地下東京 下書き
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『まもなく 2番線に 当駅始発 快速 逗子行きが参ります__』

あの日、どうして東京に行こうなんて考えたんだろう。バイトがあったわけでもないのに。

家で大人しくしていれば、楽に死ねたかもしれないのに。


少女は知る由もない。自宅のある津田沼を離れなければ、そもそも死ぬような事態に巻き込まれることすら無かったということを。


『次は 馬喰町 馬喰町 お出口は 右側です__』

あの時車窓から都心の方に見えた、あの変な季節外れの陽炎……みたいなものに嫌な胸騒ぎがして。

それが、私が見た最後の地上の景色だった。

「……お集まりいただきありがとうございます。我々は財団の者です」

東京駅に着いて電車を降りたら、物々しい雰囲気が場を支配していた。逗子まで行くはずの乗ってきた電車は、どうやらここで運転を中止するそうで、多くの乗客が他の路線に乗り換えようと降車していた。そんな中、それを制止して人々を集めたのが、財団の職員を名乗る男たちだった。

財団。世界最大の超常機関。私が生まれる少し前まで、正常性維持機関として"ヴェール"を守っていた組織。……という、中学校の社会科で習うことくらいは知っている。

その彼らが言い放った言葉は、私達を困惑させ__じわじわと不安の底へ追い込むには、充分だった。

「残念ですが、皆さんはこのトンネルに閉じ込められてしまっています」

ざわめきが落ち着くと、職員たちの代表らしき男は続けた。

「地上は今、何らかの超常現象によって極めて混乱した状態に陥っているようです。我々が事態終息に向けて全力を尽くしていますので、皆さんはどうか地上へ近付かないようにお願いしたい。具体的には、この総武地下ホームと、一つ上の階のコンコースより上には行かないでいただきたいのです。その上の階の地下改札付近は、地上の超常現象の影響を受けているかもしれませんので」

その話が終わってすぐに、コンコースから地下改札への道は全て封鎖されたと聞いた。それより前に上の階へ行った人たちは、結局ほとんど戻らなかったそうだ。

そうして、ホームとコンコースの不気味な静寂の中に留まらざるを得なくなった私たちだったが、その危うい平穏はあっけなく崩れ去った。

駅に抑留されてまもなく、私が来た方とは逆のトンネルの方から、何かが近付いてくる音がした。多くの避難民は_私を含め_色めき立った。助けが来たのだ、と思って。

財団職員は何が来るかわからないから不用意に線路に寄るなと警告していたけど、それを聞いていた人はほとんどいなかっただろう。

だが。

線路に現れたのは、とても救援とは思えない、電車と肉塊が混ざりあったような化け物。そいつは、細長く伸びるワイヤー_後になってそれが"触手"のようなものだとわかった_でホームの端にいた人々を攫い、悍ましい音を立てて咀嚼しながら、轟音とともに駅を去った。

あまりにも惨たらしい出来事に、ホーム上にいた生存者はパニックになって。

恐慌状態に陥った人々がホームからコンコースへ逃げ込み、一部は財団職員の制止を振り切って


tale jp 1998 地下東京奇譚



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執筆者: Shishiza man
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最終更新: 28 Jun 2023 07:41
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