終末ふたりぼっち神話断片(完全版)

何してんですか

「死体漁り。燃料とご飯持ってたよこの人。あと猟銃と弾」

後で手ぇ洗ってくださいね。汚いので

「仏さんの前でそれを言うかね」

仏の前でもなけりゃ言えませんよこんなこと。そっちの雑嚢持ちますよ

「ありがと」

ちゃんと手洗ってくださいね?

「えっとね、とりあえずその辺から消毒用アルコール掻っ払ってきてもらえるとお姉さん助かるな。」

五分くらいかかりますが

「だいじょぶ」

さいですか。じゃあ行ってきます

「私ももうちょい漁れるもの漁っとくね」


受験のために泊まっていたホテルの天井が
満天の星空と化したあの夜

脳裏に詰め込んでいた微積分と熱力学
不安、結果ごとに想像できる親の顔
そういうモヤモヤが全部消えてくれたあの夜

あの夜から僕は

僕は一人だった


で、その猟銃どうするんですか

「4発だけ練習で撃つよー」

ちゃんと弾の数調べました?

「12ダース」

“ダース”を使っては得意げな顔をする人嫌いです

「ストレートに胸が痛んだよ君」

“胸が痛む”の用法間違えてますよ

「痛いのが事実なので間違ってないです……」

どこか痛めましたか?

「強いて言うなら心かな……」

脅かさないでください

「酷いよこの人~!」

あとこれ、捨ててなかった空き缶ですけど良かったら的にしてください

「はーい。ちょっと向こう置いてくるね」


タァーーーーーーーーーン

音すご

「反動すご。そして外しちゃった。」

一発で当てたら怖いですよ

「次撃つよー」

タァーーーーーーーーーン

カォーーーーーーーーン

は?

「当たった!」

マジで?まぐれじゃなくて?

「マジだよ君!」

40メートルは離れてんですけど

「装填するね」

ヂャコンッ

チャキン チャキン

ヂャキッ

「ありゃ、撃てなくなっちゃった」

うわ銃口覗いちゃ駄目ですって!

「ふぇ」

冗談抜きで死んじゃいますから

「むぅ」

むぅじゃなくて。多分そこ一回戻さないと引き金引けませんよ

「ここ?」

銃口は誰もいないとこに向けてください。そこです

「なるほど。こうかな」

ヂャキンッ

タァーーーーーーーーーン

カォーーーーーーーーン

タァーーーーーーーーーン

カォーーーーーーーーン

「当たった~!」

……その手の競技とかやってました?

「中学生の時にバスケやってたよ」

何て返せばいいんだ

「あ、日が暮れちゃう」

火起こしましょうか

「うん。これ濡れてない新聞紙ね」

ども

「明日は何しよっかなー」

イツキさん

「んー?」

ご飯炊きましょうか

「えっ、いいの?」

一週間近くゼリーとクラッカーとふりかけしか食べさせてあげられなかったお詫びです

「食べます!何手伝えばいいですか!」

雨風凌げそうで倒壊の危険性も無さそうな場所探してきてください

「はーい!行って参ります!」

いってらっしゃい


絶景と呼ぶには少々物足りない瓦礫の海
将来や現状のあれこれを考える暇すら許さない
限りなく1に近い視覚情報の波

薄れていた感覚 忘れていた自我
初めて完全に掌握した自分の体で、全身で
風速0の風を仰いだ彼の瞬間から

彼の瞬間から僕は

僕は独りだった


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この名前の無い物語のたった一片

ただの断片に過ぎない

それでも敢えて
敢えてこの瞬間に何かのタイトルを見いだすのであれば

それはきっと

[加筆]

終わり


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