完全なる忘却

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「とうとう、とうとうたどり着いたぞ!」
とある年老いた男が1人、寂れたデパートの放送室の扉の前に立っていた。
彼は新しい器を買う金も、まやかしの死を買う金もなかった。だからといって、終わらぬ苦痛を受け入れることなど到底出来なかった。だから彼は必死で調べ上げて1つの希望を見つけた。それは忘れ去られたものが行き着く場所、終わることの無い宴が続く1種の天国とも言える場所だった。そこにたどり着く方法を彼は調べ上げ、わかったのは「世界の誰もが自分の存在を忘れること」ということだった。

彼は絶望した。果たしてそんなことが出来るのだろうか。この世界には記憶を自由に操作することのできる薬があるという噂も囁かれていたが、それを使ったとしても無理なように思われた。

そんなある日、彼に転機が訪れた。唯一の救いが絶たれたと思い込んだ彼は自棄を起こして犯罪を繰り返し、刑務所に入れられることとなったのだが、そこに奇妙な団体が交渉を持ちかけてきた。
彼ら曰く、1ヵ月ある施設で働けば刑期満了扱いで釈放してやるとのことだった。もはや何もかもどうでもよくなっていた彼はその誘いに乗り、気が付けば見知らぬ部屋で目を覚ました。

ある日、彼はあるオブジェクトの探査に参加することになった。どうやらそのオブジェクトの内部にいると思われるDクラス(彼自身もここではそう呼ばれていた)の様子を調べてこいというものだった。
何故いるのかどうかハッキリしないのか少し気になったが、そのオブジェクトの中に長くいると、誰もがその人のことを忘れてしまうらしい。
それを聞いた彼はこれを千載一遇のチャンスと捉え、内心の興奮を悟られぬよう冷静に振る舞い、探査が始まる日を待った。望み通り、デパートの中を進む度に皆が彼のことを忘れたようだった。そして、彼は博士達から渡された装備を脱ぎ捨てた。博士達は探査に送り出したDクラスのことを忘れない為に、装備に何やら仕掛けを施してあるというのを探査の開始前に話していた。そんなものは彼にとって邪魔でしか無かった。
脱ぎ捨てた装備に付いているマイクから向こう側が慌てているのが伝わって来たが、その喧騒もすぐにやんだ。とうとう博士達も彼を忘れた。

そして、彼はとうとう異常現象の根源だと目されている放送室にたどり着いたのだ。あとはここに入れば誰からも忘れられ、酩酊の街へとたどり着ける!歓喜に包まれながら扉を開けた彼の目に、気に入らないものが映った。1人の男だった。その男は彼に語りかけてきた。
「おい、あんた、どうしたんだ?何だってこんなところに来ちまったんだよ」
彼は答えることができずに暫く考えていた。そんな間にも男は話を続けた。
「あれか?博士達が俺がどうなってるか見に寄越したのか?だけど、何にも対策をしなきゃ、俺みたいに忘れちまうってのに、博士達も案外抜けてるところがあるんだな」
男は背中を向けたまま喋り続けている、どうにかしてこいつから俺の記憶を消せないだろうか、彼はそう思った。そして、ふと地面に鉄パイプが転がっているのを見つけた。彼は躊躇わなかった。後ろからその邪魔な男を思いきり殴り付けた。そして、部屋の外に放り出し、鍵を掛けた。
「お知らせです。██ ██さん、██ ██さんがお待ちでした」

そのアナウンスは先程部屋の外に放り出した男が彼を忘れたことを意味していた。
「やった!とうとうやったぞ!俺は行けるんだ。この呪われた肉の牢獄から抜け出し、安寧と停滞の街へ!」
気がつくと彼の周りにあった壁や天井は消え、周囲は霧に包まれていた。そしてある方向から何やら楽しそうな音や酒の匂いが漂ってくる。そこに向かって彼は歩き出した。









おかしい、何時までたってもどれだけ歩いてもたどり着けない。祭り囃子と酒の匂いが、もうすぐそこにあるというのに、一向に距離が縮まらない。
「どういうことだ?何がどうなってるんだ?俺は、誰からも忘れ去られたんだ!酩酊の街へ行かせろ!」
そこに冷たく、嘲笑うかのような、とても愉しそうな声が響いた。
「お知らせです。██ ██さん、酩酊街の皆さんがお待ちでした」
その声は人間に似せてはいたが、どうしようもない不気味さを孕んでいた。
次の瞬間、楽しそうな人の声も酒の匂いも消え失せ、深い霧が彼を包み込んだ。


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  1. portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
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