アイテム番号: SCP-XXXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JP のサンプルの全てはサイト-8104に存在する地下貯蔵室へ収容されます。持ち運ぶ際には包装を解かず、直接手で触れずにゴム手袋を必ず着用してください。SCP-XXXX-JPを使用した実験を行う際には、担当者の許可を得た上でDクラス職員を利用し、SCP-2105-JPの残数を報告してください。実験は原則として禁止されています。必要な場合は、担当研究員へ要請を行い、許可された後、適切なセキュリティクリアランスを有する3名以上の監視の下で行ってください。
説明: SCP-XXXX-JPは50cm×30cm×10cmの大きさ、重さ1kgのブロック状に成型されている未知の成分を含んだタンパク質です。SCP-XXXX-JPは真空パックに類似する形式で包装がされており、包装に包まれている間は外部の影響を受けず、腐敗することもありませんが、包装を解いた後は一般的な肉類と同様に加工、調理が可能となり、腐敗も同様に進行します。現在財団は当該オブジェクトを2000ブロック、2トンを保管しています。
SCP-XXXX-JPのブロックを複数用意し、包装を解いた後に接触させることで癒着します。この癒着は数秒で完了し、再度切り離すためにはナイフなどの刃物を用いて切断する必要があります。
SCP-XXXX-JPは、包装を解いた後に何らかの動物を想起しながら人間が素手で触れることにより、その動物へと変化します。その際、重さは変化しません。大きさは若干変化しますが、基本的には重さに対して適合的な大きさになります。例をあげれば、「豚」を想起しながら当該オブジェクトに触れると、重さ1㎏の、サイズが小さいことを除けば非異常性の豚に変化します。また、当該オブジェクト同士を接触させ、癒着させてから触れた場合にも同様の変化を起こします。具体例を示すと、SCP-XXXX-JPを2ブロック癒着させてから「豚」を想起して触れた場合、重さ2kgグラムの、サイズが小さい以外は非異常性の豚へと変化します。
発見経緯: SCP-XXXX-JPは廃棄された食肉加工場から発見、回収されました。同物件は中山食品工業の所有物件でしたが、同社は倒産した上で工場は放棄され、従業員は全員解雇され、経営者の男性は自殺していることが確認されています。解雇された従業員はSCP-XXXX-JPの性質については知らないとしたものの、自殺した経営者の男性が3年ほど前に不明な人物とコンタクトをとり、その後SCP-XXXX-JPが同工場に納入されたと証言しています。
同社はSCP-XXXX-JPが納入され始めた頃から、安価な精肉を飲食店に販売することで利益をあげ、業績を急上昇させました。また、同時期に以前から契約していた畜産農家との契約を次々と解消しました。その後、仕入れ先が存在しない関わらず精肉が販売されていることが食品加工業界、飲食店業界で話題になり、同社の信頼性が低下したことで卸先からの契約が解消され、経営状態が悪化しました。この頃から、以前と異なり納入されるSCP-XXXX-JPが回収されたものと同様の大きさのブロックになったと元従業員は証言しており、新規事業を立ち上げ、事業を立て直そうとしたとみられますが、出店前に資金繰りがさらに悪化し、倒産に至ったことが判明しています。
放棄された工場、経営者の男性のつけていた帳簿を確認したところ、添付した画像が見つかりました。このことから、SCP-XXXX-JPは要注意団体「日本生類創研」と関連性があるものと想定されています。
SCP-2105-JPが発見された倉庫内から回収された領収書
SCP-XXXX-JPを使用した実験はインシデントの結果から現在は許可されていません。
以下の実験記録では、特に断りのない限り全て1ブロックのみを使用しています。
実験記録XXXX-JP-01
日付: 20██/██/██1
実験対象: D-████
手順: 「犬」を想起させ、触れさせる。
結果: 雑種の犬へと変化した。なお、この個体を終了し、解剖したところ、大きさが小さい以外は正常であり、内臓も確認された。
分析: SCP-XXXX-JPは明確に種の名前を想起しなくとも機能するようだ。 -██博士
実験記録XXXX-JP-02
日付: 20██/██/██
実験対象: D-██
手順: 「秋田犬」を想起させ、触れさせる。
結果: 秋田犬の雌へと変化した。当該個体も内臓を備えていた。
実験記録XXXX-JP-06
日付: 20██/██/██
実験対象: D-████
手順: 対象に記憶処理を施し、「羊」を「ヤギ」と誤認させた上で、「ヤギ」を想起させ、触れさせた。
結果: 通常の「ヤギ」へと変化した。特異なこととして、当該個体は内臓を保有していなかったが、通常の「ヤギ」と同様に行動した。
分析: 思い描いている動物の名前と姿が異なる場合、名前が優先されるようだ。詳しく知らない動物でも、取りあえず外見と振舞いだけは想起した名前の動物になるようだ。つまり、よく知らない動物は再現度が低くなるということだ。 -██博士
インシデントレポート-XXXX: SCP-XXXX-JPの実験を行う際、包装をほどいた後研究員が誤ってSCP-XXXX-JPに接触しました。その後、SCP-XXXX-JPはDCコミックス社が出版している『スーパーマン』の登場人物であるスーパーマンへと変化し、逃走を試みました。警備員により鎮圧されたものの、スーパーマンの設定と同様の膂力、飛行など異常な能力を使用していることが確認されました。
SCP-XXXX-JPに接触した研究員へのインタビューを行ったところ、当時業務が重なっており、「自分がスーパーマンならこれくらい楽勝で終わらせられるのに」と考えていたと証言しました。このインシデントから、SCP-XXXX-JPは明確にSCP-XXXX-JPを動物に変化させようという意志がなくとも、接触時に何らかの動物を想起しているとそれに変化する可能性があること、漫画の登場人物など架空の存在でも動物であるならば再現することが示されました。
また、このインシデントによりSCP-XXXX-JPの実験を行うことはリスクが高いと判断され、実験は原則として中止されることに決定されました。
インシデントレポート-XXXXを受け、SCP-XXXX-JPには架空の存在を再現できることが確認されました。この異常性及び既に明らかになっているSCP-XXXX-JPの性質を踏まえると、極めて危険な異常生物を発生させることが可能になると推測されます。
SCP-XXXX-JPは日本生類創研によって製造・販売されているものとみられるため、日本生類創研がSCP-XXXX-JPを利用し、実験及び改造に必要な生物を調達していることが推測されていますが、SCP-XXXX-JPを他の要注意団体などに販売あるいは奪取された場合には、攻撃的な生物を生み出される、その団体の戦力を増大させるなどの危険があると考えられます。
SCP-XXXX-JPによる異常生物の出現とそれによる攻撃に対処するために、SCP-XXXX-JPによって再現可能な「動物」の種類や性質を確認する必要があります。この目的に沿って以下の通り実験を行いました
実験記録は別置されることになりました。閲覧する必要がある場合は、担当職員に要請の上、適切な手続きを経たのちに閲覧してください。
実験の結果、SCP-XXXX-JPに関する以下の2つの結果が得られました
結果1: SCP-XXXX-JPは小説・映画・漫画・絵画に描かれた存在に変化できることが確認されました。SCP-XXXX-JPの基本的な特徴通り、質量が元になるブロックと変わらないものの、異常な能力を有する生物を再現した場合、その能力も保有していることが確認されました。
同時に、想起した人物が再現しようとした架空の生物を詳しく知らない場合、精度が低く再現されることも確認されました。実験の際の例をあげれば、SCP-XXXX-JPを用いて「つちのこ」を再現しようと試みた際、日本国外出身で「つちのこ」に関する知識がないDクラス職員をSCP-XXXX-JPに触れさせた場合、一般的なアオダイショウの腹部が大きく膨らんだ生物として再現されましたが、「つちのこ」に関する情報を刷り込んだ後にSCP-2105-JPに触れると、酒を好む、毒液を吐き出すなどの異常な能力を持つ個体として再現されました。
結果2: SCP-XXXX-JPを用いて人型実体が再現されることも確認されました。異常な能力も保有した状態で再現されます。注目すべき点は、SCP-XXXX-JPにより再現された架空の人物は、意識があるように見えますが脳の機能は停止し、その機能を完全に失っており、外界に対する反射のみで活動しているにもかかわらず、人格を持っているかのようにふるまうことです。この反射による活動は、SCP-XXXX-JPに触れた人物がよくその架空の人物の設定を詳しく知っている場合、真に迫ったものとなり、よりその架空の人物らしい言動をとり、異常な能力の精度も高まります。
██博士の所感: おそらくSCP-XXXX-JPは触れた人物の意識や記憶を読み取り、想起した生物の形をとるのだと思われる。上述の「つちのこ」の例が示す通り、ある生物について詳しくなればなるほど、それだけ精密な架空の生物を生み出すことができるということだ。これは、架空の凶悪な生物について詳しい人物がいれば、即座に凶悪な生物を生み出すことができることを示している。幸い、質量が変化しないため、準備には時間がかかるだろうが、例えば、大量のSCP-XXXX-JPを準備した上で特撮マニアにでも触れさせれば、即座にゴジラが出現して町を破壊する可能性もある。
このように考えれば、SCP-XXXX-JPの生産工場を特定し、破壊することが必要となってくるだろう。既に流通しているSCP-XXXX-JPがあれば、それらも速やかに回収しなくてはならない。日本生類創研に潜入させているエージェントには、SCP-XXXX-JPの生産工場を特定するように追加で任務を与えるべきであると強く進言する。
しかし一点気になることがある。まさに「つちのこ」の例では、「つちのこ」を知らないDクラス職員にSCP-XXXX-JPを触れさせた。それならば、SCP-XXXX-JPは変化しないはずなのに、非常に不正確だとはいえ、腹部が膨らんでいる蛇という大雑把な形状は再現されていた。これが示すことは、単純に触れた人物の意識や記憶を参照しているだけではなく、また別な何かを、例えば集合的無意識などの領域を参照してSCP-XXXX-JPは形を変化させることができるのかもしれないということである。その場合、再現される「架空の生物」はどれほどの可能性を有するのかは未知数である。
インシデントレポート-XXXX-デルタ: エージェント・ヴィクタがSCP-XXXX-JPの保管庫に侵入し、80ブロックの包装をほどき、結合させて不正に利用するインシデントが発生しました。警報を受け、機動部隊が現場に到着し、エージェント・ヴィクタは拘束され、SCP-XXXX-JPが変化した人型実体は回収されました。以下はエージェント・ヴィクタによる証言です。
エージェント・ヴィクタ: 私はSCP-XXXX-JPの性質を聞きました。イメージした動物を生み出すタンパク質の塊であると、そう言われました。そして、架空のキャラクターまで生み出せたということも聞きました。つまり、これは使用者の頭の中に居る生物をトレースする性質を持つと考えたのです。私はそう気づいた後も、これを、こんな形で、財団に背く形で使うつもりなどなかった。なかったのですが…覚えておられますか?先日、エージェント・台場が監視中の団体との小競り合いの中で亡くなりましたでしょう。彼は、大分前の任務で、それこそ共に死線をくぐり生き延びた戦友でした。ただでさえ友人が少ない私にとっては、それこそかけがえのない友人だったのです。しかしそんな彼が亡くなってしまった…。任務です、そういうこともあるでしょう。エージェントとして、そこは割り切らねばならなかったはずです。しかし、私には無理でした。そんな時、私はSCP-2105-JPの話を思い出したのです。そして、思い立ったのです。架空の人物でさえ再現できるなら、私の中の彼をSCP-2105-JPを利用して再現…いや、蘇生できるのではないか、と。それから、彼との思い出を繰り返し繰り返し思い出し、彼を知る人に話を聞き、彼の遺品を入手しました。より本物の、完璧な、彼を創ろうとしたのです。そしてあのようなインシデントを起こしました。そして…あとは機動部隊の皆さんがご覧になった通りです。彼は確かに蘇生しました。私が知る通り、私が思い出した通りにね。そして、几帳面で真面目な彼らしく、私に現状を尋ねてきました。私が、SCP-XXXX-JPを利用して彼を蘇生した旨を伝えると、「ならばヴィクタ、君は収容違反を引き起こしたといえる。申し訳ないが拘束する」といい、拘束されました。そう、それでいいんです。エージェント失格の私を拘束し、しかるべきところに連行してくれたおかげで、SCP-XXXX-JPを用いて彼は本当に蘇生したのだと、心からそう思いましたから。
以上のインタビュー及び現場検証、SCP-XXXX-JPにより再現されたエージェント・台場の存在から、ある死者の情報を保有している人物が、その人物を想起しながらSCP-XXXX-JPに触れた場合、肉体が再現されることが明らかにされました。
SCP-XXXX-JPにより再現されたエージェント・台場の検査を行ったところ、身体的な異常は見られなかったものの、脳機能は停止しており、SCP-XXXX-JPにより再現された架空の人型と同様に、外界に対する反射のみで動いていることが明らかになりました。その際、人格は維持されているようにみえるものの、記憶には著しい欠損がみられるようにふるまいました。
インシデントレポート-XXXXにより行われた実験の結果及びインシデントレポート-XXXXデルタの結果から、SCP-XXXX-JPを用いた死者の「蘇生」が可能になるとの見通しが得られました。
SCP-XXXX-JPを利用することで、肉体を再現することは可能となりました。現段階でも、大きな記憶の欠損と脳機能の停止という現実に目を背ければ、つまり肉体的には「蘇生」が出来ているといえます。しかし、より完全な記憶の定着を行った場合、より完全な「蘇生」に至るということができます。
「殻の器」カラのウツワ計画
SCP-XXXX-JPを解析し、複製した上でそれらを利用し、疑似的な死者蘇生を行うための研究が進められることが決定しました。当該計画は「殻の器」カラのウツワ計画と呼ばれ、以下の2点を中心とした研究がおこなわれます。
1、SCP-XXXX-JPの複製と量産: 現段階で解析は完了しているが複製には至っていない。製造元である日本生類創研に特有の技術が用いられているとみられ、潜入しているエージェントを通じた情報の入手を待ちつつ、同時に現在財団が保有する技術で複製することを目指す。
2、記憶の定着: 当該計画を成功させるためには、単純にSCP-XXXX-JPを利用して死者を再現、「蘇生」した場合に生じる記憶の欠損に対する対処、つまり生前の記憶の定着が必要不可欠である。記憶の定着に関して財団は、記憶処理や電脳化など複数の方法を開発し、既に実践している。しかし記憶処理は生きている人物にしか通じないだろう。当面は「蘇生」した人物の脳機能を復活させる方法を検討することになる。また、当該計画の対象となる人物が生きている間に何らかの方法で記憶を外部化し、あとで再現された肉体にそれを落とし込む方法をとることもありうる。しかし、記憶の外部化も簡単ではない。一つの手段として電脳化があり、これまで財団は複数の方法により人間の電脳化を行ってきたが、それらの結果は芳しくない。宇宙船と融合し、あるいはパソコンに魂を閉じ込めたが、それらは財団に対して反旗を翻し、危険な存在となっている。これらの結果を踏まえれば、いまだ電脳化は確立された安全な技術ということは出来ず、不確定要素を少なくするためにも、現段階では、少なくとも直接この技術に頼ることは避けたほうがいいだろう。とにかく、肉体だけは再現できているのだ。あとは脳さえ再現できればいい。
████/██/██
日本生類創研が作成したと思われるSCP-XXXX-JPの作成方法は依然として不明であるものの、同様の機能を持つタンパク質を作成することに成功した。当該タンパク質を「カシン-α」と命名する。
記憶の定着については、現在の状況を継続する。
████/██/██
記憶の定着実験は難航している。脳の機能が停止しているので、一般的な記憶処理の応用は通用しないというのが一番の問題である。脳の機能を復活させる実験も行っているが、現在までのところよい結果は出てこない。
記憶の定着に関して複数の実験を行ったが、今のところ最も記憶の定着率が高いのは、生前に記憶を取り出しておき、死後に「カシン-α」で再現した肉体にそれを定着させることだが、それでも十分とは言い難い。
████/██/██
発想の転換だった。記憶をそのまま移植することが難しいなら、ある記憶に対する反応を完全にトレースすればいいのだ。電脳化技術を応用し、脳の電気信号のパターンをとり、脳に電極を埋め込み、それを通じて記録した電気信号のパターンを模倣することで、記憶があるように見せかけるということだ。実際に記憶があるか、意識があるかということは他人からみたらわからない。あくまで記憶があるように振舞いさえすればよいのだ。
████/██/██
実験の結果、電極に電気信号を与えることで、脳の機能は停止しているものの、外部からの刺激に対して記憶をもっているようにふるまわせることができた。
次は臨床試験の段階になる。
緊急臨床試験/経過と結果
エージェント・慈眼が作戦行動中に重傷を負い、治療が続けられたものの回復の見込み無しと判定されました。エージェント・慈眼は財団忠誠心の数値が高く、長年財団に貢献した人物であり、その技量も高いため、緊急的に「殻の器」の臨床試験の被験者として選出されました。エージェント・慈眼の脳の電気信号のパターンとその反応に関するデータは記録され、専用のメモリに保存されました。エージェント・慈眼が多臓器不全で死亡した後、直ちに人事ファイルを中心とした彼に関する情報を研究員に開示し、それらすべてを読み終わったのちに「カシン-α」60kgに触れさせました。
「カシン-α」はSCP-XXXX-JPと同様の反応を起こし、エージェント・慈眼の肉体を再現させることに成功しました。
再現された肉体に損傷がないことを確認した後、脳に電極を██箇所手術によって埋め込み、保存したパターンのデータを「カシン-α」により構築されたエージェント・慈眼の脳及び埋め込んだ電極へ書き出しました。全てのデータが書き出された後、エージェント・慈眼は脳の電気信号が保存される以前の記憶を保有しているようにふるまいました。
これをもって「殻の器」計画は成功したと判定されました。
補遺1: エージェント・慈眼の記憶を持っているようなふるまいには一部の欠損があることが判明しました。これは電気信号のデータの保存あるいは書き出し時に発生した不具合が原因であると推定されています。
また、身体検査を行ったところ、当初より予想されていたことではあるものの、記憶が保持されているようにふるまい、質問にも答えていますが、脳の機能それ自体は回復しておらず、外界に対する反射及び電極の信号によってのみで活動していることが確認されました。
補遺2: エージェント・慈眼は「蘇生」後1ヵ月の時点で元の業務に復帰しました。観察及び毎日の身体検査は継続的に行われます。
補遺3: エージェント・慈眼の現場復帰から1ヵ月後、「蘇生」前の彼をよく知るエージェントたちからのインタビューを行いました。現場復帰後、大きな違和感はないとの回答が多かった一方で、以前よりもエージェント・慈眼の口癖である「まぁ、そうだな」というフレーズが頻出していることなどが報告されました。エージェント・慈眼の「蘇生」前に有していた特徴がより強く表れていると考えられています。
補遺4: 「蘇生」後6ヶ月経過時点で、エージェント・慈眼は心身の不調を訴えており、専門のチームによる治療を受けることとなりました。主な症状は原因不明の強い焦燥感、原因不明の頭痛です。
診断の結果、「蘇生」直後と同様に脳の機能が停止していることを除けば身体的な問題は確認されませんでした。また、電極にも不具合は発生していませんでした。継続的な脳波のモニターも行いましたが、脳の機能は停止しており、刺激を示す波長も検出されなかったため、頭痛が発生する刺激自体が存在していないと判定されました。また、電極による電気信号の発生も一時的に停止しましたが、その間も頭痛を訴えていました。反射でのみ活動しているにも関わらず、何に対する反射がおき、強い焦燥感及び頭痛を覚えるという反応を生み出しているのか不明です。
エージェント・慈眼の反応を観察するために、カウンセリングの形式でインタビューを行いました。
以下の記録は、担当の雨戸医師との会話記録です。この会話中も脳波の計測が行われていましたが、特別な反応はありませんでした。
会話記録 ████/██/██
エージェント・慈眼: まぁ、そうだな。なんというか、自分で自分にしっくり来ていない、といえるだろう。身体と頭がチグハグという気持ちがある。時々…まぁ、そうだな、3日に1回位の頻度で、自分が今まで無意識にやっていたことを改めて確認しているのだ。まぁ、そうだな、例えば、箸の持ち方だ。今、私は普通に持っているが、本当に昔からこの持ち方だったのか、自信がなくなる時がある。あるいは、昔の記憶だ。小学校の時に私はまぁ、そうだな、悪ガキだったから近所のおじさんにイタズラなんかしてしまっていたんだが、本当にそんなイタズラしたか?ということが不安になるんだ。
雨戸医師: なるほど、自分の記憶が不完全であると感じて、記憶を思い返しているということですね。その場合、なにかがきっかけになっているのでしょうか?例えば昔の話をされたとか、何か昔のことを思い出さなくてはいけないと感じるような出来事があったとか。それに加えてお伺いしておきたいのは、その記憶の不完全さというのはどのような形でしょうか。お話を伺っている限り、単純にあなたが「蘇生」した際の記憶の転写が上手くいかなかったものと判断されますが、どうでしょうか。
エージェント・慈眼: まぁ、そうだな。記憶を思い返そうとすることにきっかけがあることもあればそうではないこともある。例えば、まぁ、そうだな、寝起きだ。寝起きのぼんやりしている時にふと昔のことを思い出そうとしている、という感じだ。わかってもらえるだろうか。それと、記憶の転写の不完全性ということだが、まぁ、そうだな、それはそうとも言えなくもない。だが感覚としては違う気がする。仮に転写失敗だとしたら、記憶が抜け落ちるだけで、今私がカウンセリングをうけるきっかけになった焦燥感というのは感じないだろう。だから恐らく原因はそこにはない。同時に、頭痛もそこに原因はないだろう。まぁ、そうだな、問題はむしろこの焦燥感なのだ。何かに追われているような焦りを常に感じる。いや、まぁ、そうだな。何か、ではなくて、自分に追われている気がすると言った方が正しいだろう。より正しい自分にならなくてはいけない、という気持ちがある。「蘇生」前の自分に戻らなくてはいけないという強い思いがある。原理的にはだ、まぁ、そうだな、自分の肉体に自分の記憶を転写しているわけだから、「蘇生」前と変わりはないはずなんだが、どうにもそうは思えないのだ。…まぁ、そうだな、なにか自分を構成するものが欠けているような気がする。
雨戸医師: あなたの同僚へのインタビューも行いましたが、それほど変化を感じないとの事でした。一方で、あなたの口癖が出る頻度が高まっているという所感もありました。確かに、今このカウンセリング中にも「まぁ、そうだな」という口癖が頻出しています。それは意図的に口にしているのでしょうか?
エージェント・慈眼: まぁ、そう…いや、また言いそうになったな。これは意図して発言しているわけではない。ついつい言ってしまうんだ。言われてみれば…この口癖は、ま…「蘇生」以前からよく言っていることははっきりしているからだろうか、とりあえずこの口癖が維持されているうちは、私は私であり続けられている、という感覚がある。
雨戸医師: なるほど。これまでの話を総合すると、あなたは「蘇生」以後、それ以前の自分とは同一性が無いように感じている。そして、その同一性を取り戻さなくてはならないという焦りがある。その結果として、同一性を担保している口癖「まぁ、そうだな」を多用しているということになりますね。これは恐らく「蘇生」の影響ではありますが、改善していけると思います。そして、これが改善されれば、恐らく頭痛の方もおさまると思いますよ。
エージェント・慈眼: 頭痛もおさまるといいけれども、どうだろうな。…フフフ、雨戸先生、少しだけ変なことを言ってもいいだろうか。
雨戸医師:えぇ、かまいませんよ。何ですか?
エージェント・慈眼:私はね、「蘇生」以降、自分が自分じゃない気がする、先生の言い方で言えば同一性を失っている、というわけだろう。この失ったなにか、「蘇生」された肉体と記憶、そのどちらでもない…「魂」みたいなものがないとしよう。この頭痛は、それを失った痛みではないかと、そう思うんだ。ほら、手足を欠損した人が、無くした腕や足に痛みを感じる現象、幻肢痛があるだろう。それの一種、まぁ、そうだな、「幻魂痛」とでも言おうか。そんな痛みがこの頭痛なんではないか、と思ったんだ。
補遺5: 「蘇生」から8か月後、エージェント・慈眼は勤務中に突然倒れ、そのまま一切の反射を行わなくなりました。雨戸医師を中心とする医療スタッフによる治療が行われています。肉体に関しては損傷はありませんが、脳機能は依然として停止しており、外部からの刺激に対してもあらゆる電気信号が発生していません。
脳の電極を操作し、特定の反応を誘発しようと試みましたが、反応は起こりませんでした。電気信号自体は正常に発生しているものの、エージェント・慈眼の肉体が一切の反応を示さない状態です。
これらの状況から、エージェント・慈眼には継続した治療と観察が必要とされています。
また、エージェント・慈眼のこれまでの経過を踏まえて、「殻の器」計画には修正が加えられ、更なる研究を行う必要があるとされました。
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利用ガイド
内容の面で気になったのは記事全体にかなりの冗長さを感じたことで、この原因は主に2つあると思われます。
1つは実験記録の部分で、ほとんどの内容が「触れて想像した生物を再現する。想像の精度が高いほど再現度も上がる」というオブジェクトの異常性をなぞり直しているだけなので、あまり面白みを感じませんでした。この記事でNisso-Nissoさんが「架空の生物を作れる日生研の脅威」を外したくない設定としていることはなんとなく分かるのですが、いかんせん実験記録は説明から予想できることが書き連ねられているだけですし、そもそも記事の終盤は「死者の復活」についての話になってくるので、発見経緯セクションからインシデントレポート-XXXX-デルタセクションまでの記述を全部削ってしまっても話が成り立つため、展開上もまったく必要ないように思えてしまいました。
もう1つは財団の計画についてで、計画の沿革や苦悩などを示す記述によって若干リアリティは増しているものの、既存記事でも似たような死者の復活についてのオブジェクトはよくあるせいか、財団の求める死者の蘇生とオブジェクトの異常性が少しズレているように感じたこともあり、精神の再現に行き詰まる度「じゃあこのオブジェクトじゃなくても良いだろ」という思いが読んでいる内に強くなっていきました。端的に言えば計画自体に無理矢理感があるというか、あまり納得がいかなかったせいで計画の下りをやりたいという作為的な要素を感じてしまうところです。
また個人的な好みもあるかもしれませんが、計画の下りを削除してエージェント・ヴィクタの強い願いによって復活させられたエージェント・台場が最後のインタビューでのような内容を語っているみたいな展開(「SCP-XXXX-JPにより再現されたエージェント・台場の検査を行ったところ~」の下りを「エージェント・慈眼の記憶を持っているようなふるまいには~」以降での内容に置換するような形でしょうか)でもより無常感があって良いかもしれないなと思ってしまったことも計画についての冗長感があった原因かもしれません。
総合して考える「私だったらこうする」という例は、実験と計画のあたりを大幅にカットして、
みたいな形で、オチをより引き立たせるためコンパクトにまとめるでしょうか。
全体的にはDVなんですが、所々ではおっと思わせられるような魅力も感じる記事だったので、ぜひ改稿に期待しています。