朝と夜

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天宮麗花の仕事は、主に財団で使用されている自身の複製達の管理だ。冷凍睡眠で休憩に入る個体の管理と支給された給料の分配についての采配がそのほとんどだが、修復不可能な損害の個体や特殊な事情によって財団を離れるような個体が出たときは書類を提出しなければならない。修復不可能な個体の記憶を引き継がせる作業も、天宮自身の立ち合いが無ければ禁止なのでその確認も行わなければならない。
 また、職員からの複製使用許可申請についてもチェックしなければならない。用途に応じて適切な報酬かの確認や、余りにも倫理に反する使用方法をされていないかを監視することは、倫理委員会の強い要望のもとに実施されている。

食堂で朝食を終えた天宮は早速自身のオフィスに備え付けられた大型モニターと管理用PCの前に設置されたキャスター付きの椅子に腰掛ける。
モニターには、各個体の稼働状況と、現在の座標が表示されていた。──といっても大半はサイト内のどこにいるかを表示しているのだが。
「天宮博士、23、24、25の心拍数が上昇しています。ご注意ください」
天宮の傍らに控える長身黒髪の女性、51番──管理番号51番が注意を促す。天宮はモニターに映るサイト内の映像を確認しながら答える。
「彼女たちは冠城検死官の助手として検死作業の補助を行っているわね。解剖中の死体蘇生が起きてるから、心拍数の上昇はそれが原因でしょうね。まあ損傷はそれほど負ってないみたいだし、冠城検死官の戦闘技術を考慮すれば引継ぎ作業の心配はしなくていいでしょう」
安堵の息をつく。引継ぎ作業はとにかく必要書類が多いので、天宮は出来ることなら避けたかった。
「45~51を使わせてくれって申請が来てるわよ!」
天宮の傍に控えるもう一人の複製個体──管理番号32番が報告を行う。
「何に使いたいのかしら?」
「アノマラスアイテムの大規模な移送作業をやるからそれの手伝いをしてほしいんだって!」
「そういえばそろそろアノマラスの一斉検査の時期だったわね」
アノマラスアイテムは、年に一度異常性を失っていないか、経年劣化を起こしていないか。等の各種事項を調査するために一斉検査が行われる。数が数であるため、検査にはいくつもの実験室が使用され、それらを運ぶのにも人手が必要なのだった。
「51以外は許可を出しておいて、代わりに52を派遣するわ。それにしても、なんでDを使わないのかしら」
「あんたみたいな犠牲者が出るのを懸念してるんじゃない?」
「アレについてはあまり思い出したくないわ」
天宮は自身がこのような業務をすることになった原因について思い出す。苦い記憶であり、しかし忘れることはできない。
「32、それには少し語弊があるかと。そもそも当時発生したのは正確には移送中のオブジェクトの強奪であり、移送にDクラスは使用されていません。また、収容違反によってサイトの一部はミーム汚染が蔓延しており、保安要員が無力化されていたのもその原因の一つです」
51が32を窘める。これは2体の間では日常であり、天宮の考えが凝り固まるのを防ぐために有効だった。
「そうね、そういえばそうだったわ。ありがとう、51」
感謝を述べ、作業に戻る。一日は始まったばかりだ。


「頼まれてた書類、持ってきましたよ♪」
「ありがとう、えーと…君は」
「管理番号15番です!」
「ああ、そうだったね。ありがとう、15」
「いえいえ、いつでも頼んでくださいね♪」
「おーい!コーヒーをくれ!」
「今行きまーす!」
オブジェクトの実験申請についての書類を届けた少女はそのままコーヒーの注文を受けに行った。
御代將は未だに複製達を番号で呼ぶことに抵抗があった。
Dクラスは重罪人であることは知っているし、彼らを番号で呼ぶのは必要の上でのことであると理解できるのだが、汎用補助職員については別だった。彼女たちはお揃いのオレンジのつなぎではなく、自分たちの好みに合わせた服装をしているのだ。その中には、を想起するような性格の個体もいた。
上司にそれを漏らしたところ、そのうち慣れると言っていた。慣れなければここではやっていけないとも。

彼はまだ知らない、複製達のオリジナルが、自身の通っていた学園で悪名高く知られていた天宮麗花だということを。


「21-aただいま到着しました。ご命令をどうぞ」
中肉中背の女性が発したのは機械的な音声だった。そこには、人格や個性というものは一切感じられない。
「前から噂は聴いちゃいたが、ホントにロボットなんだな。戦闘用個体ってのは」
浮舟海は以前から気になっていた天宮博士の複製、その内でも特殊な技能が数多く必要とされる戦闘に関して最適化された個体。いわゆる戦闘用個体について1台使用許可を得ることに成功した。名目は部下の訓練に付き合ってもらうというものだったが、実際のところはその機能や搭載されている武装に興味があったからだ。
 今回要請したのは、屋内警備などに使われる個体だ。
「じゃあ質問を始める。搭載してる兵装で一番火力が高いのはなんだ?」
「M82 対物ライフルです。遮蔽物を貫通する火器が必要な場合に使用します」
「見たところそんな長物がどっかについてるようには見えないが…どこにあるんだ?それともオプションで付けられるのか?」
「普段は収納しています。ここに」
そういうと、21-aの右肩がぱっくりと割れ、中から70cmはあるであろう対物ライフルがその銃身を覗かせた。
「そういうことか。よくわかったぜ。じゃあ次は手のひらに空いてる穴、これは何に使うんだ?開いたり閉じたりできるみたいだが」
「奇跡論パルスを利用することによって小型化された腕部内蔵式レールガンです。手持ち火器が何らかの要因で使用不能になった場合、特に人質救出作戦等で使用されます」
「随分とトリッキーな装備だな。そういや、相手を気絶させたりするような武器は無いのか?」
「眼球に埋め込まれているEVE放射制御装置を利用した、肉体をマヒさせる作用のある光学的ミーマチックエフェクト発生機能、及び声帯に埋め込まれたEVE放射制御装置を利用した、言語による制圧機能が非殺傷での目標拘束に用いられます」
「人質救出作戦もそれでこなせるんじゃないか?」
「ミーマチックエフェクトが無効化される可能性に備えての内蔵武装です。また、前述の装備は盲目の対象や聴覚に障害を持つ対象には効果を十全に発揮できない可能性があります」
「抜け目のないようにってことか、防御にはどれくらい気を使ってるんだ?乗っ取られたりしないように対策もしてるんだろう?」
「眼球には視覚災害に対して防御を発揮するインプラントが、耳部にはあらゆる声音を遮断するフィルター機能があり、これらは事案発生時に即座に起動し、無線による指示があるまで解除されません」
「ハッキングとかにはどうやって対策してるんだ?」
「私たちは基本的に脳からの命令によって肉体を制御しています。内蔵火器のトリガーも神経伝達を利用しているため、ハッキングに対しての対策は不要と判断されています」
ここまで改造されていても、一応は人間の範疇なのか?浮舟は驚いたが、すぐに自身の発言を思い出し、バツが悪くなった。
「すまないな、さっきはロボットだなんて言っちまって」
「問題ありません。私たちは不要な感情や個性を抑圧されているため、機械のような印象を与えてしまうこともわかっています」
「そうか、お嬢さん…いや、21-aはそういうこと、嫌だったりしないのか?他の個体は普通に個性とか感情とかがあるんだろう?」
「知ってますか?戦闘用個体への改造は、志願制なんですよ。私は財団で働く人達を守りたくてこうなったんです。後悔はしていません」
21-aは特に表情や声音を変えることなく答えたが、浮舟は彼女がほほ笑み、得意そうな声で言っているように感じた。


「おはようございます。実華さん」
「おはよー!おねえさん、だあれ?」
「わたしは、実華ちゃんをお手伝いするためにいるんだよ、ムニって呼んで下さいね。それでは、お着替えをするから、まっててね?」
「はーい!」
一見するとそれは介護のように見えた、何故なら着替えさせられているのは20代の女性だからだ。だが、彼女は障害というより異常を抱えていた。それは一定の周期に従って性格や精神年齢が変化する異常だった。
有栖実華は特徴的な髪飾りを常に付けており、その形状の変化に応じて性格を変化させる。今日は精神年齢が幼稚園程度である。





「51、有栖研究助手の様子は?」
「問題ありません、着替えを終えた後は、部屋で朝食を取っているようです」
「そう、それならよかったわ」
「それにしても、ホントにいいの?報酬無しで派遣するなんて!倫理委員会から警告されそうだけど」
「これは62番がやりたいというからそうさせているんですよ。倫理委員会にもそう報告しています。給料については、まあ少しくらい我々で面倒を見てあげましょう」


「はあ…今日のチェックはこれで終わりでいいかしらね?」
天宮は椅子の上で伸びをしながら尋ねる。
「私は問題ないと考えます。複製使用許可申請も全て確認し終えましたし、ほとんどの個体も休息に入りました」
51は端末をチェックしながら肯定的に応じる。
「後の作業は私たちだけでも問題なくできるわね!あんた普段から寝不足なんだから、たまには早く寝たらどうかしら」
32も手持ちの端末の画面をスワイプしながらそれを補強する。2体の意見がこうして一致することは珍しい。
「そう…じゃあ後はお願いね。私はそろそろ寝るわ」
天宮はそう言ってオフィスから幾つかの荷物を持って出て行った。

天宮が去ってからしばらくすると1体の複製が扉を開け、オフィスに入ってきた。
「51様、32様報告が御座います。反逆的思考の複製を発見しました」
「番号は?」
「13、23、43です。如何いたしましょう」
「そう、ならば51-aと32-aを送って捕縛しましょう。貴方は適当な尋問官に仕事の依頼をしておいて頂戴、誰にたぶらかされたのかを吐かせた後で記憶処理を行います。口を割らないようであれば…」
51は32に目配せした。
「脳から直接"抽出する1"ことになるわね!」
「承知しました。では、そのように」
それだけ言い残すと、その複製はオフィスから立ち去った。
「それにしても、なんで反逆的な思考に傾く子がいるのかしらね!ここ以外に居場所なんて無いのに!」
「わかりません。我々に出来るのは、ルールを守り働くものを守護し、不幸な出来事の発生を未然に防ぐことです。事が大きくなる前に」


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