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「雨霧拷問官、対象は生きていますでしょうか?」
長身、黒髪の女性が捕虜への"尋問"を終えた雨霧霧香に声を掛ける。
「報告書を確認してください」
それに対し、雨霧は鬱陶しいとでも言いたげに書き終えた報告書を女性職員の目の前に置く。
「ありがとうございます。対象は死亡、了解しました。それでは、死体を頂いてもよろしいですね?申請、許可共に事前に済んでいますので」
雨霧はそれを聞くと目を細め女性職員を睨みつけ、一言だけ告げた。
「……どうぞ」
女性職員は返事を聞くと満足そうに顔を緩めた。
「ありがとうございます」
女性職員がストレッチャーに載せた拷問対象の死体──運搬中の蘇生術発動に備え、幾重にも拘束が施され、金属製のカバーで覆われている──を運んでいくのを雨霧はジッと見ていた。そして通路の角を曲がり、姿が見えなくなったところで息を吐く。これからあの死体がどこに運ばれ、どうなるのかを想像しただけで気分が悪くなった彼女は、気分直しに何か食べに行こうと考えた。
冠城先軌は異常性保持者の死体運搬用ストレッチャーを押している女性職員を見つけ、どこへ行かれるのですか。と声を掛けた。
「私は聖人ではございませんよ。と、冗談はさておき、こちら、雨霧拷問官の所から栗花落医師の元へ運搬中です。事前にサイト管理官への申請を行い、許可は下りています」
冠城は、どうして自分の所で検死しないのかと、少し気になりはしたものの、サイト管理官から許可が下りているのであれば自分の関わる範疇ではないと考え、女性職員に別れを告げ見送った。その数秒後、女性職員の言っていた死体の運搬先を思い出し気分が沈んだ。思わず傍にいる八岩に声を掛けた。
「なあ、近頃はマスコミも五月蠅いのに、どうして財団はあの人達を野放しにしているんだ?俺は人がどんな趣味を持っていても構わないが、嫌悪感を示す連中は少なくないはずだ。それに、尋問対象があんなことになったって知れたら、雨霧さんにもバッシングが……」
「最近捉えられた捕虜で尋問が行われる予定だったのは"カオスゲリラ"の連中だ。あんなことがあったんだ。今回は特別だろうな。それに、財団だってあの人達を放置しているわけじゃない。あそこに送られる検体はよっぽどのことをやらかしてから死んだ奴だ」
冠城は栗花落医師による解剖が認められた理由に察しがついた。
「天宮博士、栗花落医師、ご注文の物をお届けに参りました」
サイト-81██の医務室へと死体を運び終えた女性職員は、ある人物の次の指示を聞こうとその場で待機を始めた。
「51、ご苦労様でした。後はこちらに任せ、32と共に休憩に入ってください」
天宮は濃紺の手術衣を身に着けながら女性職員に指示した。
「了解しました。雨霧拷問官からの報告書には目を通されましたか?先ほどコピーをお渡ししましたが」
「ええ、もちろんです。海祢さんと一緒にしっかり確認しました。阻害困難な蘇生術が施されているようなので、対象には脱出不可能な拘束を施してあります。もちろん肉体改造による身体能力の向上も加味した厳重な拘束です。肉体変化に関しては阻害可能なようなので、それらに対応した拘束具を使用します」
「そうですか、それではまた後で」
「また後で」
天宮は栗花落と、運び込まれた死体が待つ解剖室へと入っていった。
51と呼ばれた女性職員は、蘇生術が施されているのを可哀そうに思った。生きたまま体を弄繰り回されるというのは、どんな感覚なのだろうか。
解剖を終えた栗花落海祢は使用した機器を洗浄機に収めると、手術衣をゴミ箱に脱ぎ捨て、手を念入りに洗ってから医務室に戻り検死報告書を書き始めた。一足先に医務室に戻っていた天宮麗花はそれを何を言うともなく見つめている。暫くして報告書を書き上げた栗花落は顔を上げて天宮に話しかけた。
「……さて、今日の剖検はこれだけですね。麗花さんは何かご予定はありますか?」
それを聞いた天宮は白衣の内ポケットから端末を取り出すと何かを確認し始めた。
「えーっと……私も今日は暇です。何をしましょうか?」
栗花落は報告書を抱えて椅子から立ち上がった。それを見た天宮は栗花落より先に扉を開けて医務室から出ていく、その後に続いて栗花落が医務室から退出し、鍵を閉める。そして端末を取り出すと、何処かに連絡を入れた。連絡を終えると端末をしまい、天宮にあることを提案する。
「それでは、私のコレクションを見ませんか?」
栗花落の提案に天宮は首を縦に振った。
「了解しました。そういえば、さっきバラしたのはコレクションには加えないんですか?」
「あのタイプのは既に何度もバラしたことがあるんですよ。それに、CIの構成員は体に奇跡論を利用した爆弾やら反ミーム性で感知されない発信機やらが仕掛けてあることもあるので、原則廃棄処分します」
「そうなんですか……厄介ですね」
「そうなんですよ。さて、後は専門家に任せて私たちは行きましょうか」
「はい」
解剖室に置かれた男の──正確には、首が胴体から分離した男の──肉体に近づく者たちがいた。彼らは全員黒い着衣に身を包み、同じような黒いフルフェイスマスクをつけていた。そして、バイオハザードマークの付いた箱と真っ黒なトランクケースを携えていた。分離された首から伸びた管が機械に繋がれている男が喋り始めた。
「なあ、お前らは何なんだ。俺をどうしようっていうんだ?」
黒づくめの者達は台から肉体を乱暴に引きちぎっては、バイオハザードマークの付いた箱に放り込む。
「おい、何するんだ。どういうことだよおい!」
彼らは首に繋がれている管を解剖室に置いてある機械から外し、トランクケースのような物に繋ぎ、乱暴に引っ張る。
「グッ、説明もなしかよ。なあお前ら、余裕ぶってていいのか?後数秒でお前らは消し炭になるんだぜ。この建物ごとな」
そこで初めて彼らのうちの一人が口を開いた。
「確かに吹き飛ぶが、それはお前だけだ」
男は気が付いてから直ぐに起動し、今まさに起爆時間に至る奇跡論的パルスを利用した爆縮が起きるのを待ったが、何時まで待ってもそれは発生しない。
「どうなってるんだ?これは……」
「俺たちが説明する義務は無い」
それだけ言うと、無造作に一人が首を持ち上げ、先ほど体を引きちぎって入れた箱と共に運んでいく。
男は自分がどこに連れていかれるのか気になったが、彼に許された最後の感覚は強烈な衝撃と激痛だけだった。
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任意A任意B任意C- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
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