翠緑の光

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「チャック君は将来絶対、偉い人になるね」
学生時代はずっとこんな言葉を受けてきた。しかし本当にバカらしい。ガキの戯言だ。現実。この重い2文字が社会人になってのしかかってきた。
「青カバンは脳が腐敗してんだ。そもそも間違ったことを間違っていますと言えない空気間なのがおかしい」
チャック。この男は普段我慢しているせいか頻繁に愚痴が溢れる。ちなみに青カバンというのは彼の勤めている会社の上司の事である。特徴的な青いカバンを持っていることから命名したらしい。
しかしある時を境に彼の愚痴が消えた。
代わりに
「あー早く夢に入りてぇ。オネイロイになりてぇ」
という言葉を呟くようになったのだ。
オネイロイ。
確か、数ヶ月前だ。
いつもと同じく、チャックは自宅のマンションに帰り部屋のドアを開けるなり寝室に直行。スーツのまま床に着いた。大人としてあるまじき行為であることは深堀しないでくれ。
「ここ、夢なのか?」
チャックはそういったのだ。
その場所は筆舌しがたい様々なものが入り混じっている世界だった。一方では今話題のアイドルと触れ合っている者がいて、もう一方では札束にダイブしているものまでいた。
そもそも夢を夢だとチャックが意識すること自体が初めてであった。
「どうしたらいいんだ?」
「よう、兄ちゃん。ここ初めてかい?」
そう声をかけてきた者がいた。
「俺はミグレとっていうんだ。あんたは?」
40〜50代の男性の姿をしていた。
「チャックです。宜しく。それで、この世界は一体なんなんです?」
「おう。ここはな夢の中だ。そして、好き勝手に楽しんでる奴、さらに俺ら含め、ここにいる奴は皆オネイロイっていうんだぜ!お前さん、きっと気にいると思うよ。現実に満足してなさそうだもんな」
「余計なお世話、と言いたい所ですが…。正解です」
「だろ?俺にゃあ分かるんだよ、そういうの。でも安心しろ。一度この世界に入れたって事はこれからも入れる。
ここは一種のコミュニティ、つまり地域社会だ。沢山の人と仲良くなっていきな」
「へぇー。僕はラッキーて事ですね。でもちょっと待って下さい。じゃあ、起きる時ってどうするんですか?僕、いちよ社会人なんで遅刻厳禁なんです」
「それも安心しな、起きるときは体が透けてくるからそうしたら、後は勝手に目覚める。でも寝坊には気をつけろ。のめり込みすぎると勝手に起きないからな。けどな、オネイロイとしてした事は忘れないからストレス発散になるぜ」
夢、これについての解釈は色々あるが、少なくともチャックにとって夢はどうせ朝には忘れる不要なもの、と考えていたようだったためかなりの好条件で満足したらしい。
「じゃあ、やっぱり想像力が重要なんすか?」
「ここでは人にすげぇ能力を与えることも好きな物を好きなだけ手に入れる事だって容易なんだ。それら全ての根幹はそう、想像力だ。想像すりゃ何にだってなれる」
「じゃあ小手調べに、ダイヤモンド両手一杯くれ」
「想像しろ。思い浮かべろ。ダイヤモンドの重み、感触、色。触れているように…」
チャックは彼が持てる限りの想像力を全て使い、ダイヤモンドを想像した。1分ほど経過した。
「自分でいいと思ったら目を開けろ」
ゆっくり目を開ける。
そこにはチャックがイメージしていた通りの宝石、まさしくダイヤモンドが両手一般にあった。かなりの重量だ。人生で一生縁の無いと思っていた石ころが目の前にあった。
「本当だ。ミグレさん、なんでもできんだなぁ、オネイロイは」
「おっとそろそろタイムリミットだな、明日も頑張れよ社会人。俺は明日もここにいるから、会いに来てくれよ」
「もちろんです!」
それからというものチャックは夢でオネイロイとなりあらゆる物を想像し、ストレスを消して過ごすようになった。ミグレという男はチャックに対して非常に親切で優しく、チャックも彼をしたっていた。
徐々に想像のコツを掴んでいき食べたかった物を腹一杯食べ、会いたかった芸能人と会い、あらゆる娯楽を体験した。しかし、そんな生活をしていたら人間飽きるものだ。

初めてオネイロイになって数ヶ月たった頃、その日もチャックはミグレと共に夢を楽しんでいた。そのときは絶景巡りをしていた。するとチャックに話しかけてくる女がいた。仮面をつけている。
「二人で話しても良いですか?」
ミグレが答える。
「構わない」
気がつくと深い森にいた。日が照っている。彼女が想像した、世界だ。
「お兄さん、満足してないでしょ?」
チャックは思った。オネイロイになってから今までたくさんの人達と話してきた経験上、この女かなり怪しい。初対面の人と話すときに素顔を見せないなど言語道断。しかし図星だったと。
「私はね、貴方達オネイロイに最適な世界を紹介するんですよ。ちなみに名刺です」
:ビルド119 北支部営業部長 カイ・メイ:
もらった名刺にそう記されていた。
「貴方にぴったりな世界は貴方自身が、愚痴を吐き出すクッションになること。そうね…最適なのは箱ね。白い箱。全ての事柄を内部に吸収し、利用者に最も良い想像を自動で生成して反射する。朝起きる時、気持ち良く起きられること間違いなし。自分が一番楽しいし、想像は無限大だから飽きる事はないわよ。型としては、この#78なんてどう?」
「考えさせて下さい」
「そう。じゃあ決まったら教えて。店まではイメージしてくれれば着けるから。ビルド119北支部ね、宜しく」
そう言い終わると女は去っていった。説明が早くてチャックは完璧には聞き取れなかったようだ。しかし大まかな内容は理解できたらしい。
「とりあえず、ミグレさんに相談しよう」

「ミグレさん、自分自身の姿を変えるともっと面白くなりますか?」
チャックは気軽に言ったつもりだった。ミグレなら話に乗ってくれると思っていた。しかし違った。
ミグレはチャックを思い切り殴った。
そしていつにも増して真剣な顔つきで低い声で言った。
「バカ野郎。そんなことしていいと思ってんのか?自分自身の姿を変えたら確かに一番楽しくなる。でもな、人のつながりは全部消えちまうぞ。誰も振り向いてくれない。分からない。
そうなりたいのか?そのビルド119とかいう会社は異常者しかいねぇ。
自分の姿を変えるなんて二度と言うんじゃねぇ。言葉の重みを知れ。
俺はなぁ、お前とこれからもいたいんだ」
ミグレは闇に消えた。
「はぁ、はぁ。最悪な世界夢だった…。しかも遅刻じゃねぇか。くそー!」
のめり込みすぎた。しかしそんな事よりミグレを傷つけてしまった事をチャックはいつにもなく悔やんだ。あんな会社二度と関わりたくない。
それが原因で一日中仕事に身が入らず気がつくと彼はベッドにいた。
「ミグレさんに謝らないと!」

「嬉しい。来てくれたんですね」
え? え? え?
「はい。それで#76の件なんですが、是非お願いします」
何言ってんだ。おかしいよ。ミグレさん、どこ。
緑の光が、チャックに当たっている。
「そうですか。愚痴やらなんやら箱が全て吸収して思うがままの世界にしてくれますよ。#76は素晴らしく非常に強力な力です。誰にも邪魔されません。では早速。自分を思い浮かべて下さい。貴方は箱です。この光に誓って。『僕は箱です、僕の全てを創造して下さい』って」

「僕は箱です。僕の全てを…」

オネイロイね中に小さな箱があった。誰も近寄らない。噂では別の世界が広がっていると言う。誰も壊せない。その箱に触れた者は耐えがたい苦しみを受ける。
「全てを創造し、対象の満足していない欲望を引き出す翠緑の光」

財団は翠緑の光に影響されたオネイロイを「全てを緑に創造された者」と名付け危険視そるようにしました。
現在、オネイロイにおいてミグレと名乗っていた人物を特定し証言を得ています。また、ビルド119という企業は存在しません。あったのはー。


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