目の前の女子を挽き肉にしたくなかった。
それ以外に大した理由はない。人肉を慾るバケモノ相手に野郎一匹。素人のステゴロで勝てる自信は毛頭無かったし、かと言って腰を抜かした女児を放って逃げる勇気も持ち合わせていなかったから、助けた。声すら出せずに固まっていた小学生女児を抱えて、同じく声も出せないまま、立体駐車場の開けた暗闇を、地上出口めがけて全力疾走した。
あれは救命じゃない。死にたくなるくらい死ぬのが怖かったから、死なれるのが怖かったから、死物狂いで体を動かしただけだ。
「──以上で事情聴取は終了となります。先程申し上げた通り、これより別室での記憶処理作業を行いますので、事前に返却された荷物、貴重品類の最終点検を済ませておいてください。本日はどうもありがとうございました〜」
窓の無い、6畳ほどの取調室。スーツの女は若干満足げな顔で立ち上がり、部屋の隅のプラスチックケースに収納されていた背嚢を掴み上げる。離席と同時に受け取りながら、即座に中身を確認した。
スマートフォン、財布、カード類各種、踏み潰された愛車の鍵、冷え切ったアイスと野菜類、鶏胸肉、全品揃っている。買ったきり手元を離れていった食品類のことを考えると気が気ではなかったが、どうやら身柄拘束中もちゃんと冷やしておいてもらえたらしい。収容違反とやらに巻き込まれた一般人の扱いは、相当手慣れているように思えた。
買い物帰りに巻き込まれた大量虐殺。正体不明の怪物。結果として救ってしまった女児の命。SCP財団。記憶処理。この組織に保護されてから16時間のうちに得た情報量が多すぎて、文字通り頭がパンクしそうだった。が、この混乱とも残り数分でおさらばできるらしい。これ以上知りたくないことを知ってたまるか。「この世界には自然科学の法則から逸脱した存在が何千、何万と跋扈していて、日夜世界の何処かで、誰かが異常の犠牲となっている」などと聞かされたが、そんな事実を頭の片隅に閉じ込めたまま余生を過ごす気にはなれない。記憶を消してくれるというのなら喜んで消してもらうつもりだった。
「あ、例の女の子ですけどね。しばらくウチが支援することにしたんですよ。保護者さんが残した遺産という形でカバーストーリを流布しつつ、ある程度のお金を財団が──」
スーツの女の話をこれ以上聞く気にはなれなかったが、あの女児の将来を考えると居ても立っても居られなくなる、というのもまた事実だった。あの子が記憶をいくら処理されようとも、両親を喪った事実だけはカバーストーリーでも拭い切ることはできないはずだ。そうなると、いくら事実を上書きしようとも心的外傷が晴れることはない。
それでも、この組織があの子を支援するというのなら、まぁ大丈夫だろう。組織としての財力は相当あるらしいし、被災者向けの手当も恐らく充実している。そう思うしかないし、そう思わなければ安心して記憶を消す気にはなれない。軽く会釈を挟んで部屋を後にした。
しばらく無言のまま階段を上がり、手術室のそれに似た金属製の扉の前に立つ。スーツの女が指紋認証で扉のロックを解除し、続けてこちらの両腕を、後ろ手のまま手錠で拘束した。一瞬だった。処理対象が動揺して暴れ出すような事例も珍しくないのだろう。保護から今に至るまで余すことなく観察してきたが、彼女の、財団エージェントとしての行動一つ一つは軒並み丁寧で、無駄が無く、ただただ感心するしか無かった。
「いやー申し訳ありませんね。処理対象を拘束するのはれっきとした規則なので悪しからず。あ、口封じの為に記憶処理すると見せかけて殺害……とかはしませんからね。ちゃんと生かして開放するので、そこはどうぞご安心を」
あまり考えたく無かった仮説だ。よりにもよって何故このタイミングでそんな話を持ちかけてくるのだろうか。素直に恐怖を覚えたのもあって、仕返しのために少しばかり暴れてやりたくなった。しかしながら、口封じの為の殺害に走るほど馬鹿な連中でもないだろう。殺せば殺した分だけ隠蔽作業のコストが跳ね上がる。何よりスマートじゃない。財団らしくない。
出処不明の安心感を胸に、記憶処理室へと踏み込んだ。会議机が1つと椅子が2つ、書類の数枚が机上に積まれている。先程の取調室と同じく、窓はない。更には機材や薬品類も置かれていなかった。これからどうやって記憶を消すというのだろうか。
スーツの女は装着したばかりの手錠をすっかり解除し、笑顔で椅子を勧めてきた。どうやら、ここから先は想定外の何かが発生するらしい。
「口封じの為の殺人って冗談、どう思いました?」
「財団らしくないと思いました。それはそれとして怖かったです」
端的に答えただけなのに、スーツの女はやはり朗らかな笑顔を絶やさなかった。
「記憶処理ってね、大変なんですよ。薬、機械、ミーマチックエージェント……とにかく色々な処理の方法があるんですけどね。どれもこれも運用コストはすごくすごく高いんです。殺す方がお得だったら目撃者全員殺してる〜ってくらい大変なんです」
なるほど、確かに大変そうではある。“異常存在を相手に殴り合う組織”、と一口に言っても、所詮は彼らも只の人間の集まりでしかない。異常、或いは人類社会には未だ進出していない最新技術をある程度使いこなしているとは聞いていたが、それでも完璧にこれらを使いこなせているとは思えない。
「で、もう何十年も前から『使わないで済むのなら異常資産はつかわない!記憶処理もやんない!』っていう方針が、財団内では取られてるわけですよ。これらともう一つの理由から、あなたの記憶処理をできるだけ行いたくないという意見が出ています」
どこから出た意見なのだろう。彼女の上層部のような部署だろうか。もう一つの理由というのも気になる。
「もう一つの理由、ですか」
「聞きたいですよね」
「教えて下さい」
もはや記憶が消えるという前提は頭の中から抜け落ちていた。スーツの女は、パイプ椅子に座り込みながら横行にのけぞり、足を組みながら本題を告げた。
「事情聴取中、こっそり一般人向けの職業適性診断、及び心理診断をやらせていただきました。合格ラインを遥かに超える数値が記録されたため、お上はあなたをフィールドエージェントにすべきだと考えてます。糸巻さん、正義の味方とか興味ありませんか?」
予測できなかった高揚感が、横隔膜の真ん中で渦巻いていた。大卒ニート一年目の夏が終わろうとしていた。
:
── Face Less/Full Face ──
フェイスレス フルフェイス
開
財団への就職はその場で決まった。その後は1週間近くかけて各種手続きとカバーストーリーの流布作業が続く。
家族、及び自分が知りうる限りの知人には、「全寮制の缶詰め工場への就職が決まった」とだけ伝えた。偽りの就職先は公に実在する企業であり、中身は缶詰め工場のカの字も見当たらない、新人職員用の訓練施設である。一度下見させてもらったが、ここが日本であることを疑ってしまうくらいには設備が充実していた。屋内運動場、射撃場、30mの深さを持つ特殊部隊用の訓練プール、寂れた外観からは想像もできない施設がわんさかと稼働している。
続いて学歴、TwitterやGoogleのアカウント、連絡先など、おおよそ個人情報と呼べる全ての情報郡を入念にチェックされる。当然怪しまれる要素は何も無い。チェックの全行程が済んだあとは、機密漏洩防止ミームエージェントとかいうグロテスクな画像を30秒間、瞬きせずに直視する。処置が終わる頃には「故意に機密を漏洩しようとした瞬間、直ちに全身の筋肉が硬直する」という身体に仕立て上げられていた。実験も兼ねて先日の事件の一部始終をツイートしようと試みたが、1文字目を打とうとした瞬間にスマートフォンを取り落とし、麻痺した全身を床に打ち付ける羽目になった。完璧だ。おまけに自白剤にも耐性が付くらしい。尋問やら拷問やらを受けても絶対に情報を吐かせない仕様らしい。完璧すぎる。摩訶不思議な技術をこの眼で知る度に、あのとき記憶を消さなくて良かったと思えた。いくら怪しげな機械で身体を弄られようとも、未知への好奇心が胸の内にあることに変わりはない。
居住地の移転、要するに引越し作業は淀みなく進んだ。絵描き必須のタブレット類各種、16Gbほどのエロ絵が溜まったパソコン、私服、卒アル、私物と言える私物を自力で梱包して、引越し業者──恐らく財団のフロント企業──にこれを託す。作業を開始したその日のうちに家族との別れを告げた。弟は別段気にしていないらしかったし、両親もようやく就職が決まった俺をそれなりの笑顔で送り出してくれた。さして仲が良かったわけではないが、やはり受験生なりたての弟を置き去りにするのは少しばかり不安だ。下手したらもう一生会えないかもしれない……なんてことを考えるのはやめておこう。生きて帰ってくればいいだけの話だし、考えすぎて業務に支障をきたすのも馬鹿らしい。
都内の実家から福島県の缶詰め工場の社員寮……に擬態した訓練施設のセーフハウスに担ぎ込まれた私物類を、夜のうちに開封。ここまでで既に1週間が経過していた。夜明け頃に財団の「お上」から指定された公園へと足を運んだ。7月9日午前6時の風を浴び、初めて踏みしめる福島の地を、心のどこかで懐かしんでいた。
:
「あ、ツムギさんこっちこっち」
継麦。財団加入に際して提供された新しい偽名、その名字だ。本名の下の名前から読み仮名だけ借りている。日本支部内のしきたりらしく、新たに用意する職員用の偽名においては、名字はスカウトを担当したエージェントが、名前はスカウトされた本人が決めることになっているとのことだった。新しい下の名前は、好きなロボットアニメの主人公の名前から拝借して「野明(ノア)」にした。
待ち受けていたのは、1週間前の事情聴取から今に至るまでの世話を焼いてくださったフィールドエージェント、新垣さんだった。彼女以外の財団職員を俺は知らない。専門は異常災害被災者のメンタルケアと事情聴取、一般人のヘッドハントらしい。
「んふふふ……様になってきましたね。特殊部隊に憧れてる男の子って感じが無くなってきました。しっかりお仕事しに来てる人の眼ですね」
「褒めてます?」
「勿論」
「一般企業50社以上落とされましたよ俺」
乾ききった二人の笑いが、夜明けに染まりつつある公園を潤した。正直実感がわかなかったんだと思う。ギリギリ大学を卒業できただけの凡庸な自分に、こんな機会が巡ってくるなんて思っていなかったんだ。
「さて、ツムギさん。何でお上は私しかツムギさんのところに寄越さないのか……って考えたこと、ありませんか?」
「過度の情報開示防止のためですね。武闘派の敵対組織が存在すると聞いた時点で『機密漏洩防止ミーム処置を突破してくる輩がいる』ってのは何となく想定してました。拐われやすい下っ端は安易に不特定多数の職員を知るべきじゃない」
「大正解!大正解ですよツムギさん!凄い!これに気づいてくれるなんて!」
胸元でぴょんぴょんと両腕を振る新垣さんは、無邪気なように見えてどことなく隙がない。喧嘩慣れしてそうな立ち姿は常に崩れなかった。
「いやー大抵のルーキーは人から教えてもらうまでずーっと解んないまんまなんですよ。ナイス推理です。……えーっとですね、そんな理由にいち早く気づいてくれたツムギさんに、今日はプレゼントがあります」
正方形の段ボール箱を1つ、ずっしりと、手渡しで受け取る。「開けてくれ」と言わんばかりの眼差しで見上げてくる新垣さんに若干ニヤけながら、ゆっくりと蓋を開けた。
バイク用の、光沢の無い真っ黒なフルフェイスヘルメットが、眠るように佇んでいた。不思議なことにバイザーも真っ黒、そして不透明である。
「被ってみてください。サイズは合わせておきました」
言われるがままに被る。やはり視界は暗いままだ。
「思考操作とかはこれから訓練していきましょう。ヘルメットの右側にあるツマミを、ペットボトルの蓋を開ける方向に回してください」
視界が開けた。傍目から見るとバイザーの表面は真っ黒なままらしい。彼女から提供された手鏡には、先程と全く同じ、黒色のフルフェイスが映り込んでいる。
「うんうん。今はそれだけできればおっけーです。『第三種Eクラスフィールドエージェント用第二種任務特化兵装』、略して『3EF2』と呼ばれる標準兵装です。これ以外にも順次いろんなフルフェイス装備を支給させていただきます。他の財団職員と合同で任務を行う際は、基本的にこのヘルメットを装備してくださいね」
一部犯罪組織や各国の特殊部隊でもこれに似た手法が取られているのは知っていたが、ここまで徹底した素顔の隠蔽は聞いたことがない。何にせよ同業者の顔は互いに見ないに越したことはないらしい。外見からは想像もできないほど軽いヘルメットを再び外し、やはりニコニコしている新垣さんへと、素顔を晒した後、丁寧に一礼した。
「よろしくおねがいします、新垣さん」
「こちらこそ。よろしくおねがいします」
窪地の片隅にある公園の遊具へと、陽の光が遅れて差し込む。手元のフルフェイスヘルメットは、終始夜の色を手放さなかった。
[以下は第二次修正を予定。脳波コントロール関係はやっぱ全部無しで]
械
『3EF2』とその取扱説明書を受け取った後、速やかにセーフハウスへと帰宅する。2階6号室。間取りは2K。スマートフォン型職員用端末への追加メッセージは1件のみ。「今日1日はゆっくり休み、娯楽に励め。ただし睡眠時間は必ず確保するように」とのことだった。空はすっかり青くなっていた。
「……生存報告しとくか」
独り呟きながら、約1週間ぶりにTwitterを開く。告知無しで長期間失踪したのもあって、4021人のフォロワーは「帰還」の2文字だけしか記されていないツイートに心から“いいね”を押してくれた。続けて未投稿だったラフ画を4つまとめて送信する。最後に就職時のゴタゴタでしばらく低浮上になる事も告知。これを固定ツイートにしてから潔くアプリをアンインストールした。ツイ廃真っ只中だった高校時代に散々辛酸を舐めさせられている。時間を無駄にしないためにも、今はあの居心地の良い場所から離れるべきだ。
流れるようにペンタブを取り出して、一番早く完成しそうなラフ画の清書を開始した。画面中央には、事件の僅か1時間前に書き上げたオリキャラの下書き。4.5頭身の少女が画面外のモブに罵詈雑言を浴びせかけられて、恍惚に浸りながら舌を出して震えているラフ画。フォロワーと自分の性癖にクリティカルヒットすることだけを考えて研ぎ澄まされた原石である。レイヤーを新たに用意して、カスタマイズしたペンで線を継ぎ足していく。相変わらず筆が遅い。コミカルでシャープでシンプルな絵柄を貫き通してるくせに、あまりにも遅筆すぎる。中学3年生の頃から絵描きをやっているというのに、何故こうも筆が遅いのか。正直自分でも解らない。解らないが、ラフから完成まで漕ぎ着けるための作業は本当に楽しい。
作業すること3時間、ついに1枚完成した。急いでWeb版のTwitteにログイン。投稿してから直ちにログアウトした。午前10時50分。早めではあるが昼飯を食うことにした。支給されたカップ麺に湯を入れて、待つこと数秒。何気なく『3EF2』を装着した。取扱説明書──アニヲタ向けグッズの紹介誌と大体同じくらいの厚さ──をパラパラと開き、入力用音声の登録作業へと移行する。
『──次に流す音声を発音してください。“SCP Foundation”』
耳元のスピーカーから聞こえる女性型合成音声の指示に従い、できるだけネイティヴに近いイントネーションで発音する。
「えsすぃーぴー ふぁゥんでいしャん」
『──Secure, Contain, Protect』
「せきゅreァ、こんていん、ぷroてct」
『──“確保、収容、保護”』
「かくほ、しゅうよう、ほご。いきなり日本語か」
英語、日本語、合計20種の音声に従い、その通りに発音する作業が5周続いた。作業が終わる頃にはラーメンもそれなりにふやけて伸びていた。失敗を悔みながら柔らかい麺を啜り、洗い物を済ませた後は『思考操作』とやらを試運転する。早速説明書通りの音声入力を使ってみることにした
「えーっと、“Mode Three. Input test.”」
『──脳波入力モードのセットアップを行います。左目の視界を遮断し、画面右側の輪を、緑色のガイドラインに沿って動かしてください。輪の本体は目で追っても構いません』
バイザーの左半分は完全に真っ暗になった。透明なままの右半分の司会中央には、緑色の真円がポツンと表示されている。円の中心を串刺すように、目線と平行に表示されていた直線へと意識を向ける。説明書曰く「腕を動かさずに腕を動かすイメージで輪を動かせ」とのことだった。よく解るようでよく解らない。
……チュートリアルの開始から2分は経過しただろう。ようやく輪を動かすことができた。左右にぐりぐりと、目で追うように輪を移動させる。慣れたら目で追わずに動かす。同じ作業を左目でも行い、続けて両目とディスプレイ全体を用いた動作を試す。8の字、三角形、色んな図形に沿って輪を動かす。コントロールが鈍らないように、できるだけ無心を保った。
輪を動かす行程が終了した後は、いよいよ本番同様の操作を行う。その場で立ち上がり、視界内に映り込んだ冷蔵庫を一つのオブジェクトとして自動選択。緑色の線が冷蔵庫の輪郭を捉えた。線の色が若干気に入らないので、変えられるのであれば後で変えておきたい。写真撮影のために2回連続で瞬く。保存した画像から商品名を検索して、各種性能や生産地をディスプレイ右の上端にリストアップ、写真ごとファイルを一時保存。さながら近未来警察SF映画の主人公だ。続けざまに冷蔵庫の扉を開ける。中に眠っていた食品類を視界へと収めてから、もう一度写真を撮る。視点を足元に移しながら扉を締め、画像の解析を自動プログラムに任せながら振り返った。画像解析完了の表示が出ると同時に、キッチンの隅に収納されていた包丁を手に取り、構える。使用者が戦闘体制へと移行したと勝手に認識されたのか、片刃の大型ナイフを用いた対人戦の簡単なマニュアルが自動的に表示された。シンプルにかっこいいインターフェースだ。新しいゲーム機に慣れる感覚で、次々と各種機能を試す。試し続ける。
どれくらいの時間が経ったのだろう。考えるよりも先に画面に投影された現在時刻は『2017/07/06 18:32』であった。なんてこった。訓練期間中でもないのに訓練に励み過ぎてしまった。おそらく貴重なのであろう休暇を派手に失ってしまった……が、楽しかった。こういう休日も悪くはない。脳波コントロールで何かを操作する感覚が心地よすぎた。
メシを食ったらさっさと風呂に入ろう。絵の清書には手を付けずに、もう少しだけ『3FE2』で遊んでみよう。
明日は身体、体力測定の日。
訓練の初日だ。
貝
「訓練生番号E3228、ツムギノアです。身体測定の全過程を終了しました。ファイルはそちらの端末に共有させて頂きます」
『ご苦労。ボクは雨野貝カナ。フィールドエージェントの育成を担当するエージェントだ。長ったらしいから“カイ教官”とでも呼んでくれ。よろしく、継麦野明くん。』
「よろしくおねがいします」
声帯は使っていない。昨日のうちに『3FE2』を介した思考のみでの会話を学んでいる。若干覚束ないところはあるが、登録しておいた自声を元に合成された音声は、本物さながらのイントネーションで偽者の声を奏でてくれていた。慣れれば漏らしたくない心の声を漏らさずに、いつも通りの会話をすることができる。
“カイ教官”とやらはこの施設内のどこにもいない。やはり過度の情報開示を防止する為に、京都府のサイト8181から福島の訓練施設まで、リモートでコンタクトを取っていた。どうやら向こうは生声らしい。
『訓練期間中に限り、君はボク個人の直接の指揮下に置かれることとなる。ボクは君の上官というわけだ。返事は米軍式で“イエス・マム”か“ノー・マム”。慣れないのであれば“サー”で構わないがそれ以外は認めない。返事は?』
「サー、イエッサー!」
『いい返事だ。……思考入力?なのか、これは。妙に合成音声っぽい響きだが』
「サー!これは思考入力で出力した合成音声であります!先日中に自力で『3EF2』の思考操作の基礎を学ばせていただきました!」
『思考操作は殆どの第三種エージェントが使っていない機能なんだが……できるに越したことはない。やるじゃないか』
「光栄であります!」
『普通の語調で話さない?』
「普通の語調でよろしいんですか」
『いいよ。でも命令には全て従ってもらうからね』
「了解です」
[加筆]
財団には特定の求人期間がない。
いや、あるにはある。例えば日本の公務員……警察官や自衛官、海上保安官、麻薬取締官、果ては消防士や検事に至るまで、有能、かつ現場から引っこ抜いてもそこまで文句を言われないような人材をカバーストーリー付で一斉にヘッドハントし、まとめて財団職員に仕立て上げるパターンだ。まとめて教育できるからコストダウンにも繋がる。だがそれは、あくまで一定数の人員をまとめて確保出来たら可能な話でしかない。
芥
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- portal:6103090 (10 Feb 2020 09:44)