あたしが道すがらでも財団の機動部隊に追われてる最中でも、あたしが見得を切っちまえばみんな見惚れてあたしの方を向く。この変化を、あたしは努力が実って神様がくれたご褒美だといってはばかりやせんでした。この力で「宴戯座」はあたしの大見得が名物になってどんどんでかくなっていきやした。それに比例するかのように、あたしが一座を大きくしていくうちに由子はあたしのことを化け物を見る目で見始めやした。

会話も段々少なくなって、由子の最期の言葉はあいつが死ぬ3日前に、全国行脚の名目であたしたちを捕まえようとする先生方の機動部隊から逃げている最中だったからそれも電話で、「下んない見得張ってんじゃないよ。あんたそのままどこに行くつもりなのさ。」って。あたしは、実際に面と向かうこともなくて。

[雅灯研究員がインタビューを中止するか質問するがSCP-2921-JPが拒否の意思をジェスチャーで示す。]虚しくなっちまったんでさあ。純粋に歌舞伎が楽しくてしょうがなかったはずなのに、金なんて関係なくてあたし達の歌舞伎見てくれんなら客なんて選ばなかったはずなのに。一番近くであたしの人生を応援してくれて見てくれたはずなのに。あたしの見得、誰に見せたかったんだろうって。あたしの見得を、これから誰が見てくれるんだろうって。そいつが積み重なってあたしは、もう、わかんねえって、手前の見得を、胸張って切れなくなっちまって。[すすり泣く]

インタビュー終了

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