著者娘外伝 ~teruteru_5娘とv vetman娘 編①~
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(ツイったで生まれた胡乱を書き起こしました)


「自分で“面白い”って思える作品を投稿したこと、今まで何回ありました?」

会議椅子にドカリと座りこむ黒マントの不審人物を眼前に、薄青髪の著者娘、teruteru_5娘は固まる。

砂箱学園3号館256号室。Tale執筆におけるノウハウを知る著者娘がインタビュー形式で様々な書き方を伝授する企画に際し、てる娘を含む4名の著者娘たちは集結していた。

今回のインタビュー対象はv vetman娘。蛇と焚書のカルテット第六頁を書き上げた直後の、いつまで続くかも解らないクールタイムを持て余していたこともあって、当企画に自分から立候補してきたTaleの専門家である。どことなく疲れた様相の顔とは裏腹に、勝負服の高すぎる襟より下の肉体は豪快な熱を帯びていた。Taleにガチで向き合うと全身が発熱する特異体質とのことだが、その真偽は依然として不明である。

軽い静寂の後、どことなく弱弱しい返答が浮かんだ。

「……あまりないです。強いて言うならSCP-2071-JPと、終末銀河旅行の2作のみですね」
「そこでちゃんと素直になれるなら大丈夫です」

組みっぱなしの脚を解き、前のめりに質問者たちを見据える。この瞬間は他の著者娘など眼中になく、V娘はてる娘をガッチリと見つめていた。口元にどの表情を彫り込んでいるのかは想像し難い。

「数作でもそういう作品があるってのは最高ですよ。ただこの企画のコンセプトである“高評価作品を手掛けた著者による”を踏襲するなら“評価を得られる記事を書くノウハウを教えなければ意味がない”って結論に落ち着くわけです。書くことそのものが楽しいから低評価削除でも構わないって奴には何も教えることないですし、それも一つの正解だと思ってます」
「“残るか否かの基準”は“自分が面白いと思えるか否か”、ですか」
「その通り」

ストップウォッチを握るエンジン娘、てる娘に同行中のみ~娘、ゆっこ娘も、固唾を飲んで次の返答を待つ詫びる。この間、V娘は一度も瞬きをしていない。

目線のやり場に困りながらも、てる娘もまたV娘の顔をよそよそしく見つめていた。

「……先走りすぎていたかもしれません。自分の記事を残すことだけに囚われて」
「承認欲求は原動力の一つとしてカウントしてくれて十分です。でもまずはあなたが楽しまないと意味がない。楽しんで書けたなら残る確率も少しはマシな方に傾きますし、実際とても残りやすくなりますので」
「胸に刻んでおきます。ありがとうございます!!」

てる娘の元気な返事に頷き、残り数少ない質問へと順次返答していく。すべての作業は概ね順調に進み、予定時間を多少超過したところですべての質問が終了した。真夏の日向に放置した自転車のように温まったパイプ椅子を畳み、軽く挨拶を交わしてV娘はその場を発つ。この後は外で待たせておいた編集と共に牛丼を掻き込みに行く予定である。

唯一、てる娘だけが会場に残っていた。

明かりの乏しい部屋の片隅で、人知れず拳を握りしめる。その意味や理由を知る者は、未だ一人として存在しない。


「──インタビューお疲れさん。どうだったよ」
「言いたいことは言ったが、お前が望んでる次回作へのモチベは案の定空回り中だ。明日の取材で取り戻すぞ」

学園敷地内の繁華街、その一角。著作の無い著者娘たちが自主的に営業する牛丼専門の食堂にて、V娘とその担当編集は冷や水を啜る。カルキ臭いグラスだった。眉を顰め、編集は続けて問う。

「ぶっちゃけた話、どうだったよV子さんよ。インタビュー担当してくれた人たち」
「知らん。道を示しただけで創作者が変わるかって話だ」
「それはそうだけどさ」

差し出された納豆入りの特盛牛丼を汚く頬張り、糸引く口を片手で抑えながら編集は続けた。

「アレだよほら。ぶっちゃけるけどてる娘さんと話したの今回が初めてなんじゃなかったの?」
「だから何だよ」
「有名人だろ彼女。大量投稿と大量削除の勢いだけは学園一位…筆の速さだけはステ娘と並ぶかそれ以上なんだっけ」
「らしいな」
「やり手っぽかったか?それとも履いて捨てるほどいる類か?」
「知らん」
「知らねえことはないだろうがよう!」
「お前が直接会って確かめたらどうだ?」
「待機命令出してた癖によく言うぜこの娘は」

なんやかんやと会話は続く。一瞬で食事を済ませ、それぞれの原付を駆って店を後にした。編集はV娘との契約を結んだ著者娘の編集者たちと飲み会に。V娘は学園内1/1ジオラマ区画の片隅、通称“壊滅街”の片隅にたたずむキャンプへと向かう。

道中、日中のインタビューを回想する。

「teruteru_5、か」

ダボダボの白衣に薄青の片目隠れポニテ。そして気迫に見合わない絶妙な高身長。思い返しても何故、彼女が勝負服を手にするほどの著者であるかはあまり理解できなかった。というか覚えるための努力を怠ったせいで既に顔が思い出せない。

結論から言うと、V娘の眼中に彼女は存在しない。何なら三日後には存在ごと忘れているだろう。再発したスランプや、永久欠番四天王メンバーに対する申し訳なさと焦り、ルーキーコンテスト世代の他の著者が次々と新作を投稿する中で自分だけが無様にくすぶっている現状も相まって、現在の彼女には精神的余裕がない。錯乱や鬱にこそ沈まないものの、カルテットの最新話を投稿して燃え尽きたばかりのV娘は、最初期の彼女から大きく変わり果てていた。

具体的には目の輝きが。泥と硝煙の中で初めて真の光を得る眼光が、もはや一切として存在しない。“名前の無いファイル”の栄光と重圧に押しつぶされ続けた末路であることは、他でもない彼女本人が一番自覚している。

「……何が主人公だよ」

主人公。一度は登り詰めた地位、だったかもしれない。在りし日の彼女がその称号を得たことは紛れもない現実だったが、歓声と熱狂を忘れて久しい彼女を突き動かす過去は、遥か遠い。今の彼女にあの当時の力は残されていない。

何故、インタビュー対象に立候補したのかを思い出す。

明確な理由はやはり存在しなかった。

「……アイツ主人公になんねえかな」

それでも、多分これだけは本心だと思う。不意に口から漏れ出た言葉を原付の加速で置き去り、数秒前の自分をかき消すように帰路を辿った。

—-

帰宅。廃墟街…の精巧なジオラマの一郭に構えたわが家へと乗り込み、シャワーでざっと汗を流す。終わり次第私服ジャージに着替え、日課の就寝前筋トレを始めた。プランクと懸垂に始まり、徐々にトレーニングの難易度は上がる。最近は体を鍛え上げることが最大の楽しみになってきている節がある。著者娘としての存在意義が揺らぎかねない。

考えるな。無心になれ。体を動かせ。体を動かせば現実から離れつつ執筆負荷に耐えきれる肉体も構築できる。また返り咲くために──

「──こんばんは~~~~!!!!!!」

正体不明のクソデカい挨拶にビビり散らし、バーベルを足元に取り落とす。右脚の甲が粉砕されたが、滅多にない来客の方が珍しかったのもあって特段気にせずに玄関へと進んだ。

「……こんばんは!!」

てる娘の全身がそこにあった。何故か全身ずぶ濡れである。

予想外の連続をギリギリかみ砕き、「服貸すから中入って」と言いかけた瞬間だった。

「批評をもらいに来ました!!!」

予想外が積み重なりすぎて、ついにV娘はフリーズした。

てる娘は相変わらず天真爛漫な笑顔である。


第二話に続くかどうかは明日の俺に聞いてください

[[/span]] Q君は誰だ


vetman



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執筆者: v vetman
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最終更新: 06 Aug 2022 04:26
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