終末ふたりぼっち神話断片
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──何してんすか。

「何って……見ての通り死体漁りだけど。」

汚いっすよ。

「……でもコイツ石鹸持ってるよ。猟銃も。」

あ、本当だ。あと食器用洗剤と水。良いラインナップっすね。

「マジで助かるわ。飯持ってるし固形燃料も持ってるし。とんだ宝箱だな。」

このオッサン、どんな最期だったんすかね。

「知らね。」

……物資回収したらさっさと逃げましょうよ、こんな見晴らしのいい場所に居続けるのもマズいっすから。

「ん、そーだな。……ガチャ引きてえな畜生。」

二度とガチャ引けない世界になっちゃいましたねー。

「うるせえ。」

そんなぁ。……あ、荷物持ちますよ、イツキさん。

「ありがと。」

よいしょっ。……んじゃ行きますか。

「応。」


一週間くらい前の深夜二時

鼓動のような轟音に浅い睡眠を奪われたあの日

最初に目にしたものは満天の星空だった

昨日の視界はこの世界諸共吹き飛んでいた

僕は一人だった

世界は滑らかに崩れていた


「──そういや名前何だっけ、お前。」

今まで通り“お前”でいいっすよ。

「ん。」

イツキさんって猟銃使えます?

「んなワケねぇだろ。」

っすよねー……どうしたもんだか。

「弾の数、数えてみたけど144発だったわ。」

おお、結構あるっすね。

「四発だけ練習に使う。」

危なくないっすか?

「今練習しないでいつ撃てるってんだよ。」

それもそうっすね。的はこの空き缶で良いっすか?

「ん。」

じゃあ向こう置いてきますね。

「助かる。」


タァーーーーーーーン

「衝撃すご。そして外した。」

下手っすね。

「黙ってろ。こちとら映画でしか取り扱い学んでねえんだぞ。」

頑張ってください。

タァーーーーーーーン

カォーーーーンッ

「当たった。」

すご。

「装填する。危ないからもっと離れてろ。」

はい。

ヂャキッ

ヂャキンッ

「あれ、撃てない。こうか。」

タァーーーーーーーン

カォーーーーンッ

タァーーーーーーーン

カォーーーーンッ

「よし。」

えー、凄い。マジで当ててる。何かその手のスポーツやってました?

「中学生ん時にバスケやってただけだよ。」

へぇー。

「飯食うぞ。」

はーい。

「お前やたら飯盒炊爨巧いよな。久々に米を美味いと思えたわ。」

親父がキャンプ好きだったんで、僕もしょっちゅう野外で米炊いてたんすよ。あ、近場の百均から食塩と醤油拾ってきました。よければ使ってください。

「ん。助かるわ。」

……醤油は駄目っぽいっすね。中身がガビガビだ。

「あー……」


見知らぬ日々を歩み始めたあの瞬間から

瓦礫の海に飲まれた優しい静寂の中を

灯りのない緩やかな絶望の中を

ただ無情に、無感情に漂っていた

僕は独りだった

世界は安らかに眠っていた


「風呂入らなくて平気なの?」

なんかこの環境下だとあんまり気にならないですね。フケの量はとんでもないことになってきましたけど。

「……櫛とか落ちてないかな。」

……イツキさんって、以前は何やってました?

「唐突に聞かれてもな。工業系の大学生だよ。」

はー。

「飛行機作るサークルにいた。テレビにも出たよ。」

へーっ! え、普通に凄い!

「にゃはは。だろ?」

もう二度と飛行機飛ばせないんすかね。

「だな。」

うーん……

「まぁ猟銃ぶっ放せる世界にはなったし良いんじゃね? ある意味前より自由にはなったろ。」

っすね。僕にも撃たせてくださいよ。

「やだよ。何だよいきなり。」

撃ちたいんすよー。

「弾がもったいないから駄目。」

むー。

「さっさと歩け。……ったくヒョロヒョロしやがって。お前絶対モテなかったろ。」

いや彼女いたんすけど。

「……」

……イツキさんは?

「…………」

……恋愛経験無かった人にモテるモテないだのをとやかく言われてもなー。

ヂャキンッ

すみません許してください銃を降ろしてくださいイツキ様。

「許す。その辺の窪みで夜営するか。見張りはやってやるから三時間くらい寝とけ。起きたら交代な。」

はい。

「悪かったよ。」

いえいえこちらこそ。


喉を灼く冷気

三月の日本に似合わない乾いた匂い

優しい無音

糸のようにピンと張られた、薄っぺらい東の向こう側

いつも通りの平坦な朝が顔を濡らす


「お前さ。何で世界が崩壊したのか考えたことあるか?」

無いっす。

「……これだから男子高校生は嫌いなんだよ。」

傷つくなぁ。

「マジで考えたこと無いんか。」

っすねー。イツキさんは何か思いつきました?

「考えたけど何一つ浮かばんかったわ。」

……てか今更知ったところでって話ですもんね。

「知らなきゃ気が済まねえんだよ。いきなりうちの弟殺しやがって。」

えっ。

「うん。厄災初日に家族全員死んだ。そういや言ってなかったな。」

……

「ここ何県だっけ。」

静岡っす。名古屋の奈落からかなり遠ざかりましたね。

「はー、なるほど。確かに浜松市あたりのクソ田舎っぽいな。……でも形は残ってる。物資漁るぞ。」

ご飯とか残ってるといいなぁ。


──無い! ご飯が無い! 何も無い!

「こっちも無ェッ!コーヒー缶の一つも無ェッ! クソァッ! くたばれェッ!クソがァッ! ふざけんなァッ!」

もう泣いていいっすか!?

「駄目だ! 泣くな! 殴るぞ!」

ほんとに泣いちゃ駄目っすか!?

「次の町漁って何もなかったら許可する!」

よーし! 頑張るぞ畜生! ふははははははははははははははははははははは! …………腹減った。

「言うな。余計腹減るからそれは言わんでくれ。」

えー、言ったら減るもんなんすか腹って。

「あー腹減ったなー。久々にワッフルとか食いてえなー。」

マジで減ってきたので許してください。

「可愛いなお前。」

喜ぶべきなんすかそれって。

「知らねえよ。さっさと歩くぞ。」


少しだけ笑える嘘が欲しくて

ニヤケながらも許せる現実が欲しくて

それでも僕は一人で

独りで

ただ我武者羅に、無意味に

光の中で光を探していた


「おう、戻ったか。ようやっとカップ麺六個だけ見つかったよ。」

わぁ! 凄いや、お手柄っすね。

「たださ、これタンタン麺なんだけどさ、ほんと冗談抜きでクソ不味いんだわ。そこは我慢してくれや。……さて、あとは箸と湯を沸かす環境さえあれば完璧だ。」

あ、それに関してなんすけどね。ラーメン屋跡地を発見したんでそっちで食べましょうよ。鍋とかカセットコンロとかガス缶とか転がってましたよ。

「でかした。案内してくれや。」

ではでは。周囲の警戒頼みましたよ。

「ん。」

どの辺だったかな……ああ、アレです。赤い屋根の店。


──クソ不味。

「酸味が邪魔だよな。ゲロ飲んでるみたいだ。」

何で商品化したのか解らないくらい不味いっすね。

「でも腹の足しにはなったな。御馳走様。それはそれとしてクソ不味。」

……あの。

「んー?」

しばらくこの町で休まないっすか?

「やだ。」

長期滞在しないにしても、ほら、ちょっとは休憩していきましょうよ。ずっと歩きっぱなしですし。

「駄目だ。このまま進み続ける。一定地域に留まるのは危険だ。」

でも休むべき──

「駄目だ。」

……鏡を見てください。

「あ?」

御手洗いの鏡で、ご自分の顔をご確認ください。

お帰りなさい。

「すまん。しばらくここで休むわ。」

見張りはやっとくので今夜はちゃんと寝てください。イツキさんは頑張りすぎです。

「うん。」

……ちょっとちょっと。

「うるせえ。」

いや、あの、

「あっち行ってろ。」

はい。

「泣き終わったら寝る場所探すからな。」

はい。

「やっぱここにいろ。横に座ってろ。」

はい。


「意外と暖かいのな。体育館の舞台裏って。」

何となく秘密基地っぽいっすよね。あ、マット詰み重ねてベッド作ってみたんすけど、これで大丈夫っすか?

「ん。問題無い。ありがとな。……久々にまともな睡眠とれそうだわ。」

どもども。僕のベッドも作ってきます。

「……お前、名前なんだっけ。」

んー、“お前”のままでいいっすよ。

「あのなぁ。」

……?

「ふたりぼっちなんだぞ。ずっと。これからも。そろそろ名前くらい教えてくれよ。」

……

「駄目かよ。」

“シド”。

「ほお?」

シドです。

「シド?」

シド。

「あだ名か?」

本名です。下の名前です。志留です。

「ほおー……」

呼び方はこれまで通り“お前”でお願いします。

「あいよ。」

よし。毛布確保できた。寝ますか。

「うん。」

おやすみなさい、イツキさん。

「おやすみ。」

「……あの。」

何ですか?

「さっきのこと怒ってる?」

えっ、あ、そんなつもりは。

「よかった。じゃあおやすみ。」

はーい。おやすみなさい。

「あ、すまん。もう一つ。」

なんです?

「私のことどう思ってる?」

……?

「いや、だからさ。正直言って嫌いなのか好きなのか、それともどうでもいいのかなって。……いや何言ってんだ私。すまん。何でもない。寝よう。」

好きです。出会ったときから。

「……」

……イツキさん?

寝ちゃったかな。


「──おい。おい。起きろや。」

……姉ちゃん?

「姉……ちゃんじゃねえよ私だよ。」

……あっ。これは失礼。

「おはよう。」

おはようございます。今何時です?

「こっち来い。」

へ?

「うん。来い。屋根に登るぞ。」


「な? すげえだろ。」

……と言われても。

「厄災前じゃ日の出なんか滅多に見ること無かったろ。それも地平線の向こうから出てくるのなんて。」

いや、親父とキャンプしてるときに何十回か見ましたよ。

「……」

でも体育館の屋根に登りながら見るのは初めてです。

「……ふふっ。」

えっ。

「……笑っただけだ。あと寒いからこっち寄ってくれ。」

あ、はい。

「抱きしめていいか?」

はい!?

「ふはは。かわいいなお前。」

ちょっとちょっとちょっと。

「なんだよ。」

怖いですよ。何ですかいきなり。

「はぁー?」

いつものイツキさんはどこに。

「何だよいつものイツキさんって。」

何かほら、もうちょっと粗暴でかっこいい感じの。

「解んねえ。今の私じゃ駄目か?」

いえ、そんなことは。

「来て。」

……はい。

「……温かいな。」

……

「お前は?」

温かいです。ちょっと寝ちゃいそうです。

「もうちょっとだけこうしていたいな。」

ええ。

「綺麗だ。」

綺麗ですね。

「──なぁ。」

んー?

「口調変わった?」

気のせいですね。

「あそ。」

[ここから改稿↓]

……なんか、出会った日のことを思い出しますね。覚えてます?

「ああ。そういやこんな朝だったっけ。」

イツキさん。

「何だよ。」

何でもないです。

「……にゃっ。」

うわっ。

「不快?寄りかかるの。」

いえ、全然。

「……シド。」

「好きだわ。お前のこと。」

[ここまで改稿↑]


「んで、これからどうするよ。」

今日中にお風呂を探します。

「水道止まってるじゃん。電気止まってるじゃん。風呂入れないじゃん。」

なので代わりになる何かを探します。

「……流石に臭いも汚れも凄いことになってきたからね。服も新しいやつに着替えたいな。」

何となく南へ向かいましょっか。

「うん。」

口調変わりました?

「気のせい。」

そっか。……荷物持ちますよ、イツキさん。

「ありがと。」


他人の青春に首を締められていた青空が

いつになく自由な表情で


うわっ。

「すっげ。」

これが浜名湖ってやつですか。

「えー……デカすぎない?」

デカすぎますね。多分ここいら一帯が浜名湖を中心に水没してるんだと思います。

「なるほど。」

風呂の代わりになるかもですね。

「三月の海に飛び込むつもりかお前。」

はい。

「やめとけって。」

タオルと替えの服なら一応持ってるので。この際水風呂でもいいので。

「やめろ馬鹿。脱ぐな。こら。脱ぐなって。」

水温確かめに行くだけです。

「なら脱ぐ必要ねえだろ。」

あったか。

「嘘ォ。」

いやほんとですよ。こっち来てください。

「……」

ぱちゃんっ

「うわっ! 冷た……くない。生温い。」

でしょ?

「やっぱ脱ぐわ。私も入る。」

[加筆]


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