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コンセプト: 彼岸評価員+ハロウィン+死神
形式: Tale
ストーリー: ハロウィンパーティに出かけた彼岸はその途中で無限とも思える長さの通路に閉じ込められてしまう。そんな彼女に死神を名乗る少年が声をかけてきた。なんと彼は彼岸を地獄へ連れて行くと言う。人外たちに目を付けられてしまった彼女は、果たして無事にパーティ会場へ辿り着けるのか。
クッキー、チョコレート、アイスクリーム、グミ、饅頭、コーラ、サイダー、菓子パン、パイ、ラムネ……部屋はむせかえるような甘い香りに満ちていた。多種多様な菓子類が棚や冷蔵庫、テーブルの上に置かれた編み細工の小さな籠を彩り、自分たちの主人がどんな物を好むのか分かりやすく主張している。
明るい色のパーティドレスに身を包んだ女が棚上の写真立てをじっと見つめている。彼女は姓を彼岸ひがん、名を蓮華れんげと言い、財団職員である。彼岸は時計を一瞥して頷き、スーツ姿で憮然とした表情の彼岸と満面の笑みでポーズを取る女性が写った写真に手を振り部屋を去った。日付は10月31日、時刻は20:51、パーティの開催時刻が迫っている。このサイトでは季節の節目に慰労会を催しており、今夜のハロウィンパーティもその内の1つだった。
パーティ会場へ向かう彼女の足取りは軽い。その手に煌めく鈍色の指輪は霊的実体である彼女を縛り付ける戒めであり補助具でもある。彼女は複数のチェックを通過し承認されているれっきとした職員ではあるが、その見た目を気にする人間は少なくなかった。異常存在を見慣れているとは言え、それが檻の中にいるのと隣で働いているのとでは印象も変わる。そういった事情から霊的実体を疑似的に受肉させ、物質透過などを不可能にする非物質変異無効装置(nPDN)の小型版が追跡装置も兼ねた指輪として支給されていた。
部屋を出た彼岸は20分ほど歩き続けると落ち着かない様子で辺りを見回し始めた。部屋から会場までは早くて10分、遅くとも15分もあれば確実に到着するはずだった。しかし、彼女の周囲には部屋を出た時とさほど変わらない通路の景色が広がっている。
(どこかで道を間違えたかな)
現在地を確認しようと端末を取り出し、画面に映る文字を見た彼女は困惑の表情を浮かべることになった。
「現在地、不明……」
歩けども歩けども終わりは見えず。彼岸はかれこれ3時間も歩き続けていたが、周りの風景は一向に変わらなかった。無機質な通路がどこまでも視界の先にまで伸び、永遠に続いているのではないかと錯覚させる。彼女は既に救難信号と通信を発していたが応答はない。
(お腹空いたなあ)
最後の食事から大して時間は経っていないが、歩き続けていた事で体はエネルギー補給を求めていた。nPDNによって形作られた仮初の肉体へ栄養を与えることにどれほどの意味があるのか分からないが、食欲はしっかりと存在している。そんなこんなですきっ腹を抱えて歩いていた彼女の前にカボチャ頭の少年が現れた。
「こんばんは」
「こんばんは~」
「それじゃ行こうか」
「行くってどこへ?」
「決まってるじゃないか。地獄だよ」
「ちょっと待ってください。どういうことですか~?」
少年によれば、死後も現世へ留まり続けるのは幽世の規則に違反し、裁判を飛ばしての地獄行きが確定してしまうらしい。彼は死神を名乗り、彼岸を回収に来たと言う。
(ここで働いている以上、天国に行けるなんて思ってなかったけど、面と向かって地獄行きなんて言われちゃうと凹むなあ)
少年は早く来いとでも言うように手を引っ張っている。成人女性としては小柄な彼岸も少年よりは大きいため、体格差で動かされずに済んでいた。しかし、彼が人外ならばこの均衡もいつ覆るか分からない。
(なにか打開策を考えないと)
脳をフル回転させて状況突破の糸口を探ったが、何も思いつかなかったため最終手段を行使することになった。
「後生だから見逃してください!」
直角で頭を下げる彼岸を見て、少年は呆れたとでも言いたげに肩をすくめる。
「そうだなあ。じゃあボクから1つ問いを出して、お姉さんが正解出来たら見逃してあげるよ」
「ありがとうございます!」
思わぬチャンスが舞い降りたことに笑みを浮かべる。戦闘になれば勝ち目はないだろうと思っていただけに、彼の出した条件は彼岸にとって僥倖だった。
「回答のチャンスは1度だけ、ただし問題についての質問は認めよう。はいかいいえで答えられるものだけね」
(ウミガメのスープみたいな感じでしょうか)
「ある組織に所属するAさんは同じ組織に勤めるBさんと友人関係にありました。ある日、単独で派遣されていたBさんと会う事が出来なくなりました。どうしてでしょう」
「Bさんは生きていますか?」
「はい」
「Bさんは誰かに監禁されていますか?」
「いいえ」
「Bさんは問題上の現実に存在しますか?」
「はい」
「Bさんは──」
監禁でも病気による面会謝絶でも禁固刑でも宇宙空間の漂流でも無かった。彼岸の知るオブジェクトの中から隔離や転送が可能そうなものを選んで聞いてみてもハズレである。手詰まりを感じた彼女は発想の逆転を図ることにした。
「BさんはAさんに会う事が出来ますか?」
「はい」
「BさんはAさんに会いたいと思っていますか?」
「はい」
「AさんはBさんを覚えていますか?」
「はい」
返答を聞いた彼岸は両腕をお腹に回して黙考に入る。暫くすると彼女は瞳を見開き質問を口にした。
「AさんはBさんを見る事が出来ますか?」
「はい」
「AさんはBさんを見た時、それを認識できますか?」
「いいえ」
「Aさん以外の誰かがBさんを見た時、それを認識できますか?」
「いいえ」
彼岸の中で疑惑は確信に変わりつつあった。曖昧な輪郭をなぞり形を整える。
「AさんはBさんに触れることは出来ますか?」
「はい」
「Bさんの声はAさんに聞こえますか?」
「はい」
「Bさんに干渉した或いはされた時、Aさんはそれを認識できますか?」
「いいえ」
彼女の中で答えは既に決まっており、次の質問は謂わば最終確認だった。
「AさんはBさんを認識できますか?」
「いいえ」
最後の質問を終えた彼岸は一呼吸おいて解答を告げる。
「Bさんは誰にも認識されない状態となった。これが答えです」
「もうちょっと具体的に答えて欲しかったけど、大体合ってるよ」
カボチャ頭は虚空から取り出したパンプキンパイとパンプキンジュースを振る舞ってくれた。それらを喫しつつ彼岸は会話から新たな情報を得る。
「ここから出れないってぇ、どういうことですか~?」
「さあね。何回も出ようとしたけど無理だったんだ」
「じゃあここに私を迷い込ませたりとかは~」
「なんだってボクがそんなことしなきゃいけないんだ。知らないよ」
カボチャ頭にとってもこの空間は謎が多いらしい。彼岸は彼を空間の創造者だろうと考えていただけに謎が増える形となった。パイを持ち運び用に何個か包んでくれたカボチャ頭へ礼を言い、彼岸は終わりの見えない通路を再び進み始めた。
彼岸がしばらく歩いていると今度は通路の奥から青白い光が近付いてくる。よくよく見ればそれは頭部が青い火を灯す蝋燭に置換された人間としか言いようがない代物で、フォーマルなスーツを身に着けていた。
「どなたですか~?」
あっと言う間に目の前まで迫っていた蝋燭頭は、彼女の問いに風切り音を伴う拳という形で返答する。硬い何かにヒビが入る嫌な音が通路にこだました。小柄な体は頭から床に叩きつけられ、長い桃色髪が宙を舞う。地面に叩きつけられた彼岸の意識は急速に遠のき、数秒に渡る手足の痙攣が終わればピクリとも動かなくなった。蝋燭頭が乱暴に彼女を担ぎ上げて通路の先に運んでいく。
彼岸は夢を見ていた。
夢の中で彼女は小川の傍のベンチに横たわっている。その手に指輪は無く、ゆっくりと体を起こした彼女は目をこすり周囲を見回した。対岸で光る無数の蝋燭を見て立ち上がり、川に向かって歩き出す。川の淵に辿り着いた彼女はそこで進行を止めた。
彼岸は川岸で立ち止まったまま動かない。彼女は自分が進まない理由を考え、やがて1つの結論に辿り着いた。
(まだ、やり残したことがあるような気がする。何だったかな)
対岸の光が輝きを強めると、彼岸は虚ろな瞳で再び進み始めた。その体が水に触れるか触れないかと言うところで、後ろから声を掛けられる。
『彼岸さん』
それは彼女のよく知る人物のもので、2度と聞くことは出来ない筈の声だった。
「陽菜、さん?」
振り返った彼岸の目に青白い女性の姿が映る。
目を覚ました彼岸は足元も見えないほどの闇の中に立っていた。
「手荒な真似をしてすまない。蓮華」
闇の中で響いたのは彼女を夢から覚ました声ではなかったが、それでも衝撃は深かった。鬼籍に入っている筈の父の声が聞こえたのだから。
墨汁をぶちまけたような世界に青白い火が灯る。蝋燭の炎に照らされて闇の中で浮かび上がったのは、亡き父の顔に相違なかった。彼岸は驚愕の表情を浮かべる。
「お、お父さん……なの?」
「そうだ。蓮華、これ以上罪を重ねるのはやめて私と一緒に幽世へ行こう」
桃色の瞳が悲しみと絶望で歪んだ。言葉の中身は先ほどのカボチャ頭と大して変わらないが、見ず知らずの他人と肉親では重みが全く異なる。
「待ってお父さん、私はまだやりたいことがあるの」
「現実から目を背けるのは止めるんだ。蓮華、お前の為を思って言っているんだぞ。私の気持ちが分からないのか」
「お願い、話を聞いて!」
彼岸の言葉を跳ねのけ、有無を言わせぬ口調で近付いて来る父と、その動きに追従する蝋燭。恐怖を覚えた彼岸は動きを止めようと飛び掛かった。あと少しで手が届くというところで炎がフッと消え、当たりは再び闇に包まれる。彼女の両手はそこにあったはずの顔を掴めぬまま虚しく空を切り、地面を転がった彼岸は素早く体勢を立て直し周囲を見回す。すると闇の中に再び蝋燭の火が灯り、その隣にはやはり彼女の父の顔が浮かび上がっていた。
「失望したぞ。蓮華、お前は親に暴力を振るうような女になってしまったのか。昔は優しくいい子だったのに」
「今のは、その、違うの、傷付けるつもりなんてなかった。お願いだから話を聞いて……」
「そうか、謝りもしないのか。私は悲しいぞ。娘がこんな鬼畜になってしまうなんて」
父の顔と声に詰られ続けたことで、彼岸の心は追い詰められていた。しかし、彼女は父の言葉に違和感があったことに気付く。
(昔の私が優しかった?違う、そんなはずがない)
「昔の私は、どんな感じだったの?」
「……意見の合わない子もいたようだが、仲の良い友達が何人かいて、家に来て一緒に遊んでいたな」
闇の中で、彼岸はじっと父の顔を見つめている。その表情を見た彼は矢継ぎ早に言葉を紡いだ。
「そんなことはどうでもいいだろう。さあついて来い。私が口添えをしてあげよう。そうすれば裁きを軽くしてもらえるかもしれないぞ」
彼岸は答えない。その眼はもはや男の顔を見ていなかった。彼女の瞳には自分を育ててくれた父が映っていた。
「さっきまでの私はあなたに否定されたくない一心でした。だって、本当のお父さんを失望させたくなかったから。でも今わかった。あなたは偽物です」
「何を言っている。とうとう頭がおかしくなったのかな!」
「いいえ」
彼岸は自信を持って男の言葉を否定する。
「偽物のあなたは知らないでしょうが、かつての私は規則こそ絶対と考える厳格な人間でした。そんな奴に友達がいるわけないでしょう。ましてや家に連れて来ることなんて、到底あり得ないんですよ」
「そうであったな。いま思い出したぞ。妻はお前を甘やかしていたが、私が厳しく躾けたのだ。うむ」
「いいえ。家でいちばん規律を重んじていたのは母でした。いくら見た目を完璧に真似られても中身がそれじゃ話になりませんね」
確たる意思を込めた否定を受け、暗闇に浮かんでいた男の顔は徐々にその輪郭が崩壊し、その正体を現し始めた。
「……」
暗闇の中に男の顔と同じくらいの大きさをした木材の寄せ集めが浮かんでいる。彼岸が眺めていると蝋燭頭が倒れて木材の塊に火が燃え移った。火は瞬く間に全体へ広がり、闇の中に潜んでいたモノを曝け出す。周囲を煌々と照らす炎に包まれているのは、編み細工で出来た檻のような人形だった。その中には小人のような大きさの人間が何人も閉じ込められている。彼らは炎の熱に苦しみ藻掻き、泣き叫んでいた。囚われた魂の哀れな叫びをかき消すように身の毛もよだつ笑い声が闇に響き渡り、彼岸の意識を刈り取る。彼女が意識を失う直前、編み細工の上で光を受けて鈍い輝きを放つ刃が振るわれた。
気が付けば彼岸は自室でテーブルを囲む椅子に座り、その対面に痩身痩躯の老人が腰掛けていた。
「名を騙るならず者どもを狩るだけのつまらない仕事と思えば、存外に面白い見世物であったぞ」
「どこから入ったんですかぁ?」
「わしの立ち入れない場所など現世に有りはせんよ」
テーブルの上には顔のような形にくり抜かれたカボチャ、火の付いていない半分ほどで切断された蝋燭、砕けた木片が並べられていた。彼岸は、その光景と言葉から老人が何者なのか何となく察し、彼についてそれ以上聞くことはしなかった。
彼岸が警戒心を込めた瞳で見つめていると、老人は肩をすくめる。
「質問は無いのかの?それなら帰らせてもらうが」
「さっきの空間はなんですか~?」
「獲物が逃げ出せないための囲いじゃ。作る時に不純物が紛れ込んでしまったがな」
(不純物って)
不服そうな顔をする彼岸を気にも留めず老人は寛ぐ。それを見ていた彼岸はハッとして彼に話し掛けた。
「あなたが私の思う通りの方なら、幽谷 陽菜さんに会わせていただけませんか?」
「殊勝な態度を取るということは、それほど大事な相手なのじゃろうな。しかし、その願いは叶えてやれぬ」
彼岸は両手をテーブルに突いて立ち上がった。その顔はつとめて穏やかであろうとしつつも、内心の隠しきれない激情が溢れ出ている。
「どうして……ですか?」
「お主の立場を考えれば、そのような態度を取るのが賢明とは思えんな」
彼岸は老人の横まで移動し両手を床について深々とこうべを垂れた。やせ細った翁はしげしげと彼女を見下ろしている。
「こんな機会はもう2度とないかもしれないんです。お願いします。陽菜さんに会わせてください」
木の幹を思わせる彫りの深い男は両腕を組み唸り声をあげ、それから大きく嘆息した。
「無理だ。魂が見つかっておらん」
老人の言葉を聞いて彼岸は顔を上げる。
「どういうことですか?」
「言葉通りの意味だ」
それ以上の説明を避けるように老人が席を立った。彼が立ち去るつもりだと察した彼岸もつられて立ち上がる。
「待ってくださ──」
彼岸が言い終えるより早くテーブルの上の物を懐から取り出した袋に仕舞い、老人はその場から消え去った。後には普段と変わらぬ甘い香りに満たされた部屋で、呆然とした様子の女が1人立ち尽くしていた。
キャラクターの要素: 女性、幽霊、甘い物好き、楽観的、憑依能力(緊急手段)、アホ毛
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アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:5875210 (22 Nov 2019 06:43)
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