巨人と巨人の殴り合いを20世紀最後の七月、川崎市で。

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超常現象記録-JP: No.█████


概要紹介: 国土交通省の航空路監視レーダー、航空自衛隊および在日米軍のレーダーサイトなどによって、高度約10,000 mを飛行する所属不明機が探知され、物体を投下した後に消滅しました。投下された物体は京浜工業地帯へ達するコースを取って降下していましたが、高度1,000 mに達したところであらゆる観測手段での感知が不可能となりました。財団の超々望遠カメラによる画像観測によって、投下された物体は頭長高12 mほどの人型機械であり、機体各所に「東弊警備保障」というマーキングが施されていることが確認されています。
発生日時: 2000/02/24 17:06〜17:11
場所: 関東地方上空
追跡調査措置: 各官公庁内の情報操作および目撃者への記憶処理措置は正常通り行われました。また、同現象を観測していた世界オカルト連合極東部門との情報共有によって、人型機械が携行していた装置が、GOCがSCP-748排撃用に準備していた装備に近似するものであることが判明しており、SCP-748起源の情報で言及されている「トーキョー」との関連性が指摘されています。なお、同現象とGoI「東弊重工」との関連は不明です。

(SCP財団日本支部中央データベースより抜粋。)

夏蜜柑の騎士: 第一幕
──巨人と巨人の殴り合いを20世紀最後の七月、川崎市で。

2000/07/13

 信じられない話ではあるが、これが現実なので何も言えない。僕、江間えまあらた24歳は、自分の勤め先が開発した巨大ロボに乗りながら、突如出現した悪の巨大ロボと現在進行形で殴り合いを繰り広げている。午前五時半頃の川崎市で、周辺ビルの外壁を時折削ったりしながら戦っている。負傷したGOCエージェント数名を庇いながら巨体な盾で弾丸を防ぎ、隙あらば両腕のロケット加速機構を駆使して敵の顔面をぶん殴っている。アニメでしか観れないような零距離戦闘ゼロレンジファイトを、衆人環視、それからパトカーや機動隊が構成する包囲網の中で展開している。

「まだ倒れないのかよ……いい加減に……しろォッ!」

 加速した15発目の鉄拳がようやく敵の頭部の軸を捉え、頸部ごとユニットを吹き飛ばした。轟音と共に敵機は倒れ、そしてまたゆっくりと立ち上がる。ゴキブリみたいにしぶとい、タフなやつだ。が、確実にダメージは入っているらしい。さっきまでの威勢がまるで無い。

ヘッドセット越しに伊勢先輩の声が響いてきた。息遣いが荒いせいで雑音もひどい。コックピットハッチのすぐ向こう側から響いてくる轟音にいちいちビビりながら通信音量を最大にする。

「江間君、ちゃんと生きてる?」

「なんとか生きています! 今まさにやつの観測モジュールを破壊しました! 何か指示があるなら手短に願います! 今は集中しないと死ぬ! 確実に!」

「解った、落ち着いて。多分そいつは胴体部分にサブカメラがあるから完全に目を潰したと判断しちゃダメ。右手の50ミリ機関砲に当たったら確実に負けるから、君から見て右側から大きく回り込むように距離を詰めて腰と肩を中心に殴打して、隙あらばコックピットを潰して。OK?」

「了解! ………先輩、大切なことだから知っておきたいんだけど、“タケミカヅチ”の活動限界時間ってあとどれくらいなんです?」

「丁度2分切ったところだね。あと30秒で仕留めてほしいな。もうそろそろ連合が総力を挙げて到着するはずだよ。」

「マジかよ……えっと、もし連中が来た場合──」

「指揮車両のところまで戻ってきたあとに予備バッテリーを換装して車を包み込むように反ミームフィールドを展開。しばらくは見つからないだろうから頃合いを見て逃げ出す。いいね? そろそろ通信切るよ。…………死なないでね。」

不幸にも一番面倒で、一番嬉しい指示を貰ってしまった。貰ったからにはこの任務を完遂せねばなるまい。10秒以内にやつのコックピットブロックを叩き潰して、さっさと逃げてやる。

決意を固め、両碗の超硬質ブレードを展開しながら、冷却システムをフル回転させて穴だらけの車道を走り出した。うっすらと目の前の空は明るくなっていた。

 それにしたって何でこんな面倒ごとに巻き込まれてしまったのか、今思えば二年前のあの日がすべての始まりだったのだろう──

1998/07/██

 二年前、他団体(まぁ要するに『財団』のことである)による度重なる妨害工作を懸念視した東弊重工は、本社の防衛および今後脅威になりうる異常団体への牽制、攻撃を目的とした独立武装セクション、『東弊警備保障』を設立した。当時重工内で注目されていた『巨大人型兵器“タケミカヅチ”開発プロジェクト』も戦闘を主要任務とする当社の開発部門に引き継がれ、幸運にも重工内で唯一適正テストをクリアした僕がテストパイロットに就任した。警備保障の主戦力として第一線で活躍できることが、この当時は何よりも嬉しかった。

 が、ここで予想もしていなかった事態が発生する。

 東弊警備保障創設のその日、突如として、なんの前触れもなく異常のヴェールが崩壊した。日付けが代わる頃には──今ではめっきり聞かなくなったが──、ヴェール崩壊に伴う市場の混乱と大不況、いわゆる“開示恐慌”が日本全土に潜伏する異常企業を襲った。他の企業があの時どんな状況だったのかはよく解ってはいないが、少なくとも重工本社は支援者スポンサー顧客カスタマーの撤退と上層部の度重なる失敗によりその経営を傾け、大金を叩いて雇用した警備保障の実働部隊100名あまりをあっという間に解雇、それでも赤字が回復しないと解ったとたんに、本社の未来ある若者数10名をリストラした。多少の経営回復は成功したものの、当然この判断は管理職と現場組の間に深い亀裂を生むことになり、数日経つ頃には自発的に本社を辞める者もちらほら出てきた。

 警備保障の社員は重工本社に戻ることを許されなかった。少しでも本社の負担を抑えるために、今はここに留まるべきと指示されていたからである。が、当然この状況下に仕事はなく、かと言って下手に動いただけでも何が起きるか予想がつかない。やはり辞職は相次いだ。

2000/07/10

 ──舞台は三日前に移る。あの事件からそろそろ二年が経過しようとしていたが、東弊警備保障は設立当初の輝きと人員をあらかた失いながらも一応存続していた。社員数は僕を含めて40名程度だが、なんとかうまくやっている。もちろん“タケミカヅチ”開発運用計画も継続しているし、今年の二月に──詳しい事情は伏せるが──ちょっとした実戦も経験した。少しずつだけど我が社は確実に功績を残している。まだあの惨劇の余波に負けたわけではない。

 朝の8:30、短い会議があるとのことで二階講堂に社員全員が集まった。数分遅れで社長が到着、全員起立して挨拶するも返事が返ってこない。何となくいやな予感を覚える中、全く予想していなかった第一声が静かに放たれた。

「重工本社からの資金援助の打ち切り、ならびに本社代表取締役直々の命により、来月をもって我が社、東弊警備保障は解散します。」

始まったとたんにこの台詞は心臓に悪い。焦りまくる自分を静かに沈めて必死に頭の中を整理する。おかしい。二月の██████襲撃作戦の成功は重工本社のお偉方に大変大好評だったし、僅かながら資金援助の強化もしてくださる話だったはずだ。ここに来て経費削減のために解体は有り得ない。

「確定事項ですか?」

後ろの席の誰かが震える声で質問するも、社長は間をおかずにきっぱりと答える。

「確定事項です。我々の活躍は確かなものでしたが、この活躍では到底埋め合わせできないほど、本社の負担は大きすぎたということです。」

沈黙が大きな波紋のように広がった。耳がイカレたのかと思うくらい、全員が沈んでいる。

「そして残念なことではありますが重工本社での受け入れはやはり人件費の都合上絶対にできないとのことです。このまま何も動かない限り、私を含む社員45名が全員路頭に迷う、あるいは財団や連合などの正常性維持機関に捕らえられることが確実です。」

社長の顔は窶れていた。下手な冗談や夢ではないらしい。つい先程まで隣同士ちょっかいを出し合っていた伊勢先輩が冷静に質問した。

「何をするべきですか?」

重すぎる沈黙がほんの数秒間流れた後、社長はゆっくり、そしてはっきりと告げた。

「……これより、私、社長、越前えちぜん明仁あきひとの独断で、東弊警備保障大規模撤退プロトコルを実行します。社員一同は本日中に、すべての重要資料を保存し重工本社に直接提出し、痕跡および不利益な証拠物件を処理し、我が社が結ぶ全契約、協定を終了あるいは破棄し、各自の自宅にて夜逃げの準備を行い、明日中に確実に逃げなさい。再集合の日時、場所に関しては、ただ今から藤井さんと阿波山さんと私で臨時会議を開き決議します。また、“辞職”を希望する社員は重工本社の監理委員の監視の下、重要記憶のみ完全に消去したした上で一度財団、あるいは神奈川県警に保護してもらいます。我が社の記憶抹消装置は優秀です、拘留されたとしても何一つ有益な情報が引き出せないと判断され、ひとまずは安全に保護されるはずです。こちらの紙に署名した人から順番に処理しますが、早めに決断してもらわないと業務に支障が出ます。なるべく急いでください。……全員の安全と健闘を祈ります。直ちに作業に取りかかりなさい。」

それだけ聞ければ十分だと言わんばかりに、全員が講堂を飛び出して、マニュアル通りの作業に移行した。短い間ではあったが、自分をここまで保護してくれた恩に酬いるために尽力することを誓った。同僚と協力して椅子と机を片付け、ちょっとヤバい書類の類を燃やし、日本政府が仰天するようなデータを重工本社に人力で届けた。

帰宅は徹夜で荷物をまとめ、アパートの契約を強引に解除して、翌日の午前四時半にバイクで逃げ出した。

2000/07/11

「江間君と伊勢さん、二人だけになってしまいました。」

 翌日の会議に出席したとたんにこれである。言葉を発しつつも社長は俯いたままで、伊勢先輩は目を閉じたまま微動だにしない。

「ここにいない人たちは全員、立派に最終職務を果たしたあと、重要機密記憶のみを完全抹消してから財団に投降しました。重工本社の職員による調査によれば、少なくとも彼らのDクラス送りは免れたみたいで、今後はレベル0、Eクラス職員として雇用されるみたいです。ひとまず安心しましょう。」

走馬燈のように同僚や先輩、後輩の顔が脳裏に映り、直後に安堵による変な疲労におそわれた。眠気も相まって力が抜けてしまう。が、そんな安心もつかの間であった。

「これから私は記憶を抹消し、財団に投降します。装置に関しては本社職員さんが取り扱ってくれます。本社への“タケミカヅチ”輸送後は君たちの好きなように動いてください。」

社長は数名の本社職員と共に講堂を後にした。最後まで社員の安全を考えて行動した彼に、先輩と一緒に深く一礼した。

 とりあえず地下に保管してある“タケミカヅチ”を重工本社に搬送する準備に取りかかった。解体処理をこの場で行うこともできないため、前もって各パーツごとに分解しておいたものを本社で破棄してもらうという作戦だ(当然こんなものを重工本社が保管していたところで無駄な維持費がかかるだけである。破棄にも金はかかるが安く済む)。


タグ: カオス・インサージェンシー _tale-jp 世界オカルト連合 東弊重工

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