凛と咲く花を、貴方に贈るために。Tale版
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0.彼岸花

私は、いつも不自由だった。

私の夢を認めてくれる人なんていなかった。

でも、あの時。

あの時、彼に会えたから。私は夢を全力で追いかけようと決めたの。

先に死んじゃってごめんね。

今から私なりの、恩返しをします。

あなただけの花を、贈ります。


1.銀木犀

今日から晴れて大学生だ!

待ちに待った大学生活にとても大きな期待をこの僕芹澤祐太せりざわ ゆうたは抱いている。入学するのが夢だった██大学を目の前にして僕は興奮を隠せなかった。僕はここでいっぱい学んで、いっぱい遊んで、できれば彼女とか……ウヒッ。

いやいや、いかん。僕は植物学をがっつり学ぶ為にここに来たんだ。彼女を作って浮かれている暇なんて無い!

受験期は大変だった。日本の大学の中でも10本の指に入るくらいレベルが高いこの██大学は学科が40近くあって、その中でも植物にフォーカスを当てていたこの「植物応用研究科」に僕は今までに無い魅力を感じた。オープンキャンパスにも行ったし公開授業にも行った。推薦も受けたけど落ちちゃった。だけど僕はそれから猛勉強をして、一次試験は900点中828点という人生最高得点を叩き出した。二次試験でも生物全完物理数学9割英語8割と好成績を叩き出し見事に総合2位で入学した。これでもまだ1位がいたのにはビックリしたが。

「██大学へようこそ!新入生ですか?」

先輩らしき女の人が話しかけてきた。恐らくサークル勧誘だろう。

「はい…そうですが」

「是非我らがバトミントンサークルに入りませんか?このサークルは男女仲も良く……」

あー…これはめんどくさいやつかもしれない。第一入るサークルはもう決まっている。

「新歓も来週あるので是非うちに…」

「あ、もう入るサークル決まっているので!すいません!」

「あっ、そうなんですか!ではそちらで頑張ってください!」

「あはは…どうも…」

入学式終わって早々サークルやら部活の勧誘がうじゃうじゃいる。僕はとあるサークルのコーナーを探す。

「えー、と………あった!」

僕は「██大学草花研究会」と書かれた旗が上がっている場所に急いで向かう。

「すいません!入会届ください!」

「おー!入ってくれるのか!有難い!」

椅子に座っていた爽やかな男の人が僕の方に来て言う。

「俺は会長の浅川宗馬あさかわ そうまだ!この横にいてビラを配っているオレンジ髪の女の子が副会長の伊吹」

「はいっ!伊吹紫音いぶき しおんでっす!新入生ですね!よろしくでっす!」

伊吹と呼ばれた女の人…僕より10cm程身長が低いから本当に女の子みたいだけど、伊吹先輩は僕の前にダッシュで来て僕の手を両手で握り、勢いよくぶんぶんしている。

「はは。すまんな新入生。そいついっつもそんな感じなんだよ」

「はい…大丈夫です…」

「でもそいつ、花の知識すごいんだぜ?このサークルの中には今の所そいつに花の知識で右に出るやつはいない」

「え、そうなんですか?」

とてもそうには見えない。

「えっへん!私、実は会長お墨付きの超超重要人物なんですよ〜?ほれほれ〜ビビったかぁ?新入生さんよ〜?」

そう言いながら伊吹先輩は頬を僕の胸板にすりすりしながら指で僕の体をなぞる。何というか…距離感バグってないか?

「そういえば、あんたの名前は?」

「僕は芹澤祐太です。お二方、どうかよろしくお願いします」

「祐太か!よろしくな!」

そういうと浅川先輩は手を差し出してきた。僕は彼と堅い握手をした。

「やったー!よろしくね!祐ちゃん!」

伊吹先輩はそのまま僕に抱きついてきた。祐ちゃんって…。まあいいか。

そんなやりとりを先輩達としていると背後から突然女性の声が聞こえた。

「あの…すいません」

「お!あんたも新入生か!入ってくれるのか?」

「え!ほんとに!?」

「あ…すいません…どうぞ…」

その言葉と同時に僕は女性の方を振り向いた。その瞬間、僕は心に電撃が走ったような感覚がした。

「ありがとうございます。あなたも入会するんですか?」

「は…はい…」

僕は彼女に完全に…見惚れていた。彼女は今までの人生で見た女の中で誰よりも美しく、可愛かった。

「そうなんですね!私、堀井心菜ほりい ここなって言います。これからよろしくお願いしますね!あなたのお名前は?」

「芹澤…祐太です…」

「芹澤祐太君ですね!私の事はなんと呼んでも構いませんので!」

「君達、早速盛り上がっているね〜!」

「えー!ずるい!紫音も混ぜてよ!」

先輩2人の声で我に返った。

「とりあえず2人共、これ」

浅川先輩が僕達に入会届を渡してきた。

「あ…ありがとうございます」

「来週までに書いてきてね!居酒屋で新歓やるから!」

伊吹先輩が楽しげな声で言う。当の本人は今堀井さんにべったりくっついている。

「分かりました!何だか楽しそうなサークルで安心しました!」

「ぼ、僕も同感です!新歓には絶対行きますね!」

「おう!じゃあまたな!」

「じゃあねー!」

2人が手を振って僕達を見送ってくれた。

これは僕と僕の初恋の相手、堀井心菜さんとの出会いと別れの話である。


2.桜草

「問題!花言葉は『しとやかな人』……」

「はい!フヨウ!」

「ブブー!」

「はい。プリムラ・オブコニカですか?」

「正解!心菜ちゃんすげーな!」

「あー!そっちか〜!」

「すごい…」

今、新歓で伊吹先輩と堀井さんによる「花言葉クイズ」が開催されている。出題役は浅川先輩。僕は入会時に浅川先輩から言われた言葉を思い出す。

『でもそいつ、花の知識すごいんだぜ?このサークルの中には今の所そいつに花の知識で右に出るやつはいない』

でも今開催されているクイズでは…圧倒的に堀井さんが優位だった。

「いや〜!紫音より花に詳しい人なんて初めて見たっすよ!」

「俺もだ。まさかこんな逸材が入ってくるとはな」

「はい…ありがとうございます」

僕は照れている堀井さんを見て一瞬心がドキっとした。花の話をしている時の堀井さんはいつもより輝いて見えた。堀井さんは相当花が好きみたいだ。

「よーし!今日は飲むぞー!」

「おいおい伊吹。今日は飲み会じゃないんだぞ?それに2人はまだ未成年だし」

「あ、そっか!じゃあ祐ちゃん!これ飲みな!」

「え、あ、いや、僕は…」

僕の言葉を無視して伊吹先輩は僕の目の前のグラスにノンアルコールビールを注ぐ。あんまり飲めないんだけどな…。

「はいはい、ココちゃんも!」

「あ、ありがとうございます…」

堀井さんも伊吹先輩のノンアルハラ(?)被害を受けていた。

「芹澤君、乾杯しよ!」

堀井さんが少し小声で話しかけてきた。

「か…乾杯」

僕は照れながら堀井さんとグラスを合わせた。

【3時間後】

「すぴー…」

「伊吹のバカ、散々飲んで寝やがった…」

「そろそろお開きにしましょうか?」

堀井さんが提案した。

「そうだな。このバカは俺がなんとかしとくから今日は遅いしもう帰りな」

「は、はい…今日はありがとうございました」

なんとかするってどうするつもりなんだろう。梃子でも動かなそうな感じだったけど。

「じゃ、芹澤君。帰ろうか」

「え、あ…うん」

僕達は居酒屋を後にした。

「にしても、堀井さん凄いな。花の知識があんなにあるなんて」

「えへ、ありがと!」

そう言うと堀井さんは僕に笑顔を見せた。心臓が飛び出るかと思った。

そんな僕をよそに堀井さんは少し声のトーンを下げてこう言った。

「私ね、お花屋さんになりたいの」

「そうなんだ。いい夢だね」

何だかシリアスな雰囲気に気圧されて僕はうっすい返答しかできなかった。

「いい夢、だと思ってくれるの?」

僕の返答が意外だったのか堀井さんは疑問符をつけてそう言ってきた。

「も、勿論だよ!僕、応援するよ!」

すると堀井さんは少し微笑んでから続けた。

「お花屋さんって言っても、ただ花を仕入れて売るだけじゃなくて、まずは植物の研究家になって、そして新しい綺麗な交配種とか見つけて、そして最後には、皆が笑顔になれるようなお花を…って、やっぱり馬鹿馬鹿しいよね」

僕は歩きながら黙って堀井さんの話を聞いていた。

「私、親から英才教育を受けていたの。友達との交流も制限されてたし、休日は1日10時間塾の授業入れられてたりもした。でもこの大学の医学部にトップ入学してからは制限も緩くなってある程度の自由は許されたの。でもやっぱり親は私がお花屋さんを目指す事を反対してる。本当は芹澤君と同じ学科に行きたかったけど、親は許してくれなかった。『せっかくこんだけ頭を良くしたんだから単なる花にその頭を向けるなんて勿体無い。皆を笑顔にしたいなら医学でもできる』だって。私の夢はやっぱり、叶っちゃ駄目なのかな…」

「そんな事無いよ」

反射的に声が出ていた。

「えっ?」

「堀井さん、今日の新歓でも花の話している時が一番活き活きしていた。本当に花が好きなんだなって思ったし、その知識量にも憧れた。高校まで制限されたいた少ない自由時間であれだけ花について勉強したんだなって思うと、頑張っていたんだなって思った」

「芹澤君…」

僕は堀井さんの手を握ってこう言った。

「僕は、そんな堀井さんの姿に惚れたんだ!だから、その夢、全力で応援させて欲しい!」

「えっ!?ほ、惚れ!?」

「だからこれから、僕と…その…なんというか……」

言え!言うんだ芹澤祐太!「付き合ってくれ」と言うんだ!

「ふふっ。芹澤君、顔真っ赤だよ?」

「えっ?」

思わず拍子抜けして握っていた手を離してしまった。

「芹澤君の気持ち、よーく分かったよ。ありがとう。こんな私を応援してくれて」

そう言うと堀井さんは笑ってこう続けた。

「芹澤君が応援してくれてると思うと、本当に心強いよ。私、こんなに全力で応援された事無かったから。唯一のサークルの同級生なんだし、これからも仲良くしていこうね!」

「堀井さん…」

1つの信号が青色を示す。

「じゃあ私帰り道こっちだから。また来週ね!」

「あっ、ちょっ…」

「ちょっと待って」の言葉が出かかって出なかった。堀井さんはどんどん遠くに離れていく。

「…まあいいか」

恐らく今日で僕と堀井さんの関係はかなり進展しただろう。ちょっとやりすぎた気もするけど、友達くらいには思われていると信じたい。とりあえず「付き合って」はもう少し進展するまでお預けかな。

堀井さんが渡っていった信号は赤になり、同時に僕の帰り道の信号が青を示した。


3.日々草

新歓からだいたい5ヶ月が経ち、僕も堀井さんも段々とサークルの雰囲気に慣れ始めていた。

「芹澤君、あそこの棚の『4』って書いてある瓶取ってきて」

「了解」

時には真面目に、時にはおちゃらけながら僕はこのサークル生活を楽しんでいた。無論大学での生活自体も楽しいが特にサークルで過ごす時間は僕にとってとても素晴らしいものになっていた。堀井さんのお陰で。

あれから僕と堀井さんの関係が進展したかというと、あまりしていない。せいぜいサークル友達程度だ。こんな調子だと恋人にするのはまだまだ難しそうだな…。

「えー、と…4…4…あった。これか」

「何探してるのかなー?」

背後から声がしたので振り向くと至近距離に背伸びをした伊吹先輩がいた。

「あ、えーと…何でも無いですよ」

「その4番の瓶、試作品だよ?」

伊吹先輩が僕の肩に体重をかけながら言う。

「いや、僕には分からないんで…」

「ほほーん?さてはココちゃんの指示だな〜?」

実際僕にはこの中身が何なのか分からない。いつか名前を聞いたような気はするがもう覚えていない。

「とりあえず、急いでるんで!」

僕は瓶を持って逃げるように堀井さんの元に戻った。

「はい、これ」

「よし!最終調整だね!」

「祐太、伊吹にはバレなかったか?」

いつの間にかそこにいた浅川先輩が尋ねる。

「ええ、なんとか」

「何せ明日はもう伊吹の誕生日だからな。バレないように"コレ"を準備しないとサプライズにならないからな」

「堀井さん、間に合いそう?」

「うん、なんとか…」

堀井さんは何やら怪しげな化学実験的な事をしている。

「とりあえず伊吹の足止めは2年生達にしてもらっているが、いつまで持つか分からない」

「堀井さん、頑張って!」

【翌日】

「ほえー?一体何の用すかー?」

「伊吹、実は今日、大事な報告がある」

部屋にビリリとした雰囲気が流れる。

「お?なになに?なんすか?」

浅川先輩がドス黒い謎の液体が入った1つのビーカーを渡す。

「んー?何ですかこれ?」

「これをここにかけて欲しい」

浅川先輩が指差した先には何の花も植えられていない花壇…つまりただの土壌がある。

「これをですか?いいですけど…」

僕も堀井さんも緊張しながらそれを見る。大丈夫だ。昨日の実験では上手く行ったんだから。

「よいしょ…と」

伊吹先輩がゆっくりと液体を土壌にかける。

「…!」

「これは…」

「え…?」

すると土から魔法のようにどんどんと花が咲いてきた。浅川先輩が目で合図を出すと僕達は一斉にクラッカーを出し、紐を引っ張る。

パーン!

『伊吹先輩!お誕生日おめでとうございます!』

伊吹先輩が僕達の方を振り向く。すると浅川先輩と堀井さんが伊吹先輩の方に向かう。

「心菜ちゃんがこれを作ってさ。正直俺も原理は分からないけど、本当すげー新入生が入ったよな。改めて伊吹、お誕生日おめでとう!」

「みんな……」

伊吹先輩は今にも泣きそうな顔で僕達を見た。

「みんな…最っ高!!!!!」

そう叫ぶと伊吹先輩は堀井さんと浅川先輩を一気に抱きしめた。そして暫くすると伊吹先輩は全部員向かってこう叫んだ。

「よーし!今からみんなで遊園地に行くぞー!」

「…え?今から?」



ゆっくりと登っていくジェットコースター。そして頂点に辿り着きやがては…。

「ひゃっほーーーい!!!」

「うわあああああー!」

「きゃー!あはは!」

僕は今、完全に本能で叫んでいる。前列の伊吹先輩は相当喜んでいるし、隣の堀井さんも少し楽しそうだ。伊吹先輩の隣の浅川先輩は登り始めてから一言も話していない。

そんな中、突如としてコースターが急カーブした。

「うおっ」

「きゃ!」

強烈な横Gにより僕の隣の堀井さんと体がくっついた。…なんだ、ジェットコースターもたまにはいい事するじゃねえか。そんな煩悩に塗れたままジェットコースターは1周を終えた。

「いや〜!楽しかった!」

「はあ…はあ…疲れた…」

「芹澤君は叫びすぎだよ…」

「あれ?そういえば浅川先輩は?」

「宗ちゃんすか?確かにいつの間にかいなくなって…あ!いた!」

伊吹先輩が指差す方向を見ると浅川先輩が数m先のベンチで俯いていた。僕達は心配になって駆け寄った。

「浅川先輩?どうかしま…え?」

浅川先輩が「来るな」と言わんばかりに手の平を突き出してきた。伊吹先輩は無視して近寄る。

「ちょっと宗ちゃん?大丈」

「オrrrrrrrrr」

『せんぱーーーーーい!!!』

【数十分後】

「はあ…すまないな…皆」

「いいんですよ。体調は良くなりましたか?」

堀井さんが浅川先輩にアクエリアスを渡す。

「ああ、お陰様で」

そんな浅川先輩に伊吹先輩が近寄る。

「宗ちゃん、無理させてごめんね…」

「いやいいさ。折角の伊吹の誕生日なんだし、そんなに悲しまないでくれよ」

「宗ちゃん…」

「それにお前がいなかったら俺はずっと1人だったしなんならこのサークルは無かったんだ。少しくらい感謝を返させてくれよ」

そう言うと浅川先輩は立ち上がってこう言った。

「よし!今日は大切な副会長の誕生日なんだから、精一杯みんなで楽しもう!」

『おー!!!』

それから僕達は色んな乗り物に乗ったり色んな食べ物を食べたりした。今まであまり話せてなかった2年生の先輩達とも少しは話せた。

でも途中で2年生の先輩達はいつの間にか僕達と離れて行動していた。

「2年生達、どっか行っちゃいましたね…」

「まああいつら、結構身勝手な所あるからな…」

「2年生陣、どうやら全員小学校から一緒らしいよ?」

「にしても折角伊吹の誕生日なんだし、今日くらい一緒にいてくれてもいいだろ…」

「まあいいっしょ!4人で楽しみましょ!」

本人が気にしていないのもあって結局僕達は4人で行動する事になった。

<コーヒーカップにて>

「いけーーー!」

「ちょっと伊吹先輩!回しすぎですって!」

「あはは。浅川先輩乗っていなくて良かったね…」

浅川先輩は柵の外で立って僕達の様子を怪訝そうに見ていた。

<レストランにて>

「あー!そのパフェ欲しい!1口ちょーだい!」

「ダメだ。自分で買え」

「もう!宗ちゃんのケチ!」

そう言うと伊吹先輩は身を乗り出して浅川先輩のパフェにそのままかぶりついた。

「あ!おい!やめろ馬鹿!」

浅川先輩は急いで引き離したが時既に遅し。パフェの上部は丸ごと無くなっていた。

「ほひひ(おいし)〜!」

「はあ…」

<ゴーカートにて>

「え!祐ちゃん速っ!」

「マリオカートやってたんで!」

「よーし、負けないぞー!」

僕と伊吹先輩の熾烈な戦いが幕を開けた。

「全く…あいつらは…」

「まあまあ。私達はゆっくり行きましょうよ」

そして僕達はゴールに着いた。

「くそ〜!負けた!」

「伊吹先輩もまあまあ速かったですよ」

「うるさい!慰めなどいらぬわ!」

<フリーフォールにて>

「酔わないだけマシ酔わないだけマシ酔わないだけマシ…」

「ガタガタガタガタ…」

「男性陣うるさい!」

「まあまあ…」

逆にこれが怖くない女性陣の方が不思議だ。肝が据わりすぎている。

そしていつの間にか急降下に差し掛かっていた。

「くるよ〜!3!2!1!」

ズドン!

「あ“あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“」

「(筆舌し難い声)」

「ふぉおおおおおおおー!」

「きゃー!」

【夕方】

「は〜!楽しかった!」

「閉園時間も近いし、もう帰ろうか」

「はい!今日はとても楽しかったです!」

「僕はちょっときついところもあったけど、それでも楽しかったです」

「じゃあねー!」

「また明日」

僕達は先輩2人と別れた。

「私達も帰ろっか」

「う、うん…ん?」

僕は堀井さんが右手の人差し指の先に絆創膏がついているのを見た。

「堀井さん、指どうしたの?」

「ああ、これ?…爪が折れちゃって」

「うわ~痛そう…大丈夫?」

「今はもう痛くないよ。ありがとう」

そして僕は堀井さんと並んで帰路についた。

「今日は楽しかったね。まさか浅川先輩が酔いやすいなんて知らなかったし…」

「あ、あの!堀井さん!」

「ん?何?どうしたの?」

話を遮ったのに勇気が出ない。今日こそ!「付き合ってくれ」と言うんだ!

「あ…いや…またここに行きたいね」

「うん!そうだね!」

はあ。また言えなかった。僕はなんて臆病なんだ。

「次はさ、2人で来ようか!」

「えっ」

僕は一瞬戸惑って声が上ずった。

「あはは。冗談だよ。芹澤君、反応面白いね」

「あ…そう…」

冗談であって欲しくなかったけど。

「でも、またいつかこんな楽しい思い出作りが出来るといいね!人間いつ死ぬか分からないんだから!」

「そ、そうだね…」

今はとりあえず共感しておこう。

「じゃあ、私ここのバス停から帰るから。じゃあね!」

「うん、またね」

僕が堀井さんに想いを伝える事ができるのは、これから4年後のことである。


4.紫菫

大学に入学して早4年。僕も堀井さんも██大学を無事卒業した。その間に関係が発展したかというと、ぶっちゃけしていない。

卒業した後も僕と堀井さんはちょくちょく会っていた。運良く2人とも地元に残ったので会うのは簡単だった。そんな環境なので僕達は暇な時に2人でカフェに行ったり植物園に行ったりするくらいの仲になっていた。

大学を卒業後、堀井さんはさらに花の研究をするようになったらしい。親からは相変わらず反対されているらしいけどなんとか今は振り切っているみたいだった。僕はというとまだ定職につけていない。大学の頃から続けている居酒屋のバイトをまだやっている。

そして今日も堀井さんとのお出かけの約束がある。

「ごめんね芹澤君!待った?」

「僕もさっき来たところだよ」

堀井さんが待ち合わせ場所に到着したのは決めていた時間の15分前だった。僕はと言うと、実は45分前からここにいた。即ち、僕は堀井さんに言ったことは真っ赤なウソだ。

「んじゃ、行こうか」

「うん!」

僕は堀井さんと並んで歩きながら今回の目的地に向かう。歩いている間は別に手をつなぐ訳でも無く淡々と2人で話をしながら進んでいる。

「ねえねえ、今日はどこに行くの?」

そういえば堀井さんには言ってなかったな。

「ん~?それはまだ言えないなぁ」

「え~?芹澤君のケチ…」

僕は今日、ある決意を持っている。

そう、今日こそ堀井さんに告白するんだ!大学を卒業した後堀井さんとこういう関係になってから僕は堀井さんへの告白を無意識に頭から退けていた。理由はお察しの通りだ。でも僕はもう逃げない。必ず堀井さんに告白し、そして堀井さんを一番近い場所から応援したいんだ!

【数十分後】

「ついたよ」

「へえ~、なかなか楽しそうじゃん!こんなところあるんだね!」

大きく飾られたアーチには「████フラワーアミューズメントパーク」と書いてある。ざっくり言うと植物園と遊園地を合わせたものだ。元々隣接していた植物園と遊園地が合併したらしい。

「入場料は僕が出すよ」

「ちょっと何言ってんの!?だめ!私も出す!」

「いややっぱ僕から誘ったんだし…」

「でも芹澤君のお金が減ったら…芹澤君が私と一緒に乗れるアトラクションとかが少なくなっちゃうじゃん……」

そう言って堀井さんは頬を膨らましている。かわいい。

「大丈夫だよ。僕は今日堀井さんにとことん付き合えるようにいっぱいお金持ってるし。それに堀井さん、いつも強がっているからたまには甘えなよ」

そう言って僕は堀井さんの頭に自分の右手を乗せた。自分でも何をしているか分からなかった。ただその場の流れで乗せてしまったのだ。そして少ししたら我に返って急に恥ずかしくなった。僕は手を頭から離そうとした。すると堀井さんが自身の頭上にある僕の手の上に自分の手を乗せてこう言った。

「うん、ありがとう…」

堀井さんが少し微笑んだ。

うん、絶対にこの子を幸せにしよう。心の底から僕はそう思った。

「2人です」

「2人ですね。4000円です。アトラクション等には別途料金がかかりますのでご注意ください」

「了解です」

僕は財布から万札を出しお釣りをもらった。

「ではこちらが入場口です」

僕達は入場口に案内された。

「了解です。ありがとうございます」

案内された入場口をくぐり僕達は園内に入った。

「うわ~!大きい~!」

「ここなら夜まで遊べそうだね」

別にいやらしい意味は無い。本当にずっと遊んでいられそうと思えるほど園内が広く、そして色んなアトラクションで充実していた。辺りにはこれでもかと言うほどに花壇もあった。

「今は11時で閉園が21時だから結構時間があるね」

「よーし!いっぱい遊ぶぞー!」

そう言うと堀井さんは早速走り出した。

「あっ、ちょっと待ってよ~」

僕は弱弱しい声を出しながら堀井さんを追いかけた。
この日に始まったんだっけ
ほんとに幸せだったなあ
なんで、あんなことになっちゃったんだろう…
「うわー…初っ端からかましてきますねぇ…」

堀井さんが「とてもラナンキュラスなジェットコースター」と書かれた看板を指さしながらいかにも「これ乗ろうよ!」と言わんばかりに僕を見てくる。ラナンキュラスな…って何だ?

「分かったよ、乗ろう」

「やったー!え、でも芹澤君って絶叫系大丈夫だっけ?」

「歳とったんだし怖くなくなってるかもしれない…じゃん?」

「そう来なくっちゃ!」

【数分後】

「あああああああああああ」

「きゃああー!あはは!」

乗らなきゃよかった。そう思ったが時すでに遅し。カッコつけていいことなんて無い。

「はあ…」

「芹澤君、大丈夫?」

「ぜんっ、ぜん大丈夫!」

「そうには見えないけど…」

「次はどうする?」

「次?じゃああれ行ってみようかな」

そう言って堀井さんが指さした先には「チューベローズを欲する者達に贈るお化け屋敷」と書かれてあるいかにも古びた感じの建物があった。チューベローズという花の名詞が何故この状況で使われているかは不明だがどうやらお化け屋敷らしい。

これはもしかするとあるかもしれない。

「きゃー!こわーい!」

「大丈夫だよ堀井さん。僕がどんな脅威からも守ってあげるからね」

「芹澤君…かっこいい!結婚して!」

といった特大イベントが!

「芹澤君、何ニヤニヤしてるの?早く行こうよ」

「え!?あ、ああ…」

早速醜態を晒してしまったらしいがさっきの妄想みたいに後で挽回すればいい。それだけの話だ。



「きゃー!こわーい!」

「ああああああ!」

結果、堀井さんが悲鳴をあげるところまでは良かったのだが普通に僕も叫んでしまった。そりゃあもうあんなセリフを言える余裕なんて無かった。

「はぁ…僕が怖がってどうするんだよ…」

「あはは。確かにけっこう怖かったね」

「本当は僕が堀井さんを守ってあげないといけなかったのに…」

「そんな気遣いしてくれたたんだ。ありがとう。でも…」

そう言うと堀井さんは俯いている僕の視界に入り込んできてこう言った。

「私は芹澤君と同じ感覚を共有できることの方が嬉しいな!」

「…!」

僕の心臓が強く高鳴った。

「だから落ち込まないで!これからも一緒に色んなことを感じていこうよ!」

「堀井さん…」

なんていい子なんだ。親に感謝しないとな。…まあその親が彼女の悩みの種なんだけど。

「じゃあ次はどこ行きたい?」

「ねえ、そろそろお腹空かない?」

「確かにそうだね」

僕達はレストランに向かうことにした。



「堀井さんは決まった?」

「うん。私はこの『ガーベラを試すカレーライス(赤色のアルストロメリア味)』にするよ」

全てのネーミングが謎で仕方がない。

「じゃあ僕はこの『ちょっと上品なスターチスランチ』にしようかな」

値段は張るがサイコロステーキや寿司といったものがいろいろあって美味しそうだった。

【数分後】

「お待たせしました!こちらが『ガーベラを試すカレーライス(赤色のアルストロメリア味)』ですね」

「んん!??」

僕は堀井さんの前に置かれたカレーを見て目を見張った。

「なんか…めっちゃ辛そうじゃない!?」

「うん、そうだよ?」

当の本人はまるでそれを求めていたような顔をしている。

「私、実は辛党なんだよ!」

「そう、なんだ…」

意外だった。甘党だというイメージも持っていなかったが、辛党だとは全然思わなかった。でも、こうやって堀井さんの知らない面を知ることができるだけで僕は嬉しい。知らない君が増えるたびに愛おしい君も増えるようで。

「う~ん!あ、かなり辛いねこれ!芹澤君も食べてみる?」

「え、ああ、じゃあ頂こうかな…」

そう言って僕がスプーンを取ろうとすると堀井さんがスプーン一杯のカレーを僕に近づけてきて…

「はい、あーん」

「…えっ?」

状況が理解できなかった。

「ほら、あーんして?」

「あ…あーん…」

よく分からないまま僕は本能のままに口を開けた。すると堀井さんは僕の口内にスプーンを運び、僕はそのまま口を閉じた。堀井さんはスプーンを僕の口から抜かずに僕を見て微笑んでいる。

そんな状況が呑み込めないままでいると突如として僕の舌にとてつもない刺激が走った。

「ん…んんんんーーーー!!!」

僕は慌てて顔を動かしてスプーンを口から外した。

「辛い!辛い!」

「あーごめんごめん!はい水!」

僕は水と一緒にカレーを流し込んだ。

「はぁ…」

「ごめんね。辛いの苦手だった?」

「あ、いや…適度なら寧ろ好きなんだけど…」

「お待たせしました!こちら『ちょっと上品なスターチスランチ』です」

僕の注文したやつが来た。

「お~!芹澤君の美味しそう!」

確かに美味しそうだ。でもさっきのやつのせいで舌が完全にイカれている。でももしここでカレーのせいで味がしないとか言ったら堀井さんが心配するだろう。

「それ私に1口ちょうだい!」

そう言うと堀井さんはサイコロステーキの皿を指さした。

「あ、うんいいよ」

「あー」

返事の後堀井さんは小さな口を開けてきた。

「ん?」

なんなんだこの無防備さは。

「入れてよ」

堀井さんが端的にそう言うので僕は従うしか無かった。

「はい、あーん」

「あーん」

僕は箸で掴んだサイコロステーキを堀井さんの口にやった。すると堀井さんは箸がある程度近づいてきたところでそれを食べた。僕はそっと箸を口から抜いた。雛鳥に餌をやっているみたいだ。

「ん~!おいし~!」

僕は口から抜いた箸に目をやった。箸は湿っている。

「…」

このまま箸を交換しても良かったのだが、それも失礼な気がしてそのまま使った。相変わらずあんまり味は感じなかったが堀井さんの唾液を口に入れた感触はちゃんと伝わってきた。

【20時】

「もうそろそろ閉園だね」

「そうだね…」

もうすぐタイムリミットだ。今日こそ告白をするんだ!

「イルミネーションが綺麗だね」

「わぁ…夜の遊園地ってこんなに綺麗なんだね!」

「堀井さんは夜に遊園地行ったことなかったの?」

「そもそも遊園地に行く機会が無かったの。ほら、私、親があんなんだからさ」

「そうか…」

堀井さんはずっと友達付き合いも遊びも制限されてきた。だからこれからは僕が彼女を楽しませてあげないといけない。そんな使命感が湧いてきたからこそ、今日その資格が僕にあるかを彼女に問わなければならない。

そうして歩いていくとイルミに囲まれた写真撮影スポットに着いた。

「ねえねえ、ここで写真撮ろうよ!」

「え!?あ、うん、いいよ」

堀井さんがここで写真を撮ろうと言い出した。

「あの、すいません。写真撮ってくれますか?」

「あー全然いいですよ!」

「ありがとうございます!」

堀井さんがどうやら通りすがりの人に写真撮影係を頼んだらしい。

「いきますよー」

「ほら芹澤君!もっとこっち来て!」

「う、うん…」

「はい、チーズ!」



「じゃあ後で写真送るね」

「うん、ありがとう」

今日だけで色んなことがあった。堀井さんとの距離も縮まった気がする。

「じゃ、そろそろ帰ろうか!」

そう言って堀井さんはもう人がほぼいないイルミの場所を去ろうとした。

だめだ!引き止めなきゃ!ここで言うんだ!芹澤祐太!

「あっ…ま、待って!」

「どうしたの?」

「あ、あの…」

いざとなるとやっぱり声が出ない。

「ぼ、僕とっ…!つ…つ…」

聞こえないくらい小さな声でやっと「つ」と言えた。よし、そのまま大きな声で伝えるんだ!

「つ……」

そこまで言って僕は俯いて固まってしまった。やっぱり僕は、堀井さんとの友好関係が崩れるのが怖いんだ。

ダメだな、僕は。多分この先もずっと想いを隠しているんだろうな。

そんな僕の前に立っている堀井さんは僕にそっと寄ってきて、そして…

僕に抱きついてきた。

「…!堀井さん?」

「私ね、ずっと自分を認めてくれる人をさがしていたの」

そのまま堀井さんは自分語りを始めた。

「私はずっと花の勉強をしていて、友達もいなくて、遊んだこともほとんどなかった。だから、友達と遊ぶ喜びとかそういうのをずっと感じることができていなかったの。でもね、今は違う。浅川先輩も伊吹先輩も私を歓迎してくれて、そして何より芹澤君が私を応援してくれて、色んな場所で私と遊んでくれたから。だからね、私、頑張ろうって思えたんだ。誰に反対されようとも自分の夢を叶えるために。そしていつか芹澤君やサークルの皆に恩返ししなきゃなって思ってるの」

「堀井さん…」

「そして芹澤君。私はね、色んな楽しみと精一杯の声援をを与えてくれた芹澤君が大好きなの。私の世界を彩ってくれた芹澤君が、大切で仕方がないの。だからね、私からお願いするね」

そして堀井さんは最後にこう付け加えた。

「どうか私と、付き合ってくれませんか?」

それを聞いた僕は堀井さんをそっと抱き返した。そして僕はそのまま泣いてしまった。

「ぼっ…僕も……大好きです…」

「うん。私も大好き。このまま離したくないくらい大好きだよ」

嬉しさと安心感で涙が止まらない。

そして堀井さんはそんな僕の頭を自分に近づけて…僕の唇に自分の唇を重ねた。

「!!」

一瞬戸惑ったが僕は堀井さん…いや、心菜の頭を引き寄せて自分の舌を心菜の舌を絡ませた。その時昼に箸越しに感じた心菜の唾液の味を思い出した。そうして少し時間が経った後に互いの口を離した。

「はぁ…心菜…」

「祐太君…ありがとう…」



こうして僕達は正式にカップルとなった。こうやって恋人繋ぎをしながら歩くことをずっと夢見ていた。

「祐太君、これからが楽しみだね!」

「ああ、心菜。君は絶対僕が幸せにするよ」

「うん!ありがとう!」

たとえどんな困難があろうとも、僕は心菜の前から絶対に離れない。そう決心した。


5.菩提樹

今日はクリスマスだ。眩く光るクリスマスツリー、五月蝿いほどに響く音楽、そのどれもが今日の僕を彩ってくれていたような気がした。22歳芹澤祐太。なにせ今日は心菜にプロポーズするのだから。

僕は彼女の為に買った指輪を鞄に隠し待ち合わせ場所の駅前に行くと、そこには既に彼女がいた。

「ごめん、待った?」

「大丈夫だよ。ほら行こう?」

心菜はそう言うと当たり前のように手を差し出してきた。付き合って3ヶ月目の冬である。僕は未だに心菜と手を繋ぐとドキドキしてしまう。対して心菜は平然とした顔をしている。まだ初々しいのは僕だけか…。

そしてそんな初々しさが僕に疑問を投げてくる。「プロポーズはまだ早いのじゃないか?」

確かにこれで成功したらかなりのスピード婚になってしまう。でも僕は一刻も早く彼女を、心菜を自分のものにしたいのだ。そして心菜を一番近くから応援したいんだ。

「最近、一気に寒くなったよね」

僕と繋いでいないもう片方の手を息で温めながら心菜はそう言った。

クリスマスデートではいつものデートよりも100倍以上緊張していた。僕は彼女と恋人繋ぎをしながら園内を歩く。僕より背の低い彼女が普段より僕に密着して歩く姿はいつもより一層可愛く見えた。

「心菜はどこか行きたいところある?」

「私?うーん、祐太君は?」

「僕は心菜とならどこに行っても楽しいよ」

「あー!今私も同じこと思ってたのに!」

「同じこと?」

「うん!私もね、祐太君と行く場所ならどこでも楽しいよ?」

そう言いながら心菜は僕の顔を見上げて笑顔を見せた。可愛い。ああ、本当にあの時勇気を出してよかった。

「じゃああの店とか行ってみようか」

「さんせーい!」

それから僕と彼女は色々な店を回って、ご飯を食べて、とにかく心菜には幸せな時間を過ごさせてもらった。

だから今度は僕が心菜を幸せにする番なんだ。だから、出来る。

「ねえ心菜」

「なに?どうしたの?」

「ちょっと、こっち行かない?」

「うん、いいよ!」

僕は彼女の手を引き████の丘に連れていった。

「いきなりどうしたの?」

と問いかけてくる彼女。

「いや、まあ…景色が綺麗だなぁって」

「確かに…」

僕は景色が綺麗なこの場所で思いを伝えよう。そう決心していた。

「まあだからさ!最後にここで写真でも…と思ってさ」

「うん!いいね!ナイスアイデア!」

決心したもののなかなか口には出せず、「ここ綺麗だね」とか「今度はどこ行く?」とか、ベタな投げかけしか出来ないままだった。

「そろそろ帰る?」

心菜がそう口にした。

「待って!」

僕は慌てて彼女を引き止めた。

「うん?どうしたの?」

ここで言わなきゃいつ言うんだ?僕は自分にそう言い聞かせながら買ってきた指輪を差し出して彼女に向かってこう言った。

「好きな事にとても前向きなあなたの姿に勇気を貰って、これからもずっと一緒にいたいと思いました!どうか僕と結婚してください!」

「…!」

沈黙が流れる。僕は心菜の顔を見ることができなかった。

(あまりに反応が遅いな…)

僕がプロポーズの言葉を放って20秒。心菜の返事がまだ聞こえなかった。心菜がどんな顔をしているのか怖くて見れなかったが、あまりにも反応が遅いので僕は垂れていた頭を上げて心菜の方を見た。

「あの、ここ…!?」

心菜は両手を口にやって、そして静かに…泣いていた。

「え!?あ、心菜?大丈夫…?」

「あ…いや…そ、その…っ」

そして彼女は泣き止み、少し間をあけて最高の笑顔で僕にこう言った。

「祐太君からのプロポーズが、嬉しくて…!」

「え…じゃあ…」

すると心菜は僕に抱き着いて、そしてキスをした。

「返事は、これじゃだめですか…?」

この時の僕の顔がどうだったかだなんて覚えていない。だけどこの瞬間が只管に幸せで、僕は彼女を見つめ、彼女も僕を見つめ返した。この一言のやりとりで、僕の心の闇は晴れた。

言えた!言えたんだ!

「いいに決まってるでしょーーー!」

こうして僕達は結婚する事が決まった。年を越すまでには互いの親に報告して、2月あたりには正式に結婚したいと思う。挙式はまだ決まっていない。お金の問題もあるし…。とにかく、今日から頑張って結婚資金を貯めなきゃな!

【数日後】

「あ!祐太君おはよう!」

「おはよう心菜。そしてあけおめ」

「うん!あけおめ~」

新しい年が来た。結婚が決まってからは僕らは同居をしている。心菜の母も僕と結婚することには賛成してるらしい。多分僕の成績が良いから…かな?心菜の夢にはまだ否定的らしいけど…。

「祐太君、こっち来て!」

心菜が呼んだので僕は家の外に出た。すると花壇にいっぱいの花が植えられていた。

「見て!このポピー綺麗でしょ!」

どうやら同居してからずっとここの整備をしていたらしい。

「うん。すごい綺麗だね」

こんな時間がずっと続いてほしい。

今年は色んな困難もあると思う。でも心菜と一緒なら、きっとどんな困難だって乗り越えられる。根拠は無いけど、何故かそんな気がした。
やったね!おめでとう私!
祐太君の勇気に拍手!


6.桃蝦夷菊 ⚠この章では性的描写が描かれています。ストーリーには直接関係しないので苦手な方は飛ばしてお読みください。

3月15日。プロポーズから約3ヶ月半。僕達は2月に婚姻届を提出し、正式に結ばれた。

そして今日はようやく心菜が僕に体を預けてくれた。僕はパンツ一丁でベッドの上にいる。

「祐太君…準備…できたよ」

そして下着姿の彼女が部屋にやってきた。僕は心菜の体にただ見惚れていた。邪心が無いと言えば嘘になるが。

「じ、じゃあ…脱ごっか…」

僕もこんなことは初めてなのでどうすればいいか分からない。とりあえず僕はパンツを脱ぎ裸になった。すると心菜も脱ぎ始めた。

「…!!」

僕は興奮を抑えられなかった。心菜はまずブラのホックを外して乳房を露わにした。恥ずかしいのか乳首は手で覆って隠している。それだけで僕の下半身にあるものはみるみる大きくなっている。そして心菜はパンツに手をかけてゆっくり下した。心菜は乳を隠してない方の手で股の恥部を隠した。

「手…どけないと見えない…よ?」

緊張でなんかキモいこと言ってしまった。でも僕は何1つ隠さずベッドに座っているのだ。なんというか、不公平だろう?

「うん…そうだよね」

そう言うと心菜は手をどけた。そこにはFカップくらいはある胸についた少し濃いピンク色の乳首、今すぐ指を突っ込みたくなりそうな綺麗なへそ、そして可愛らしい見た目とは裏腹に年相応に生えた陰毛。僕はそれを見た瞬間すぐに勃ってしまった。

「どう…かな?」

笑いながらも少し恥ずかし気な顔を傾けながら僕にそう聞いてきた。僕は我慢の限界だった。

僕は裸の心菜のもとに駆け寄り、勢いでキスをした。僕の舌を心菜の口に無理やりねじ込むと、心菜は自分の舌と
僕の舌を絡ませた。どうやら拒まれてはいないようだ。そして僕達は抱き合い、そのままベッドにダイブした。

「っ…心菜!」

「ゆっ…祐太君…!」

僕は心菜の乳を揉みしだいた。すると心菜は僕のガチガチの陰茎を握ってきた。

「ふふっ…こんなに硬くして…」

そして心菜は僕の下半身の方に移動し、僕の陰茎を口に咥えた。

「あっ……!」

心菜のフェラはお世辞にも上手では無かった。だからそう簡単に射精できなかった。それでも心菜は僕が射精するのを待ちながら頭を動かしている。心菜の舌が僕の陰茎に絡みつく。僕もそれに応えてやろうと必死に射精してくれと念ずる。そして…

「心菜…で、出るっ!」

僕は自身の発射口の直前まで精液が来ているのを感じた。心菜は口に出される準備満タンで待ち構えている。そして僕はついに心菜の口の中で射精した。しかし…

「…んあ(口を開ける)」

「えっ…」

心菜が口を開けて見せてきた。しかしそこには僅かな精液しか無かった。

「の、飲み込んだの?」

心菜が首を横に振る。

「ううん、これだけしか出なかった」

はぁ。僕の精力もこんなものか。自分に失望している僕をよそに心菜は精液をごっくんと飲み込んだ。

「まあまあ。これからが本番だよ?」

そう言うと心菜は僕を押し倒し上に乗っかった。

「えっ…と…あの~…心菜さん?」

こういうのって普通僕がリードするんじゃないのか?

僕から誘ったのにいつの間にか形成が逆転していた。

「祐太君はあんだけかもしれないけど、私はこんなにも興奮してるんだからね?」

そう言うと心菜は自分の膣に指を突っ込み、そこから出てきた液体を手につけた。そしてそれを口に運んだ。

「さあ、挿入れるよ…」

そう言うと心菜は僕の陰茎を自身の膣の中に差し込んでいく。

「あ、ちょっ、心菜!待って!…ゴム!」

「え?」

心菜は一瞬ぽかんとした。そしてこう言った。

「生じゃ…だめ?」

心菜の顔は火照っていて、何よりあざとい顔で見下されながらそんなこと聞かれたら理性は拒否しても本能が頷いてしまう。

「だめ…じゃないよ。おいで」

「うん…♡」

そして心菜はついに下の口に僕の陰茎を入れきった。

「痛っ…」

「だ、大丈夫?」

「うん…全然」

心菜の膣から少量の血が溢れた。最初は痛がったものの、心菜はすぐに腰を上下に振り始めた。僕はというと、怖気づいて体をほとんど動かしていない。無駄なことをすると心菜がまた痛い目にあうかもしれなかったから。

下の口で陰茎を舐めてもらう快感は、上の口とは比にならなかった。僕はすぐに射精の予兆を感じた。

「心菜っ…出るっ…!」

僕はそう忠告したが、心菜は待ってましたといったような微笑みを浮かべた。心菜は一向に僕から離れようとしない。

まずい…このままだと…中に出してしまう!

「心菜っ…離れたほうが…」

「…」

心菜は少しの沈黙を挟み、妖艶な笑みを浮かべながらこう言った。

「…いいよ。中に出して…!♡」

その瞬間、今まで考えてきたことが全て吹っ飛び、そのまま射精してしまった。
最後の思い出…
だったのかもね

僕も心菜も果てていた。両者とも持っていた精力を使い果たしてしまった。僕のナニはもうちぢこまっていた。僕達は全裸のまま眠りにつこうとしていた。

「…心菜って、意外と肉食なんだな…」

「祐太君こそ、理性なかったじゃない…。明日もデートしようね」

「ああ…」


7.金盞花

昨日、僕達は大きな壁を乗り越えた。夫婦としての大きな壁を。でも今日もいつもと変わらない朝がやってきた。…2人して全裸で寝ているという点を除けば。

僕は心菜より早く起きた。そしてベッドで心菜の寝顔を見つめていた。そんな状態が数分続いた後、心菜も目を覚ました。

「ん…おはよう祐太君」

「おはよう心菜。気分はどう?」

その問いに対して、心菜は無言で微笑んでくれた。

僕達は着替えを済ませ、朝ごはんの準備をした。朝ごはんは僕と心菜で協力して作ることになっている。最初心菜は「祐太君はしなくていいの!女の仕事だから!」と自分1人でやろうとしていたが、心菜だけに任せて飯を食べるのはあまりにも罪悪感があるので僕もいつの日か僕も手伝うようになった。

「「いただきます!」」

「う~ん!やっぱり2人で作った料理は美味しいね!」

「そうだね」

心菜の言う通りだ。

僕達は朝ごはんを平らげると今日のデートの準備をした。

「ねえ、今日はどこに行く?」

「そうだなー…あっ、ここはどう?」

僕は心菜にスマホの画面を向ける。

「いいね!楽しそう!」

行き先が決定した僕達は家を後にした。今日も恋人繋ぎをしながら歩く。僕は何があっても心菜のこの手を離したくないと思った。

30分ほど歩いただろうか。僕は少し疲れていた。自分の体力の無さに少し落ち込んだ。対して心菜は平気な顔をしている。そして横断歩道の信号が赤になったので僕達は歩みを止めた。手汗もかいてきたので手を一旦離した。

「ねえ心菜、疲れない?」

「え?そう?」

まじか。

「あ~、でも私、親から『副教科もしっかりしなさいよ』って言われてたから体育もずっと5だったんだよね」

「そうなの?すごいじゃん!」

僕なんて3なのに。心菜は本当にスペックが高いな。まあ苦労したんだろうけど。

そんな雑談をしていたら信号が青になった。

「青になったよ。行こう」

そう言って心菜は左手を差し出してきた。

「え?ああ、うん…」

僕もその手を掴んで歩き始める。

2人で横断歩道を渡っていると、向こうからトラックが走りを止める事無く向かってきた。そしてそのトラックは信号を無視して走ってきた。



「え…?」



キィーーーーーッ!!




ドン!









「心菜!!!」


















「う……」

頭がひどく痛む。視界がぼやける。遠くからサイレンの音が近づく。

『うん。私も大好き。このまま離したくないくらい大好きだよ』

意識が朦朧としている中、そんな声が頭の中でフラッシュバックした。

「…ここ、な……心菜…?」

僕は僅かな余力を出して周りを見ようとする。

ぼやけてても分かる、鮮やかで濁った赤色の景色。意識を集中させ、視界をはっきりさせる。

「……!!!」

綺麗に伸びたストレートの髪の毛が、血の海に浸かっている。あんなに美しかった体も、黒く赤く汚れている。

「心菜!!!!」

僕は心菜の元に這っていった。

「心菜…おい…心菜…?心菜!!!!起きろよ!!!!!」

返事をせずに、心菜は頭から鮮やかな血を流し続けていた。

心菜の頬に、上から血が落ちた。そして初めて、自分も頭を怪我していることに気が付いた。頭にノイズが響く。

「あ…」

僕は自分の頭に手を当てた。すると手のひらいっぱいに鮮やかな血がついた。だんだんと意識が薄れてゆく。

薄れゆく景色の中、左に立っている誰かの足が見えた。見上げるとそこには青ざめた顔で震えている中年男性がいた。僕はその顔を見た瞬間、自分の中の何かが切れた。

「お前が……やったのかああああああ!!!!!!!」

僕は力いっぱいそいつをぶん殴った。

「ぶへっ!」

そいつはふらつき倒れかけた。僕は追い打ちをかけるように何回も殴り、倒れたところで体に乗っかって殴り続けた。

そんな行為に意味が無いのは分かっている。ただ本能がそうしているだけなんだ。

そして何十回と殴った後、そいつの上で僕は意識を失った。


いたい
くるしい
さむい
つめたい
みえない
きこえない
さわれない
つたわらない
さみしい
かなしい

「祐太君!」

心菜…?

「ねえ、早くあっち行こうよ!」

ああ…そうか…多分…僕は……

…あれ?

「どうしたの?早く行こうよ!」

体が動かない。

「もーう、先行っちゃうよ?」

やめてくれ。待ってくれ。

心菜。置いてかないで。

お願いだから。

心菜。心菜。心菜!


心菜!!!

あいたい






















8.月下美人

















また
いつか

「……はっ…!」

途端に目が覚める。何か悪夢を見たかのように頭が痛い。

「祐太!」

「…母さん…」

寝ている僕の横で母さんが僕の手を握っている。

辺りを見渡すと、無機質な白い景色が広がっていた。

「本当に良かった…!きっと、お父さんが引き戻してくれたのよ!」

母さんが僕の手をいっそう強く握りしめた。

「…うん」




「なんとか目を覚ましたようで良かったです」

部屋に白衣の男性、おそらく医師である人物と看護婦が数名入ってきた。

「脳の検査では何の異常も無かったので記憶障害が残っている可能性は低いですが、もしかしたら何らかの障害が残っているかもしれません」

「そうですか…」

「でも、本来生きているだけでも奇跡です」

僕はここ最近の記憶が薄い。第一、こうなった原因も断片的にしか覚えていない。

確か、トラックに轢かれたんだっけ。でも僕、何か外に出るような用事があったっけ?

「それと…非常に残念なお知らせですが、お連れの彼女さんは即死でした」

「そうなの…心菜ちゃん、残念ね…祐太も、やっぱり悲しいかもしれないけど…」

「ここな………って、誰?」

母さんが目を見開いた。医師達は怪訝そうな顔をした。

「祐太、心菜ちゃん覚えてないの!?あんたの彼女だよ!?」

「彼女…」

僕に彼女なんていない。こんな僕にいるわけがない。

「次第に思い出すこともありますので、とりあえず今はリハビリに専念しましょう」

「はい…おそらく祐太も、思い出したらつらくなるでしょうから…」

僕は看護婦達に支えられながらベッドから出た。

【20日後】

リハビリにも大分慣れてきて松葉杖があれば1人でゆっくり歩けるようになった。頭の痛みも和らいできて、リハビリと治療自体は好調だった。

しかし、やはり「彼女」の事がよく思い出せない。僕はベッドの上でずっと思い出そうとしていた。

そんな中、お見舞いに来てくれた人達がいた。

「やっほー!祐ちゃん元気?」

「元気な訳ないだろ。静かにしろ。…祐太、久しぶり。俺達のこと、覚えてるか?」

「お久しぶりです。浅川先輩、伊吹先輩」

「うんっ!♪久しぶりー!」

伊吹先輩がベッドの上に座ってきて、僕の頬をつんつんしてきた。

「にしても…心菜ちゃんの事だけ覚えてないなんてな…」

浅川先輩が机に花束を置きながら言った。

「はい…上手く思い出せないんです」

「これじゃあまるで、心菜ちゃんのことだけ忘れたいとしか…」

「あ!祐ちゃん、はい!これあげる!」

話に割り込んできた伊吹先輩が鞄から何かを取り出した。

「これは…」

「私の手作りマフィンです!ほら、食べさせてあげるからあーんして?」

「あ、いや…自分で食べれますって!」

伊吹先輩が僕の上に馬乗りになってマフィンを口に近づけてくる。

「いいからいいから!はい、あーん」



『ほら、あーんして?』

『あ…あーん…』



「…!?」

「ど、どうしたの祐ちゃん?いきなり止まって」

今のはなんだ?今まで無かったはずの記憶がいきなりフラッシュバックした。

「あ、いや…なんでもないです…」

とりあえずは気にしないことにした。もしかしてあれが…『彼女』なのか?

「あ…」

さっきまではりきっていた伊吹先輩がいきなり静かになった。そして僕をそのまま優しく抱きしめた。いつものノリとは違う。僕は伊吹先輩の暖かさを全身で感じた。そして伊吹先輩は優しい口調でこう続けた。

「祐ちゃん……やっぱり、辛いんだよね?辛いから、忘れようとしているんだよね?…ごめんね、私にはこんなことしか出来なくて……」

いきなり何かと思った。

「祐太…お前…」

泣いてるぞ。

浅川先輩にそう言われて、僕は初めて自分が泣いていることに気が付いた。どうして、僕は泣いているんだろう。何も悲しくないはずなのに。どうして。

「紫音だって、ココちゃんが亡くなったって聞いてとても悲しかった。でも、そんなの祐ちゃんに比べたらどうってことないって……ごめんね…祐ちゃんの気持ちが分からなくて……」

「伊吹先輩…」

僕は浅川先輩に涙を拭かれながら、伊吹先輩の抱擁を受け止め続けた。

【数十分後】

「おい、伊吹。そろそろ離れたほうが…」

「すぴー…」

「寝てるな」

「寝てますね」

伊吹先輩はあのまま僕の上で寝てしまった。

「はぁ…全く…」

「はは。何も変わってませんね」

「やっぱりそう思われるよな…」

浅川先輩が伊吹先輩を抱える。

「んじゃ、このバカは俺がなんとかしとくから帰るよ。…じゃあな、祐太」

「は、はい…今日はありがとうございました」



『じゃ、芹澤君。帰ろうか』

『え、あ…うん』



「…!」

「ん?どうしたんだ?」

まただ。

もしかすると僕は、『彼女』について、だんだんと思い出そうとしているのかもしれない。

「あ、いや…と、とりあえず、起きたら伊吹先輩にもお礼を言っておいてください」

「ああ、分かった。またな」

「ええ」

僕は先輩達を見送り、そのまま眠りについた。







わすれてくれて
よかっ
「祐太君」

目の前に、女の人がいた。彼女は植木鉢を持っている。

そこに咲いていたのは…勿忘草わすれなぐさか?

「私のこと、覚えてる?」

僕は首を横に振る。

「よかった。私のこと思い出しちゃったら、祐太君がつらい思いしちゃうもんね」

貴方は僕に自分の事を忘れさせたのか?彼女に問う。

「うん、そうだよ。私が死んだあと、そういう"力"を使えるようになったから」

…本当に忘れてほしいの?

「本当は……」

彼女の言葉が詰まる。

「本当は、忘れてほしくないよ。だって、大切な記憶だもん。私と祐太君の、何よりも大事な日々の記憶だもん…でも、思い出したら、祐太君は…」

ああ。確かにつらいと思う。

だけど、僕が思い出さなければ、君がつらくなってしまう。そうだろう?

「そうだね。でも、私はもういいの。死んじゃったから」

彼女が植木鉢の花を見る。

彼女が「思い出してほしい」なら、僕の答えは1つだ。

「だからきっと、忘れることが祐太君にとっても…」

良いわけがない。

「えっ?」

今は名前すら思い出せないとしても、目の前にいるのは僕の大切な人で、そしてそんな人が今「僕が忘れている」ことによりつらい思いをしているんだ。

なら、思い出す以外の選択肢はそこにはない。

「僕は、君のことを思い出したい」

そう口にした瞬間、植木鉢の勿忘草が著莪シャガの花へと変わった。

「祐太君…やっぱり、君は私のいちばんだよ…!」

彼女が笑いながら涙を零した。

その瞬間、失っていた記憶が蘇っていく。

「うっ…!」

頭痛が走る。

『芹澤祐太君ですね!私の事はなんと呼んでも構いませんので!』

『芹澤君の気持ち、よーく分かったよ。ありがとう。こんな私を応援してくれて』

『でも、またいつかこんな楽しい思い出作りが出来るといいね!人間いつ死ぬか分からないんだから!』

『うん。私も大好き。このまま離したくないくらい大好きだよ』

『祐太君からのプロポーズが、嬉しくて…!』

「…はぁ……はぁ…」

これで全部…か。

「祐太君…」

僕は彼女に向かって、その名を言った。

「…心菜」

彼女の顔が喜の感情をを顕した。

「…はいっ……!」

掠れた声で返事をした彼女は、その姿を消した。

た…わけないよ








9.春紫苑

「……ん…」

目が覚める。そこにはいつも通りの白い無機質な天井があった。

「あら祐太、おはよう」

隣に母さんがいた。

「……」

「祐太、どうしたの?」

「……心菜は…」

「!…祐太…思い出したのね…!」

「心菜は…もう……いないんだな…」

僕は静かに涙を流した。

「祐太……ごめんね…やっぱり、思い出さなかったほうが…」

「いや、大丈夫だよ。これは僕がした選択だから…」

「え…?」

【3時間後】

「祐太君、退院おめでとう」

「はい…ありがとうございます」

僕は医師達に見送りされながら病院を出た。

そして僕は約1ヶ月ぶりに心菜と僕の家に帰った。

「あ……」

どうやら既に掃除がされているみたいだった。でも家具はあの時のまま残っていた。

いつも一緒にご飯を食べていたテーブルも、あの日心菜とセックスしたベッドも、そして2人で植えた花がある花壇も。その全てがまるで時が止まっているかのような状態で保存されていた。

「心菜…!」

覚悟はしていた。なのに。なのになんで涙が止まらないのだろうか。

僕は膝から崩れ落ち、そのままひたすら泣いた。その場で見た風景だけでも、色んなことが思い出される。

「祐太…」

母さんは後ろで、静かに僕を見守っていた。

そんな時間が数分続いた後、家のインターホンが鳴った。

「え?」

こんな時に来客?誰だろうか。

「はい…」

「芹澤さんですか?私、警察の者です」



「…心菜の遺体が無いんですか?」

「はい。というか、昨日忽然と消えたんです」

警察官の話によると、昨日心菜の遺体が安置室から突如消えたらしい。盗まれたと思われたが、監視カメラにそんな様子は映っていなかった。盗んだにしても、誰が何の為にするのだろうか。

「昨日の夜、安置室の見回りに行ったときにたまたま気づいたんです。夕方の見回りではあったらしいんですが…」

じゃあ、遺体が無くなったのは夜のことなのか。昨日の夜といえば、先輩達が帰った後僕はそのまま寝た。だからアリバイはある。

「とりあえず…署まで同行願えますか?」

警察官が明らかに僕を疑っているのが分かる。僕がそんなことするわけないじゃないか。

「…はい」

でもここで抵抗したら余計怪しまれる。僕は大人しくついていくことにした。

【数時間後】

「本日はありがとうございました」

犯人でない僕から聞き出せることなんて多くなく、僕は無実ということで割とあっさり返された。

「…腹減ったな」

僕は食事亭を探して歩いていた。

そうして30分ほど歩いた先に、見覚えのある場所が見えた。

「あ、ここは…」

████フラワーアミューズメントパーク。あの時心菜と行った場所だ。僕の足は勝手に入場口まで歩みを進めていた。

「1人です」

「1人ですね。2000円です。アトラクション等には別途料金がかかりますのでご注意ください」

「了解です」

ド平日だからか、人は少なく閑散としている。僕はレストランに足を踏み入れた。

「ご注文はいかがなさいますか?」

「えーと、『ちょっ……」

…やっぱりこっちにしようかな。

「……『ガーベラを試すカレーライス(赤色のアルストロメリア味)』でお願いします」

【数分後】

「…相変わらず辛そうだな…」

あの時と何も変わっていない赤さのカレーを見て、僕は微睡んだ。

僕はカレーをスプーンに掬って口に入れる。

『ほら、あーんして?』

『あ…あーん…』

「……なんだよ…めっちゃかれぇじゃねえかよ……」

心菜の死という最大級の悲劇を受けたことによって、僕は他のどんな不幸も感じなくなってしまった、言い方を変えれば「感情が死んでしまった」のだと思っていた。

でも、僕は今目の前にあるカレーを食べて辛さを我慢できずにいる。カレーの辛さでさえ弱音を吐いてしまう僕の感情が死んでいるわけがないのだ。

そうだ。きっと僕は、少しでも前を向こうとしている。そう信じたいのだ。

かれぇよ……つれぇよ………」

僕はただでさえ辛いカレーを塩辛くしてしまうような勢いで大粒の涙を落した。そして僕は自分の感じている「辛さ」を思いっ切り感じながらカレーを平らげた。

【2時間後】

空が暗くなってきている16時頃、僕は心菜と過ごした家に入った。

僕は小さなテーブルを準備し、壁際に置いた。次に心菜の写真を額縁に入れ、それを花瓶に入った桃色のカーネーションと一緒にテーブルに置いた。

次に、僕は紙を用意し、そこに筆ペンでこう書いた。









最後に、テーブルの真上にそれを貼った。

「…よし」

そう、僕はもう迷わない。

心菜の死は確かに僕にとっては最大の悲劇だ。だが、それに囚われて生きているようじゃ前には進めない。

「心菜。もしも僕がまた君を忘れたり、本当に廃れてしまいそうになったら、そこから叱ってよ。僕はもう後悔したくないし、心菜にもちゃんと僕が前を向いて生きている所を見てから成仏して欲しいんだ。だからほら、約束だよ?」

僕は写真に曲げた小指を向ける。

「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたらバラ千本飲ーます!指切った!」

「指切った!」を言った瞬間、僕の小指が誰かに触られた感覚がした…ような気がした。


10.捩花

心菜の死から早4年が経とうとしていた。僕はあれから心菜のことを一時たりとも忘れたことはない。でも僕はこの家で、1人で前向きに生きようと努力していた。

「おはよう心菜。今日も行ってくるね」

僕はいつも通り心菜に挨拶してから家を出る。

あれから僕は中断していた就活を再開した。学歴がものを言ったのか僕は県の公務員になれた。今は職場へ行くところだ。

「ふぁ~、眠い…」

「芹澤先輩!おはようございます!」

「ん?ああ、おはよう彩羽いろはちゃん」

彼女は会社の後輩だ。彼女は家が近くこうやってたまに会っては一緒に通勤している。まだまだ新入社員の僕にとっては数少ない貴重な癒し源の後輩だ。

「今日も仕事かぁ~。あーあ、なんだかもっとキラキラした仕事したかったな~」

「まあまあ。世の中には職につけてないような人だっているんだから」

「でもなんかこーんなお堅い仕事しても人生楽しいんですかね?」

「稼いだ金で好きなことすればいいでしょーよ」

「それもそうですね!」

…まあ、こんな奴だがこうやって彩羽ちゃんと話しながら歩くのも楽しい。

僕達が駄弁っている間にいつの間にか職場に到着していた。

【昼休憩】

「せんぱ~い!」

「おう、どうした?」

昼飯中に彩羽ちゃんが話しかけてきた。

「先輩って、お花好きですか?」

「…花?うん、好きだよ」

「はいこれ!」

そう言って彩羽ちゃんが差し出してきたのは、生け花のようだった。

「これ、彩羽ちゃんが挿してくれたの?」

「そうです!最近生け花教室に通い始めてて、ちょうどいいし先輩に作ってあげようかなって!」

「ちょうどってなんだよ…でもありがとう。机に飾っておくよ」

「やったー!」

そういえば心菜も生け花してたことあったなあ。それはもう、今目の前にある彩羽ちゃんの花よりずっと綺麗だった。まあ彩羽ちゃんはまだ初心者らしいし仕方ないけど…。



「じゃん!見て見て祐太君!」

「おおっ…こんな短時間で…すごいな…」

「ほらほら芹澤君もじゃんじゃん挿していって!」

「それがなかなかしっくりこなくて…」

「う~ん、ここをこうしてみたら?」

「おっ!すごい!イメージにピッタリあてはまった!ありがとう心菜!」

「ふふーん、どんなもんじゃい!」



「…心菜」

彩羽ちゃんが挿してくれた花の中に捩花ねじばながあった。花言葉は「思慕」。

「やっぱりまた…会いたいな…」

【帰宅後】

「よいしょ…と」

僕はなんとか持って帰った彩羽ちゃんの生け花を心菜の写真の前に飾った。辺りが暗かったので途中何度も落としかけて大変だった。行きは彩羽ちゃんと話しながらヨイヨイ行ったのに、帰りは花瓶を落とす恐怖に駆られながら帰ることになるなんて。

「心菜。これ、彩羽ちゃんが挿してくれたんだ。どう?……ははっ、やっぱり心菜に比べたらまだまだか~」

もちろん返答なんて無い。

心菜への報告も終わり、僕は作り置きの晩飯を食べて風呂に入った。そしていつも通り心菜に寝る前のおやすみを言う。

「おやすみ心菜」

僕は電気を消して眠りについた。

【翌日】

「ふぁぁ…」

今日は休日なのに早く目が覚めてしまった。おかげで超絶眠い。眠いがもう一度寝たら今度は昼過ぎまで寝てしまいそうだったのでそのまま起きることにした。

「ん~…おはよう心菜…」

目を擦りながら僕は心菜におはようを言った。当然返答は無い。

…と思っていた。

『おはよう祐太君。眠そうだね』

「いや~、ちょっと早く起きすぎちゃって…………ん?」

…今心菜の声が聞こえなかったか?

「心菜!?おい!心菜!?」

いや、冷静に考えて聞こえる訳がない。

「まだ寝ぼけてるのか…」

僕は自分の頭に手をやった。

『ねえねえ、花壇に来てよ!』

「!?!!?」

僕は天啓を受けているのか?とりあえず僕は2人で花を植えていた花壇に行くことにした。

花壇は心菜が死んでからも僕が花を育て続けている。なので花壇はいつも見ているのだが、一見いつもと変わっているところは無かった。

『祐太君!ここだよ!ここ!』

僕は花壇を舐めまわすように見た。すると僕の目にいっそう輝いて見える赤いポピーがあった。僕はそのポピーに向かって話しかける。

「本当に…心菜なのか……?」

『実は私、死んでから自分の魂を花に植え付けることに成功したの。それでずっと…祐太君がちょうど私の写真を置いてくれた頃からかな。静かに祐太君の事を見守っていたんだ』

「じゃあ…今まで話さなかったのは……?」

『急に私の声が聞こえたら祐太君びっくりしちゃうから。…でもね、私の写真の前に生け花が置かれたでしょ?』

「生け花…」

彩羽ちゃんからもらったもののことだろう。

『私、花に込められた気持ちが分かるようになったの。あの生け花の中にあった捩花に、祐太君の"私に会いたい"っていう思いがとってもたくさん込められていたから、やっぱり祐太君は超常的な方法でも私と話したいのかなって…やっぱり、怖い?』

どこまで本当かは分からない。だけど…。

「……くないよ」

『えっ?』

「怖いわけ……ないじゃん……!心菜!…ずっとその声が……聞きたかった…!!」

僕は大粒の涙を流しながら赤いポピーを手ですくって取り出した。

『よかった!こんな姿だけど、これからいっぱいお話しようね!』

「ああ……」



あれから僕は、花になった心菜と話しながら生活を続けていた。明らかに異常なのはわかっていたが、それでも心菜と話すのが楽しかった。…たとえそれが長い長い夢を見てるだけだとしても。

『そういえば祐太君、花壇の花増えたと思わない?』

「ああ、確かにちょっと感じてたけど…」

『それ実は、私が増やしたんだよ?』

「えっ!?」

『私、どうやら周りに花を咲かせることもできるようになったらしくてさ!』

「すごいじゃん!お花屋さんになりたかった心菜にピッタリな能力じゃん!」

心菜の返事は無かった。

「…心菜?」

『あ、ごめん!なんでもないよ!』

「そう…ならいいけど」

『あ!そういえばあの後輩ちゃんとは進展したの~?』

「なっ、何言ってるんだよ!僕は心菜一筋だから!」

『嬉しいけど、新しい彼女も考えないと一生独身だよ?』

「うっ…僕は心菜がいればそれでいいの!」



『私が死んでから、浅川先輩と伊吹先輩には会った?』

「うん。僕のお見舞いに来てくれた時にちょっとね。…2人ともあんまり変わってなかったよ」

『あははっ、やっぱり?』

「伊吹先輩といったら、僕の上で寝ちゃってさ…」

『ちょっと、それどういう状況なのよ…』

呆れた…と言わんばかりに心菜がそう言った。…なんだか嫉妬も混じっていたような気がした。



『わぁ…やっぱり綺麗だね!』

僕は心菜を植物園に連れてきた。こうやって心菜を植木鉢に移して持ってくれば、一緒にデートもできるじゃん!って思いついた自分を称えたい。

「懐かしいね。昔、一緒に来たよね」

『あの時はまだ、私達も"ただの友達"だったからね』

「そうだね…」

あの時の自分のヘタレさと言ったら…。

『そうだ。もし私の魂がこの花から消えたら、この花は家の花壇に植えていてほしいな』

「え…心菜、成仏するの?」

『そりゃあいつかはするよ。…でも、できることなら祐太君が死ぬまでは成仏したくないな』

「…僕もそう願っているよ。この世を去るときは、一緒に去ろう」

『うん!』



こんな感じで心菜の体が無いことを除けば心菜が死ぬ前とほとんど同じ生活を送っていた。本当に幸せだった。夢ならば醒めないで。そう思った。

そんな幸せが3ヶ月ほど続いたある日のことだった。

…心菜の声が、突然途絶えたのは。

「ただいまー」

僕は仕事から帰ってきて心菜に声をかけた。

「……?」

いつもなら返事があるはずだ。

「心菜?」

僕は続けて声をかける。

「おーい、心菜………!?!?」

僕はあの時心菜ポピー(?)を植木鉢に移してあの場所に置いた。しかしそこにはポピーが無かった。

「心菜!?おい!!どこにいるんだ!?」

あるのは心菜の写真と、彩羽ちゃんからもらった生け花と、一緒に入った桃色のカーネーション。

「…やっぱり、夢だったのか…」

そうだよな。やっぱり夢だったんだよな。死んだ心菜が僕と話している訳がない。よく考えれば、心菜を思い出した時も、あれは単なる夢で、心菜を思い出したのはリハビリの効果以外の何者でもない。

「心菜……」

今までがおかしかったんだ、なのに。

夢から醒めた僕は悲しみの淵に追いやられ、その場で蹲った。


11.花浜匙

いつもの生活に戻った。心菜がいない、普通の生活に。

「じゃあ行ってくるね、心菜」

それでも僕は心菜に話しかけ続ける。いつか声が聞こえるかもしれないと、僅かな希望を持って。

「…ん?」

ポストに何かが入っていた。

「████病ワクチン接種のお願い…?」

その紙に書いていたのは、████病という一種の流行り病に対するワクチン接種が義務化されたという情報だった。右上には自分が働いている会社の名前があった。



「はぁ~、注射いやだよ~!!」

「まあまあ。こればっかりは仕方ないよ」

駄々をこねる彩羽ちゃんをなんとかして宥めている。

「だって今までこんなことなかったじゃん!先輩は過去何回か受けていたんですか?」

「いや…なかったと思う」

最近は色んな病気が流行しているから仕方ないのは仕方ない。

「まあ無料で病気予防できるんだし、いいじゃん」

「痛いのはいやですーー!!」

「ほら着いたぞ」

「ひぃっ…!」

【接種会場にて】

接種会場は個室になっていて、1人1人接種する形になっていた。なんというか、無駄に患者のプライバシーを守っているのような感じがした。こういうのって普通、もっとオープンな場所でしてもいいものじゃないのか?

「うぎゃーーーー」

…聞かなかったことにしよう。

「芹澤祐太さん、お入りください」

「あ、はい」

中には女性の看護師と男性の医師が1人ずついた。

「どうぞお座りください」

「はい、お願いします」

僕は左肩を出す。

「はい、じゃあ力抜いてね」

「ふぅ…」

針が肩に刺さる。

「っ…!」

あいつほど怖がってはいないものの、大人になっても痛いものは痛い。体の成長と共に神経も成長しているわけではない。

「はい終わり」

「はぁ…」

僕は荷物を持って外に出ようとした。すると医師から引き止められた。

「あ、君もう1本あるよ」

「え?もう1本ですか?」

さすがに嫌がった。

「うん。まあ体格とかそういうのを考慮して…ね?」

こういうのって普通一気に2本とかいかないんじゃないか?

「まあ…わかりました」

でも医師が言うなら大丈夫だろう。

「じゃあ今度は腕に刺すね」

「え、腕ですか?」

「うん。じゃあいくよー」

間髪入れずに2本目を打たれた。

「痛っ」

「はいお疲れ様」

僕は医師にお礼を言ってその場を去った。

【数分後】

「はぁ~…もうやだよ~…肩痛いよ~…」

「はいはい、よく頑張ったね」

注射を終えて満身創痍の彩羽ちゃんをなんとかして慰める。

「せんぱーい、なんかご褒美くださいよ~」

「えーっ、…仕方ないな。█████カフェのパフェを食わせてやろう」

「ほんと!?やったー!先輩大好き!」

一瞬で機嫌が直った。

「注射1本につきスイーツ1000円分食えるなら3回はいけるんだけどなー」

「いや普通今回みたいに1回だから。そんな何本もブスブス打つもんじゃないのよ…」

「それもそうですね!」

彩羽ちゃんはもうこれから食べるパフェのことしか頭にないようだった。

【カフェにて】

「う~ん、おいしー!」

「あんまり焦って食わんようにな」

「わかってますって!」

そう言いながらも彩羽ちゃんは驚異のスピードで口にパフェを放り込んでゆく。

「へんはいもはべまふか?(先輩も食べますか?)」

「いや、僕はいいよ。たくさん食べな」

僕は幸せそうな彩羽ちゃんの顔を見て、なんだか気分が和んだ。



「ただいま、心菜」

返事はない。それでも、そこにいるかすら分からない彼女に話しかけ続ける。

「いや~、彩羽ちゃんに奢らされちゃってさー。ったく…金欠なのに…」

『でも私にはあんなに奢ってくれたじゃん』

多分、心菜ならそんな返しをするんだろう。

「…とにかく、今の生活は楽しいからさ。安心して」

そう言って僕は心菜の写真の額縁を撫でた。

【2ヶ月後】

『………くん!』

「…?」

何かに起こされ僕はゆっくり目を覚ました。時計を見ると朝の10時を指していた。

「…やっべ!!」

僕は慌てて飛び起きた。しかしすぐに今日が土曜日だということに気づき一気に安堵した。

「…ふぅ……」

僕は二度寝に入ろうとした。その時だった。

『……たくん!』

『…祐太君!!!』

「心菜!!??」

今明らかに心菜が僕を呼ぶ声がした。

「心菜!!どこにいるんだ!?」

『…助けて……』

掠れるような声でそう言ったのが聞こえた。

「たすっ…!?おい!心菜!!どこにいるん…!!?」

僕が心菜に再度場所を問おうとした瞬間、僕の脳に大量の情報が入ってきた。そして僕は魔法のように"とある場所"の場所と、そこへの行き方を完全に理解した。原理は全くもって不明だ。だが心菜が助けを求めている。なら助けに行く他は無い。

「…心菜、今行くからな」

僕は着替えを済ませ、車に乗った。

そこから途方も無い時間のドライブが始まった。幾度か日を越した。ガス欠も何十回と起きた。体力も切れた。だけど心菜に会えるのなら、心菜を救えるのなら、僕はどんなに辛くてもハンドルを握っていられた。

出発してから何日経っただろうか。ある時車で山を登っていると突然、道に立っている警備員達に進行を止められた。

「すいません。ここから先は進入禁止区域になっています」

「進入禁止…ですか?」

でもこの先に心菜が指した場所がある。もう少しなはずなんだ。

「はい。ご迷惑をおかけしますが、お帰り願います」

「あ、あの…!僕、この先に待ってる人がいるんです!」

「待ってる人…ですか?」

警備員達の声のトーンが少し変わった。

「すいません、お名前をお伺いしても?」

「芹澤祐太です」

警備員達は僕の名前を聞くと誰かと通信を繋いだ。

「こちら████……芹澤祐太と名乗る男が境界付近に接近しました。……はい…え?彼が……はい………分かりました」

どうやら通話が終わったようだった。

「…ついてきてください」

さっきまで入るのを頑固拒否されていたが一変、僕を誘導してくれた。

うん…合ってる。僕の脳内にあるルートと警備員達が案内してくれているルートが一致していたので安心した。しかし、心菜は僕をどこに連れてこようとしているんだ?

そこから数十分間警備員達についていった。すると僕の目に驚くべき光景が移った。

「…!!??」

そこには、こんな山奥には似つかわしくないレベルの大型の建物があった。大きさは東京ドーム何個分にもなるだろう。外は厳重に鉄格子の壁で覆われており、入口も警備員がたくさんついている。

…本当にこんな場所に心菜がいるのだろうか?

「こちらからどうぞ」

僕は案内された入口から車を入れる。するといかにも厳重な車庫に案内された。

「ここで降りてください」

僕は言われるがままに降りた。

「では案内します。ついてきてください」

「はい…」

僕は警備員についていくよう指示された。

中は硬い無機質な壁で覆われていて、扉は全てロック式のようだった。山の中にあるとは思えないくらい発展した技術が詰め込まれたような場所だった。

「どうぞ」

そしてしばらく歩いた後、僕はとある部屋に案内された。

「失礼します…」

そこには1人の白衣の男性が座っていた。

「どうぞこちらに」

「あ、ありがとうございます」

僕は男性と向かい合わせになって座った。なんか事情聴取みたいだな…。

「あなたが芹澤心菜さんの婚約者である芹澤祐太さんですね?」

「!!やっぱり、心菜はここにいるんですか!?」

「落ち着いてください。……はい、あの花はここで保管してあります」

「じゃあ…心菜は…!」

やっぱり夢じゃなかったんだ…!心菜は本当に僕に話しかけてくれたんだ!

「…よかった……っ!」

僕は安心して少し涙を流した。

「ですが、いい話だけではありません。…残念ですが、あの花をあなたにお返しすることはできません」

「え…」

心菜はもう、帰ってこない?

「そして今日からあなたをここで半永久的に収容します」

しかも僕を収容…?どういうことなんだ…?話が急すぎて頭に入ってこない。

「ちょ…ど、どういうことなんですか…?それに心菜も帰れないって…というかここ……どこなんですか?」

一気に与えられたショックにより、パニックになってしまい変な質問をしてしまった。

「…確かに急な話ですが、受け入れてください。こういうことをするのが私達-SCP財団の仕事であり使命ですから」


12.葡萄

「えすしーぴー?…なんですかそれ?」

「企業名みたいなものです。…とりあえず今から準備をしますので」

「ち、ちょっと待ってくれよ!」

「…まあ詳しい話は後です。今からあなたを解放するためにとある処置を施します」

「僕を…解放?」

なんだかさっきと言っていることが違うような…。

「はい。これです」

そう言うと他の部屋から何人かの白衣の男性が現れ、その1人が注射器を見せてきた。

「…これは?」

形は、一般的に医療用とされる注射器とは少し違うようだった。

「記憶にないですか?…まあ打ったことも忘れさせたので覚えてる訳ないんですが」

見覚えにない。そう答えた。すると目の前の男性が注射器を持った男性に声のトーンを変えて問うた。

「…本当にあの時、彼に記憶処理剤を打ったんだよな?」

「はい。彼の職場での集団ワクチン接種に合わせて打ったはずです」

男性がため息をつく。

「どういうことだ……とりあえず祐太さん。あなたにはこの注射を打ってもらいます」

「はぁ…」

また注射か。なんか最近打ったような気もする。正直気分が乗らない。

「気が乗らないかもしれませんが、あなたを解放するためには必要なことですので」

そうか。僕、ずっとここに閉じ込められるかもしれないのか。

もし僕が帰れなくなったら、みんなはどんな顔をするのだろうか。家族も、上司も、友達も、浅川先輩や伊吹先輩も、彩羽ちゃんも。



「う~ん、おいしー!」

「あんまり焦って食わんようにな」

「わかってますって!」

そう言いながらも彩羽ちゃんは驚異のスピードで口にパフェを放り込んでゆく。

「へんはいもはべまふか?(先輩も食べますか?)」

「いや、僕はいいよ。たくさん食べな」

僕は幸せそうな彩羽ちゃんの顔を見て、なんだか気分が和んだ。



そうだ。僕は帰らなければならない。皆のためにも。

…あれ?でもその時、僕の手元に心菜はいるのだろうか。彼は言った。「あなたを解放するための処置」だと。でもそれって、心菜を解放することにはならないのではないか?

「では打ちますよ」

プスッ

「!!」

注射が僕の腕に打たれた。

「……気分はどうですか?」

「………ここは、どこですか?」

ここはどこだ。なんだこの事情聴取みたいな状態は。目の前には1人の白衣の男性が座っている。

「他になにか不思議なことはありませんか?」

「他に……あ、そうだ。僕は心菜を迎えに来たんだ。そして多分、ここに着いたんだと思う」

「………」

男性が怪訝そうな顔をした。

「ここに心菜はいるんですか?」

「……はい、いますよ」

男性は静かに答えた。

「それじゃあ…!」

その瞬間、僕は麻酔を打たれ意識を失った。

「…やっぱり消えなかったな」

「はい。芹澤心菜の記憶及びその関連の記憶が一切消えません」

「全く…どういうことだ。そして彼がここに辿りついたということは、やはり彼はあの花と何かしらの方法で通信をとっているということか?」

「そう考えるのが妥当ですね」

「…芹澤祐太もSCiPの可能性が高い。やはりここで収容しておくべきだな」

「了解です」



「……ん…」

次に僕が目を覚ました時、そこは1つの部屋のようだった。

「目が覚めましたか」

僕は体を上げた。すると僕の近くに白衣の男性が座っていた。さっきの人とは別人らしい。なんだか温厚そうな見た目をしている。

「…あなたは?」

「私は研究員の滝本です。あなた及びSCP-████-JPの担当職員になりました。何か質問やご要望があればお申し付けください」

「……ここはどこですか?」

「ここは収容室です。あなたはここに異常存在として収容されました」

「僕が…異常存在?」

言ってる意味が分からなかった。

「はい。…今度はこちらから質問させていただきますね」

そう言うと滝本と名乗った男性は僕に質問攻めをしてきた。自分の身に異常なことが起きたことは無いか、心菜の声が聞こえてきたのはいつなのか、どうやってここに着いたのか。そういうことを聞いてきた。

「インタビューは終了です。ご協力ありがとうございました。あなたから何かありますか?」

「…心菜は、どこにいるんだ?…だいいち、どうしてこんなところにいるんだ!誰が僕から心菜を奪ったんだ!」

今置かれている状況がよく分からず、声を荒げてしまった。

「落ち着いてください。…前者は答えることはできませんが、後者に関しては"あの花が異常だったから"です」

「異常…?どうして心菜が異常だと思ったんだ?」

「最初は近隣住民が"花と会話している男性がいる"と少し噂をしていたことが始まりでした。そして追跡を続けた結果、"男性は花を自身の彼女として会話しているようだ"と分かりました。そして調査の結果、あの花の付近で不審な草花の増加と微小なHm値の変動があったんです。特にあなたといる時は変化が大きかったです」

正直よく分からなかった。

「Hm値の変化とあなたの会話の関係は正直不明ですが、収容後に周囲に花を咲かせることも可能だとも判明しましたし、異常なのは明白です。何よりあなたがここにいることが何よりの証拠でしょう?異常なものは普遍世界から隔離しなければならない、そういうことです」

"異常なものを一般世界から隔離する仕事を担った団体”、それが彼ららしい。

確かにその理屈は分からないことはない。危ないものを隔離する、常識中の常識だ。しかし僕が疑問なのは「心菜が本当に危険」なのか、だ。心菜は確かに異常な存在になってしまった。だが、その影響は僕だけが対象で、他にも少し花を周りに咲かせるだけの心菜が本当に人類の脅威となりうるのだろうか。

「心菜は…危険ってことか?」

「今のところ危険はありません。ですがあなたが花と会話してたりしてたら、周囲の人々が混乱してしまうでしょう?」

「それはそうだけど…」

いまいちしっくり来ない説明に、今は頷くしかないようだった。

「では、私はこれで失礼します」

「あ、ああ…」

おそらく彼に悪意は無いのだろう。これ以上彼に詰問するのはか可哀想なので一旦問いかけをやめた。

彼が出て10分も経たない頃だった。僕の頭に突然"声"がよぎってきた。

『祐太君!こっち来て!』

「!!…心菜!?」

僕は心菜を呼んだが返事はなかった。そして頭にとある場所の情報が入ってきた。ここに入ってきたときみたいに。

「…ここか」



「あの花と一緒に収容されたい…ですか?」

僕は滝本さんを呼び出した。

「お願いします!そちらの条件は何でも受け入れるので!彼女に会わせてください!」

「……」

彼は黙ったままだった。

「…少し、上と話さないといけないと思います。私から提案しておきますので結果が出たらお知らせします」

「…!ありがとうございます!」

これでもしかすると心菜に会えるかもしれない。それだけで一抹の不安がだいぶ消え去った。

【数日後】

「芹澤さん、滝本です。入ります」

そう言って彼が扉を叩いてきた。

「…どうでしたか?」

「結論から申し上げますと……」

緊張が走る。

「あなた達を同じ部屋に収容するのは難しそうです」

「そう、ですか…」

僕は落胆した。ここに来た意味はなんだったんだろうか。でも滝本さんには感謝しなければ。こんな願いもちゃんと聞いてくれたんだから。

「ですが、我々もあなた方の接近によってSCP-████-JPの異常性にどのような影響を与えるか、少し確かめたいというのもあります」

「!…じゃあ…」

「ついてきてください」

「え…どこにですか?」

「我々が出した"妥協策"を見せます」

それから僕は長時間歩かされた。でもその間、僕には確信があった。

着実に心菜に近づいている。

そしてしばらく歩いた後、僕は気づいた。

「…!!」

あれが心菜の収容室だ。頭によぎった"情報"と合致している。しかし周りは警備員が数人いて、ダッシュであそこにいけるような状況でもなかった。

にしても、"妥協策"ってなんだろうか。一緒の部屋は無理って言ってたし…。

「あなたの新しい収容室はここです」

そう言って滝本さんが立ち止まったのは、心菜の収容室の"一個手前の部屋"の前だった。

「え…どういうことですか」

「入れ」

僕は警備員に押されて半ば強制的に部屋に入れられ、鍵を閉められた。

「え、ちょっ…」

「芹澤さん、すいません。これができる最善の策だったんです」

そう言って彼らは去っていった。

「おい!待ってくれ!説明してくれ!」

そんな声は届かなかった。

「はぁ……」

僕は何も考えずに収容室のベッドに横たわった。

「心菜……」

『なぁに?どうしたの』

「ああ…ちょっと…………ん!?」

僕は慌てて起き上がった。

『ふふっ。祐太君、こんなに近くまで来てくれたんだね!これだと話しやすくてありがたいよ!』

「心菜……」

僕は壁に近づいた。そうか。これが"妥協策"なのか。一緒は無理でも、隣なら…。

『まあ姿を見せれないのは残念だけど、これからいっぱい話そうね!』

「……っ」

『祐太君?』

「……ああ……そうだね……っ」

僕は自然に涙を流した。


13.禅庭花

それから僕は心菜と色々な会話を交わした。

「そういえばどうやって僕に場所とか伝えたの?」

『あれ本当に大変だったんだよ?祐太君までの距離が遠かったり情報量が多い程多くの体力使っちゃうんだから!』

「そうなんだ…なんかごめん」

『いや祐太君が謝ることじゃないよ!こんなか弱い乙女をこんなところに無理やり閉じ込めたSCP財団とかいう奴らが悪いんだよ!』

「でも彼らの言うことも分からなくないし…」

『そうだよね~。私がこうやって話せているのもおかしいわけだし…』

こうやってしっかり心菜と話すことすら懐かしく感じる。

『あ、そういえば祐太君が隣に来てから私の目の前に花壇が置かれてね、またお花咲かせることができるようになったんだよ!』

「今まではできなかったの?」

『うん…なんかね、プランクトン前日譚?みたいな名前の機械が関係していたらしいよ。多分だけどそれの影響が祐太君が来てから無くなったのかな?』

「ふーん…?」

よく分からないけど心菜がまた花を咲かせれるようになったならいいか。

そんな中、僕の部屋に来客があった。

「滝本です。入ります」

滝本さんか。おそらくインタビューだろう。

「あ、どうぞー」

「失礼します」

「芹澤さん、気分はどうですか?」

「良好です」『良好です!』

「あ…」

心菜が僕と同時に返事した。僕は壁の方を向いた。

『あ~…ごめん』

「…どうかしましたか?」

「あ、いや…心菜が一緒に返事しちゃって」

「確かに"芹澤さん"では区別しにくいですね。"祐太さん"でいいですか?」

「ああ、はい。大丈夫です。ところで今日は何を?」

「ええ、ちょっとSCP-████-JPの異常性の研究の為に話を聞きたくてきました」

いつも通りのインタビューか。

「はい、何について聞きに?」

「SCP-████-JPの咲かせる花についてです。実は収容当時と祐太さんが来た後では咲かせる花がガラッと変わったんです」

「ガラッと変わった…?」

「はい。収容直後、一定期間に咲かせていた花がある程度定まっていたんです。そしてそれからはとあるものを使ってSCP-████-JPが花を咲かせるのを抑えていたんですが、祐太さんが来て何か変化があるかもしれないと一旦異常性を見てみたんです。すると咲かせる花が変わったんです」

「なるほど…」

「これがそのリストです」

滝本さんが紙を渡してきた。そこには花の名前がずらりと書いてあった。

[収容直後]
・ストック(黄多め?)
・スカビオサ
・キンセンカ
・ハナニラ
・ハス
・アリウム
・ミヤコワスレ
・サンダーソニア
・ゲッカビジン
[芹澤祐太氏との接近後]
・ガーベラ(赤多め?)
・スターチス(黄多め?)
・ヒヤシンス(青多め?)
・スミレ(紫多め?)
・デイジー
・プリムラ・ジュリアン
・カルミア
・ナスタチウム
・ネコヤナギ
※抜粋

「祐太さん、何か思い当たる節はありますか…?」

「…えっと、僕には関係ないんですけどいいですか?」

「はい。何でもどうぞ」

「多分なんですけど…収容直後の方に書かれている花ってネガティブな花言葉をもつ花ばかりなんですよ」

「…というと?」

「例えば黄色のストックでいえば"さびしい恋"、アリウムだったら"深い悲しみ"、ミヤコワスレだったら"別れ"といった具合に。でも僕がここに来てから咲いている花は逆に花言葉がポジティブな花が多いです。黄色いスターチスは"愛の喜び"、青いヒヤシンスは"変わらぬ愛"、デイジーは"希望"。多分他の花も同じ傾向だと思います」

花言葉は心菜といっぱい覚えたからけっこう分かる。

「…なんか、若々しいカップルののろけ話を聞かされた気分です」

「あっ、すいません…」

滝本さんの苛ついた表情の中に、少し悲しそうな感情をが見えた。

「ゴホン…とにかく、祐太さんの話を聞けて良かったです。ありがとうございました」

そう言うと滝本さんは部屋を出た。

『むっ…』

「どうしたの?心菜」

『なんか…恥ずかしい…』

多分花として恋心を全面に出していたことを知られて恥ずかしがっているのだろう。

「恥ずかしがっている心菜も可愛いよ」

『なっ、祐太君、なんでそんなにサラッと"可愛い"なんて言えるの…』

「だって事実じゃん」

『もう……祐太君、だいすき』

「僕も大好きだよ、心菜」

『あーーもう!なんでそんなに簡単に言うの!』

「あははっ」

心菜がまだ本心で僕のことを想ってくれていたのが分かってなんだか安心した。

それから心菜とはたくさんの話を交わした。それはまるで心菜が生きている時とあまり変わらないくらいに。

「そろそろ寝るよ」

『うん、おやすみ!』

「おやすみ心菜」

こうやって心菜から返事が来る日を待ち遠しく思っていた。

「相変わらずベッドが少し硬いな…」

『そりゃあ家のあのベッドと比較したらねえ~』

「明日にも滝本さんに言ってみようかな」

『そうした方がいいよ。だって私が祐太君を押し倒したらケガしちゃうじゃん』

「おっ、押し倒す!?ばっ、何を言って…」

『もし私が人として実体になれたらまた祐太君とやりたいなぁ』

「ちょっ…そういうことは…」

『私は欲求不満だよ?…ふふ、冗談冗談』

「ほどほどにしてくれ…」

『じゃあ今度こそ、おやすみ』

「ああ、おやすみ」

心菜のせいで眠れそうにないが。

【約2ヶ月後】

ここに来てからだいたい2ヶ月くらいが経ったと思う。この場所の生活にも慣れてきた頃、僕はあることが心配になった。

「ねえ心菜」

『どうしたの?』

「僕、ずっとここにいるけど、知り合いとかは心配してないのかな…」

もう2ヶ月もあの町にいないのだ。さすがに親とかが心配しそうだった。親だけじゃなくて伊吹先輩や浅川先輩も心配しているかもしれない。彩羽ちゃんも僕が世話をしていないので困っているかもしれない。

『あーなんかね、その辺はうまくやってるらしいよ?私も詳しくは分からないけど』

「じゃあさ、もう家族や先輩後輩とかには会えないってこと?」

『もしかすると面会とかできるんじゃないかな』

「今日丁度滝本さんが来るし、聞いてみようかな」



「すいません。その件に関しては詳しくは言えません」

「そうですか…」

「ですが相応の手は打ってありますので安心してください」

「はい…」

滝本さんは口を割ってくれなかった。

「じゃあ面会とかは…」

「面会ですか。……こちらが必要だと考えた場合は可能性がありますが、おそらく難しいと思います」

「ああ…やっぱりですか」

「お力添えできなくてすいません」

「いえ、大丈夫です」

滝本さんは僕のわがままに真摯に対応してくれている。文句は言えない。

「ではインタビューを続けます」

それからはいつも通りにインタビューが進んだ。

「はぁ~…その"相応の手"ってなんなんだろうな…」

『祐太君はどんなのだと思っているの?』

「僕?うーん…嘘をついて"芹澤祐太は死んだ"ことにする、とか?…さすがにないか!」

『わかんないけどね~』

でも多分皆は無事なんだろうな。そこに嘘があるとは思わなかった。

「とにかく、2人で出れるまでの辛抱だ!心菜、頑張ろうな!」

『うん、そうだね!』

そう言う心菜の声には寂しさが混じっていた気がした。


14.着生蘭

収容からもう何ヶ月経ったか分からない。僕はこの場所で心菜と会話を交わしていくうちに「帰りたい」という感情はほぼ消えかかっていた。実際、衣食住はある程度充実していて、衛生環境もいい。おまけに働かなくても基本的な生活が可能なんて理想的だ。しいて不満を言うなら、人肌恋しいことくらいだ。…特に女の子にはずっと会っていない。

「はぁ…みんな今頃どうしてるかな…」

『なんか私も少し心配になってきたなぁ』

「でしょ?さすがにこんな長い期間こんなとこにいたらさすがに心配するんじゃないか?」

『だよね~』

「でも誰も会おうとしてないし…てかここはどこなんだ?」

もう長い間ここに居るが、まだここが…SCP財団というものがなんなのかイマイチ分かっていない。

「滝本です。入ります」

ノックをして滝本さんが入ってきた。多分いつも通りの体調チェックだろう。

「祐太さん、体調は大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」

「衛生面の問題は?」

「特にないです」

いつも通りの問答が繰り返される。

「ありがとうございます。これで本日の体調面などの調査"は"終わります」

「まだ何かあるんですか?」

「はい。今回は大事な報告があります」

「大事な報告?心菜に何かあったんですか?」

『いや?私は特に変わってないけどな~』「いえ、そういう訳ではありません」

2人が同時に返事した。

「じゃあ…」

「祐太さんとSCP-████-JPを同室で収容していいことになりました」

『「!!本当ですか!?」』

僕は壁の方に走った。そして話しかけた。

「やった!!心菜!!もうすぐそっちに行くからな!!」

『うん!楽しみにしてるよ!!』

「祐太さん、落ち着いてください」

「あ…はい、すいません…」

「燥ぎたい気持ちも分かりますが…とりあえず話を聞いてください」

「はい」

「前に"祐太さんが近くにきてからSCP-████-JPの異常性の発現の仕方が変わった"といった話をしましたよね?」

「ああ…そういえばそんなこと言ってましたね」

咲かせる花が変わった、みたいな内容だった気がする。

「それで我々も祐太さんとSCP-████-JPの接触でどう異常性が変化するか確かめてみたいという結論に至りました。よって今回の結論を祐太さんにお伝えすることになりました」

「よく分からないですけど、とにかくこれで心菜に会えるんですね!?」

「はい。異常性の変化によっては一定期間だけになるかもしれませんが…」

「それでも大丈夫です!とにかく、滝本さんには頭が上がりません…」

「いえいえ。こちら側の総意ですので。とりあえず、今から説明しますね」

「はい」

滝本さんがこれから僕と心菜を会わせるにあたり、色々と説明する。

「まず祐太さんとSCP-████-JPをとある部屋に移動させます。その部屋にはスクラントン現実錨…心菜さんの超能力を止める装置と花壇を設置しています」

「え、それだと…」

「最後まで聞いてください。もちろん最初は現実錨を起動しません。祐太さんとSCP-████-JPが接触したら、おそらくSCP-████-JPは花を咲かせると思います」

「心菜、そうなのか?」

『うん、もちろん!』

何故か心菜は自信満々に言った。

「祐太さん?」

「あ、いや…心菜は"咲かせる"って言っています」

「そうですか。それなら良かったです。…そして、咲かせた花を記録します。祐太さんには出来るだけでいいのでその花の花言葉を記憶しておいてほしいのです」

「花言葉…ですか」

前も確かに花言葉が関係してるとか言っていた気がする。

「はい。おそらく私達よりその辺は詳しいと思うので。そして咲かせる花の数が十分だとこちら側が判断したら、現実錨を起動します。その後、状況を監視しつつ収容を続けます」

「分かりました」

その日は滝本さんからの説明で終わった。どうやら移動は明日らしい。

『いや~、楽しみだね!』

「そうだね。ちゃんと面と向かって話せるんだから」

『まあそれもあるけどー』

「他にあるの?」

『さあねー』

「あんまりじらさないでくれよ…」

そんな会話をしながら明日を待った。壁越しの会話もこれで最後になる、はずだ。

【翌日】

『あ、いっぱい人が来たよ』

「心菜は先に移動するのか?」

『うん。…それじゃ、あっちでね!』

「ああ」

「祐太さん、入りますよ」

滝本さんだ。僕の方も移動するのかな。

「どうぞ」

そう言うと滝本さんは数人の護衛らしき人と共に僕の部屋にやってきた。

「移動の準備をお願いします」

「分かりました」

僕は用意された鞄に着替えや布団、そして滝本さんに貰った日記帳とペンを入れる。

「…そろそろ移動します」

「はい、お願いします」

ようやく心菜に会えるんだ。僕の心臓が大きく脈打つ。緊張と共に僕は収容室を出た。

普通の人なら思うかもしれない。「結局は見た目はただの花だから、見たところで変わらないんじゃないか」と。確かにそうかもしれない。でも何故か、僕はあの花の姿の心菜を見たいという衝動が抑えられないのだ。たとえそれが心菜本来の姿じゃないとしても。

「祐太さん、これを」

「これは…?」

僕は滝本さんから腕に巻くバンドのようなものを渡された。そこには赤い小さなボタンが一つあった。

「ある程度SCiPの異常性が分かっているとはいえ、予測不能な事態が起きるかもしれません。隣接収容時もSCP-████-JP周囲のHm値は比較的大きく変動していました。…なので念の為に。もし何か"いつもと違う"ことが起きると感じたらそのボタンを押してください。早急にスクラントン現実錨の起動及び適切な処置を施します」

「…分かりました」

「祐太さん、あくまでも彼女は異常存在です。最悪の場合あなたが死ぬ可能性も忘れずにいてください」

滝本さんが強めの口調で言った。

「心菜は、そんなことしないと信じています。僕にとってもあなたにとっても悪いことは…」

「…なら安心ですね」

滝本さんの声が和らいだ。

「そろそろ着きます」

「あ…」

僕は明らかに他の部屋より厳重そうな部屋を見つけた。

「部屋には祐太さんと護衛2人を投入します。私は現実錨の近くで監視しますので」

「分かりました」

緊迫感を肌で感じるようになってきた。

「ここです」

「…スゥー……」

深呼吸をする。

「祐太さん、最後にいいですか?」

「は、はい…」

「たとえ些細なことでも、"身の危険"を感じたら、すぐにそのボタンを押してください。もしこの財団を脅かす事態が発生すれば…本当に永遠のお別れになるかもしれませんので…」

「…分かりました」

永遠のお別れ。言葉の重みを感じる。

いや、きっと心菜はそんなことをしないはずだ。だから何も心配なんてする必要ない。

「では祐太さん、どうぞ」

滝本さんが扉を開ける。

僕が緊張した面持ちで部屋に入ると、そこには赤いポピーの姿をした心菜がいた。

『えへ…なんだかこうやって会うの、久しぶりだね!』

「心菜……」

そこには、ここに来てからずっと見たかったものがあった。今まで見てきた花の中で、何よりも綺麗に見えた。

僕は植木鉢に植えられた心菜を持ちあげた。

『祐太くん、改めてありがとうね。こんなところまで会いにきてくれて』

「ああ…そんなの全然だよ」

僕は再会と美の感動でそっと涙を流した。

『私も頑張って祐太君にこの場所を教えてよかったなーって思ってるよ!』

「うん、よく頑張ったね」

『ねえ祐太君…私って綺麗?』

「ああ、当たり前じゃないか…」

『なら良かった!』

そう言うと花壇に続々と花が咲き始めた。あ、そうだ。確か花言葉を記憶しないといけないんだっけ。僕は咲いた花に目をやる。

えーっと、左から…クロッカス、スイートピー、ガザニア、グズマニア、ヘリオトロープ…。花言葉はそれぞれ「青春の喜び」「優しい思い出」「あなたを誇りに思う」「理想の夫婦」「献身的な愛」。心菜も再会を喜んでいるようだ。あとは…うーん、分からない花もあるな…。僕は心菜ほど花に詳しくないし。かと言って心菜にいちいち聞くのもなぁ…。

ん?これは…スノーフレークか?花言葉は「皆をひきつける魅力」。咲かせる花は心菜の感情に起因するんだろうけど、どうしてこんな花を…?

『ねえ祐太君、少しお出かけしない?』

「お出かけ…?」

『うん。久々にデートしようよ!』

「え、でも…ここからは出られないから…」

『ふふふ。私を舐めないでほしいな~?』



「さてと…」

私はスクラントン現実錨のある部屋で、カメラ越しに監視を開始した。カメラ越しでSCP-████-JPを持った祐太さんが独り言を呟いている。彼曰く会話しているらしい。今までのことから言って嘘ではないだろう。

彼がSCP-████-JPに触れてから、花壇には様々な花が乱れ咲きしていた。彼女…心菜さんの将来の夢であった"花屋"に起因しているのだろう。

「今のところは問題なし…と」

花を咲かすところまでは想定内だ。私は祐太さんが花壇の花に目配せをしているのが分かった。

『心菜は、そんなことしないと信じています。僕にとってもあなたにとっても悪いことは…』

彼は先程そう言った。私もそれを信じて見届けるしかない。

…そう思っていた矢先だった。

突如SCP-████-JPの根の部分から段々と多数の蔦が生えてきた。その蔦はみるみるうちに伸びていき、祐太さんを包みこもうとしているようだ。

「なんだ…?」

突然の出来事に戸惑っていると、中にいた護衛2人がその場で跪いた。祐太さんも何故かSCP-████-JPを持ったまま呆けたようにつっ立っている。私は急いで護衛に連絡を取る。

「応答してください!今すぐSCP-████-JPの無力化を!私はスクラントン現実錨を起動準備します!」

返事はない。何が起こっているんだ?私は現実錨の起動をしながら頭を高速回転させる。

…そして、私の頭を最悪の可能性がよぎった。

「まさか…認識災害か?」

起動したときには時すでに遅し。祐太さんを蔦で包んだSCP-████-JPは、彼もろとも収容室から消えていった。


15.薄雪草

僕はいつの間にか████公園にいた。ここは僕と心菜が初めて2人で行った場所だ。ここに初めて来た時はまだ付き合っていなかった。

『懐かしいでしょ』

確かに懐かしい。だが問題はそこじゃない。

「…どうやって財団から出たの?というか……」

『収容違反をしたから重~い罰が待っている、って?』

そうだ。僕は滝本さんと約束したんだ。財団には悪影響を与えない。それなのに……。

『大丈夫だよ。外には出てないから』

「え?どういうこと?」

『実はぁ~…ここは私が作った世界なの!』

「…ん?」

やっぱりよく分からなかった。

「も、もう1回聞いていい?」

『ここは私が作った世界なの!』

「……」

つくならもう少しマシなウソをついてほしい。

「ほら、帰るよ。滝本さん達が心配している」

『だーかーらー!大丈夫だって!というか祐太君は私とまたここに来れて嬉しくないの?』

「そりゃあ嬉しいよ!でも今は状況が違う!早く帰らないと強制的に…」

『大丈夫。ここならミュータント堅実缶もタルト精通機も手を出せないよ』

「ミュー…?タルト…?」

『あれ?違ったっけ…?とにかく!あいつらの発明になんか負けないもんね!』

確かに、僕と心菜は今まで数分間駄弁っていたが、一向に財団が手を出しているような感じはしない。滝本さんもそれなりの対処はしてくるはずだし…。心菜の言っていることは本当なのだろうか?

「………」

頭を回転させながら近くの花壇に目をやると、一面にツユクサが咲いていた。花言葉は「懐かしい関係」。きっと心菜も、ここに初めて来たときのような初々しい関係を懐かしく思っているのだろう。

「…分かった。とりあえずこのありえない状況を飲み込むことにする。だから、さっさと用を済ませて帰ろう」

『!…うん!』

考えても僕1人では何も出来ないし、このような異常な事態はもう散々経験してきた。それに…彼女がデートしたいって言っているんだから、それに応えるっていうのが彼氏の義理ってものだろう。

それからしばらく歩くと1つの花壇に着いた。

「これは…」

それは僕と彼女が最初に一緒に見た花壇だった。小さな花壇だったけど僕達は咲いている花の話で盛り上がった。

『ここで私がお花のこといっぱい話したら、祐太君めっちゃ驚いていたよね』

「そりゃあ、あんな量の知識を見せつけられたらさ…」

彼女の知識量は凄かった。咲いている花の名前や花言葉とかを全て知っていた。僕はすごく感心したのを覚えている。

『じゃあ、次行こっか!』

「え、次?」



僕達はいつの間にか██水族館の中にいた。

『ここ、私のわがままで行ってくれたところだったよね』

ここは心菜が行きたいと言ってきた所だった。その時僕は彼女にしては珍しいチョイスだなと思った。僕は地元の小さい水族館には行った事があったけどここまで大きな水族館に行ったのは初めてだった。

「そういえば心菜は、なんであの時ここに来たいと思ったの?」

『ん~…とある人からおすすめされたから!』

「そうなのか…」

外に出ると、そこに花壇があった。彼女はそこにエゴノキを咲かせた。花言葉は「壮大」。その時の感情を素直に表す心菜を可愛らしいと思った。

『じゃあもう少し見たら、次に行こう!』



次に僕達は██遊園地に行った。ここは確か…。

『浅川先輩や伊吹先輩といった場所だね!』

伊吹先輩の誕生日に急に伊吹先輩が「遊園地に行くぞー!」とか言ったからサークルの皆で行ったのだ。2年生陣のことはあまり覚えてないが…。

「浅川先輩に伊吹先輩…なんだか懐かしいな」

『あの2人、今頃何してるんだろうね』

「さぁ…でもあの時と何も変わってない気がするな」

『あはは、確かに!』

その遊園地は、皆で行った時と違って、特有の喧噪も熱狂も無く、異様なほどに静かだった。やっぱりここは本当に…。

『ねえ、あれ乗らない?』

多分心菜が言っているのは、前に4人で乗って浅川先輩が吐いたジェットコースターのことだろう。僕もあんまり得意では無いが…。

『あ、ごめん!祐太君、絶叫系苦手だったね…』

「いや、大丈夫…だと思う」

あまり彼女に舐められるのは嫌なので、僕は少し意地を張った。

【数分後】

「あ"ー…どっと疲れた…」

『…大丈夫?』

「ちょっと休憩させて…」

僕達は近くのベンチに座った。心菜は近くの花壇に禊萩を咲かせていた。花言葉は「切ないほどの愛」「愛の悲しみ」「慈悲」。いや、慈悲って…。僕は少し呆れ顔をした。

『じゃあ少し休憩したら、次の場所行く?』

「心菜が良ければそれでいいよ」



次に僕達は████の丘に行った。ここは僕が心菜にプロポーズした場所だ。僕にとっても彼女にとっても恐らく人生で一番印象に残っている場所だろう。僕も実はまさかOKを貰うとは思わなかった。僕はこの時が一番幸せだった。この時はまさかあんな悲劇が起こるなんて知る由も無かったから。

『結婚…せっかくしたのにね』

「なぁに、ちゃんとこうして一緒に居るじゃないか」

僕達は確かに結婚を誓ったが、あんな悲劇が起きてしまって、夫婦として一緒にいる時間はとても短かった。

…あれ?そういえば…。

「ここ、夜になってる…」

さっきまでいた遊園地は日差しが熱すぎるくらいの真昼間だった。しかし今回は一転、肌寒い夜になっている。

『うん。出来るだけあの時と同じ状況にしたくてね』

僕は白い息を吐いた。そして辺りを見渡すと、草むらから紫のエゾギクが咲き始めていた。花言葉は「恋の勝利」「私の愛は貴方の愛より深い」。いや、僕の愛の方が深いさ。これは譲れないね。

『…本当に、ごめんね。こんなことになってしまって』

「いや、心菜は悪くないよ。ただ、少し運が悪かっただけだよ」

『本当に…私は2人で普通に過ごせていれば良かったのに…』

なんだか雰囲気が暗くなってしまった。

『……そろそろ次に行こうか!』

「え?あ、うん…」



景色が昼間に変わったと思ったら、僕達は██公園にいた。ここは心菜が僕に自分の夢について相談してくれた場所だ。子供達が遊具で遊んでいるのを見ながら彼女は僕に自分の夢と、それに反対する家族の話をしてくれた。僕はこれを聞いてから彼女の夢を応援しようという想いがより一層強くなった。僕はその時に2人で座っていたベンチに座った。

『ここ、祐太君が私のことを聞いてくれた場所だよね』

「ああ。心菜がちゃんと話してくれて嬉しかった」

『本当はあんな重い話はしたくなかったけど、そのおかげで私達はもっと関係が深くなっていったから、話して良かったなって今でも思うよ!』

心菜は地面にペチュニアを咲かせていた。花言葉は「貴方と一緒なら心が和らぐ」「心の安らぎ」。それは僕も同じだ。僕も心菜と一緒にいると幸せを感じるよ。

「ねえ心菜、次の場所ってここから近い?」

『え?ん~…歩いて30分くらいかなー。どうしたの?』

「久々に歩いて行かない?」

『…いいね!』

「じゃあ案内よろしく」



『着いたよ!』

「!…ここは……」

僕達は████フラワーアミューズメントパークに着いた。ここから僕達は始まった、と言っても過言ではない。

『いや~、懐かしいね!』

僕は心菜が死んだ後も、ここに来たおかげで立ち直れた。僕はそんな日常を思いだし、そっと涙を流した。

『じゃあ、入ろうか!』

僕達は入場ゲートに入った。ここには誰もいないので入場料を求められることもない。

「相変わらず、よく分からないネーミングだな…」

"とてもラナンキュラスなジェットコースター"、"チューベローズを欲する者達に贈るお化け屋敷"…。花の名前を別の意味で使って名付けられたそれらは、花好きの顧客ばかりを求めているようだった。

『あ!見て!あそことか懐かしくない?』

心菜が言った方向を見ると、そこには思い出のレストランがあった。あそこで僕は"ガーベラを試すカレーライス(赤色のアルストロメリア味)"を結局2回も食べた。

「…本当、懐かしいな」

『行ってみない?』

「え、でも料理とか出てこないんじゃ?」

『その理屈だとさっきの遊園地でジェットコースター乗れてないじゃん』

「確かに…」

さっきの遊園地もスタッフは一切いなかったのに僕達が乗ったらゴンドラは勝手に動き出した。もしかするとあのレストランでも勝手に料理が出てくるのだろうか。

「失礼しま~す…」

レストランの中は電気さえ点いていたものの、店員や客は一切いなかった。

僕は記憶を辿って、あの時2人で座った席に向かった。そして僕は心菜を持ったまま席に座った。すると心菜が口を開いた。

『あ!私は向かいの椅子に置いて!』

「え?まあいいけど…」

僕は心菜の言う通りに彼女を椅子に置いた。あの時もたしかこういう構図だった。

すると目の前に料理が突然現れた。

「あ…」

これは覚えている。確か"ちょっと上品なスターチスランチ"だ。あの時心菜に1口あげて…あぁ、そんなこともあったな。そして向かいの席には…。

「"ガーベラを試すカレーライス(赤色のアルストロメリア味)"……」

『そう!正解!』

またまた思い出の料理が出てきた。

『ねえ祐太君、食べさせてよ!』

「え?ど、どうやって…?」

心菜は今、花の姿だ。どこに食べる口があるのかなんて分からない。

『そのカレーを私の下の土に運んで!水をやるのと同じだよ』

「分かった…」

僕はスプーンでカレーを掬い、心菜の下に敷かれている土にかけた。

『ん~!この辛味がちょうどいい!』

な訳ないだろ…と心の中で突っ込んだ。

いや、待てよ?ここが心菜の作った世界なら、もしかすると僕の味覚に合わせてくれているかもしれない。

「じゃあ僕も一口………辛っ!!」

『も~う、学ばないなぁ祐太君は』

全然変わらない味じゃねえか!3回目でも慣れない!

ん…?"変わっていない"?変わっていないっておかしくないか?もし本当に何も変わらない味なら、心菜がまるでこのカレーの味を全部把握してるみたいじゃないか?そりゃあ心菜は頭が良いけど、だからといってここまで完璧な再現ができるものなのか…?

『じゃあ食べ終わったら、最後にあそこ行こうか!』

「あそこ…ああ、分かった」

多分あの場所のことだろうな。

僕は心菜にカレーを食べさせながら自分のランチを平らげた。

『よし、行こうか!』

心菜がそう言うと僕達はイルミネーションのスポットにワープした。景色もいつの間にか夜になっていた。

心菜が辺りにブバルディアを咲かせると、園内のイルミが一斉に光った。

『ここで祐太君が告白してくれたんだよね』

「結局心菜に先に言われちゃったけど…」

『あはは、確かにそうだったね。…それくらい気持ちが溢れていたってことだよ』

「…それなら仕方ないな。ははっ」

ブバルディアの花言葉は「交流」「親交」「情熱」。僕達は大学で"交流"を重ね、ここで"親交"を深め、そして2人の間に愛の"情熱"が生まれた。

『…祐太君は今でもちゃんと、私のこと、好き?』

「勿論だよ」

『でも私、死んだ後まで祐太君に迷惑かけちゃって…』

「むしろ死んだ後もこうやって話せて、僕は嬉しい。だから僕はこの異常な事態に…少しだけ感謝してる」

『…私も、こうやって話せて嬉しいよ。大好き』

「ああ、僕もずっと大好きだよ」

僕は心菜の咲いている植木鉢にそっと口付けをした。



そして僕達は気づいたら心菜の家の玄関にいた。

「あれ…え?」

急な転移に僕が困惑していると、さらに僕を困惑させる事態が起こった。

「あら祐太君。いらっしゃい。心菜は今いないけど、ゆっくりしていってね」

「……え?」

この家には心菜のお母さんがいたのだ。しかも僕が花と化した心菜を持っているこの状況を平然と飲み込んでいる。

「心菜?…これ、どういうこと?」

心菜からの返事は何故か無かった。そして僕の頭に1つの可能性が浮かんだ。

「…"元の世界"に戻った?」

だとしたら僕は今すぐにでも財団に帰らなければならない。でも心菜の声が聞こえない今、どうやって帰ればいいのか分からない。

「とにかく…外に出よう」

もしかすると今までのことは全部夢で、本当はSCP財団なんて存在しなくて、いつも通り2人の家に帰ったら心菜がいて…。僕がそんなことを考えていると、家の前の花壇が目に入った。

「確かここは…」

心菜が実家暮らしの時に整備していた花壇だ。彼女の好きだったブーゲンビリアも、手に入れるのが難しかったらしいトケイソウも、僕に見せてくれたポピーも、あの時のまま残っていた。

『見て!このポピー綺麗でしょ!』

心菜の声がフラッシュバックする。

「あ…そうだ」

僕は持っていた心菜を植木鉢から出して、その花壇に植えた。

「…心菜。帰ってきたよ」

返事はない。でもその赤いポピーは、まるで喜んでいるみたいに風に揺られていた。


「…え?」

彼女の花壇の前に立っていたはずの僕はいつの間にか葬儀場にいた。椅子には誰も座っていなかった。ただでさえ閑静な場所なのに、この場所はほとんど無音の状態だった。

「…あ!心菜は!?どこに行った!?」

僕は慌てて周りを探したがどこにも見当たらなかった。まあ心菜を家の花壇に置いてきたのだから、当たり前と言われれば当たり前だが。

「はぁ……ん?」

どうしようかと思っていると、大きな棺桶が僕の目に入った。

「あれは…?」

棺桶の上には様々な種類の花が置かれていた。

「ハナニラ、イカリソウ、アツモリソウ、ネリネ……"悲しい別れ"、"旅立ち"、"君を忘れない"、"また会う日を楽しみに"……」

…この棺桶って、開けてもいいのかな…?

僕の中で"開けたい"感情と"開けたくない"感情が対立する。

「…よし」

僕はゆっくり棺桶に近づいた。そして僕は棺桶の蓋をそっと開けた。そこには…。

「……っ!」

激しい頭痛が走る。そして僕はそのまま倒れこみ、意識を失った。



「……あれ?」

次に目が覚めたときには、僕は2人で住んでいた家にいた。電気は点いていなく、窓からは夕日が差していた。

「確か僕は…」

僕はあの葬儀場で棺桶を開けた。そして中を見たら急に意識を失って、ここに来ていた。中に何があったのかは覚えていない。ただ、意識を失うほどにショッキングなものだったのだろう。でも今更あの棺桶の中身なんてどうでもいい。

僕の目の前にはテーブルがあり、その上には心菜の写真と花瓶に入った桃色のカーネーション、そして彩羽ちゃんがくれた生け花があった。僕が書いた"前を向いて生きる!"の文字もそのまま残っていた。

「そうか…戻ってきたのか……」

僕は笑みを浮かべた。そして、昔はいつものようにやっていたことをした。

「……ただいま、心菜」

返事は無い。

…そう思っていた。

「おかえり」

僕は慌てて振り向いた。するとそこには…。

「……ここ、な?」

ここにいるはずの無い、心菜の姿があった。花の姿じゃない、生きていた頃の心菜の姿が、そこにあった。

「うん。私はちゃんと、ここにいるよ」

今までみたいな"脳で聞いた声"とは違う、心菜の声をきちんと"耳を通して"聞くのは久々のことだった。その声はあまりにも鮮明で、綺麗だった。

「こ………心菜ぁっっっっっっ!!!」

僕は泣きながら心菜の元に走りだし、そして思いっきりハグをした。

「…ごめんね、先に死んじゃって。祐太君に寂しい思いをさせちゃって」

「うっ……心菜…会いたかった……」

「相変わらず、私のことが好きみたいで安心した」

心菜は僕を抱いたまま床に座ると、僕の頭をそっと撫でた。

「…あのね祐太君。ちょっと、話してもいい?」

「……うん」

「私は、お花屋さんになる夢を叶えられずに死んでしまった。…だから、応援してくれた祐太君に申し訳ないなぁって思ったの」

僕は返事をせずに心菜を抱きしめている。

「それでね、私思ったの。色んな人にお花を届けることは出来なくなっても、祐太君にだけは私の夢が叶ったところを見てほしい…つまり、"祐太君だけのお花屋さん"になりたいなって。だから私は自分の姿をお花に変えて、そして色んなお花を周りに咲かせたの。そしたら財団に捕まって、祐太君にとんだ迷惑をかけることになってしまって…本当にごめんね」

「……そう、だったんだ………ありがとう…」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。……ねえ祐太君、私の最後のお願いを聞いてほしいの」

「最後の…お願い…?」

「うん。…私を、忘れてほしい」

「!!…そんな!せっかく思い出したのに!こうしてまた出会えたのに!」

「私がこの姿でいられるのも、この世界を維持できるのも、永遠じゃないの」

「そんな………やだよ……」

僕は泣きながら弱弱しい声を漏らす。

「だからその別れの悲しみを、祐太君から取り除きたいの。もうこれ以上、私のせいで祐太君が悲しむのを見たくない」

「僕には……心菜しかいないんだ……」

僕は心菜を抱く力を強めた。

「…嬉しいよ、すごく。私も、祐太君のことが何よりも大切だよ」

心菜も僕のことを抱きしめた。こんな時間が永遠に続けばいいのに…。

「…ねえ祐太君」

僕は泣き顔を上げて、心菜と目を合わせた。

「私、ちゃんとお花屋さんになれたかな?」

「……ああ、心菜は立派なお花屋さんだよ。僕は君に、救われたんだ」

「…それなら、良かった。ありがとう。ずっと大好きだよ」

そう言うと心菜は消えた。まるで最初からいなかったかのように。

「え………」

僕の腕には心菜の暖かい感触が残っていた。心菜がいた場所には、さっきまで持っていた赤いポピーが一輪、置かれていた。

「こ…こな……」

僕は植木鉢に手を添えた。

「心菜…おい…どこに行ったんだよ……心菜………心菜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

僕は赤いポピーの真上でひたすら泣きながら叫んだ。返事は無い。もう心菜はどこにもいない。僕はその事実を噛みしめながら、ひたすら泣いた。

意識が薄れていく。…ああ、この世界ももう終わるんだ。心菜が作った世界が崩れていく。

「………心菜…………さよなら」

意識が途切れる直前、僕は最後にその赤いポピーに向けて微笑んだ。























さよなら
ありがとう


終章:勿忘草

意識が戻った時、僕は無機質な部屋の中にいた。何故か白衣の男性と重装備の人達に囲まれている。

「祐太さん、大丈夫ですか?」

ある男性がそう話しかけてきた。

「……あなたは、誰ですか?」

「え…祐太さん、滝本ですよ。ほら、いつもインタビューをしていた…」

滝本?そんな苗字の知り合いはいない。

「あなたはほんの十数秒の間ここから消えていたんですよ。ほら、その手に持っているものと一緒に」

「あ…」

僕は手に赤いポピーの植わった植木鉢を持っていた。…でも、これが何かは分からない。

「…祐太さん、先程まで自分の身に起きたことを教えてくれませんか?」

「それが…よく覚えていないんです。ここがどこか、何故自分がこんな場所にいるのか…」

「では、心菜さんのことも?」

「心菜……って誰ですか?」

「……」

白衣の男性…滝本さんは頭を抱えた。

「祐太さん、まずはその花を回収させてください。そして私についてきてください。そうすればあなたを解放できるかもしれません」

「よく分からないですが、そうすれば帰るのですね?分かりました」

僕は持っていた花を滝本さんに渡し、言われるがままについていった。

歩いて行った先で僕は様々な検査(?)を受けた。

「…記憶処理の効果が効いている!?」

「ええ。検査の結果、彼からY-909が検出されました」

検査の途中、そんな会話をしていた。

「…祐太さん、快適な衣食住は保障しますので、もう数日だけここに軟禁してもよろしいでしょうか?」

「え、はい…大丈夫です」

あと数日したら家に帰れるらしい。ここに来た目的すら忘れた僕にとって、帰れるならどうでもいい。

【数日後】

「祐太さん、今までのご協力ありがとうございました」

「いえ…僕自身あなた達に何をしたのか覚えていませんし…」

「それと、この花は本当にもういいのですか?検証の結果、異常性は消えたようですよ」

「はい…僕にはそれが何かは分かりませんし、僕がここに来た記念にでもとっておいてください。ただ…」

「ただ?」

「……綺麗ですね、そのポピー」

「…はい。私もそう思います」

風に揺られるポピーを見ながら、そんな会話を交わした。なんだか外に出るのが、すごく久しぶりな感覚があった。

「ではこちらです」

滝本さんが指さした先には、僕の車があった。

「祐太さんが分かる場所まで財団職員が運転します。それから記憶処理剤を打って、解放といたします」

「分かりました」

ガチャ

「どうぞ」

職員らしき人が僕の車の後部座席のドアを開けてくれた

「ありがとうございます」

「では、祐太さん。…お元気で」

「ええ。そちらこそ」

僕は扉を閉めて、この場所に別れを告げた。






【数年後】

「…よし」

バチバチにキマっている。僕は鏡の前で、自信満々にネクタイを締めた。

「祐太~、そろそろ時間よ…って、わぁ…」

母さんも驚いている。

「我が息子ながらかっこいいわ~」

「ありがとう母さん。今まで育ててくれた分も含めて」

「…本当に、結婚するのね」

「うん。母さんも僕が一生独身のままなんて嫌でしょ?」

「そうね。祐太に合う人が見つかって、本当に良かったわ」

「新郎様、新婦様の準備が出来たようです」

「じゃあ行ってくるよ、母さん」

「ええ。いってらっしゃい」

僕は更衣室を出て、"彼女"に会いに行く。

「まずは、新郎・芹澤祐太様の入場です」

僕は赤いカーペットの上を歩く。周りにはたくさんの人が、僕を祝福してくれている。

「祐ちゃーーーん!かっこいいぞーーーー!」

「こら伊吹。うるさいぞ。目立ちすぎだ。…にしても、本当に立派になったもんだ」

相変わらずなあの2人の薬指にも、同じ指輪がはめられている。

「ふぅ…」

緊張が高まる。

「では続いて、新婦・石川彩羽様の入場です」

「あ…」

お義父さんに連れてこられた彩羽ちゃんは、純白のドレスを身に纏って、銀のティアラを頭につけていた。その姿はまるで、現代に現れた欧米の女王のようだった。いつものイメージとあまりに真逆だったので、僕は言葉を失ってしまった。

「…さ、行きましょ。先輩」

「あ、ああ…っていうかもう"先輩"はやめろよな」

「そうでしたね。じゃあ改めて、あなた」

「…ああ」

これから新しい生活が始まる。不安な事も多いけど、僕は彩羽ちゃんと一緒に、どんな困難でも乗り越えていくつもりだ。僕は心の中でそう誓った。





撫子

あれから数十年も経った。私と婆さんは息子と娘をつくり、そして孫の顔を見た。夫婦の仲も崩れることなく、幸せな家庭を築いた。

そして私は今、病床にいる。辛うじて生きている状態で。

「爺さん…柚子羽ゆずは陽太ようたが来ましたよ」

婆さん…すまない。声が出せそうにないんだ。

余命3ヶ月と医者から宣告されてから、体調はみるみる間に悪化していき、今はこの様だ。

「お父さん…」

息子と娘も私のことを看取ってくれるようだった。

「こら陽太。こっち来て」

「……っ」

息子の陽太は勢いよくドアを開けて病室を出て行った。

「はぁ…ごめんね、あいつあんなんで…」

娘の柚子羽が謝った。最後に陽太の顔が見れなかったのは残念だが、仕方ない。

「ほら一羽かずはも。おじいちゃんとお別れしましょう」

「おじいちゃん…」

孫の一羽ももう高校3年生だ。…大きくなったもんだ。

「うっ…」

「お父さん!!」
「爺さん…」
「おじいちゃん!」

もう時間のようだ。僕は婆さんの手を握る。

「……あ」

「あ…"ありがとう"って言いたいの?」

僕は優しく頷き、そしてそっと涙を流した。

「お父さん……っ」

ありがとう。僕の人生を、こんなに幸あるものにしてくれて。彩羽、柚子羽、陽太、そして一羽。

皆、愛してる__











「……」

私、芹澤祐太は死んだ。享年76。でも今、得体の知れない場所に立っている。辺りは白く光っていて、何も見えない。

「………」

私は歩みを進めていく。

「…………」

果ての無い場所を、ただひたすらに進んでいく。

「…!」

しばらく歩くと、花の咲いた野原に到着した。そこには、1人の人影があった。

「……」

私はその人影に近づく。その人影は私に気づいたのか、こちらを振り向いた。

「…やっと会えたね。祐太君」

はその人影に、そっと笑いかけながら言った。

「…ああ。久しぶり__心菜」



Fin.


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最終更新: 23 Nov 2023 05:06
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  1. portal:6020557 (20 Jan 2020 05:31)
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